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Picard 多様体としての Jacobi 多様体

コンパクトリーマン面

X

上に直線束はどのくらいあるのか,言い換えれば

Pic(X)

の 構造がどうなっているのかを調べることは興味ある問題である.重要なのは

Pic(X)

に は代数多様体

(

あるいは射影的な複素多様体

)

の構造が入るという事実である.直線束 たちの群演算により

Pic(X)

にも群構造が入り,すなわち

Pic(X)

は代数群になる.

Pic(X)

自体はやや

大きすぎる

代数群であるため,もう少し細かく分けて調べるほ

うがよい.

Pic(X)

の元はすべて

L = O

X

(D)

の形をしており,因子

D

は線形同値をの ぞいて一意的に定まる.因子の次数は線形同値で不変であるから,これによって直線束 の次数

deg L

が定まる.

Pic

n

(X)

で次数が

n

であるような

Pic(X)

の元からなる部分集 合を表すことにする.

このとき

Pic

0

(X)

は部分群であり,

Pic(X) = `

n

Pic

n

(X)

と分解される.また

X

上 の点

P

をとったとき

Pic

0

(X) → Pic

n

(X), L 7→ L ⊗ O (nP )

は全単射であるから,我々 の目的は

Pic

0

(X) ' Div

0

(X)/ Div

`

(X)

を調べることに帰着される.ただし

Div

0

(X)

で 次数

0

の因子からなる群を表す.

さてこの稿の一番の目的は,以下の定理について解説することである.

定理

2.2 X

を種数

g

のコンパクトリーマン面とする.このとき

C

gの中にある格子

Λ

が 存在して,

Pic

0

(X)

g-

次元複素トーラス

C

g

と群同型となる.

言い換えれば

Pic

0

(X)

のパラメーター空間として,複素トーラス

C

g

が取れると いうことである.これを言い換えると

“X

上の次数

0

の直線束のモジュライ空間は複素 トーラス

C

g

である

ということになる.

注意 こうして作られる

C

g

は,単に複素トーラスというだけでなく,射影的な複素 多様体である.これにより

C

g

には代数多様体の構造も入る.射影的な複素トーラス を

( C

上の

)

アーベル多様体と呼ぶ.

2.1 g = 0

の場合,

Pic

0

(X) = { 1

}

が定理の主張である.すなわち

P

1 の因子類は 次数のみで決まってしまうということであるが,これは以下のようにして分かる.

D = P

r

i=1

(P

i

− Q

i

)

P

1 上の次数

0

の因子であるとする.例えば

P

l

= P

l+1

= · · · = P

ir

= ∞

であり,

P

i

(1 ≤ i < l), Q

i

(1 ≤ i ≤ r) ∈ C

であるならば,

ϕ(x) = Q

l−1

i=1

(x − P

k

) Q

r

i=1

(x − Q

i

)

C

上において,零点集合が

{ P

1

, . . . P

l1

}

,極の集合が

{ Q

1

, . . . , Q

r

}

となる.また無 限遠点では分母と分子の次数を比較して

r − l

位の零点を持つことが分かる.ゆえに

(ϕ) = D

である.

この例は極めて簡単であるが,本稿での

Abel

の定理の証明の雛形ともいえるもので ある.なお,下記の

g = 1

の場合同様,

Riemann-Roch

の定理からも容易に導ける.

2.2 g = 1

の場合,次数が

1

の因子

D

に対して,ただ一つの点

P

が存在して

D ∼ P

となる.実際次数の関係から

L(K

X

− D) = 0

が成り立つことに注意すると,

Riemann-Roch

の定理から

dim L(D) = deg D − 1 + g = 1

であり,

D

と線形同値な有効因子

P

が唯一つ存在することが分かる.よって

X

上の一点

P

0 を固定すれば,

X → Pic

0

(X), P 7→ P − P

0 は同型射になる.すなわち

Pic

0

(X) ' X = C /Λ

がなりたつ.

X

がコンパクトリーマン面である場合,こうしてつくられた複素トーラス

C

g

Jacobi

多様体と呼び,

Jac(X)

で表す.

