• 検索結果がありません。

 

第 1 章では,本研究の背景や課題や本研究の目的を述べた。 

 

温度計測における現状と課題を述べた。最近のマイクロマシンやナノマシンの進 行している精密機械工業や半導体工業等の産業においては,常温にて超精密な温度計 測が求められている背景がある。 

例えば,現在超精密な加工は,シリコンのナノマシンであり,数十 mK の熱膨張に よって生じる寸法と同じであり,超高精度の温度計測と制御が必要である。また,装 置の大形化に伴い,温度センサーを使用する数量が増大し,ますます温度センサーの 高精度化と高感度化が求められている。 

 

上記の高精度温度センサーの開発を始めるに当たり,現在使用されている主な温 度センサーの原理と問題点を調査した。高精度,安定性の観点から,一般的に巻き線 式白金温度センサーが使用されているが,抵抗値が小さく測定電流が大きくなること で自己発熱により温度誤差が発生し易いこと,感度が小さいことなどの問題点がある。

特別に選別されたセンサーでは,白金の 5 倍以上の感度の高いサーミスタが使用され ているが,抵抗値のばらつきが大きなこと,形状が小形化できないこと,抵抗値の変 化が非直線的等の問題がある。よって,現状のセンサーは,改良すべき問題点を持っ ている。 

 

次に,温度センサーの新技術開発状況と課題を述べた。温度センサーの開発状況 を調査したが,最近の新しい温度センサーは,白金薄膜温度センサーの開発が進行し ている。小形化により,高速応答性を求めた開発が進んでいるが,抵抗値のばらつき や感度のばらつきが大きい問題点を持っている。 

 

本章の最後に本研究の目的として,温度センサーの技術的課題と開発しようとし ている温度センサーを述べた。上記の現状の温度センサーの調査から高精度,高感度,

高安定性に課題があることが判った。 

マイクロマシンやナノマシンの進行している精密機械工業や半導体工業等の産業で要 求されている新しい温度センサーを開発することにした。すなわち,常温付近で量産 性に優れた高精度,高感度,高安定性の温度センサーを,Ni 箔を利用した温度セン

サーにて開発することにした。 

Ni は,TCR が Pt よりも大きく,抵抗の温度特性がほぼ直線的であり,抵抗値や形 状を自由に変更できる可能性があることから,Ni 素材を選定した。そして,開発す る温度センサーの目標を下記のようにした。 

 

(1)0.001K のオーダーの超高精度温度センサーであること。 

(2)常温付近での信頼性が,0.001K のオーダーであること。 

(3)自己発熱を小さくするため,1000Ω程度の高抵抗値の温度センサーであること。 

(4)形状がφ1 程度の保護管に入ることで,将来にさらに小形化ができること。 

(5)低価格であり,量産ができること。 

 

第 2 章では,高精度温度センサー用 Ni 箔の検討に関して述べた。 

 

最初に,通常の金属および Ni 材料の電気伝導の物理現象や Ni の TCR が大きい原 因に関して,述べた。金属は,金属結合しており,その金属結合を生じさせている電 子は,電子密度が非常に多く,1cm3当たり 1022桁数の自由電子である。その多量の自 由電子の散乱によって,電気伝導の変化が生じている。電子の散乱は,不純物や格子 欠陥と結晶格子の温度に応じた振動によって生じている。不純物や格子欠陥による電 気伝導は,温度によって変化しないが,格子の熱振動による電気伝導は,温度に比例 しており,この現象が,金属抵抗の温度特性を示している。それに対して,Ni の TCR は,金属の電気伝導に加えて,s−d 相互作用(spin−disorder−scattering とも言 われる)による現象によって,電気伝導の変化,すなわち,電気抵抗が生じて,白金 や銅よりも TCR が大きくなっている。その特性は,温度の 2 乗に比例しキューリー点 まで増加している。 

 

次に,Ni 箔の結晶構造の歪に関して調査した内容を述べた。 

約 3μm の Ni 箔は,結晶格子面が特定の方向に揃った集合組織である。最適な Ni 箔 を選定するために,箔にした時に生じた不均一歪を除去する方法を調査した。300℃

と 500℃でアニールした試料を Hall 法等によって歪を調査した結果,アニールによ って,歪は除去できることが判ったが,結晶が大きく成長した。成長した結晶は,精 細な抵抗パターン製作時に不都合が生じるために,アニール無しの Ni 箔を選定した。 

 

次に,Ni 箔と基板の接合の応力に関して調査した内容を述べた。 

アニール無しの Ni 箔と接着する基板を選定するために,熱膨張係数を測定し,ア ルミナ基板の約 2 倍の熱膨張係数であり,Ni 箔に近い熱膨張係数である結晶化ガラ ス基板を選定した。Ni 箔をガラス基板にエポキシ樹脂で接着した試料において,接 着による応力の少ない試料を得るため,80℃と 150℃でバーンイン(アニール)した。

