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第 4 章 実験結果と考察 89

4.3 Polyethylene について

4.3. Polyethyleneについて 107 動の差音が存在することが知られている。しかし、この測定結果にはそういったピー クは確認することができなかった。得られたSpontaneous RamanスペクトルのCH2基 のピークの線幅は比較的狭いため、その微細構造をより詳しく見るために、横軸を拡 大したスペクトルを図4.23に示す。1本のシャープなピークと幅の少し広いピークの 一組が2種類存在するスペクトル形状をしている。シャープなピークと幅の広いピー クの周波数が約50 cm1であるため、シャープなピークはCH2基の対称伸縮振動、幅 の広いピークは反対称伸縮振動に帰属させることができる。このピークの組が2種類 あることは、CH2基に2種のサイトがあり、サイトごとに振動モードの周波数が少し 異なっていることを示唆している。今回のこの結果は、時間分解CARS信号の解析の 際に、CH2基の振動モードの寄与を特定するときに参考にする。

2800 2900 3000

0 0.5 1

Raman shift (cm

−1

)

Raman Intensity (a.u.)

図4.23: PEのSpontaneous Ramanスペクトル(拡大スペクトル)

4.3.2 CARS 分光の測定結果

図4.24に、800nmと1300nmの倍波である650nmの励起光をPEにBOXCARS配 置で入射したときのCARS Signalのスペクトルを示す。これは、Probeパルスである k33)パルスの遅延時間をτ= 0 (ps)とし、3ビームで同時に励起した時のCARS信 号のスペクトルである。

図4.24: PEのCARSスペクトル

図4.22と比較すると、2900 cm1に観測されるピークはCH2基の伸縮振動モード であると考えられる。しかし、Spontaneous Ramanと比較すると、確認できると予想 していた対称伸縮振動と反対称伸縮振動のピークの分裂は検出できなかった。また、

2700 cm1〜1500 cm1範囲にいくつかピークが見られる。この付近には、C-C間の伸 縮振動とCH2基との結合音や差音が存在することは知られているが、得られたスペク トルに対応する振動モードを特定することはできなかった。

コヒーレント分子振動緩和は同定可能なCH2基の伸縮振動モードのピーク位置に 注目して時間分解CARS信号の測定を行なった。

4.3. Polyethyleneについて 109

4.3.3 時間分解 CARS 法の実験結果

図4.24に示すPEのCARSスペクトル測定により、CH2基の伸縮振動モードに由来 するCARS信号が観測されていることが確認できたので、分光器でCH2基の対称伸 縮振動の位置(2860 cm1付近)の信号光を抽出して、時間分解CARS分光を行った。

その結果を図4.25に示す。

−0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4

10−2 10−1 100

delay time (ps)

CARS signal Intensity (a.u.)

CARS Signal Cross correlation

図4.25: PEのCH2基による時間分解CARS信号

この測定結果で、励起光の相互相関波形と比較することにより、確かに緩和のゆっ くりな信号成分があることが確認できる。より詳細に観察すると、この振動が2成分 の緩和成分を含むことが分かる。これは、CH2基の反対称伸縮振動の緩和と対称伸縮 振動の緩和をそれぞれ観測した結果であると考えられる。反対称伸縮振動2967 cm−1 は対称伸縮振動よりもエネルギー的に高い振動モードであるため、緩和が速く起こる と予測することができる。これはPVA、PMMAのCH2基で得られた伸縮振動モード の緩和の傾向から予測した。そのほかに、PVAやPMMAでみられたbeatがPEのコ ヒーレント分子振動緩和の結果には検出されなかった。これは寄与の一方である反対 称伸縮振動の緩和が非常に速いため、ビート信号がτ=0.1 ps以降まで持続しないた めである。そのため、この信号に3.3.4節で示したビートを持たないFitting関数を適 用してコヒーレント振動緩和時間を求める。

4.3.4 PE 中の CH

2

基のコヒーレント振動緩和時間

Fitting関数を用いてPE中のCH2基のコヒーレント振動緩和時間を求めた結果を図

4.26、4.27にそれぞれ示す。

図4.26はCH2基の対称伸縮振動の緩和時間を、図4.27はCH2基の反対称伸縮振動 の緩和時間をFitting関数を用いてそれぞれ求めている。

図4.26: CH2基のSymmetric modeの緩和時間導出

図4.27: CH2基のAnti-Symmetric modeの緩和時間導出

その結果、CH2基の対称伸縮振動のコヒーレント振動緩和時間は180fsと求められ、

反対称伸縮振動のコヒーレント振動緩和時間はおおよそ80fsと見積もることができ た。図4.24のCARSスペクトルでは対称伸縮振動と反対称伸縮振動のピークが検出

4.3. Polyethyleneについて 111 できなかったが、時間分解CARS法ではその2つの振動モードに関するコヒーレント 振動緩和時間を別々にそれぞれ求めることができた。この結果をPVAやPMMAの場 合で得た値と比べると非常に短いことが分かった。

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