Pic

0

(X)

がモジュライ空間であるということについて補足しておく.モジュライ空間 とは単にパラメーター空間であるというだけではなく,より強い条件を満たすものであ る.

C

上のスキームのなす圏

Sch/ C

から集合の圏

Set

への反変関手

Pic

0X

T 7−→ { X × T

上の次数

0

の直線束の同値類

} { pr

T

( L ) | L

T

上の直線束

}

で定める.ただし

pr

T

X × T

から

T

への射影であるとし,

X × T

上の直線束が次 数

0

とは,

T

の各点で引き戻したときに次数が

0

であると定義する.

このとき関手

Pic

0X は表現可能

(representable)

である.すなわち

C

上の群スキーム

Pic

0

(X)

が存在して

Pic

0X

(T ) = Hom

C-Sch

(T, Pic

0

(X))

が成り立つ

(

群の同型

)

.このようなスキーム

Pic

0

(X)

を精モジュライ

(fine moduli)

と いう.実は定理

2.2

より強い主張

:

関手

Pic

0X は表現可能で,精モジュライ

Pic

0

(X)

と して

C

g

が取れる,が成り立っている.

特に

T = Spec C

とすれば,

X

上の直線束の同値類

Pic

0X

( C )

C

g

の各点と対応 しているいう主張になる.これが定理

2.2

のいうところである.

注意

次数

0”

の条件をはずして関手

Pic

X を考えても表現可能である.この場合

Pic

0

(X)

はモジュライ群スキームの単位連結成分に相当する.

注意

X

として一般の射影スキームを考えても

(

次数

0

の条件を適切に置き換えて

)

同 様の結果が成り立つ.特に

X

がアーベル多様体のとき,モジュライスキーム

Pic

0

(X)

は双対アーベル多様体

X b

になる.この場合,表現可能の定義で

T = X b

とおくと,

Pic

0X

( X) = Hom( b X, b X) b

であるから,

X × X b

上に

id

Xb に対応する直線束が存在する.

これが

Poincar´e

束に他ならない

(cf [Ko])

注意

Jacobi

多様体には,

Albanese

多様体としての側面もある.一般に

X

を射影的な

代数多様体とするとき,

X

に対してアーベル多様体

Alb(X)

と写像

ι : X → Alb(X)

が 存在して以下の普遍性を満たす

:

任意のアーベル多様体

A

X

から

A

への写像

f

に対 して,写像

g : Alb(X) → A

が唯一つ存在して

f = g ◦ ι

が成り立つ.

このような性質を満たす

Alb(X)

X

Albanese

多様体と呼ぶ.

X

がコンパクトリー マン面である場合には

Alb(X) = Jac(X)

が成り立つ.すなわち,

X

Picard

多様体と

Albanese

多様体は一致している

(

実際,コンパクト

K¨ahler

多様体

X

に対しては,

Pic

0

(X)

Alb(X)

は互いに双対である

)

3 複素トーラスとしての Jacobi 多様体の構成

X

をコンパクトなリーマン面で種数を

g

とする.このとき

X

上の

2g

個の

path α

1

, . . ., α

g

, β

1

, . . ., β

g を以下の図のように定める.

α

1

α

2

α

3

α

g

β

1

β

2

β

3

β

g

H

1

(X, Z )

は階数が

2g

の自由アーベル群となる.

H

1

(X, Z)

の交差積

h , i

を,

X

上 の

1-cycle γ

γ

0 に対して,

γ

γ

0 を左から右に通過するように1一回交わっていると き

h γ, γ

0

i = 1, h γ

0

, γ i = − 1

として定める.すなわち上の図では

h α

i

, α

j

i = h β

i

, β

j

i = 0, h α

i

, β

j

i = −h β

i

, α

j

i = δ

ij

となる.

注意 交差積は次のようにして定義できる

: Poincar´e

双対性から

H

1

(X, Z ) ' H

1

(X, Z )

1[Mum, P.137]では逆向きになっているが,この稿とαii の役割が逆になっているため,辻褄は合っ ている.

