VDR
とLXXLL
ペプチドフラグメントの相互作用には以下の二つの相互作用が重要であ ることが知られている。①ロイシン側鎖による疎水性相互作用
(
コアクチベーター上のLeu630, Leu633, Leu634
におけるアルキル側鎖)
②
charge clamp
と呼ばれる静電相互作用
(
コアクチベーター上のLeu630
、Met629
における窒素原子とVDR
のGlu416
のカルボキシル基、およびコアクチベーター上の
Leu633
の酸素原子とVDR
のLys242
のアミノ基に働く水素結合作用)
上記の相互作用に重要な部位を模式化した図を示す
(Figure 2-3-4)
。コアクチベーター由来
LXXLL
ペプチドフラグメントは、LXXLL
配列の近傍ではα-helix
を形成しており、相互作用に重要なファーマコフォアを有するアミノ酸残基が水素結合により環状構造を形 成している。そこで、この環状構造をベンゾジアゼピン骨格に置き換えることで
LXXLL
ペ プチドを模倣できると考え、ベンゾジアゼピン型のLXXLL
ペプチド等価体をデザインした(Figure 2-3-4)
。母核にベンゾジアゼピン骨格を採用した理由は、ファーマコフォアを模倣するのに適した大きさを持つ剛直な骨格であったためである。また医薬品として用いられ ているベンゾジアゼピン骨格ならば、ペプチドの課題である膜透過性や安定性の改善が期 待できると考えたため、ベンゾジアゼピン骨格を採用した。
Figure 2-3-4. VDR
―LXXLL
ペプチドフラグメント相互作用模式図と化合物デザイン LXXLLペプチドフラグメント上に存在する相互作用に重要なLeu側鎖を緑色太字、charge clamp相互作 用部位を青色の円および赤色の円で表記した。またVDR側のcharge clampに寄与する残基を灰色で表記O
N
O H N N H H
N
H O
O O
OH
H HN Leu630
Met629 Leu633
Leu634 Gul416
Lys242
NH N
O RHN
LXXLL peptide mimetics
green: hydrophobic interaction by Leu residue blue: charge clamp (positive charge)
red: charge clamp (negative charge) gray: VDR residue
25
ベンゾジアゼピン骨格の置換基位置の選定に当たっては、ベンゾジアゼピン骨格を有す る
LXXLL
ペプチド等価体を複数デザインし(Figure 2-3-5)
、そのデザインした化合物群 の中から最も妥当な置換基を有する化合物デザインの検証を行った。検証では、デザイン した化合物の安定コンフォメーションを計算し、LXXLL
ペプチド周辺の活性コンフォメー ションと重ね合わせを行った。Figure 2-3-5.
デザインしたベンゾジアゼピン型化合物NH N H O
N H2N
NH
NH N H O
N H2N
NH
NH N
O NH
H2N
NH N
O NH
H2N
N HN
O NH
H2N
計算の結果、最も妥当だと判断した化合物を以下に示す
(Figure 2-3-6)
。 なお計算条件 は以下に示した。計算条件 化合物
Chem 3D Pro (ver. 5.0)
のMM2
(Molecular Dynamics
の後Minimized Energy
)によ り最安定コンフォメーションを推測。LXXLL
ペプチドProtein Data Bank (PDB ID 1RK3)
よりLXXLL
ペプチド周辺の活性コンフォメーショ ンを抽出Figure 2-3-6.
デザインした化合物とLXXLL
ペプチドフラグメントの重ね合わせa) デザインしたLXXLLペプチド等価体、b) LXXLLペプチド等価体の安定コンフォメーション、c)LXXLL ペプチドフラグメントの活性コンフォメーション、d) b)とc)の重ね合わせ。LXXLLペプチド等価体の炭 素原子は灰色で、LXXLLペプチドフラグメントの炭素原子は緑色で、ロイシン側鎖上の炭素原子は紫色で 表記した。
NH N
O NH
H2N
!" ! #" !
$" ! %" !
