• 検索結果がありません。

Ni 箔を用いた高感度温度センサーの開発

 

4.1  はじめに 

 

第 3 章では,マイクロマシンやナノマシンなどの微細加工技術が進展している精 密機械工業や半導体市場に適用できる高感度高精度の温度センサーとして,Ni 箔を 使用した温度センサーを開発したことを述べた。具体的には,厚さ 0.3mm の結晶化ガ ラス基板に約 3μm の Ni 箔を接着し,0.7×8×0.3mm の素子を製作し,φ1 の保護管 に組み付けたセンサーである。その特性は,リソグラフィ技術を利用して製作した抵 抗値は 1000Ωで自己発熱は小さく,TCR は約 6000ppm/K で白金温度センサー1)より高 感度であり,応答性は空気中で 10 秒以下の高速応答性で,長期安定性は 1 年後に±

0.01K であった。また,精密校正炉にて校正して,2 次の近似式にて補正することに より,精度±0.01K の高精度温度センサーを製作できた。 

しかし,最近は装置の大形化に伴い空気温度を制御する範囲が広くなり,さらに 高精度化するために,もっと応答性の速い温度センサーの要求が強くなってきた。ま た,その広い制御範囲の温度を均一化することは難しくなってきているため,制御用 およびモニタ用温度センサーの数量を増やし均一性を確認しようとしている。そのた めに,温度センサーの個々のばらつきの小さいことが要求され,高精度な校正(値付 け)と長期安定性が厳しくなってきた。 

第 3 章で開発してきた Ni 箔センサーを市場の要求に対応させるため,高感度化を 進めた。本開発では,第 3 章の温度センサーの高安定性を保有しつつ,応答性は2倍 の特性値を目標として,実用化を目指した。厚さ 0.05mm のジルコニア基板を採用す ることで,目標の仕様をほぼ満足した空気用 Ni 箔温度センサーを完成したので報告 する。 

 

4.2  材料の選定 

 

4.2.1  Ni 箔 

 

Ni 箔は,第 2 章と同一の Ni 箔を使用した。すなわち,Ni 箔は,純度 99.98%以上 のインゴットを圧延し製作した 60×60×約 3μm の箔を使用した。Ni 箔は,3μm 以 下の厚さではピンホールが多くなり,製作が困難になることから,抵抗素子製作のた

めの Ni 箔としては,現状では限界の薄さである。Ni 箔の熱膨張係数の測定値は,

2.3.1.項より約 16×10-6/K であった。 

 

4.2.2  ジルコニア基板(厚さ 0.05mm)の選定 

 

小形化を進めるに当たり,重要な要素である基板材料を検討した。結晶化ガラス 基板は,薄い基板が得られなかったので,検討材料から除外した。表 4.1 に,純度 96%アルミナ基板,より強度が高い純度 99.5%アルミナ基板と安定化ジルコニア基 板の一般的な機械的特性 2),3)を示す。イットリウムが数%添加された安定化ジルコニ アは,アルミナと比較して,曲げ強度は約 3 倍あり,破壊靭性も 2 倍以上あり,かつ,

Ni 箔に熱膨張係数が近い特性をもっている。 

各材料の表面を走査形電子顕微鏡(以後 SEM と表現する)で観察し,図 4.1,図 4.2,図 4.3 に示した。純度 96%アルミナと 99.5%アルミナの表面は,ほとんど差が 無かった。アルミナは,結晶粒が大きくポーラスであるが,ジルコニアは,結晶粒が 小さく緻密であり表面が滑らかである。表面の滑らかさと機械的に優れていることか ら,温度センサーの薄板化の可能性があることが判った。 

また,アルミナ基板に Ni 箔を接着した温度センサーの長期安定性は,±0.025K/年 程度であり 4),5),第 2 章のセンサーと比べると,ドリフト量が大きいことが知られて いる。この原因は,熱膨張係数が大きく異なっているため,接着後安定するまでに時 間を必要としていると考えられる。これらの点から,安定化ジルコニアを基板として 採用を決定した。 