であるが,一方普遍係数定理より自然な非退化双線形形式

H

1

(X, Z ) × H

1

(X, Z ) −→ Z

が存在する.これらの合成が交差積

h , i

である.

次に紹介する

de Rham

の定理は,

C -

係数

de Rham

コホモロジー

H

dR

(X, C )

と,

sin-gular

コホモロジー

H

sing1

(X, C )

との間の自然な同型を与える.

定理

3.1 (de Rham

の定理

)

自然な写像

H

dRi

(X, C ) → H

singi

(X, C ) = H

i

(X, C )

, [ω] 7→

γ 7→

Z

γ

ω

は同型射となる.ただし

dual

を表わし,最後の積分は,

i-form

i-cycle

上積分 することを意味する.

H

0

(X, Ω

X

)

の元

ω

closed 1-form

,すなわち

dω = 0

である.実際

d = δ + δ

d

を正則微分と反正則微分に分けると,

ω

が正則であることより

δω = 0

,また

δω

は正 則

2-form

になるが,

X

が複素

1

次元であることより

δω = 0

も成り立つ.

以上の考察より,

H

1

(X, C )

2g

次元のベクトル空間であるが,その

de Rham

コホ モロジーとしての基底として,

ω

1

, . . ., ω

g

, ω

1

, . . ., ω

g

(

の与える類

)

が選べることがわ かる.以上より次が示された

:

3.2

自然な写像

H

1

(X, Z ) −→ H

0

(X, Ω

X

)

, γ 7→

ω 7→

Z

γ

ω

は埋め込みを与える.

よって

H

1

(X, Z )

g-

次元

C -

ベクトル空間

H

0

(X, Ω

X

)

の中の階数

2g

の離散部分群 を与える.

H

0

(X, Ω

X

)

の基底を固定して

C

g と同一視し,そのもとで

H

1

(X, Z )

の像を

Λ

とか くことにすると

Λ

は階数が

2g

の自由アーベル群になる.まずはこの

Λ

について詳し く調べよう.

定理

3.3 (Riemann

の関係式および不等式

)

(1) ω, η

X

上の正則

1-form

とするとき

X

g

i=1

Z

αi

ω Z

βi

η

− X

g

i=1

Z

αi

η Z

βi

ω

= 0.

(2) ω 6 = 0

を正則

1-form

とするならば

Im

X

g

i=1

Z

αi

ω Z

βi

ω

!

> 0.

証明

X

α

i および

β

i によって切り開くと

4g

角形ができる.

1-cycle α

i

, β

i の左側お よび右側をそれぞれ

α

+i

, β

i+ および

α

i

, β

i で表すことにすると以下の図のようになる.

α

+i

β

i+

α

i

β

i

4g

角形の周囲

∂X

0

∂X

0

= P

g

i=1

i+

− α

i

) + P

g

i=1

i+

− β

i

)

で与えられる2. このとき

X

0 は単連結であるから,ある

X

0 上の正則関数

f

が存在して,

1-form η

η = df

の形で書くことができる.

f ω

は正則

1-

形式より

d(f ω) = 0

.よって

Green

の定 理から

0 = Z

X0

d(f ω)

= Z

∂X0

f ω

= X

g

i=1

Z

α+i

f ω − Z

αi

f ω + Z

β+i

f ω − Z

βi

f ω

!

= X

i

Z

αi

(f |

α+i

− f |

αi

) ω + X

i

Z

βi

(f |

βi+

− f |

βi

) ω.

ここで,

df = η

X

上定義されているから,当然

η |

α+i

= η |

αi であり,よって

f |

α+i

− f |

αi

は定数でなければならない.

β

i

α

+i から

α

i を結ぶ道であるから3,この値は

− R

βi

η

となる.

同様に

f |

β+i

− f |

βi

= R

α

η

となり,結局

0 = − X

i

Z

βi

η Z

αi

ω + X

i

Z

αi

η Z

βi

ω

が成り立ち,

(1)

を得る.

(2)

については

f = dω

なる

f

をとれば上と同様の計算により,

Z

X0

d(f ω) = − X

i

Z

βi

ω Z

αi

ω + X

i

Z

αi

ω Z

βi

ω = 2i Im X

i

Z

βi

ω Z

αi

ω

!