27
活性コンフォメーションの重ね合わせに当たっては、各炭素鎖の自由回転を考慮した際 に、デザイン化合物における剛直なベンゾジアゼピン骨格に直接結合していて空間的な位 置関係が変化しない炭素原子と、
LXXLL
ペプチド上の対応する炭素原子との差異が小さい ことが重要であると考えた。そこで相対的な位置関係が変化しないデザイン化合物の各炭 素原子と、対応するLeu630
のβ
炭素、Leu633
のβ
炭素、Leu634
のα
炭素との差異を測 定した。またcharge clamp
として機能するMet630
のアミド窒素原子およびLeu633
のア ミド酸素原子についても重要であると考え、重ね合わせにより差異を測定した。得られた重ね合わせより活性コンフォメーションに重要であると考えられる原子の差異 は以下の通りであった
(Table 2-3-1)
。Table 2-3-1. LXXLL
ペプチド等価体とLXXLL
ペプチドフラグメントの差異活性コンフォメーションに重要な原 子
重ね合わせ時の差異(Å)
Leu630 のβ炭素原子 0.79 Leu633 のβ炭素原子 1.14 Leu634 のα炭素原子 0.60 Met630 のアミド窒素原子 0.58 Leu633 のアミド酸素原子 0.97
上記結果における差異は概ね
1 Å
以下であり、他のデザインした化合物と比較して、最も 重ね合わせ時の差異が小さかったため、本化合物デザインを採用した。また化合物の構造展開に関しては、
Met629
のアミド窒素に対応するcharge clamp
部位 の構造展開を計画した(Figure 2-3-7)
。Figure 2-3-7. Met630
のアミド窒素に対応するcharge clamp
部位の構造展開具体的には
Leu630
のアミド窒素原子だけでなく、Met629
の窒素アミド原子の相互作用 を模倣することを期待して、アミノ基を2
つ有する化合物、および、charge clamp
を認識する
Glu416
のカルボン酸との相互作用の増強を期待して塩基性の強いグアニジン基を有する化合物の設計・合成を行うこととした。
NH N
O
H2N N
H N
O NH
H2N
NH N H
N O H2N
NH
2-3-4.
化 合 物 の 合 成ベンゾジアゼピン型の
LXXLL
ペプチド等価体の逆合成解析を以下に示す(Scheme 2-3-1)
。Scheme 2-3-1.
逆合成解析合成戦略として、
8
位のアミノ基から伸びる側鎖は還元的アミノ化による導入を計画した。ベンゾジアゼピン骨格の構築には
Buchwald-Hartwig
クロスカップリングを用いた分子内 環化による7
員環の形成を試みた。さらにロイシン側鎖に対応する3つのアルキル側鎖は、7
位はSuzuki
カップリング、4
位は還元的アミノ化による導入を計画し、2
位はアミノ酸側鎖を利用することにした。
NH N
O NH
R
N O H2N Br
BocHN NH
N O H2N
N O H2N
I
Br BocHN
H2N I
Br
CN
F Br
NH2
Suzuki&coupling
Reduc0ve&amina0on Buchwald7Hartwig&cross&coupling
Reduc0ve&amina0on
condensa0on
NH NH
O
1 2 3 5 4 6 7 8
9
29
以下に最終的に採用した合成スキームを示す
(Scheme 2-3-2)
。Scheme 2-3-2.
ベンゾジアゼピン型LXXLL
ペプチド等価体の合成化合物合成の詳細については次ページ以降に記す。
①化合物
7
の合成 ②化合物11
の合成③
charge clamp
側鎖の導入Br NH I H2N
Br N
O BocHN I H2N
NH N
O H2N
I H2N
CN Br
I
H2N Br
NH2 BH3
O
HO O
NHBoc
Pd2(dba)3•CHCl3 (R)-BINAP, Cs2CO3 NaBH(OAc)3
H2N CN Br
NIS F
CN Br
NH2
O DDQ
Br N
O H2N H2N
91 % 85 % 83% 69 %
1 3 4 5
6 7
9 10
59 % 82 %
Bpin, Pd(dppf)Cl2, K3PO4 DMF 64 %
98 % CH2Cl2
CH2Cl2 / H2O = 2 / 1 AcOH THF
CH2Cl2 / AcOH = 9 / 1 CH2Cl2
HOBt, DIPEA, EDCI
toluene
39 %
140 oC r.t r.t 85 oC
0 oC r.t 80 oC
r.t 110 oC
Pd/C, H2 (0.3 MPa)
NH N
O H2N
11
BocHN Br
NH N
O NH
12c AcHN
quant.
