CEFR に即した日本語授業の実践報告及びテキスト作りへの提案
2 Can-do Statements
コミュニケーションのテーマは『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ 共通参照枞』(2004)の第四章「言語使用と言語使用者/学習者」の 4.2「コミュニ ケーションのテーマ」(pp.53-54)から 14 のテーマを参考にした。
表 1 コミュニケーションのテーマ 1.個人に関する事柄 8. 教育
2.家と家庭、環境 9. 買い物
3.日常生活 10. 食べ物と飲み物 4.自由時間、娯楽 11. サービス
5.旅行 12. 場所
6.他人との関係 13. 言語 7.健康と身体管理 14. 天気
(『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞』第四章, pp. 53-54 より)
ここで、『みんなの日本語』の各課でどのようなコミュニケーションができるか、
まとめてみた。課によっては複数のコミュニケーションが可能な場合もあるが、
Can-do Statements では、多くを求めず、各課で学習する目的を学習者がシンプルに理
解し、目標として意識できるように心掛けた。
表 2 『みんなの日本語』をコミュニケーションのテーマごとに分類 1 個人に関する事柄 1 課, 31, 38, 42, 50
2 家と家庭、環境 8, 15, 48
3 日常生活 5, 7, 13, 26, 45
4 自由時間、娯楽 6, 9, 18, 27
5 旅行 12, 20, 35, 37
6 他人との関係 2, 14, 21, 24, 39, 41, 43, 47, 49 7 健康と身体管理 17, 19, 36
8 教育 28, 40
9 買い物 3, 11
10 食べ物と飲み物 11, 34
11 サービス 4, 16, 22, 29, 44, 46
12 場所 10, 23
13 言語 30, 33
14 天気 25, 32
(2006 年, 鈴木作成)
3 実践
授業は基本的にペア、グループで行う。一人だけで考えるのではなく、コミュニケーショ ンを取りながら、学習者同士が協働学習の中で、問題解決していくことを習慣化してい
3.1 「会話」を聞いて、テーマを予測する(写真、イラスト etc.)
各課の導入として、まず「会話」を聞く。これは日本語のコース初日から始める。日 本語を全く知らない学習者は初め面喰うが、たとえわからなくても、会話を聞くことに 慣れることが大切だと思う。初級前半ではイラストや写真などを会話を聞く前に提示し て、手がかりとなるようにする。2、3 回続けて聞いたあとは、ペアで何の会話か予測す る。その後また 2、3 回聞いて、今度はグループで、そして最後にはクラスで会話の内 容を話し合う。この段階では文法の説明をしたり、詳しく訳したりはしない。
図 2 『みんなの日本語』第 6 課より
(スリーエーネットワーク『みんなの日本語初級 1』p. 46)
3.2 会話(練習 C)を聞いて、新しい文型(文型の法則)を見つける
短い会話(練習 C)を使って、何度も聞きながら、タスクを手掛かりにその課で 学習する新しい文型を探っていく。その後、短い会話の名詞や動詞を自分たちで変 えて、会話の練習をする。
3.3 文型のまとめ(『みんなの日本語』練習 A)
練習 C の三つの会話だけでは網羅できない文型もあるので、練習 A を文法のまと めとして使う。
3.4 タスクを使って、ペア学習
話す、聞く練習だけではなく、読解や漢字学習もペアで学習できるようなタスク を用意する。
3.5 宿題システム(『みんなの日本語』練習 B)
練習 B は文型のパターン練習が主なので、各自の自主性に任せ、学習者の自律学 習に繋がるように宿題とする。ネットで宿題の正誤がわかるよう、Hot Potatoes1やウ ェブ問題作成ツール2を利用して簡単な宿題システムを作る。
3.6 復習(「文型」「例文」を聞く。ディクテーションで確かめる。)
復習として「文型」や「例文」の CD を使う。時にはディクテーションをしたり、
シャドーイングをしたりする。
3.7 もう一度、最初の会話を聞く
最後にもう一度、初めに聞いた会話を聞き、どういう内容の会話だったか、お互 いに確かめていく。あいさつなどは特にどんな時に使うか、話し合う。
3.8 その課のテーマで寸劇、プレゼンテーション、ディベートを行う(Can-do を意識して)
その課の総まとめとして、テーマに即した会話、寸劇、プレゼンテーション、デ ィベートを行う。習った会話を基にしてもいいし、形は自由。人数もペア、グルー プなどその都度、人数を変えて、発表する。
4 結果
4.1 話す力の向上
今までは、たくさんの文型を勉強しても、それが実際のコミュニケーション場面 とつながっていなかった。そのため、学習者はとっさの状況でどう話したらいいか わからず、スペイン語で考えた文を日本語に訳そうとして時間がかかったり、自分 の言いたいことを十分に表現できなかったりなどの悩みを抱えていた。
この方法で練習をするようになってからは、コミュニケーション場面と日本語で の表現が身に付き、とっさの状況でも簡単な日本語で対応できるようになった。日 本語を翻訳ではなく、状況と反復練習を通して、体が覚えた日本語で、コミュニケ ーションできるようになった。
4.2 聞く力の向上