2[Mum]とは逆の向きになっている.

3βαを右から左に通過しているから

が成り立つことが分かる.一方

d(f ω) = d f ∧ df = df

dz

2

dz ∧ dz

であり,

z = x + iy

とかくと,

dz ∧ dz = 2i dx ∧ dy

が成り立つ.ゆえに

ω 6 = 0

ならば

(1/2i) R

f ω > 0

であることから主張を得る.

2

この定理から次の重要な結果を得る.

定理

3.4 ω

1

, . . . , ω

n

H

0

(X, Ω

X

)

の基底とする.

A

ij

= R

αi

ω

j

B

ij

= R

βi

ω

j とすると,

det(A

ij

)

i,j

6 = 0

であり,

τ = A

1

B ∈ H

g が成り立つ.ここに

H

g

= { Z ∈ M

g

( C ) |

t

Z = Z, Im(Z) > 0 (

正定値

) }

と定める.

証明

ω ∈ H

0

(X, Ω

X

)

がすべての

α

i に対して

R

αi

ω = 0

を満たせば,定理

3.3 (2)

から

ω = 0

である.よって

det(A

ij

) 6 = 0

が分かる.後半は,

H

0

(X, Ω

X

)

の基底を

R

αi

ω

j

= δ

ij

となるように正規化しておく.定理

3.3 (1)

ω = ω

i

, η = ω

j とすれば

τ

ij

= τ

ji となる.

最後に

(2)

ω = P

a

i

ω

i とおけば,

a =

t

(a

1

, . . . , a

g

)

に対して t

a Im(τ )a > 0 (a 6 = 0)

が成り立つことより主張を得る.

2

これにより

H

0

(X, Ω

X

)

の基底

ω

1

, . . . , ω

g

R

αi

ω

j

= δ

ij となるように選ぶことがで きる.この基底を使い

H

0

(X, Ω)

' C

g と同一視すれば,

H

0

(X, Ω

X

)

/H

1

(X, Z ) = C

g

τ

, Λ

τ

= Z

g

+ τ Z

g が成り立つ.以下この基底を固定して議論を進めることとする.

補題

3.5 Λ

τ

C

gの格子

(lattice)

を与える.

証明 実際

det 1

g

τ 1

g

τ

!

6

= 0

であることから

Λ

τ

⊗ R = C

g であることが導かれる.

2

定義

3.1 Jac(X) = C

g

τ とかいて,これをコンパクトリーマン面

X

Jacobi

多様 体と呼ぶ.

4 周期写像と Abel-Jacobi の定理

コンパクトリーマン面

X

上の基点

P

0 を固定しておく.

X

上の

path γ

に対して,簡

単のため

Z

γ

ω :=

Z

γ

ω

1

, . . . , Z

γ

ω

g

∈ C

g

と記述することにする.このとき

Λ

τ

= { Z

γ

ω ∈ C

g

| γ ∈ H

1

(X, Z ) }

となる.

定義

4.1 D = P

i

(P

i

− Q

i

) ∈ Div

0

(X)

を次数

0

の因子とする

(P

i および

Q

i には重複 があってもよい

)

.このとき写像

I : Div

0

(X) → Jac(X)

I(D) = X

i

Z

Pi

Qi

ω mod Λ

で定める.

R

Pi

Qi

ω mod Λ

τ

Q

i から

P

i への

path

のとり方によらない.実際

path

の取替えは

1-cycle α

i

, β

i 上での積分の整係数線形結合分のずれに相当するため,同じ

Λ

τ

-

同値類に 属する.よって特に写像

I

D = P

i

(P

i

− Q

i

)

の書き方にもよらず

well-defined

であ ることが確かめられる.

補題

4.1 D ∈ Div

`

(X)

ならば

I(D) = 0

.すなわち

I

Pic

0

(X) = Div

0

(X)/ Div

`

(X)

から

Jac(X)

への群準同型を導く.この写像も同じ

I

で表し,これを周期写像と呼ぶ.

