4.3.2.1. マイクロ化学チップ 本研究を通じ,マイクロ化学チップはフルイドウェア・テクノロ ジーズ社の製造委託サービスを用いて作成された.マイクロ化学チップの仕様の詳細につい
ては,4.2.1項を参照されたい.
4.3.2.2. 撮影光学系 Fig. 4.19にしたがって説明する.白色LED (Super Jupiter, 日亜化学工 業㈱製)光源 Sからの出射した光を整形,および集光レンズ L1を介して,マイクロ化学チップ Mに照射する.マイクロ化学チップ M上に実装されている微小流路中には,測定対象である 粒子が混入した試料懸濁液が流されており,この粒子が20× 顕微鏡対物レンズ L2 (SPlan 20, オリンパス社製; 焦点距離 = 8.03 mm)を配置した透過光学系を介して,CMOSカメラ D (Lu125C, Lumenera社製(カナダ); 日本販売代理店アルゴ㈱)によって撮影される.CCDカメラ に比べて感度のよくないCMOSカメラを選択した理由は,撮影する画素数を調節することによ って高速化が容易であることである.特に,本機種は,グローバル・シャッターを備えており,画 像中の全画素での撮影時間が同じ時間で撮影でき,露光時間を任意に設定できるため,マイ クロPIVを行うための連続画像を簡単に撮影するのに適している.
本計測系では,この顕微鏡対物レンズL2を結像光学系で使用しており,倍率は5×,レンズ
実効径は2.95 mmである.したがって,開口数(NA)は約0.18となっている.また,CMOSカメラ
Dの1画素あたりのサイズは6.7 µm × 6.7 µmなので,空間解像度は1.3 µm/pixelになる.
CMOSカメラ Dによって,撮影された光学的画像信号は電気的信号に変換され,さらに,24 ビットのRGBデジタル信号に変換される.そして,USB2.0インターフェースを介し,動画像(連 続した静止画像)として,パーソナル・コンピュータ PCに送られる.
動画像の形式は,1枚の画像サイズが640 × 192画素,フレーム・レートは大体125 fpsである.
本計測では,通常,1回の測定につき,512枚の連続する画像を取得する.これは時間にして,
約4.1秒にあたる.また,本計測系では,撮影対象である粒子が時々刻々と移動する.したがっ て,これを長い露光時間で撮影すると,同じ画像に,移動している粒子の残像が畳重して撮影 され,その結果,粒子の画像が尾を引いてしまう(以下,この現象をテイリングと呼ぶ).125 fps のフレーム・レートでは,最大1000/125 = 8 msの露光時間が設定できるが,これではテイリング が残り,粒径計測に影響を及ぼしてしまう.そこで,これを避けるために,本計測系では,露光
時間を0.3 ms以下に設定した.
4.3.2.3. 流体発生および制御系 µFIC計測系の流体発生制御系は,計測に適した,安定し
たおそい流れを発生し,測定の間その流量をモニタする機能を備えている.以下,この流体系 について説明する.
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(1) おそい流れの発生 Fig. 4.19 に示したように,アクチュエータ式マイクロポンプ P (日機 装社製試作品; 現在非売品)の入力部を,マイクロ化学チップ M の出力ポートに接続されて いる密封容器 C2に接続する.また,マイクロ化学チップ Mの入力ポートには試料リザーバ容 器 C1 が接続されている.この状態でマイクロポンプ P で密封容器 C2 内の空気を引くと,リ ザーバ容器 C1 から粒子懸濁液試料が引かれ,マイクロ化学チップ M へと導入される.この ような機構を用いる理由は以下の2点である.
1) アクチュエータ式のマイクロポンプの内部に備えてある弁に粒子などが入ると,その弁がつ まってしまい,ポンプが機能しなくなる.上記機構を用いれば,マイクロポンプ内部には空気だ けしか通らないので,弁がつまるのを防止することができる.
2) アクチュエータ式のマイクロポンプでは,その原理上,流れに脈動が発生する.本機構を 用いると,密封容器内の空気のダンピング効果によって脈動が低減され,より安定した流れを 発生することができる.
Fig. 4.20は,ポンプを直接マイクロチップに接続した場合(⎯ ⎯)と,Fig. 4.19に示したよう
に,空のボトルを仲介して吸引した場合(− − − −)の瞬時の粒子速度を比較したものである.
粒子速度の時系列データには,アクチュエータ・ポンプの脈動が原因と思われるピークが確認 され,速度が乱れる瞬間があることがわかる.両者のピーク最大値と最小値の差を比較したと ころ,µFIC法におけるポンプ接続方式によって生成された流れ中の粒子速度のばらつきの方 が,20%程度小さくなっていた.この結果より,µFIC 法で用いているポンプの接続方式の方が 安定な動作をしていると判断した.
