3. ω 水酸化脂質による涙液バリア形成機構の解明
3.4. 材料と方法
3.4.9. OAHFA および Type 2 WdiE の合成
OAHFA [(O-C18:1)-ω-OH C22:0 FA]の合成は以下の手順で行った。22-hydroxy docosanoic acid(ω-OH C22:0 FA; 1.2 mg, 3.4 μmol; Larodan AB, Solna, Sweden)を tetrahydrofuran 400 μLで溶解し,氷上でtriethylamine(3.7 μL, 27.0 μmol; FUJIFILM Wako Pure Chemical)とoleoyl chloride(4.5 μL, 13.5 μmol; FUJIFILM Wako Pure Chemical)を加えたのち,室温で48時間撹拌し, octadec-10-enoic-22-(octadic-10-enoyloxy)-docosanoic anhydrideを得た。さらに飽和重曹水200 μLを加え室温で半 日撹拌し,sodium 22-(octadec-10-enoyloxy)-docosanoate を得た。ナトリウム塩に 対して1 M塩酸をpH<3となるまで滴下し,22-(octadec-10-enoyloxy)-docosanoic acid [(ω-O-C18:1)-hC22:0-FA]を作製した(図30A)。反応液にChloroform 300 μL を加え,撹拌したのち,室温,20,400 × gで3分間遠心し,有機層の回収と乾固 を行い,OAHFA標準品とした。α-OAHFA [(O-C18:1)-α-OH C22:0 FA]の合成は,
2-hydroxy docosanoic acid(α-OH C22:0 FA; 1.1 mg, 3.1 μmol; Larodan AB, Solna,
Sweden)を出発基質とし,OAHFAと同様の手順で行った。
Type 2ω WdiE [(1,ω-O-C18:1)-C16:0 WdiE]およびType 2α WdiE [(1,α-O-C18:1)-C16:0 WdiE]は以下の手順で合成した。1,16-hexadecanediol (12.2 mg, 47.2 μmol;
Tokyo Chemical Industry) と1,2-hexadecanediol(11.2 mg, 43.3 μmol; Tokyo Chemical Industry)を1-methyl-2-pyrrolidone(NMP)500 μLで溶解し,さらに氷上にて 4-dimethylaminopyridine(FUJIFILM Wako Pure Chemical)1 mg(8.2 μmol)とoleoyl chloride(100 μL, 298.9 μmol)を加え,室温で一晩撹拌を行い,hexadecane-1,16-diyl dioleate [(1,ω-O-C18:1)-C16:0 WdiE]と 1-((hexadec-8-enoyl)oxy)-octadecan-2-yl oleate [(1,α-O-C18:1)-C16:0 WdiE]を合成した(図30B)。反応液にethyl acetate 400 μLとH2O 400 μLを加え撹拌したのち,室温,20,400 × gで3分間遠心し,有機 層を回収した。water/NMP層にethyl acetate 300 μLを加え,再抽出したのち,室 温,20,400 × gで3 分間遠心し,有機層を回収した。回収した有機層をまとめ,
H2O 400 μLを加え撹拌したのち,室温,20,400 × gで3分間遠心し,再度有機層
の回収と乾固を行い,Type 2ωおよびType 2α WdiE標準品とした。
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図30. OAHFAおよびType 2 WdiEの有機化学的合成
(A)OAHFA [(O-C18:1)-ω-OH C22:0 FA] および反応中間体の合成過程と反応条 件を図示した。反応条件を以下に示す。a,基質に氷上にて triethylamine および
oleoyl chlorideを添加,室温で反応; b,飽和重曹水を添加,室温で反応; c,1M塩
酸を滴下,pH<3で反応。(B)Type 2ω WdiE [(1,ω-O-C18:1)-C16:0; 上図] および Type 2α WdiE [(1,α-O-C18:1)-C16:0; 下図] の合成過程と反応条件を図示した。反 応条件を以下に示す。d; 基質に氷上にて 4-dimethylaminopyridine および oleoyl
chlorideを添加,室温で反応。
74 4. 総括
本研究によって,脂肪酸ω水酸化酵素(CYP4F22/Cyp4f39)によって産生され るC30–36のω-OH FAはアシルセラミド,ω-OHセラミド,OAHFA,OAHFA代 謝物へと代謝されることで皮膚バリアおよび涙液バリア形成に重要であること が示された。皮膚バリア形成においてアシルセラミドは重要な ω 水酸化脂質で あり,脂質ラメラ形成や表皮の正常な成熟に関わることが明らかとなった。本研 究の知見は,魚鱗癬の病態発症メカニズムの解明に寄与するものである。一方の 涙液バリア形成においてはOAHFAをはじめとして,Type 1ω WdiE,Type 2ω WdiE,
Chl-OAHFAといったOAHFA代謝物が重要であることが示された。これらω水
酸化脂質が,涙液中に脂質極性勾配を形成することで涙液層の安定性に関わる という新たな涙液層モデルも示唆された。
本研究は,体表面透過性バリア(皮膚や涙液)に共通して存在する ω 水酸化 脂質に着目し,その役割の解明を目指したものである。この研究を通して,ω水 酸化脂質がバリア機能の形成・維持に大きく寄与していることが証明された。し たがって,ω水酸化脂質を応用した治療薬や治療法は,魚鱗癬,アトピー性皮膚 炎,ドライアイなど多くのバリア機能異常に対する新たな治療標的となりうる ことが示された。投与法の確立や製剤化といった技術革新も合わせて,本研究が バリア異常患者への新たな治療法の確立に有用な示唆を与えることが期待され る。
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