会話を聞いていて、一つわからない単語が出てくるとそこで聞くという行為がス トップしてしまう傾向が学習者にあったのが、この方法で、簡単な会話、長い会話、
速度の速い会話などいろいろなタイプの会話を聞くことにより、たとえ、わからな い単語が出てきても、会話を全体で捉え、何が話されているか、把握する感覚を養 うことができるようになった。日本に住んでいれば、日常生活の中で訓練されてい く聴解だが、海外に住んでいる学習者にはこういう学習方法が必要だと思う。
4.3 Can-do の効果
Can-do Statements を使って、学習者に到達目標を意識させることは、目標に達することが
できた、できなかったに関わらず、この課で勉強したことが、こんな場面でのコミュニ
た こ と の 確 認 や 復 習 に Can-do Statements を 使 う 学 習 者 も い る 。 た だ 、Can-do
Statements と授業のシラバスは一心同体で、学習者が納得のいく自己評価ができるよ
うにするためには、綿密な授業計画が必要だと思う。
5 問題点
以上が実践報告であるが、問題点としては、『みんなの日本語』という教科書自 体が CEFR とは全く違った目的でつくられているため、コミュニケーションのテー マを決めるのにも限界があった。また、CEFR の提示しているコミュニケーションの テーマも「他人との関係」「言語」などかなり抽象的なものが多いため、より具体 的なテーマを検討していく必要があると思う。
そして、CEFR の掲げる目標を取り入れた教科書を開発するためには「タスク」が 重要な役割を果たすと言われているように、タスクの重要性を痛感しながらも、
Can-do Statements と結びついたタスクを作っていく難しさを感じた。特に、漢字学習 に関するタスクはまだ思案中である。CEFR の目標を行動に移すためにはやはり学習 者のニーズに合った教科書が必要とされる。
では、CEFR に即した教科書とは一体どんなものだろうか。それを探るために、語学
センターの各語学教師にインタビューをして、教科書の特徴、使用法などを聞いた。
6 テキスト作りへの提案
6.1 英語“face2face”3
2 ページで 1 時間半の授業が完結するようになっている。2 ページの中に会話、読解、文 法タスク、語彙など、5 技能の活動がコンパクトにまとめられている。大きなテーマごとに、
ページの隅に Progress Portfolio があり、自己評価が簡単にできるようになっている。
6.2 ドイツ語”Optimal”4
学習者の自律学習の一環としてのタスクが教科書の補助教材として充実している。
新文法、新語彙の意味なども学習者が自分たちで探していくタイプのタスクが充実 している。 Portfolio も補助教材の中にある。
6.3 フランス語”Forum”5
CEFR の中で提示している文化をどのように紹介していくかという側面で参考になっ た。テーマの導入の部分で、詩や小説の一部を紹介したり、モード、料理などのテー マの中で文化を全面的に押し出している。
6.4 イタリア語”Linea Diretta”6
会話を前面に出して、新しい文法事項も会話というコミュニケーションの中で紹介 し、学習者自身がタスクの中で探っていけるように編集してある。
(Guerra Edizioni, “Linea diretta, nuevo 1a”, p. 10)
7 今後の課題
語学センターの各語学教師の話を聞き、意見を交換するうちに、日本で教える日本語 とは一味違ったヨーロッパ発信の日本語があってもいいのではと思うようになった。
それには、教科書を開発するためのタスクを充実させていくことが不可欠だと思う。
そのタスク作りのためには、まず機能文法から表現文法をもう一度見直していく必要 がある。 CEFR に即した日本語授業のためにはその国の学習者に合った教科書作りの 必要性を痛切に感じている。
1 http://web.uvic.ca/hrd/hotpot/ (2009 年 9 月 1 日)
2 http://www.fureai.or.jp/~irie/webquiz/ (2009 年 9 月 1 日)
3 Redston, C. & Cunningham, G. (2005) “face2face”, Cambridge University Press.
4 Müller, M., Rusch, P. & Scherling, T. (2004) “Optimal”, Langenscheidt.
5 Baylon, C. (2000) “Forum”, Hachette.
6 Conforti, C. & Cusimano, L. (1998) “Linea diretta, nuovo 1a”, Guerra Edizioni.
<参考文献>
国際交流基金(2009)『JF 日本語教育スタンダード 試行版』国際交流基金.
スリーエーネットワーク(1998)『みんなの日本語初級 1』スリーエーネットワーク.
パウル・ルッシュ(2007)「”Profile deutsch”―多目的ツールを開発する」『平成
17(2005)年度日本語教育スタンダードの構築をめざす国際ラウンドテーブル会議
録』第 3 回「第二部 先行事例に学ぶ」p. 210, 国際交流基金.
吉島茂・大橋理枝(訳・編)(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通