3. ω 水酸化脂質による涙液バリア形成機構の解明
3.2. 結果
3.2.4. Cyp4f39 の欠損によるマイバム脂質中の C16:1 OAHFA の減少
Cyp4f39がマイボーム腺においてOAHFAの産生に関わることを明らかとする
ために,LC-MS/MSを用いたマイバム脂質中のOAHFA解析を行うこととした。
しかしながら,OAHFAのLC-MS/MSによる解析法は十分に確立されておらず,
標準品も市販されていないことから,特異的な分離分析は困難であった。そこで 本研究では,初めにOAHFAの標準品として[(O-C18:1)-ω-OH C22:0 FA]をω-OH behenic acid (C22:0 FA)とoleoyl (C18:1) chlorideを有機化学的に縮合させることで 作製した。作製したOAHFA 標準品をLC-MS/MS を用いたプロダクトイオンス キャンによって測定した結果,[C18:1 FA−H]–に帰属されるm/z 281.06と
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図 19. Cyp4f39 欠損マウスにおけるマイバ ム脂質合成関連遺伝子の正常な発現
12 ヶ 月 齢 の コ ン ト ロ ー ル マ ウ ス [Tg-Cyp4f39+/+(n=3)] と Tg-Cyp4f39−/−マウス
(n=3)のマイボーム腺から総RNAを調製 し,定量的RT-PCR を用いてマイバム脂質 合成関連遺伝子(Awat1, Awat2, Far1, Far2,
Soat1, Cyp4f39)とハウスキーピング遺伝子としてHprtの発現量を定量した。各
遺伝子の発現量は,Hprtの発現量に対する相対値として求め,平均値±標準偏差 を示し,Student’s t-検定によって有意差を求めた。*P<0.05; Tg –/–,Tg-Cyp4f39−/
−
[M−H−(C18:1 FA−OH)]–に帰属されるm/z 354.95の2つのフラグメントイオンが 検出され,目的のOAHFA標準品であることが確認された(図20A,B)。また,
OAHFAは構造中に ω-OH FA を有するとされているが,水酸基の位置異性体が
存在する可能性も想定された。生体内の水酸化 FA としては,ω-OH FA に加え て,Fa2h(Fatty acid 2 hydroxylase)によって産生される脂肪酸2 (α)位が水酸化さ れたα-OH FAが知られている1,80)。本研究では,α-OH FA を構造中に含むOAHFA
(α-OAHFA)が存在する可能性を考慮し,OAHFAと同様の手法で
[(O-C18:1)-α-OH C22:0 FA]も作製し,標準品として用いた。
次に,OAHFAを高感度に検出するために,OAHFAがカルボン酸を構造中に
有することを利用し,一般に FA の誘導体化などに用いられている N-(4-aminomethylphenyl)pyridinium(AMPP)による誘導体化を行い,LC-MS/MSによ る多重反応モニタリング(MRM)のメソッドを作製した(表8)。この際に,LC の移動相条件の検討も行い,合成した2つの標準品(OAHFAおよびα-OAHFA) を用いて,両者が分離可能な系を作製した(図20C)。
確立した測定条件を使用してコントロールマウスおよび Tg-Cyp4f39−/−マウス のマイボーム腺におけるOAHFAの解析を行った。その結果,OAHFAのみがコ ントロールマウスで検出され,α-OAHFA は検出されなかった。検出された OAHFAについて,コントロールマウスではC16:1(図20D,G),C18:1(図20E,
G),C18:2(図 20F,G)FA を構造中に有する OAHFA(C16:1 OAHFA,C18:1 OAHFA,C18:2 OAHFA)が検出され,C16:0とC18:0 FAを含むOAHFAはみら れなかった(図20G)。また,いずれのOAHFA分子種もC30–36の鎖長のω-OH FAを有することが示された。検出されたOAHFAのうち,C16:1 OAHFAを構成
するω-OH FAはほとんどが一価不飽和型でありC34:1を含む分子種が最も多く
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図20. Tg-Cyp4f39−/−マウスマイボーム腺におけるOAHFAの減少
(A,B)OAHFA [(O-C18:1)-ω-OH C22:0 FA]のLC-MS/MSを用いたプロダクト イオンスキャン結果。プレカーサ―イオンとして[M–H]–(m/z 619.5)を選択し,
測定を行った際のMSスペクトルグラム(A)と予想される開裂位置(B)。赤色 は水酸化FAを示す。(C)OAHFA構造異性体 [(O-C18:1)-ω-OH C22:0 FAと
(O-C18:1)-α-OH C22:0 FA] のLCによる分離。合成した標準品をAMPP誘導体化し
たのちに MRM で検出を行った。(D–G)12 ヶ月齢のコントロールマウス [Tg-Cyp4f39+/+(n=3)] とTg-Cyp4f39−/−マウス(n=3)のマイボーム腺から脂質を抽出 し,AMPP誘導体化を行ったのちに,ω末端にC16:0(G), C16:1(D,G), C18:0
(G),C18:1(E,G),C18:2(F,G)FAを有するOAHFA分子種について
LC-MS/MSによるMRM解析を行った。OAHFAを構成するω-OH FAの鎖長および
不飽和度ごとのピーク面積(D–F)とω末端のFA分子種ごとのピーク面積の合 計(G)。グラフの下に各 OAHFA の簡略化した構造を示す。グラフの値は平均 値±標準偏差を示し,Student’s t-検定によって有意差を求めた。*P<0.05; **P< 0.01;
nd, not detected
検出された一方で,飽和型は一価不飽和型に比べて少量が検出されたのみであ った(図20D)。C18:1 OAHFAもC16:1 OAHFAと同様にω-OH FAは一価不飽和 型が多く,飽和型は検出されず,C34:1を含む分子種が主要であった(図20E)。 C18:2 OAHFAについては,C16:1,C18:1 OAHFAと異なり飽和型,一価不飽和 型いずれのω-OH FAを含むものも検出され,飽和型ではC32:0が,一価不飽和
型ではC34:1を有する分子種が主要であった(図20F)。
Tg-Cyp4f39−/−マウスについてもコントロールマウスと同じ測定を行った。その
結果,C16:1 OAHFAについてはすべての分子種でコントロールマウスと比較し
て減少が確認された(図 20D)。また,飽和型の ω-OH FA を有する分子種では
C30とC32:0において,一価不飽和型ではC32–36:1において有意な減少が示さ
れ,C16:1 OAHFAの全体量としてはコントロールマウスの約20%であった(図
20G)。その一方で Tg-Cyp4f39−/−マウスでは,コントロールマウスと比較して,
C18:1 OAHFAについては全体で約50%,C18:2 OAHFAについては90%以上が残
存していた。C18:1およびC18:2 OAHFA は,表皮でも発現していることが報告 されており29),Tg-Cyp4f39−/−マウスで検出されたC18:1およびC18:2 OAHFAは,
混入している表皮に由来するものと考えられる。各OAHFAについて分子種別に 解析を行った場合でも,C18:1 OAHFAではC32:1のω-OH FAを有する分子種に 減少がみられたものの,その他の分子種については有意な差はみられなかった
(図20E)。C18:2 OAHFAについては,すべての分子種でTg-Cyp4f39−/−マウスに
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おいて減少はみられなかった(図20F)。したがって,Tg-Cyp4f39−/−マウスにおい て明らかな減少の確認されたC16:1 OAHFAが,マウスのマイバム脂質における
主要なOAHFAであると考えられる。