証明

X

上の有理型関数

f

をとる.

f

X

から

P

1 への写像と考え,

t ∈ P

1 に対して

f

1

(t) = D(t)

X

の有効因子とみなすことにする.

deg D(t)

はすべての

t

に対して 一定であるからこれを

n

とおく.今

X

上の基点

P

0 を固定しておき,

φ : P

1

−→ Jac(X), t 7−→

Z

D(t) nP0

ω mod Λ

τ

を考えるとこれは正則写像である.

ところが

P

1は単連結ゆえ,

φ

φ e : P

1

→ C

gに持ち上がる.

P

1上定義された正則関 数は定数のみであるから

φ e

,よって

φ

は定数写像になる.特に

ϕ(0) = ϕ( ∞ )

であるが,

I(D) = φ(0) − φ( ∞ )

であるから主張を得る.

2

定理

4.2 (Abel-Jacobi

の定理

)

周期写像

I : Pic

0

(X) → Jac(X)

は同型射である.

この定理に関しては,周期写像の単射性を

Abel

が,全射性を

Jacobi

が示したとされ ている.以下これを証明するのがこの稿の目的であるが,その前に曲線の対称積との関 連を述べておこう.

5 曲線の対称積

まず次の補題を示す.

補題

5.1 X

を種数

g

のコンパクトリーマン面とする.

P

0

∈ X

を基点として固定して おくと,任意の

D ∈ Div

0

(X)

に対してある

P

1

, . . . , P

g

∈ X

が存在して,

D

P

1

+ · · · + P

g

− gP

0 と線形同値になる.

証明

D + gP

0は次数が

g

の因子であるから,

Riemann-Roch

の定理より

l(D + gP

0

) = l(K

x

− D − gP

0

) + deg(D + gP

0

) − g + 1 ≥ g − g + 1 = 1

が成り立つ.よって

D + gP

0 と線形同値な有効因子

P

1

+ · · · + P

g が存在する.

2

この補題から

Pic

0

(X)

の代表系として

P

g

i=1

P

i

− gP

0 の形のものが取れることがわか る.そこで

J : X

g

:= X | × · · · × {z X }

g

→ Jac(X), (P

1

, . . . , P

g

) 7→ X

i

Z

Pi

P0

ω mod Λ

τ

なる写像を考えると,

Im J = Im I

が成り立つ.さらに

J

P

i たちの並べ替えで不変 であることに注意すると,

X

(g)

= X

g

/S

g

(S

g

g

次対称群

)

に対して

J

X

(g) から

Jac(X)

への写像を誘導する.

補題

5.2 X

(g)

g-

次元の複素多様体になる.すなわち特異点を持たない.こうして定 まる

X

(g)

X

の対称積と呼ぶ.

証明

X

(g)で特異点の出てくる可能性のあるのは,

i 6 = j

に対して

i

番目と

j

番目の成分 が等しくなるような点の近傍のみである.ところが

P

i

X

での局所座標を

t

iと書いた とき,例えば

P

1

= · · · = P

g

= P

なる点の近傍に対しては,

t

iたちの基本対称式

σ

i

(t)

(P, . . . , P )

の局所座標を与えることが示される.よって

g

個の独立な局所変数が取れる

ため,

X

(g)

(P, . . . , P )

で特異点を持たない.

2

Im I = Im J

であったから,例えば周期写像

I

の全射性を言うためには

J

が全射で あることを示せばよい.

J

は複素多様体の間の正則写像であるから写像の幾何的な性質 を使うことができる.これが対称積を考える利点の一つである.

実は

J

ほぼ同型

である

(

双有理写像

)

.すなわち

X

(g)

Jac(X)

近い

複素 多様体であることが以下示される.

5.1 (

種数

2

のリーマン面

) C

を種数

2

の代数曲線とする.このとき

C

は超楕円曲線 であり,定義方程式は

y

2

= x

5

+ · · ·

で表わされる.今

(x, y) 7→ (x, − y)

で与えられる対 合

(hyperelliptic involution)

ι

で表わすことにしよう.

(x, y) 7→ x

で与えられる写像

f : C → P

1 を考えると,各

x ∈ P

1 に対してある

P ∈ C

が存在して,

f

1

(x) = { P, ι(P ) }

が成り立つ.すなわち

C/ h ι i ' P

1 である.

