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水素拡散に関する実験的研究

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 32-35)

第 1 章 研究背景

1.3 金属内水素原子の拡散現象

1.3.5 水素拡散に関する実験的研究

次に水素原子の拡散過程に対する実験研究について説明する。サンプルへの水素浸透時 間の解析や核磁気共鳴(NMR)、準弾性中性子散乱(QNS)など様々な方法を利用すること によって金属中の水素拡散の温度依存性が測定されている。その結果、高温域から温度が低 下してくるにつれて、拡散係数のアレニウスプロットの傾きに変化が生じることが明らか になっている[5]。図1.18にはfcc格子を有する金属中水素(重水素、三重水素)の拡散係 数のアレニウスプロットである。Pd-Hの拡散係数に注目すると、𝑇 = 230K~760Kでは傾き が一定で𝐸𝑎~230meVとなっているが、それよりも低い温度域では傾きが大きく変わり

𝐸𝑎~130meVになる。これは前述のように、水素原子が古典的拡散を示す温度領域(Iおよび

II)から、フォノンアシストトンネル過程を示す領域(III)へと遷移したことで活性化エネ ルギーに変化が現れたためと考えられている。

表1.3にはこれまでの研究により示されている、Pd及びNb、Vの各温度域で得られてい

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る活性化エネルギー𝐸𝑎の値をまとめている[5]。これら数値は、アレニウスプロットに対し て、𝐷 = 𝐷0exp (−𝐸𝑎/𝑘B𝑇)のフィッティングを行うことで見積もっている。

表1.3 金属中水素の拡散係数と各温度範囲における活性化エネルギー[5]

金属 𝐸𝑎 [meV] 𝐷0 [10−7m2/s] 温度範囲 [K]

Pd-H 230 2.9 230-760

Pd-H 130 0.042 131-220

V-H 113 0.89 810-1380

V-H 45 0.31 143-667

Nb-H 144 1.0 873-1390

Nb-H 106 0.5 250-560

Nb-H 68 0.09 108-250

窒素温度程度以下の低温になると、水素の拡散速度の減少や固溶度の著しい低下(図1.5

~図1.7中のα相の領域減少)が起こる。これによって、拡散係数を実験的に決定するのは 非常に難しくなる。花田らはこれらの困難を克服するために、急冷・回復法を応用した方法

図 1.18 fcc 金属中における水素とその同位体の拡散係数のア

レニウスプロット。

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[28]によって、より低温での水素拡散現象の研究を行った。この手法では、サンプル内の水 素が固溶状態にある温度から低温へ急冷することで冷凍し、その後徐々に昇温することで 水素原子の移動とそれによる水素のクラスター形成過程を追跡する。水素が固溶状態にあ る場合に抵抗が最も大きく、昇温に伴い水素が移動することでクラスターを形成するため 抵抗値は減少を示す。Ta中の水素原子とその同位体の重水素、三重水素原子を液体窒素温 度から液体ヘリウム温度程度(4Heは大気圧、𝑇~4.2Kで液化する、また4Heを減圧排気す ることで𝑇~1.5Kが得られる)に急冷し、その後の等時焼鈍(2K 10min⁄ )にともなう電気抵 抗の変化率−𝛥𝜌/𝛥𝑇を測定した結果を図 1.19 に示している。横軸は焼鈍温度で水素、重水 素、三重水素で少しずつずらして示してあり、その温度スケールは 1:√2:√3の比になっ ている。焼鈍に伴って、サンプルの電気抵抗にはピークが複数現れており、この変化は金属 内で固溶状態にあった水素原子が温度上昇によりトラップから抜け出し移動したことに起 因して生じている。この結果から、移動が段階的におこること、各同位体の移動ステージは 温度スケールをずらすことで一致することがわかる。特筆すべきは、三重水素原子において 最も低い温度(T ~ 1.5K)で移動を観測している点である。このことは、水素原子において も、非常に低い温度で水素がサイト間を移動できることを示唆している。しかしながら、こ のトラップ状態がどのようなものであるのかは明確になっていない。

図1.19 Ta中のH、D、Tについての急冷・回復法実験の測定結果。

焼鈍に伴う電気抵抗の回復率を焼鈍温度の関数として示している。

H、D、Tそれぞれの温度目盛りは1: √2: √3の比でずらしてある。

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