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V 水素化物の電気伝導特性:Cr 信号との類似性

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 91-94)

第 5 章 V ナノコンタクトへの低温水素吸蔵実験

5.6 V 水素化物の電気伝導特性:Cr 信号との類似性

最後に、液体水素中に浸したVナノコンタクトへ

𝑉 ≥ 120mV

の電圧印加を行うことで 生じた電子状態変化の起源について考える。先に述べたように V への水素吸蔵によって、

電子状態がCr-likeに変化することが指摘されている。そこで、ここではまずCrナノコン タクトにおいて報告されたd𝐼/d𝑉信号で見られる電気伝導特性について見ていく。

図 5.9 に Meeks が行った単結晶 Cr-Cr ポイントコンタクトに対する実験で得られた

𝑇 ~ 4.2Kにおけるd𝑉/d𝐼信号を示す[67]。図は縦軸をd𝑉/d𝐼でプロットしているため上に凸 の信号となっているが、d𝐼/d𝑉ではV-shapeの信号となる。Crナノコンタクトで現れるこ

のV-shape信号は、スピン密度波と呼ばれるCr中の電子スピンの変調構造に起因して現れ

るフェルミ面の異常として説明されている。Crではスピンの整列周期が格子の周期と非整 合なインコメーシュレート状態になっておりバンドに多数のギャップが開いている[68]。こ のギャップに起因して、電圧印加を行うと電気伝導度が上昇し、d𝐼/d𝑉信号は V-shape

(d𝑉/d𝐼信号では山形)の振る舞いになると考えられている。さらに、これはCr の電子状 態に起因する特性であるため、Cr ナノコンタクトのd𝑉/d𝐼信号もまたコンタクト抵抗値に 図5.8 Vナノコンタクトからの水素脱離に伴うd𝐼/d𝑉信号の変化。|𝑉|~300mVの電圧ス イープを繰り返すことでI ⟶ II ⟶ III ⟶ IVへと変化している。

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対して線形的な依存性を示す。図5.9にはd𝑉/d𝐼信号の電圧依存性を示しており、その縦軸 は変化率でプロットしてある。この図からコンタクト抵抗値が大きく異なるCrナノコンタ クトで電圧に対するd𝑉/d𝐼の変化率は同程度になっていることがわかる。

ここで、図5.9で示すCrの電気伝導特性と今回の実験結果を比較するために、V水素化 物で見られるV-shapeのd𝐼/d𝑉信号を、d𝑉/d𝐼へと変換した信号を図5.10に示す。Crナノ コンタクトで見られる山形のd𝑉/d𝐼信号とV水素化物で現れる山形のd𝑉/d𝐼信号は極めて類 似した形状をしている。図5.6で示した通りV水素化物で現れたd𝐼/d𝑉信号を𝐺(0)で割るこ とで、その電圧に対する傾き(d2𝐼/d𝑉2)はコンタクトサイズによらずほぼ一定になるが、

このコンタクトサイズ依存性はd𝑉/d𝐼信号としてプロットした場合にも同様であり、d𝑉/d𝐼 を𝑉 = 0mVにおける値𝑅(0)で割ると、図5.10に示すようにサイズに依らずその傾きがほぼ 一定になっている。つまりCrおよびV水素化物で現れる山型の信号はともにコンタクト抵 抗値𝑅(0)に対して線形の依存性を示している。

図 5.9 単結晶 Cr コンタクトにおける様々な抵抗値で得られたd𝑉/d𝐼信号。測定は

𝑇 ~ 4.2Kで行っている。

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次に、(d𝑉/d𝐼)/𝑅(0)の電圧に対する傾きの大きさを比較する。Crナノコンタクトの場合 には(d𝑉/d𝐼)/𝑅(0)の値が𝑉 = 0mVから𝑉 = 20mVにかけて5~10%減少している。これに対し て V 水素化物で見られる山形信号の場合は、(d𝑉/d𝐼)/𝑅(0)の値が𝑉 = 0mVから𝑉 = 20mV

にかけて5~6%減少しており、両者はその変化率も定量的に一致している。

これらの類似性から、V ナノコンタクトへの低温での水素吸蔵によって観測された

V-shapeのd𝐼/d𝑉信号は、Vナノコンタクトの水素化によって電子状態がCr-likeになったこ

とに起因している可能性がある。第1章で述べたように、金属Vに水素が吸蔵されると、

金属V の電子状態変化は、水素が持ち込んだ電子の個数分たけフェルミ面が実効的に高エ ネルギー側へとシフトさせられる。図5.11には理論計算によって得られた金属Vおよび金 属Crの電子状態密度のエネルギー依存性を示しているが[69]、両者の比較から、両者の構 造そのものは類似しているがフェルミ面の位置が異なっていることがわかる。V の水素化 によってフェルミ面が高エネルギー側へシフトすることで、V 水素化物の電子状態は Cr-likeなものへと変化する可能性があり、実際に V 水素化物が磁気的状態を取りうる可能性 が理論計算によって指摘されている[13]。

また、Vナノコンタクトに対する水素吸蔵によってCr-likeな電子状態へと磁気モーメン トが出現したと仮定した場合、5.4節で示したジョセフソン効果が抑制されているという結 果とは矛盾しない。

しかしながら、本研究ではあくまで信号の類似性を観測したのみにとどまっており、実際 に磁気モーメントそのものを観測したものではない。そのため、この起源についてはさらに 追求していく必要が残されている。

図5.10 低温水素吸蔵したVナノコンタクトにおける(d𝑉/d𝐼)/𝑅(0)の抵抗依存

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