対合

ι

は以下のような特徴付けも出来る.すなわち

K

C

C

の標準因子としたとき,

各点

P ∈ C

に対して

Riemann-Roch

の定理より

l(P ) − l(K

C

− P ) = deg P − g + 1 = 0

であるが,留数定理より

l(P ) = 1

,よって

l(K

C

− P ) = 1

が成り立つ.ゆえに

K

C

∼ P +Q

が成り立つような

Q ∈ C

が唯一つ定まる.この

Q

ι(P )

に他ならない.さて,以上の 準備の下で

C

(2)

Pic

0

(C)

の関係について調べてみよう.

C

の基点

P

0として,無限遠点

をとり,

Ψ : C

(2)

→ Pic

0

(C), (P

1

, P

2

) 7→ P

1

+ P

2

− 2 ∞

を考える.補題

5.1

から

Ψ

は全射になる.

Riemann-Roch

の定理から

l(P

1

+ P

2

) = l(K

C

− P

1

− P

2

) + deg(P

1

+ P

2

) + 1 − g = 1 + l(K

C

− P

1

− P

2

)

が成り立つ.

P

2

6 = ι(P

1

)

であれば

l(K

C

− P

1

− P

2

) = 0

であり

(

次数が

0

であって主因子 ではない

)

,ゆえに

l(P

1

+ P

2

) = 1

,すなわち

P

1

+ P

2と線形同値な有効因子は他に存在 しない.これを言い換えると,

D = { (P, ι(P )) ∈ C

(2)

}

と置いたときに,

C

(2)

rD

上では

Ψ

は単射になる.一方任意の

P ∈ C

に対して

P +ι(P ) ∼ 2 ∞ ∼ K

Cであるから,

Ψ( D ) = { 0 }

が成り立つ.

D ' C/ h ι i ' P

1であり,実は自己交点数

( D

2

) = − 1

が計算できる.ゆえに

Castelnuovo

の定理

([Har, Theorem 5.7, Chapter V])

から

D

は例外因子となることが分かる.すな わちある曲面

Z

π : C

(2)

→ Z

が存在して,ある

z

0

∈ Z

に対して

π

1

(z

0

) = D

かつ

π : C

(2)

r D → Z r { z

0

}

は同型写像になる

(z

0 を中心とした

blow-up)

Ψ

から誘導さ れる

Ψ : e Z → Pic

0

(C)

は全単射である.よってこのようにして作られる曲面

Z

こそが,

我々の求めている

Jacobi

多様体

Jac(C)

に他ならない.

注意 自己交点数

( D

2

) = − 1

は以下のようにして計算できる.自然な写像

pr : C × C → C

(2) と対角埋め込み

∆ : C → C × C, x 7→ (x, x)

に対して

ϕ : C × C −−→

1×ι

C × C −→

pr

C

(2)

を考えると

D = ϕ(∆(C))

であり,

deg ϕ = 2

であることから

C × C

において

(∆(C)

2

) =

− 2

を証明すればよい.

C × C

上での層の完全列

0 → I → O

C×C

→ ∆

O

C

→ 0

を考える.ここに

I

は閉埋め込み

に対応するイデアル層であり,

I ' O

C×C

( − ∆(C)) ([Har, Proposition 6.18, Chapter II])

. よって交点数の定義から

(∆(C)

2

) = deg

O

C×C

(∆(C)) = − deg ∆

I

が成り立つ.一方上の完全系列に局所自由層

I

をテンソ ルすることにより

0 → I

2

→ I → ∆

O

C

⊗ I → 0

を得る.すなわち

I / I

2

' ∆

O

C

⊗ I

が成り立ち,よって

1C

= ∆

( I / I

2

) ' ∆

I

であ る

(∆

は閉埋め込みゆえ,

C

上の任意の

O

C 加群層

F

に対して

F = F

が成り立 つことに注意

)

.以上より

(∆(C)

2

) = − deg Ω

1C

= 2 − 2g = − 2

が示された.

2