Moodle を利用した日本語コースデザインについて
3 Moodle
次に Moodle の概要を述べる。なお本稿では、技術的な導入などは取り扱わず、あ くまでも Moodle を使用したコース作成について報告を行うため、Moodle の導入方 法やシステム面の詳細ついては、公式サイト2などを参照されたい。
3.1 Moodle とは
Moodle とは、オープンリソースの e-ラーニング用コース管理システムである。公式サ
イトには「インターネット上で授業用の Web ページを作るためのソフト 」と書かれて いる。つまりパソコンやサーバについてある程度の知識があれば誰でも自由に無料で使 って開発・使用のできる e-ラーニングのシステムなのである。この Moodle は、近年、
世界中で使用が伸びており、日本の例を挙げれば、三重大学で、語学の授業やコースの ためだけでなく、一つのツールとしてレポートの提出、ゼミの意見交換などにも利用さ れている。奥村(2007)では、三重大学で Moodle の指揮をとる著者が Moodle を「学習 者の管理より学習者とのコミュニケーションに重点を置いたシステム」と定義している。
これは、コミュニケーションツールを含んだ多くのモジュールを備えている Moodle の 大きな特徴を捉えたものである。なお、このモジュールについては、次項で述べる。
本学も含め多くの機関において Moodle は、自宅からでも学校からでもインターネットを 通じて 24 時間アクセス可能である。学習者は、初回に登録した ID とパスワードを使ってロ グインを行う。本学では、新学期が始まる際に ID 登録を行わせている。これにより、 ID を もつ学習者は Moodle 上で自分の点数や正答率、学習状況などの確認ができ、また教師側は、
利用状況や学習者個々の情報などを得ることができるようになっている。
3.2 Moodle のモジュール
ここで Moodle に備えられている様々なモジュールについて簡単に紹介する。モジュール
には、学習のためのテスト問題を作成する小テストモジュール、チャット、フォーラム(掲 示板)といったものから、投票システムやワークショップシステムなどがある。我々の場合、
復習コースということもあり、小テストモジュールを中心にモジュールを組み合
ては後述する。
なおその他にもブログの作成、メール一斉送信システムなども備えているが、さらに 必要であれば、モジュール自体を Moodle 利用者が目的に応じて新たに開発し、追加す ることもでき、実際、多くのモジュールが既に開発され、広く発表されている。
4 日本語コース
2009 年 9 月より 1 年間、実際に我々が本学において Moodle で作成、運営した日本
語自律学習コースの詳細について以下に述べる。
4.1 日本語コース概要
コース自体は、授業で利用している主教材の『みんなの日本語初級 I, II』を利用した 自律復習コースとした。この主教材を中心としたコース作成となった理由の一つとして、
コース作成以前に出版社から音声の使用許可を無償で得られたことがあげられる。
コースは、各学年そして学期毎に分かれており、通常授業にあわせて毎週 1 課進 み、前期は授業の大半が終わる木曜日や金曜日に学生が CRL に行く時間を設定し、
学習者にテスト問題を行わせる形とした。
テスト問題のカテゴリーは毎週亓つから六つあり、漢字、語彙、活用の確認から 文法問題や読解、そして会話と聴解というのが主な内容となっている。他には復習 コーナーとして会話や文型の音声をいれたものを自習で利用してもらうようなもの や文法項目や会話に合わせた外部 Web ページへのリンクのページも作成した。
4.2 コースの運営とテスト問題作成方法
まずコースのテスト問題の作成は、語学の担当教員が手分けをして作成し、各学年の コース担当者に問題を送付、コース担当者が Moodle に入力後、作成者が確認をし、コ ース担当者が毎週決まった時期に学習者に発信するという流れで運営を行った。
テスト問題自体は、Moodle の小テストモジュールを利用して作成した。正誤問題の場合
は Moodle の方でシステムができており、作成者は問題文と解答を入力するだけという方法
であった。小テストモジュールには、このようなテスト問題作成の機能がいくつか装備され ている。一方、穴埋め問題の場合は、Web ページの HTML のように問題文の中に指定の問題 タグを挿入して作成を行う。なおこのタグ挿入の場合は、解答を複数設定することも可能で ある。言い換えれば、異なる文字で書かれそうな解答、たとえば数字の漢数字(一)、全角
(1)、半角(1)などは、全て入力しておく必要が生じる。しかし、そのような入力上の問 題とタグをある程度理解しておけば、Moodle 問題の作成は難しくないと言える。
なお、上述した通り、Moodle は学生が自宅からでも学校からでも 24 時間アクセス できると同様に、教師側もいつでもテスト問題の作成や確認ができる。そして、常 に同じ問題データを Moodle 上で共有できるので、情報伝達さえ確実に行えば、気づ いた人が問題のミスなどを訂正することが可能である。これは、我々のようにチー ムでコース運営をする場合には、作成段階からお互いの情報とデータが共有でき、
また教師側に情報リテラシーの差があっても問題の出来上がりに大きな差がなく運 営が可能であるということで、 Moodle 利用の大きな利点として挙げられる。
4.3 各学年の構成とテスト問題詳細
