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Ni 箔を用いた高精度温度センサーの開発

 

3.1  はじめに 

 

前章にて,Ni 箔の高感度である物理的特性と高精度温度センサーに必要な Ni 箔の 製作条件を述べた。その得られた条件にて,結晶化ガラス基板に接着した Ni 箔を製 作し,フォトリソグラフィ技術を利用して抵抗パターンを製作し温度センサー素子を 製作した。また,その素子を用いて高精度温度センサーを製作した。その製造工程を 述べると共に,その温度センサーの応答性や安定性や高精度などの各種特性を測定し たので報告する 1),2),3)。 

 

3.2  Ni 箔温度センサーの製造方法 

 

Ni 箔温度素子の製造工程を図 3.1 に示す。 

(1)高純度の Ni インゴットを圧延にて約 3μmの箔にする。この厚さは,Ni 箔とし ては,限界であり,これより薄くなると穴が開き,箔を成さない。Ni 箔の純度 分析結果は,99.9%以上である。通常の白金や銀などの純度と比べると不純物 の量が多いが,Ni 材料は不純物除去が難しいためである。 

(2)50×50×0.3 mm の結晶化ガラス基板に,Ni 箔を接着剤にて接合する。 

(3)Ni 箔を約 3μmから約 2 μmの厚さに CuCl2溶液にて数秒間のエッチングにて 薄くし,抵抗値を約 50%高くし小形化を図っている。あまり薄くすると,電極 接合時にはんだの強度に耐えられなくなり剥がれてしまう不具合が発生する。 

(4)半導体と同様にフォトリソグラフィ技術にて,Ni 箔にパターンを作成する。 

(5)電極部のはんだ付けをしやすくするために,電極部へ金を付着する。 

(6)レーザートリミングにて,抵抗値を比較用標準 Ni 箔温度素子の抵抗値に合わせ る。同じ Ni 箔温度素子との比較法を採用することにより,高精度の温度制御を せず少しの温度誤差があっても,温度補正され正確な値にトリミングできる。 

(7)各素子を切断し取り出し,Ni 箔温度センサー素子が完成する。 

 

Ni 箔センサー素子製作後のセンサー製造工程を図 3.2 に示す。 

(1)Ni 箔温度センサー素子である。 

(2)素子にフレキシブルプリント基板の 4 個の電極と Ni 箔素子の 4 個の電極をバン

プ法にて接合する。 

(3)プリント基板の反対側電極部をハーメチックステム部の電極にはんだ付けする。 

(4)Ni 箔素子組み付け PWB 品を保護管に挿入し,保護管ボス部にハーメチックステ ム部を圧入する。ハーメチック部の圧入前に不活性ガスを入れて同時に封止す る。外部からの腐食雰囲気の浸入を防止するために,密封して信頼性を高めて いる。ハーメチック部品の外周リング部に金メッキをしているので,約 100℃

のオイル中で漏れ確認したが漏れが無く,圧入することで信頼性が十分高いこ とが判った。 

(5)ハーメチックシール部の電極に,外部電線をはんだ付け 

(6)ボス部のハーメチック部電極や外部電線の接合部を使用する環境や外部応力か ら保護するために,また,取り付け保持部のために,金属筒を被せ,その中に 接着剤を充填し固化する。外部端子処理をし,センサーとして完成である。 

なお,図 3.3 に,(3)の工程後のセンサー素子と PWB とハーメチック部品の組み 付け品を示す。 

 

                                                                 

1)高純度(99.9 %以上)Ni箔(約3μm) 

2)結晶化ガラス基板にNi箔を接着 

(熱膨張係数:約10×10-6/ ℃;t=0.3mm)

 

3)エッチングにて,箔厚さを約2μm 

(ウエット,またはドライエッチング)

 

4)フォトリソグラフィ技術にて,抵抗パターン作成 

5)電極部に金メッキ 

6)レーザートリミングにて,抵抗値調整 

7)素子の切断 

図 3.1  素子製造工程

                                                                 

1) Ni 箔素子 

2) PWB の組み付け 

3) ハーメチック部品の組み付け 

4) 保護管への挿入 

5) 外部ケーブルの組み付け 

6) 金属筒と樹脂充填 

図 3.2  センサー製造工程 

図 3.3  Ni素子+プリント板+ステムの組み付け品   

 

3.3  抵抗値の測定 

 

抵抗値の測定を 0.001K のオーダーで測定する必要があるので,温度測定の基準定 点である水の三重点セル(Triple Point of Water セル;TPW セル;東亜計器製)を 使用することにし,測温孔にフロリナートを満たし抵抗値を測定した。TPW セルは,

±0.0001K の安定性が知られているので,0.001K の信頼性を判定するには,十分であ

4),5)。TPW セルの形状と構造を図 3.4 に,その写真を図 3.5 に示す。抵抗値の測定

は,スーパーサーモメータ(Hart Scientific 社 1590)を使用した。比較標準抵抗器 は,アルファエレクトロニクス社の標準抵抗器 1000Ω(ASR-102)を使用した。この 抵抗器は,数 ppm/年の信頼性があり,温度換算すると,±0.001K/年以内の信頼性で あることが知られている。 

                                       

測温孔(Φ12×315 液位) 

フロリナート

水 水蒸気

Φ60×400

図 3.4  TPW セル形状

図 3.5   TPW セルの写真

3.4  Ni 箔の厚さ測定 

 

