第Ⅱ章 姫浦層群における白亜紀後期サメの歯化石の産出層準とその産状
ⅱ. Notorynchus sp.
の場所で産出した歯化石の歯冠高を測定し前歯と側歯に分けてShimada et al.
(2010)の前歯および側歯に基づいてそれぞれ全長の推定を行った.
姫戸公園産の C. appendiculataの歯冠高と全長の関係を図 12に示す. 例え
ば No.19の歯化石は 16.0mmの歯冠高を持つ前歯である(図 43). この大き
さは USA. カンサスからの C. appendiculata 前歯の平均歯冠高 15.5mm の
107.7%である.従って,これを基に推定される全長は 2.4m~3.2mである.
その全長の平均値をプロットしている.測定できた歯化石は前歯2点,側歯 6点である.これによって推定される全長は, 1.1m~3.4mである. No.16から 推定される全長は他の歯化石に比べてこの標本のみ極めて大きく(歯冠高
22.7mm, 推定全長 3.9~4.2m),この群集の特徴を示していると考えられな
いのでグラフからは除外した(図 43).
椚島産の C. appendiculata の歯冠高と全長の関係を図 13に示す.測定でき た歯化石は前歯1点,側歯2点である.これによって推定される全長は2.3m
~4.5m である.No.8 および No.9(図 47)は後歯と考えられるので全長の推 定から除外した.
和田の鼻産の C. appendiculata の歯冠高と全長の関係を図 14 に示す.測定 できた歯化石は前歯4点,側歯4点である. これによって推定される全長は 3.2m~5.0mである.No. 34についてはこの標本のみ, 歯冠高 6.7mmで, 推 定される全長は 1.1m~1.3m と他の標本と比べて極めて小さいのでこの群集 のグラフからは除外した(図 46).また, No.9 は後歯と見られるので除外し た(図 45).
これら3つの産地の C. appendiculata の歯冠高と全長の関係を一緒にして 図 15に示し, 産地ごとのグループとして比較した.これを見ると姫戸公園
産の C. appendiculataが全体的に小型であり, 和田の鼻のグループが非常に
大型であることがわかる. したがって,姫戸公園産の C. appendiculataは若 い個体の群集であると考えられ, 椚島や和田の鼻の C. appendiculataは成体 の群集で沖合に生息していたと考えられる.
5100 15202530
CH ( 歯冠高)
12
34
5 0
mm
全長︵
TL ) m
前歯のCH値 側歯のCH値 ※ 側歯は大きいサイズを使用No.1 No.19 No.14
No.47
No.46 No.18 No.24 No.6
図 12. Cretalamna appendiculata の CH( 歯冠高)と全長の関係
姫戸町姫戸公園
(姫戸町姫戸公園 )
CH (歯冠高) Shimada(2007)に加筆 34
5100 15202530 CH (歯冠高)
12
34
5 0 mm
全長︵
TL ) m 前歯のCH値 側歯のCH値 ※ 側歯は大きいサイズを使用
Cretalamna appendiculata 図 13. の CH( 歯冠高)と全長の関係(龍ヶ岳町椚島)
龍ヶ岳町椚島 No.17 No.19 No.4 CH (歯冠高) Shimada(2007)に加筆 35
5100 15202530
CH ( 歯冠高)
12
34
5 0
mm
全長︵
TL
) m
前歯のCH値 側歯のCH値 ※ 側歯は大きいサイズを使用Cretalamna appendiculata 図 14. の CH( 歯冠高)と全長の関係(龍ヶ岳町和田の鼻)
龍ヶ岳町和田の鼻
No.7No.32
No.13 No.17No.29
No.25 No.2No.8 CH (歯冠高) Shimada(2007)に加筆 36
5100 15202530 CH (歯冠高)
12
34
5 0 mm
全長︵
TL ) m 前歯のCH値 側歯のCH値 ※ 側歯は大きいサイズを使用
図 15 .
Cretalamna appendiculata
の CH (
歯冠高)と全長の関係,群集の比較
No.17 No.19 No.4 CH (歯冠高) Shimada(2007)に加筆
No.32 No.7
No.13 No.17No.29
No.25 No.2No.8 No.1 No.19 No.14
No.47
No.46 No.18 No.24 No.6
和田の鼻 椚島 姫戸公園 37
Notorynchus cepedianus
10 mm
2
3 1
4
5
6
7
図 Ptychodontidae , occlusal view Ptychodus
mammillaris 1 KCM12-000061( ); 2 KCM12-000144(replica, ); 3
KCM12-000257( ); 4 KCM12-000148(replica, ) KCM12-00060( ); 6 KCM12-000149(replica, ). 7. Ptychodussp., KCM12-000150( ). Scale bar=10mm
姫戸公園産
Notorynchus sp.(KCM 12-000378)
椚島産(KCM 12-000272)
Notorynchus sp.
