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Pd ナノコンタクトへの低温水素吸蔵と印加電圧依存性

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 58-61)

第 3 章 Pd ナノコンタクトへの低温水素吸蔵実験

3.3 Pd ナノコンタクトにおける低温での水素吸蔵実験

3.3.2 Pd ナノコンタクトへの低温水素吸蔵と印加電圧依存性

以上見てきたように、𝑇 ~ 18Kという低温でも液体水素からPdナノコンタクト内へ水素 が高濃度に吸蔵される。この低温での水素吸蔵の起源を明らかにするために、測定時に印加 する電圧に注目した実験を行った。上述のように、Pdナノコンタクトへの水素吸蔵によっ て𝑉 ~ ± 20mVのピーク強度は大きく抑制される。そこで、𝑉 ~ ± 20mVのピーク強度を 評価することによって、Pdナノコンタクトへの低温水素吸蔵による信号の経時変化を評価 する。この測定は𝑇 ~ 18Kで行い、フィードバック制御によって𝑉 = 0mVの微分伝導度が 1000𝐺0(𝑑 ~ 10nm)になるように設定している。

図 3.5(a),(b)に、水素導入前の信号と、水素を導入して 2000 秒後および 40000 秒後の

d𝐼/d𝑉信号およびd2𝐼/d𝑉2信号を示している。測定は水素導入後2000秒と40000秒経過し た時点で電圧を 3 スイープだけ行い信号を得ており、それ以外の測定を行っていない間は 印加電圧を𝑉 = 0mVにしている。水素導入前の信号と水素導入後2000秒における信号には 変化が見られるが、水素導入後2000秒と40000秒における信号には違いがない。水素導

図3.5 水素導入前と液体水素をサンプルセルに導入して2000 秒および40000

秒での(a)d𝐼/d𝑉信号と(b)d2𝐼/d𝑉2信号。2000 秒の測定と40000秒の測定の間は 電圧印加を行っていない。

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入後2000秒の時点でも信号が Pure Pdで得られた信号から変化していることから水素は すでに少し吸蔵されてしまっていると考えられる。この変化はPd表面近傍に水素が吸着・

吸蔵されたために生じていると我々は考えているが、水素導入時にはナノコンタクトの形 状変化も生じてしまうため、その詳細については今後さらに検証していく必要がある。しか しながら、ここで注目したのは図 3.5(b)に水素導入後 40000 秒における𝑉 ~ ± 20mVの d2𝐼/d𝑉2強度は、水素を完全に吸蔵した場合(図3.3(b)中4で示す信号)の強度と比較して、

ずっと大きいという点である。これはPdナノコンタクトを単に液体水素に浸すだけでは水 素吸蔵が十分に進行しないことを意味している。この結果よりナノコンタクトへの印加電 圧値と低温での水素吸蔵現象には、密接な関係があることがわかる。

この低温での水素吸蔵現象とコンタクトへの印加電圧の関係を明らかにするため、以下 の実験を行った。まず、コンタクトに一定電圧𝑉const = 20mVを印加し続け、d𝐼/d𝑉および d2𝐼/d𝑉2信号測定のため1000秒に1回𝑉 = ±20mVの範囲で印加電圧をスイープしながら、

その信号変化を測定した。十分時間が経過した後に、印加電圧𝑉constを10mV増加し𝑉const= 30mVとして、上と同じように𝑉 = ±30mVの範囲で電圧スイープを1000秒に 1回行いな が ら d𝐼/d𝑉 信 号 と d2𝐼/d𝑉2 信 号 の 経 時 変 化 を 見 た 。 こ の 手 順 で 印加電圧を40mV, 50mV, 60mVと10mV間隔で大きくしながら、信号変化を追跡していった。

図3.5(e)に示すように𝑉const= 20mVではd2𝐼/d𝑉2の強度はほとんど一定となっており、さら

なる水素吸蔵は進行しない。しかし、𝑉const = 30mV, 40mV, 50mVと増加させていくとd2𝐼/

d𝑉2の強度は時間経過とともに減少する。最後𝑉const= 60mVで強度は経時変化せず一定にな っており、図3.3の4で示す信号の強度と同程度になっている。図3.6(c)中で矢印によって 指し示されている時点のd𝐼/d𝑉とd2𝐼/d𝑉2信号変化を図3.5(a),(b)に示している。このナノコ ンタクトへの印加電圧依存性より得られた信号変化は、図3.3で示す信号の経時変化と一致 しており、ナノコンタクトへの水素吸蔵は電圧印加によって生じたことがわかる。

一般に、金属への水素吸蔵・拡散は金属表面での水素分子の解離吸着と表面から金属内

(バルク)への侵入・内部での拡散という2つの過程から成り立つ。表面での解離吸着に関 しては、Pd表面では励起エネルギーの必要ないパスが存在することが計算によって示され ている[15]。ここで用いたMCBJ法を用いて作成したPdナノコンタクト表面においても、

これらのパスに沿って水素分子が運動することによって、𝑇 ~ 18Kの低温でも自発的に水 素の解離吸着が実現していると考えられる。一方、ナノコンタクトへの電圧印加は、金属内 部への水素原子の侵入・拡散を誘起する駆動力となっていると考えられる。

以上に記した電圧印加によって水素吸蔵が誘起される振る舞いは、ナノコンタクト間で 電圧によって加速された電子の非弾性散乱が水素吸蔵に関与することを示唆している。ま

た、図3.6(a),(b)の測定の際には𝐺(0)~1000𝐺0のナノコンタクトに対して𝑉 = 30mVの電圧を

印加しているため、1mA~2mAの大きさの電流が生じており、この電流がナノコンタクトに 流れることでその電流密度は非常に高くなっている。この高い電流密度の影響によってこ の低温での水素吸蔵が誘起されている可能性もある。実際、次章で議論する液体水素中に浸

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したNbナノコンタクトに対する低温での水素吸蔵実験では、非弾性散乱によって励起され たフォノンの数が低温での金属中への水素吸蔵に重要な役割を担っていることを示唆する 結果が得られている。

また、Pd格子中における水素原子が格子によるポテンシャルを乗り越え隣のサイトへと 移動するには、226meVという大きなエネルギーが必要である[50]。𝑇 ~ 18K での古典的な 熱的拡散による拡散係数𝐷を、𝐷 = 𝐷0exp(−𝐸a/𝑘B𝑇)の関係式から計算すると、この高い障壁 のために𝐷 ~ 10−64m2/sと極めて小さな値となり、この過程は凍結されている。ここで、

図3.6 図3.5に示す測定後に行ったコンタクトへの印加電圧に対する信号変化。

(a),(b)はそれぞれ、図(c)中において矢印で示している時点でのd𝐼/d𝑉信号とd2𝐼/

d𝑉2信号。(e)は|𝑉| < 𝑉constの電圧スイープにより測定を行っているときの、𝑉 ~ ± 20mVでのピーク強度の時間・印加電圧依存性を示している。測定の間、ナノコン タクトの伝導度(𝑉=0mV)が1000𝐺0になるようフィードバックをかけている。ま た、測定は1000秒に一度、|𝑉| < 𝑉constの電圧スイープを行っており、図中挿図は そのシークエンスを示している。詳細については本文を参照。

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𝐸a= 226meV、𝐷0= 2.9 × 10−7m2/sを用いた[5]。一方、本研究では𝑉~30mVという電圧を印 加するだけでPd ナノコンタクト内への水素吸蔵が大きく進行することが観測されている。

これら一連の結果は、液体水素からPdナノコンタクトへの水素の吸蔵・拡散現象にはトン ネル効果が関与していることも示唆している。

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