以上のようなµFIC計測系に備えた流れ発生機構を用いることによって,実際に流速1.5–6 µl/minのおそい流れを安定に実現することができた.
(2) 流量モニタリング マイクロチップ M 上の微小流路を通り抜けた試料液はその後,密 封容器 C2 へ到達し,その中に溜まっていく.密封容器 C2 は,電子天秤 B (GH-202, ㈱エ ー・アンド・デイ製)の試料台の上に設置されており,この電子天秤 B によって,測定の間に溜 まった試料液の重量が測定される.測定された重量データは,RS-232C インターフェースを介 し,パーソナル・コンピュータ PC へと送られ,このデータを用いて微小流路中を流れた試料 液の流量が計算される.
本来なら,計測に用いる最初の画像と最後の画像を撮影する時刻に電子天秤 B の重量デ ータを取得すればよいが,重量は時々刻々と変化するので,画像と重量のデータを同時に取 得しなければならない.したがって,この方法では誤差を生じてしまう.そこで,本計測形では,
実際の計測上の問題より,流量Vは(4.16)式によって計算される.
( )( f i) V dW t t ' t '
= ρ dt − (4.16)
ここで,ρは流体媒体の密度,dW(t)/dtは重量データから見積もられる重量の時間に対する重 量の変化率,t’f, t’iは各々,計測に使われる最後の画像と最初の画像を撮影したときの時刻で ある.
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
0 20 40 60 80
Time [ms]
Normalized Velocity of a partcile
Direct micro FIC
Fig. 4.21. Comparison of velocity stability.
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Fig. 4.21 は流量モニタリング機能によって得られた重量データを示したものである.密封容
器C2に溜まった試料液の重量が時間とともに増加していくのがわかる.しかし,同じ重量値が くり返し計測されており,値は階段状に増加している(●).これは,重量測定に用いている電子 天秤Bの測定分解能が0.1 mgであり,それより小さい重量変化が測定できないためである.こ こで,重量の値が変わったときのデータ(○)だけを見ると,重量が時間に対してほぼ直線的に 増加しており,その流れには脈動がほとんどないことがわかる.この結果は,前述した本計測 系の流れ発生機構によって安定した流れが得られていることを示すものである.
そこで,本計測系では,重量の値が変わったときのデータ(○)だけを取り出し,最小 2 時乗 法によって図のグラフの傾き,すなわち,重量の時間に対する変化率dW(t)/dtを決定する.そ
して,(4.16) 式より,測定中に微小流路を流れた試料液の容量を計算する
4.3.2.4. 解析部 解析部の実体は,パーソナル・コンピュータ PC とその上で動作する計測系
の制御プログラム,および解析プログラムである.
y = 6.2E-05x - 1.3E-03 R2 = 1.0E+00
y = 6.0E-05x - 4.0E-02 R2 = 9.6E-01
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 Time [msec]
Weight [mg]
Whole data T op data Regression (T op ) Regression (Whole)
Fig. 4.21. Flow monitoring data in µFIC system
Time course of the weight of flow is plotted. Each data is plotted as closed circle except for the first varied data, which are shown as open circles. Flow rate is calculated from the slope of the regression line of the first data (solid line) only.
4.3.3. 粒子計数
µFIC 法による粒子計数機能を評価するために,本方法による粒子計数の結果を従来法によ る結果を比較した.従来法として,ここでは,Bürker-Türk の血球計算盤を用いた粒子計数法 を採用した.
4.3.3.1. Bürker-Türk血球計算盤による細胞計測法 Fig. 4.22に示したBürker-Türk 血球
計算盤に 2 µmφ粒子懸濁液試料を導入し,粒子が完全にチャンバ底面に落着するまで湿潤 環境下(湿度91 %以上)にて10分間静置した.その後,顕微鏡(BX50, オリンパス㈱製)で粒 子を観察しながら肉眼で粒子を認識・計数した.Fig. 4.22 (b)に示したように,A, B, C, D, 4つ のチャンバ内にある粒子を計数した.したがって正味の測定体積は 1 回の測定につき 0.4 µl ということになる.各試料につき少なくとも2回は測定を実施し,1 µlあたりの粒子数密度の平 均値を計算した.Fig. 4.22 (c)に実際の 2 µmφ粒子の顕微鏡写真を示す.3.3.1.1 目,Table 4.1 で比較したように,ポリスチレン粒子は血小板よりも反射率が高く,コントラストの高い鮮明 な画像が得られるため,粒子を容易に認識することができた.