図 16 (1) 現生のNotorynchus cepedianus の歯列および (2)姫浦層群産Notorynchus sp.
1 2
Compagno(1984)
P. decurrenceの下顎歯の復元
(Hamm, 2008)
図 17.
38
12-00061)は姫戸公園産の標本である.Ptychodontidae の歯は,現生の
Heterodontidae (ネコザメ科)の歯のように敷石状にすり潰すタイプの歯が並
んでおり,歯の位置によりその形が異なる(例えば 5は遠心側の歯).姫戸 公園の Ptychodus mammillaris は, 和田の鼻産の No. 2 (KCM 12-000144), No. 3 (KCM 12-000257),あるいは No. 4(KCM 12-000148)の歯化石と丸いドーム 型の歯冠の形は似ているので歯の位置はあまり変わらないと考えられる.し かし,歯の大きさが小さいので若い個体だと考えられる.
このように姫戸公園の粗粒な砂岩から産出しているサメの歯化石はどの 種類についても若い個体であると考えられ,この場所が子育ちの場所ことを 示している.
以上(1)サメ類タクサごとの生息域,(2) サメの形態と遊泳能力,(3) 子育ちの場所で述べたように姫浦層群サメ類のそれぞれのタクサの生息域 は異なると推測される.これらのことを文献をもとに表4に整理した.これ を参考にしてサメ類の捕食者のタイプを沿岸~沖合表層の泳ぎの速い群集 と主に大陸棚環境で底生またはその付近に生息していた動きの遅い群集に わけた.この群集を調査地域の岩相,随伴化石,堆積環境を図 18に示し,
産出したサメ類を図 19に示した.これを見ると姫浦層群のサメ類は椚島, 和田の鼻の海底土石流により移動して堆積した堆積物から多くの種類が産 出している.
現生のサメ類は, 捕食, 子育ち等で複雑な回遊を行い(Compagno et al., 2005), その過程で多くの歯が交換され(Shed teeth)海底の堆積物に含まれ ることに成る. したがって, 海のどの付近に主に生息していたかを推測す ることは難しいが, 姫戸公園,椚島産出層準a, 東浦, 小鳥越では随伴する 二枚貝化石の産状や岩相,堆積構造などから現地性もしくは準現地性と考え られる.一方,椚島産出層準 b,和田の鼻については岩相や随伴する二枚貝 化石の産状から異地性を示し,斜面で運ばれて堆積したことが考えられる.
含まれる二枚貝については椚島産出層準 bにおいては浅海生二枚貝,和田の 鼻においては浅海生のみならずに深海生と考えられる二枚貝も含んでいる.
姫戸公園と和田の鼻/椚島では Cretalamna・Ptychodus・Notorynchus 属が 共通して産出し,和田の鼻/椚島と東浦/小鳥越では共通して Squalicorax・
Chlamydoselachus属が共通して産出している.これらのことから,
Cretalamna・Ptychodus・Notorynchus属は生息範囲が浅海域と推測され,
Squalicorax・Chlamydoselachus属については生息範囲がより遠洋あるいは深
い地域と推測される.
(4)生息域の分類
姫浦層群のサメ類群集は,生息環境の視点から3つに分けて考えられる
(図19).
1つ目の群集は,沿岸域(内湾)の群集である. Komatsu et al.(2008)は, 斜
39
表4 .�姫浦層群から産出したサメの歯化石の種類と推定される生息環境/生態/運動の形態
目 科 属 産地 生息環境/生態 文献 運動の形態
Wilga et al.(2004) Ptychodontiformes Ptychodontidae Ptychodus 姫戸公園,,和
田の鼻,椚島 現生のOrectolobiformに似た動き の鈍い泳ぎをするサメ
Shimada , Rigsby and Kim (2009):
Shimada(2012)
Chlamydoselachidae Chlamydoselachus 東浦,和田の鼻, 椚島
古生代のSymmorium などに似た 古代魚.日本ではアンモナイト やイノセラムスを随伴すること から中生代~新生代初期の Chlamydoselachus属は浅海環境 に生息し,中新世になって深海 に移動と考えられる.
(Richter and Ward
(1990); Goto et al.