CuCl2 液を使用してのエッチングによる薄膜化を確認した。その測定個所とそのデ ータを図 3.6,図 3.7 に示す。 

箔膜の厚さは,約 2μmであった。予定通りエッチングできていることが判った。電 極部は,金メッキがあり,その周辺は,はんだが流れ無いように,パシベーション被 覆(茶色部)を施しているので,約 0.5μm厚くなっている。測定器として,段差式 精密膜厚測定装置(日本真空技術株式会社  Dektak3ST)を使用した。その仕様を下 記(1)にまとめた。 

 

(1)膜厚測定装置の仕様 

・装置名称:  段差式精密膜厚測定装置  型式:Dektak3ST  (日本真空技術㈱) 

・触針:      ダイヤモンド触針 

・膜厚表示範囲:  5nm〜6.5μm 

・測定条件:      触針先端  φ2μm 

・触針荷重:      100μN 

・スキャン幅:    600μm,300μm 

・スピード:      Med(7sec) 

・データ点数:    600 点   

                         

図 3.6  膜厚測定個所(矢印部)

                             

3.5  素子の形状 

 

Ni 箔温度素子の形状を図 3.8 に示す。形状は,0.7(幅)×8(長さ)×0.3(厚み)mm である。結晶化ガラス基板(t=0.3mm)に,約 3μmの Ni 箔を接着剤で接合し,Ni 箔に抵抗パターンを作成後切断したものである。高精度測定するため 4 線式構造にて,

抵抗値は,自己発熱を考慮し 1000Ωとした。レーザートリミング用パターン部を用 意し,レーザートリミングにて初期抵抗値を調整している。レーザートリミングは,

一定値毎にステップ状に,抵抗値が上昇するデジタルトリミングを採用し,安定性を 考慮している。また,Ni 箔表面は,パシベーション膜を付着して,耐環境性を確保 している。 

             

  図 3.8  素子の形状(0.7×8×0.3 mm) 

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

0 100 200 300 400 500 600

測定距離(μm)

Ni 箔 厚 (nm)

パ シ ベ ー シ ョ ン

基板部

パターン部 パターン部

金 メ ッ キ

図 3.7 膜厚測定結果

3.6  センサーの形状 

 

  開発した高感度 Ni 箔温度センサーを図 3.9 に示す。測定対象に接する部分は,高 速応答性を得るためにステンレス製極細保護管であり,保護管部とボス部と取り付け 保持部から構成されている。極細保護管内部は,ハーメチックステムで不活性ガスを 密封してあり,Ni 箔素子の耐環境性を確保している。保護管の形状は,内径φ0.9,

外形φ1,肉厚 0.05,長さ 30mm であり,取り付け保持部は,Φ3×25 mm である。取 り付け保持部で外部リード線をエポキシ樹脂で固着し,外部からの引張り応力に耐え られる構造となっている。この形状にて,今後の各種特性を測定した。 

               

3.7  応答性の測定 

 

空気中と水中で,温度応答性を測定した。空気中の温度応答性では,0℃の空気中 から室温約 27℃の空気中に温度センサーを引きだし,水中の温度応答性は,室温か ら 0℃氷水中に温度センサーを投入した。室内は,通常の空気温度調節が実施されて いる。測定器の構成は,定電流発生器から温度センサーに一定電流を供給し,電圧測 定を株式会社山武製 DMC50 で測定した。測定電流は 2mA で,50ms 毎にデータを測 定した。空気中の応答性の結果を図 3.10 に,水中の応答性の結果を図 3.11 に示す。

測定結果(63.2%値)は,空気中で,8.2 秒で,水中で,0.9 秒を得た。市販品で量産 性のある細管保護管の白金温度センサー(Φ1.2×20)を測定すると,空気中で,約 40 秒で,水中で,約 1.3 秒であった。空気中の熱応答性が大幅に改良され,精密な 温度制御に貢献が可能であることが判った。その原因は,保護管形状の外形を小さく 長くし,肉厚を薄くしたために,取付け保持部から金属保護管を伝わって Ni 箔素子 へ伝わる熱が少なくなったことおよび,保護管内部にセラミック粉などを充填しない で,熱容量を少なくしたためである。空気用温度センサーの応答性では,保護管の形 状とセンサーの位置とセンサー部の熱容量を少なくするよう検討することが重要であ

図 3.9  Ni 箔温度センサー(φ1×30mm) 

る。なお,この温度センサーを使用して温度抵抗特性測定システムを製作したので,

3.10 項でその精密な制御性など記述する。 

                                 

3.8  自己発熱の測定 

 

水の三重点セルの試料管中にフロリナートを入れて液中の自己発熱を,フロリナ ートを入れないで空気中の自己発熱を測定した。  測定電流は,50μA,200μA,

500μAで,スーパーサーモメータ(モデル 1590)で抵抗値を測定した。空気中,フ ロリナート中の結果を表 3.1 に示す。2 個の平均では,空気中にて,1mW/K で,フ ロリナート中にて,2mW/K であった。 

予想していたより,空気中とフロリナート中の差は小さく,一般的に資料などに 記載されている十倍などの値は得られず,約 2 倍であった。これは,保護管が小さく なると保護管の熱容量の影響が素子に比べて大きいためと考えられる。 

白金 100Ω温度センサーが同じ形状の保護管で完成したと仮定すると,測定電流 1m Aの時に 0.1mWの電力になり,自己発熱によって,空気中で約 100mK,フロリナー ト液中で 50mK の温度上昇が生じることになる。従って,大きな自己発熱により温度 制御が乱れたり,流量の変動により温度測定値も変化し,正確に温度が測定できない

応答性

205 215 225 235

0 10 20 30

時間[s]

電圧[mV]

8.2s 

応答性

205 215 225 235

0 1 2 3 4 5

時間[s]

電圧[mV]

0.9s 

図 3.10  空気中の応答速度      図 3.11  水中の応答速度

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