Fig. 4.22. Bürker-T:urk hemocytometer.
The conventional Bürker-Türk hemocytometry was conducted. Particles placed in the chambers A, B, C, and D shown in (b) were counted under the microscope (c). The volume of each chamber is 1.00 mm × 1.00 mm × 0.10 mm = 0.10 µl. Average particle concentrations were calculated and compared with the results measured by µFIC.
(a) Whole view
1.00 mm
Depth: 0.10 mm 1.00 mm 1.00 mm
A B
C D
1.00mm
1.00mm
1.00mm
(b) Counting chamber (c) Photograph of 2 µmφ particle with microscope
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4.3.3.2. µFICによる粒子計数方法 同じ2 µmφ粒子懸濁液試料をµFIC法で測定した.測定
は 8 回以上行い,それらの平均値を算出し,血球計算盤による計数値と比較した.特に濃度 の低い試料,すなわち,0.23 個/µlの試料を計測する場合は,測定体積中に1個以下の粒子 しか存在しないため,測定時間を10倍延長して約60秒程度のデータを用い,測定対象となる 試料容量を10 µl以上にして測定し確率誤差を排除した.
4.3.4. 粒径測定
一方,粒径測定では,2, 5, 10, 20 µmφのポリスチレン粒子懸濁液を試料とし,これらの試料を µFIC 法で測定した.各試料について,(4.13) 式による粒径補正を行わなかった場合と行った 場合で,粒径分布ヒストグラムを作成・比較した.また,各試料の平均粒径を算出し,各々,メ ーカー公称値と比較した.
4.4. 結果と考察
ここでは,µFIC法の機能評価実験の結果を示し,本方法の妥当性について考察・評価する.
4.4.1. 粒子計数結果
粒子計数結果からµFIC法の粒子計数機能を評価した.µFIC法による粒子計数結果は,従来 法の結果と良好に一致した.再現性について検討した結果,2 章における結果と同様に,測
定値は Poisson 分布に従うばらつきを伴うことがわかった.測定範囲は理論的に見積もられ,
実験によって確認された.その結果,1.0 ×10-1 – 4.6 × 104 個/µlという4桁のダイナミック・レン ジを確保できることがわかった.また,粒子計数の測定体積,特に,深さの寸法について検討 した結果,約60 µm程度であり,流路を流れるすべての粒子を正確に計数できることがわかっ た.
4.4.1.1. 従来法との比較 Fig. 4.23に実験の結果を示す.Bürker-Türk血球計算盤を用いた
粒子計数結果(nb)に対して,µFIC 法による結果(nm)をプロットした.図では,エラー・バーを付 したデータ(○または△)と,その回帰直線(⎯⎯ (0.1–4.6 × 103 [個/µl]のデータ範囲で計算))を 示してある.1.0 ×10-1 – 4.6 × 103 のデータにおける回帰式は,nm = 0.98 nb− 10.44 (相関係数: r = 1.00)で与えられ,両者の結果が良好に一致することがわかった.ここで,nmとnbは,各々,
µFIC 法と血球計算盤を用いた粒子計数結果である.この結果は,少なくともこの範囲におい て,µFIC法による粒子計数が妥当であることを示している.
注. 1.0 ×10-1 – 4.6 × 104 の範囲では,回帰式は,nm = 0.85 nb − 33.36 (相関係数: r = 1.00)となる.
4.4.1.2. 再現性 この種の実験で再現性を定義するには,3 章でも述べたとおり,2 種類に分
けて議論する必要がある.すなわち,1) 何らかの原因で測定に発生する誤差,および,2) 測 定系の特性による不可避な誤差によって,測定の再現性が決定される.
µFIC法は,3章の方法と同じく,母集団の試料全容量において粒子が均一に分布して存在 していることを前提とし,実際の測定体積に相当する試料容量における粒子数密度を測定し,
これを母集団の粒子数密度として代表させる方法である.この場合,粒子が測定体積中に入 るかどうかは確率によって決定されるため,一般に,測定の結果,得られる粒子数はばらつき,
Poisson分布に従う.よって,ここでも3章と同じく,測定で得られた変動係数CVを,理想的な
変動係数CVcalcと比較することによって,再現性を評価する.Poisson分布の性質から,標準偏 差σは平均mの平方根になるため,理想的な変動係数CVcalcの値は,(4.17) 式によって計算 される.
calc[%] = calc = m = 100
CV m m m
σ 1 ×
(%) (4.17)