現在市販されている最も薄い厚さ 0.05mm の基板(商品名セラフレックス,日本フ ァインセラミック社製)を選定した。このジルコニア基板は,幅 10mm の場合,直径 16mm の円形に丸めることも可能で,靭性があり他のセラミックより割れにくい特徴 を持っている 6)。この基板の熱膨張係数の測定値は,第 2 章にて熱膨張係数を測定し た TMA にて測定した結果,約 11×10-6/K で,カタログ値(9.9×10-6/K)より約 10%

大きかった。   

 

4.3  製作方法 

 

極薄ジルコニア基板を使用した Ni 箔温度センサーの基本的な製造工程を下記に示 す。 

(1) 60×60×0.05mm のジルコニア基板に,厚さ約 3μm の Ni 箔をエポキシ系接着剤

表 4.1 材料の機械的特性2),3) 

仕様 単位 96%

アルミナ

99.5%

  アルミナ ジルコニア 密  度 g/cm3 3.8 3.9 6.0

曲げ強度 MPa 300 350 1,000

破壊靭性 MN/m3/2 3.0 4.0 8.0 熱膨張係数 10-6/K 7.9 8.0 9.2

ヤング率 GPa 380 400 210

硬  度 HV 1600 1800 1300

を用いて,150℃3 時間加熱し接着した。 

(2)その厚さではハンドリングが難しく,通常のフォトリソグラフィ装置や治具に適 合 で き な い の で , ジ ル コ ニ ア 基 板 を 60×60×0.4mm の ア ル ミ ナ 基 板 に 厚 さ 0.025mm のポリイミドテープにて固定した。初期工程では,Ni 箔表面にポリイミ ドテープが出ないように図 4.4 のような補強構造にした。すなわち,ポリイミドテ ープをジルコニア基板に接着し,重ねたアルミナ基板の裏側に回したテープを,

その基板の裏側に貼り付けてある別のポリイミドテープでしっかり固定した。図 中で矢印側が接着面である。テープを取り外す際は,ポリイミドテープは機械的 に引き剥がすことが強度的に難しかったので,化学的に溶剤を用いて除去した。 

(3)フ ォ ト リ ソ グ ラ フ ィ 技 術 に て , Ni 箔 に 精 密 な 抵 抗 パ タ ー ン ( パ タ ー ン 幅 は , 0.01mm)を作製した。本センサーが小形であるので,測定電流を小さくし自己発 熱を少なくするように抵抗値は 1000Ωとした。 

(4)その後の工程では,表面を直接処理する工程が無いため,ポリイミドテープを Ni 箔表面に貼り付ける図 4.5 の補強構造に接着した。すなわちポリイミドテープを Ni 箔表面から,側面を通りアルミナ基板裏側へ回して接着した。 

(5)電極部のはんだ付けをしやすくするために,電極部へ金をメッキした。 

(6)ジルコニア基板を抵抗パターンに合わせて切断し,温度センサー素子を完成した。

そのためのダイシング装置は,通常の工程にて使用している DAD521 型(株  ディ スコ製)で,ブレード幅 0.2mm を使用し,送り速度は,通常の基板切断と同じ  8mm/s で実施した。 

(7)試作 3 では,傷が付いたり,湿分や腐食ガスにより腐食するのを防止するために,

微細な抵抗パターン部を覆うように同じジルコニア基板(厚さ 0.05mm)を接着剤 で接合した。 

(8)外部配線用リード線を接続し温度センサーを完成した。 

                 

 

Ni  Resistance  0.05mm  Zirconia 

0.40mm  Alumina 

0.025mm Polyimide tape

 

0.025mm Polyimide tape

 

図 4.4  補強された基板構造 1   

                                                             

図 4.1  96%アルミナ         図 4.2  99.5%アルミナ    

 

図 4.3  ジルコニア     0      5μm

0      5μm 0      5μm

Ni  Resistance 

0.40mm  Alumina 

0.025mm Polyimide tape

 

0.05mm  Zirconia 

図 4.5  補強された基板構造 2   

             