1 年生前期のコースのテスト問題は、ひらがな・カタカナの練習問題の後に、第 1 課から語彙、漢字、会話、聴解といったテスト問題を作成した。なお 7 課が終わった ところで行われたミーティングでコースの内容確認や反省を行い、より充実させるた めに新たに 8 課から読解と文法のテスト問題も追加された。2 年生前期では、『みん なの日本語 II』から学習が始まるため、コースも巻頭の 26 課からとし、漢字、活用 練習、文法、会話、聴解、読解のテスト問題を作成した。なお、1 週間分の問題の解 答所要時間は、課にもよるが各学年共に、30 分から 1 時間程度である。
以下、主なテスト問題の詳細をカテゴリー別に述べる。
4.3.1 テスト問題 漢字
1 年生の漢字の問題形式は、大きく三つの種類、1. 読みを書かせたりする狭い意味での漢字 練習問題、2. 定義を与え、それに合う言葉を書かせる(例:今日の夜→今晩)といった語彙 の練習問題、そして 3. 文法項目に即した練習問題を作成した。2 年生になると 1 年生の形式 に加え、短いフランス語の文を与え、漢字を使って翻訳を書く練習問題などの応用問題が追 加された。漢字翻訳問題では、単なる漢字の答えを考える問題と異なり「訳す」という作業 が入るため、学習者にとっては難易度が上がり、やりがいのある問題となった。しかし一方 で「授業に出た/授業に出席した」といった複数の回答が考えられるもの、複数の語順が可 能なものなどに対応するため、細かく複数解答を用意する必要があり、また句読点の有無も 解答に影響する等、作成上のやや複雑な問題が生じた。
4.3.2 テスト問題 会話
会話に関しては、1 年生と 2 年生ほぼ同じパターンで作成され、『みんなの日本語初
級 I, II』の会話部分の音声を聞きながらのディクテーションをはじめ、内容の正誤問題
や会話の並べ替え問題、または Web 上の検索をして関連語を調べる問題を作成した。
4.3.3 テスト問題 聴解
1、2 年生共に『みんなの日本語』の副教材『聴解タスク 25』から問題を抜粋して 作成した。但し、出版社からは、音声のみということで使用許可を得ているため、
抜粋した問題は主に絵を使わないで解くことができる問題のみ出題した。また学期 初めに、Moodle に入力する問題と通常授業で扱う問題を振り分けておくことで、授 業時間には今までとは異なる活動を加えることも可能になった。一方、Moodle 利用 を促す目的で、聴解の問題は、いくつか定期試験の出題問題としても採用した。
4.3.4 テスト問題 読解
途中から追加した 1 年生の読解は、まず読解文の内容を学習者が理解しやすいよう に、日本人女性がフランス語学習の目的でフランスに来るという場面から始まり、日 常生活を交えた一貫性のある物語を教師が作成し、連載形式で続けた。なお、読解文 は、学習者が語彙を入れかえるだけで日常表現に利用できるようにもした。そして、
読解文に対する問題は、正誤問題や穴埋め、記述問題を用意した。
2 年生の読解は、1 年生とは若干異なり、国際交流基金の読解教材や Web ページへのリ
5 前期終了時 学習者アンケート
以上のようにテスト問題を作成し、1 年の半分である前期のコース運営を終えた際、
利用者である学習者を対象にアンケートを行った。
5.1 学習者からの声
コース自体の利用については、前期は 1、2 年生共に、義務的に CRL に行き学習する 時間を設け、学生アシスタントが質問を受け付け、学習者の利用を助け、疑問に答える ようにしていた。しかしアンケートでは、学習者の多くから、このような学習時間の義 務付けはしないでほしいという声が挙がった。確かに学習者の自律学習には、学習時間 の自由選択が当然という意見は正論であると言えるが、一方、学生が学生アシスタント に助けてもらいながら Moodle に慣れていく初期段階では、ある程度の義務時間の設定 は必要だと考えられる。また、尐数だがコンピューターを利用した学習自体への疑問を 感じる学習者もいた。次項で検討するような問題作成に関連した問題点を云々する以前 に、そもそもこのようなシステムには向き不向きも考えられ、すべての学習者に受け入 れられるわけではないということがある。しかしオンラインの自律学習は、文法問題に しても音声の聞き取りにしても、自分のペースで繰り返し自主学習できるといった利点 をもち、一つの有効な学習手段であることは明らかで、そのことを学習者に理解しても らえるようにするのが教師側の任務であろう。いずれにしても学習者のモチベーション 維持の難しさをこの辺りから感じだした。
テスト問題については、復習になる、授業内容を補うことができるといった肯定 的な声がある一方、復習に特化したこともありコース自体がつまらないという声も あった。また、さまざまなジャンルを読ませようとした 2 年の読解問題などでは、
難しすぎたり易しすぎたりという難易度の問題のほか、他の問題でも言えるが、学 習者が自分で見つけるまで正解がわからないというシステムへの批判もあった。
5.2 テスト問題の改善
このような学習者達の声を受け、後期には、いくつかテスト問題の改善を行った。
2 年生の漢字では、名詞句や文の中の漢字の読みを書かせる問題の中に、授業で使用 している漢字・語彙帳にはないが、既習語彙をあわせれば理解ができるような三字、四 字熟語(「平均収入」など)を加えて出題した。これで単純な漢字および語彙の復習に 収まらず、復習に加えさらに新たな語彙が追加できるパターンとなった。
また会話の通常授業で、ガスセンターに電話する場面から「ガスセンターの電話 をどうやって日本で調べるか」をさらに設定し、インターネット上の電話帳にアク セスして実際に番号を調べるような問題も作成した。これは、Moodle にアクセスす るためにはインターネットが必須であることを利用し、インターネットから「今の 日本」に触れる問題として追加したものである。このように復習だけではなく、授 業と連携させた一歩進んだ問題アレンジをいくつか他のテスト問題でも行った。
6 1 年の成果と問題点