その結果,バーンイン有りと無しとの試料による残留応力の差がほとんど無かったた め,量産性を考慮しバーンイン無し試料を選定した。 

 

第 3 章では,Ni 箔を用いた高精度温度センサーの開発に関して述べた。 

 

Ni 箔と基板の条件が決まったので,その条件で製作した結晶化ガラス基板に接着 した 99.98%の純度の Ni 箔を利用した高精度温度センサーの開発の内容を記述した。 

その Ni 箔に,リソグラフィ技術にて抵抗パターンを作成し,0.7×8×0.3mm の素子 を製作し,その素子を外形φ1×30mm の保護管に組み付けた。抵抗値は,自己発熱を 考慮し,1000Ωとした。その温度センサーの特性において,TCR は,0〜25℃間にて,

約 6000ppm/K,0〜100℃間にて,バルクとほぼ同じ約 6600ppm/K であった。空気中の 応答性は,約 8 秒以下,水中の応答性は,0.9 秒であった。高精度に関しては,その 抵抗値のばらつきを抵抗値のトリミングで±0.01K の超高精度に揃えることが出来な いので,校正により近似式を作成し,その近似式の係数を組み合わせて使用する温度 調節器に保存し演算にて高精度を確保することを検討した。 

±0.0005K の制御幅を確保した量産に適した小形の高精度校正装置を開発した。その 校正装置で測定された 20℃,25℃,30℃の測定値から求められた 2 次の近似式にて,

20℃〜30℃において,±0.001K で補正できることが判った。その校正装置での不確 かさは,包含係数 2 において,0.004K であったので,±0.01K の超高精度の温度セン サーを完成できた。 

さらに,その温度センサーの常温での安定性は,±0.01K/年の安定性であった。 

それらの結果から,第 1 章で決めた目標を達成できた。従って,精密機械工業や半 導体工業等の産業に適用できる量産性の高い Ni 箔を利用した新しい高精度温度セン サーを開発できた。 

 

第 4 章では,Ni 箔を用いた高感度温度センサーの開発に関して述べた。 

 

精密機械や半導体の産業では,装置の大形化が進行しており,装置全体の温度の 精密制御と均一化を図るために,第 3 章で述べた Ni 箔温度センサーより応答性の速

い高感度温度センサーの要求が出てきた。安定性は変わらず,応答性が 2 倍速いセン サーを目標に,新しい高感度温度センサーを開発することにした。 

 

高感度化のために,高速応答性に大きい影響を与えている Ni 箔を接着する基板の 選定をした。アルミナ基板とジルコニア基板を比較して,熱膨張係数が大きく Ni 箔 により近いこと,表面がより緻密平滑であること,および,機械的な強度が約 2 倍あ ることから,ジルコニア基板を選定した。ジルコニア基板は,0.05mm の極薄基板ま であり,一番薄い基板 0.05mm を採用した。 

 

0.05mm のジルコニア基板は非常に薄く,強度的に弱いため,補強基板を使用しな がら,素子を製作する方法を確立し,素子を製作することが出来た。3 個の形状を試 作し,その結果を下記に記載した。 

試作 1 として,(幅 0.3×長さ 35×厚さ 0.05mm)の極細素子を製作して,製造でき るかどうかを検討した。その結果,現在の装置で,強度的にも十分製作できることが 判った。また,Ni 箔との熱膨張係数の差によって,極細素子が反ることを調査した 結果,反りが大きくなるように,長手方向にパターンを作成したにもかかわらず,素 子を製作するために問題になる反りは,発生しないことが判った。実用に向けた素子

(幅 3×長さ 8×厚さ 0.05mm)を製作し,実用上強度的に問題無いことが判った。そ の温度センサーを製作し各種特性を測定した結果,応答性が目標の半分以下を達成で きた。また,素子が小形のために,リード線の熱容量によって,応答性に影響を与え たので,センサーのリード線を含めた形状の検討が必要であることが判った。 

上記素子の耐環境性を向上させるために,抵抗パターン部に,基板と同じジルコニア 基板を接着した素子(幅 3×長さ 8×厚さ約 0.1mm)を製作した。そのセンサーの各 種特性を測定した結果,応答性は,ほぼ目標を達成し,且つ,安定性は,1 年間で 0.01K 以内のドリフトで,高安定性であることが判り,アルミナ基板に接着した場合 より,大幅に安定性を改良できた。よって,より高速応答の安定性の高い実用的な温 度センサーを開発できたことにより,精密機械工業や半導体工業等の高精度温度セン サーに適用でき,温度制御性や温度分布の均一性の改良に貢献するものと考える。 

しかし,まだ課題が残っているので,今後下記のような改良が課題として挙げら れる。 

①補強板を使用した複雑な製作工程を,治具や手順の改良による品質の安定した 生産性の高い製作法の確立 

②保護膜として使用したジルコニア基板を削除できるような保護膜の改良による

関連したドキュメント