4.4  試作 1(幅 0.3×長さ 35×厚さ 0.05mm)の実験 

 

4.4.1  目的と実験内容 

 

幅 0.3×長さ 35×厚さ 0.05mm の極細極薄形状を製作した。その形状を図 4.6 に示 す。なお,写真は,縦に長いため一部削除し合成した写真である。この試作に関して 下記内容を評価した。 

(1)ダイシングソーでの切断にて,ジルコニア基板の強度を確認した。今後の温度 センサーの小形化のために,幅 0.3mm の幅にても切断できるか実験した。 

(2)Ni 箔を接着した 60mm 角の基板は,ほとんどたわみがなかったので,たわみが 大きくなるように,長手方向にパターンを作成した極細形状にて,切断後の素 子のたわみを評価した。接着剤の硬化時の残留応力にて生じる基板のたわみを 測定した。 

 

4.4.2  実験結果と考察 

 

(1)幅 0.3mm の極細形状にてもダイシングソーによる切断強度を持っていることが 確認できた。切断により大きな欠けは発生せず,欠けた部分が最大 0.005mm で あった。その部位を図 4.6 の chipped part に示している。ジルコニア基板の機 械的性能により,ダイシングソーにて今までと同じ条件で切断できることから,

量産性が高いことが判った。 

(2)この素子のたわみは,35mm の長さに対して 2〜3mm のたわみであり,形状的に は,極細の超小形素子ができることを確認した。なお,この素子は抵抗値を測 定している時に破損してしまった。実用の場合,形状検討やステンレス保護管 に組み付けることなど補強処置が必要である。 

                                       

4.5  試作 2(幅 3×長さ 8×厚さ 0.05mm)の実験 

  

4.5.1  目的と実験内容 

 

幅 3×長さ 8×厚さ 0.05mm の素子を製作し,その形状を図 4.7 に,その温度測定用 パターンの形状を図 4.8 に示す。素子のたわみを無くすために,素子の幅を大きくす るとともに,抵抗のパターンを試作 1 とは異なる直角方向の横パターンにした。抵抗 パターンは,基板先端から 5mm の範囲に作製し,電極部(3mm)には,パターン側に はんだが流れないように保護膜を付けた。 

目的は,4.4 項で小形化の可能性を確認できたので,実用的な形状で下記内容を評 価した。 

(1)実用化のための製作上および取り扱い上の問題点を確認した。 

(2)太さの異なる 2 種類のリード線を付けた試料(A,B)で応答性を評価した。 

 

0.01 mm

Chipped part Au plating 15.5 mm

19.5 mm

0.3 mm

図 4.6  試作 1 の形状 

図 4.7  試作 2 の形状

5mm パターン 

3mm

 

3mm 電 極

 

保護膜

Photo6  (a)

 

 

Photo6  (b)

Photo6  (c) Photo6  (d) 図 4.8(a〜d)  試作 2 の各部の SEM 写真 図 4.8(a) 図 4.8(b)

図 4.8(c) 図 4.8(d)

A試料は,素子へφ0.12(断面積 0.01mm2)×長さ 20mm のリード線を接続し,そ の線の先にφ0.4(Φ0.12 の 7 本撚り線;断面積 0.08mm2)の外部配線用リード線を 接続した。B 試料は,素子の電極部へ上記外部配線用リード線φ0.4 を直接接続した。

A 試料の上面からの写真を図 4.9 に,側面からの写真を図 4.10 に示す。B 試料の上面 からの写真を図 4.11 に,側面からの写真を図 4.12 に示す。図 4.10,図 4.12 からジ ルコニア基板の厚さがリード線に比べて薄いことが確認できる。なお,側面からの写 真寸法は,上面からの写真の約 4 倍になっている。 

応答性の実験方法は,常温空調室内(約 0.3m/s の風速)と 0℃魔法瓶中(風速無 し)の間を手動で移送して応答性を測定した。なお,測定器は株式会社山武製温度調 節器を使用して,測定電流は 0.2mA を流し,0.4s のサンプリングタイムで 6 回測定 した。 

                                           

関連したドキュメント