(2004)
anguilliform swimmers
Hexanchus 和田の鼻,椚島
現生種は深海生のサメで,硬骨 魚類や軟骨魚類などを捕食する
(広範囲の捕食者)だけでな
(腐肉食)でもある
Compagno(1984)
Notorynchus 姫戸公園, 椚
島
現生種は浅海(<136m)に生息 している.しばしば,海底を泳
ぐ. Compagno(1984)
Notidanodon 和田の鼻
巨大な歯を持ち古第三紀に絶滅 している.何でも食べる腐肉食 とも考えられている
Cappetta(1987);
Siverson(1995);
Long et al.(1993)
Echinorhinidae
Echinorhinus 和田の鼻 現生のEchinorhinus は主に深
海に生息する, Compagno(1984) anguilliform swimmers
Squalidae
Centrophoroides 和田の鼻,椚島
後期白亜紀のツノザメは一般的 に深海に関連しているのでけれ ども,スウェーデンの上部白亜 系から産出したツノザメ類は堆 積層の有孔虫の研究などから浅 海環境(200mより浅い)に生息 していたと考えられている.
Klug and Kriwet (2010);Siverson and Cappetta(2001);
Siverson(1993)
Somniosidae
Cretascymnus 小鳥越 現生は1000mの深さにも生息 Cappetta(1987)
Anacoracidae Squalicorax 椚島・小鳥越
現生のGaleocerdo cuvierのよ うな傾斜した鋸歯のある切縁を もったサメで,遠洋性のサメ
Antunes and Cappetta(2002)
thunniform swimmers
Alopiidae Paranomotodon 和田の鼻 Subcarangiform
swimmers
incertae sedis Dwardius 和田の鼻,椚島
Cretodus 椚島
Cretalamna 姫戸公園,,和
田の鼻,椚島
現生のGenus Lamna(ネズミ ザメ類) に似た捕食者と考え
られている Shimada(2007)
Protolamna 和田の鼻 浅海に生息していた原始的なネ
ズミザメ類 Tomita(2011)
Mitsukurinidae Genus and species
indet. 椚島
全身の骨格などから泳ぐのが速 く, 遠洋や陸棚での捕食者の 頂点にあった.
Kriwet and Benton
(2004);Tomita and Kurihara(2011)
Orthacodontidae Sphenodus 和田の鼻,椚島 主に魚類や頭足類を餌とする活
動的な遠洋性の捕食者 Rees(2012)
Paraorthacodus 椚島?
Synechodus 和田の鼻,椚島
底生生活のScyliorhinus torazame に似ているということから,泳 ぎの弱い底生のサメと考えられ る.
Klug(2009) Kriwet and Benton
(2004);Tomita and Kurihara(2011)
Hexanchiformes
Hexanchidae
Synechodontiformes
Palaeospinacidae Squaliformes
thunniform swimmers carangiform swimmers Subcarangiform swimmers
Lamniformes
Cretoxyrhinidae
Squalicorax属,
Paranomotodon属, Cretodus属 およびMitsukurinidae科のほとん どの種は全身の骨格などから泳 ぐのが速く, 遠洋や陸棚での 捕食者の頂点にあった.
40
Cretalamna
Ptychodus Notorhynchus Cretalamna
Squalicorax Cretalamna Dwardius
Protolamna Sphenodus
和田の鼻
海底土石流堆積物
椚島 a
椚島 b
東浦 /小鳥越
姫戸公園
沿岸〜沖合表層の泳ぎの速い捕食者 主に大陸棚環境で底生もしくは,その付 近に生息していた動きの遅い群集
Hexanchidae
gen. et sp. indet.,
Cretascymnus Squalicorax Chlamydoselachus
sp. B
Notorhynchus Chlamydoselachus sp. A
Chlamydoselachus sp. B
Ptychodus
HexanchusNotidanodon Echinorhinus Centrophoroides
Centrophoroides
Paranomotodon Synechodus Chlamydoselachus
sp. A
Chlamydoselachus sp. B
Sphenodus
Squalicorax Cretalamna
海底土石流堆積物 異地性
異地性
異地性 異地性
異地性 現地性
汽水生〜浅海生二枚貝 準現地性
現地性
粗粒砂岩
含礫泥岩
泥岩
含礫細粒砂岩
泥岩(半遠洋性)
混濁流
浅海生二枚貝 浅海生二枚貝
浅海生〜深海生二枚貝
InoceramusAmmonoid
沿岸域
(内湾)
斜面
斜面
斜面
海底土石流堆積物 斜面
※混濁流、 海底土石流の図は(Sohn, 2000)の図を簡略化。
図18.産出したサメ類(属;一部種を含む)のサメの歯化石産 出層の岩相,堆積環境,随伴化石,サメ種類(属)の総括 (※ 捕食者をタイプ別に分けて表示)
岩相 産状
随伴化石 堆積環境 産地
※
※ 椚島b層準より約5m上の層準
(細粒砂岩層)
Hexanchidae gen. et sp. indet.,
産出 サメ類
(属; 一部種 を含む)
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