第 3 章 実験方法 67
3.2 実験装置
3.2.2 レーザーシステム
本研究でフェムト秒CARSの測定に使用したレーザーシステムと光学系を示す。
Ti:SapphireレーザーMantis, Coherent社製
Ti:Sapphireレーザーとは、遷移金属イオンを発光体に用いる波長可変レーザーの中
で、Ti3+ドープサファイア(Ti3+:Al2O3)をレーザー媒質として用いたものである。この レーザーはTi3+:Al2O3結晶の広帯域発光スペクトルにわたり発振しているため、フェ ムト秒パルスをモード同期により容易に作製できる。現在ではフェムト秒レーザーの 代名詞ともなっている[3, 4]。
Ti:Sapphire結晶の吸収帯は400nm〜600nmで、グリーン域のレーザーによって励起 する。また、波長510nm付近に吸収の極大が存在するため、Ndレーザーの第二高調
波(〜532 nm)による励起によって効率のよい発振を示す。レーザー出力は680nm〜
1100nmの広い波長域で得られる。
我々の用いるレーザーシステムは、モードロックTi:sapphire発振器(Mantis,Coherent 社製)のフェムト秒出力パルスを再生増幅器(Legend, Coherent社製)で増幅する系であ る。モードロックTi:sapphireの発振器(Mantis)の構成を図3.6に示す。レーザー媒質
であるTi:Sapphire結晶はP偏光に対して反射する光が完全に0となるようにブリュー
スターカットされている。ここで、使用されているミラーはグリーンレーザーの光は
通すが、Ti:Sapphireレーザーの光は反射する。このような構成で400mWのモード同
期レーザー出力が得られる。このTi:Sapphireレーザーは、モード同期によってフェム ト秒パルスを発生させることが容易で、我々のこの発振器ではパルス幅35fsのパルス
列が76MHzで出力される。
図3.6: Mantisの共振器の模式図
3.2. 実験装置 75 Ti:Sapphire再生増幅器(Legend Eliet, Coherent社製)
モードロックTi:Sapphire再生増幅システムは、4つの大きなシステムで構成されて いる。はじめに、モード同期発振器(Mantis)で、非常に短いパルス幅(35fs)のパルス を発生させる。次に、その光をパルス伸張器に導く。フェムト秒レーザーでは、高い ピークエネルギーを持つので、そのまま増幅しようとするとミラーや結晶を破壊する 恐れがある。それを回避するためにパルス伸張器で数百psほどにパルスの時間幅を 伸ばし、ピークエネルギーを下げる。そして、その光を再生増幅器の増幅部でエネル ギーを増幅させたあと、最後にパルス圧縮器で元のパルス幅に戻すことで、高エネル ギーの超短パルスレーザーを得ることができる。再生増幅器の構成を図3.7に示す。
パルス伸張器、圧縮器は、4つの回折格子(grating)で構成されており、逆符号の分散 を与える構成である。回折格子に波長λのパルス光が入射したとすると、入射角ϕ、 反射角θの関係は、
a(sinθ−sinϕ)=nλ (3.4)
と表される。ここでaは格子間隔、nは整数である。入射角を一定にすると波長が長い 光は反射角が大きくなり、波長が短い方は反射角が小さくなる。つまり、波長によっ て進む距離が異なり、長波長のほうが短波長より光路長は長い。このことを利用して 光パルスを引き伸ばしている。パルスを圧縮する場合は光パルスを逆の経路をたどる ように入射すれば正の分散を与えて、元の短いパルス幅に戻すことができる。
我々の再生増幅器では、出力パルス幅35fs、中心波長795nm、バンド幅35nm、出力
パワー3.2W、繰り返し周波数1kHzの出力が得られる。単一パルスは3.2mJのエネル
ギーを持つので尖頭出力は約100GWに達する。本研究では再生増幅器から出力の一 部はCARS励起光として直接用い、残りはパラメトリック増幅器の励起に用いている。
図3.7: 再生増幅器(Legend Eliet)の構成
オプティカルパラメトリック増幅器(TOPAS), (Light Conversion社製)
オプティカルパラメトリック増幅器(Optical Parametric Amplifier: OPA)とは、光パ ラメトリック増幅過程によりさまざまな波長の光を発生するレーザー光源である。図 3.8に我々の有するパラメトリック増幅器TOPASの構成を示す。非線形媒質(BBO結 晶)に入射したレーザー光のフォトン(ポンプ光)は、常光と異常光の2つのフォトン に分かれる。このとき、その2つのフォトンのエネルギーの総和はポンプ光と等しい。
常光はシグナル光、異常光はアイドラー光と呼ばれる。発生した2つの光の波長は位 相整合条件によってきまる。位相整合条件は入射するポンプ光と結晶軸のなす角度に よって変わる。つまり、シグナル光とアイドラー光の波長は位相整合条件によって変 えることができる。この過程は光パラメトリック発生(OPG)と呼ばれる。
非線形媒質に強いポンプ光とともに弱いシグナル光を入射するとシグナル光はポン プ光からエネルギーをもらって光パラメトリック過程で増幅し、それと同時にアイド ラー光も発生する。この過程が光パラメトリック増幅(OPA) [5–7]である。
我々が有するパラメトリック増幅器TOPASは、すでに述べたTi:Sapphire再生増幅
器Legendの出力の半分のパワー1.6W(1kHz)で励起されており、出力パワー400mW
(@λ = 1300 nm)、出力パルス幅〜35 fs、シグナル光波長域1200〜1400nmの出力特 性を持っている。シグナル光波長1300nmでの出力の尖頭出力は、11.4 GWに達し、
CARS実験で用いる励起光650 nmのパルスへ非線形光学結晶BBOを用いて容易に変 換することができる。
図3.8: TOPASの模式図
3.2. 実験装置 77