50 oC
5 h 3.5 h 1.5 h 4.5 h
28 h 18.5 h 5 h
1 h 6 h 26 h
Bpin B O O
AcOEt
CH2Cl2
NH N
O NH
12a BocHN
n-BuLi
- 78 oTHFC to 0 oC
33 %
HCl 1,4-dioxane
2.5 hr.t.
5 h 42 %
quant.
6 hr.t.
PMBHN CN Br 2 neat
Br N
O BocHN H2N
8
NH N
O NH
12b H2N
CH3COOH HOBt, DIPEA, EDCI
11 N
H N
O NH
13 BocHN
NBoc
NH N
O NH
14 H2N
NH N
N NBoc
NHBoc DIPEA
65 DMFoC 10.5 h 29 %
1,4-dioxaneHCl 0 oC
2 h
• H2O
TFA
①化合物
7
の合成(Scheme 2-3-3)
Scheme 2-3-3.
化合物4
の合成化合物
1
を出発原料とし、フッ素原子に対する求核置換反応により4-
メトキシベンジル アミノ基を導入した後、DDQ
を用いてPMB
基を除去することで化合物3
を得た。続いてNIS
を用いてアミノ基のオルト位をヨウ素化し、ニトリル基をボランにより還元すること で化合物5
を得た。化合物5
とイソバレルアルデヒドを還元的アミノ化で反応させた後、N-Boc-
L-
ロイシンと縮合することで化合物7
を得た。Br NH I
H2N
Br N
O BocHN I H2N
I
H2N CN
Br
I
H2N Br
NH2 BH3
O
HO O
NHBoc NaBH(OAc)3
H2N CN Br
NIS F
CN Br
NH2
O DDQ
91 % 85 % 83% 69 %
1 3 4 5
6 7
59 % 82 %
CH2Cl2 / H2O = 2 / 1 AcOH THF
CH2Cl2 / AcOH = 9 / 1 CH2Cl2
HOBt, DIPEA, EDCI
140 oC r.t r.t 85 oC
0 oC r.t
5 h 3.5 h 1.5 h 4.5 h
28 h 18.5 h
PMBHN CN Br 2 neat
• H2O
31
また化合物
6
から化合物7
への反応においてアニリンとアルキルアミンの二つの反応点 が存在するため、化合物4
をdiBoc
化したスキームを構築し、化合物6
を用いた縮合がア ルキルアミンで起こり、正しく化合物7
が合成できているかを評価した(Scheme 2-3-4)
。 即ち、化合物4
をdiBoc
化した化合物15
を用いてScheme 2-2-3
と同様の反応を行い、化 合物18
を得た。化合物18
の三つのBoc
基を除去した後、選択的にアルキルアミンをmonoBoc
化した化合物が化合物7
と同一であることを確認した。なお実際の合成スキームは収率と手間を考慮し、
diBoc
化しないスキーム(Scheme 2-3-3)
を採用した。Scheme 2-3-4.
化合物7
の構造の確認I H2N
CN Br 4
(Boc)2O DMAP, DIPEA
THF 89 %
I (Boc)2N
CN Br 15
BH3
55 % THF
I
(Boc)2N Br 16
NH2 O NaBH(OAc)3
76 % CH2Cl2 / AcOH = 9 / 1
Br NH I
(Boc)2N 17
HO O
NHBoc
71 % CH2Cl2 HOBt, DIPEA, EDCI
Br N
O BocHN I (Boc)2N
18 100 oC
r.t 0 oC
r.t
15 h 3 h 16 h
3 h
•H2O
CH2Cl2 24 %
(Boc)2O THF quant.
Br N
O BocHN I H2N
7
r.t
0 oC
1 h
3.5 h
Br N
O H2N I H2N
19 TFA
②化合物
11
の合成(Scheme 2-3-5)
Scheme 2-3-5.
化合物11
の合成化合物
7
からSuzuki
カップリングを用いてイソクロチル基の導入を行い、TFA
を用い てBoc
基を除去することで化合物9
を得た。化合物9
で分子内Buchwald-Hartwig
クロス カップリングを行うことで7
員環を構築し、ベンゾジアゼピン骨格を有する化合物10
を得 た。さらに中圧条件下(0.3 MPa)
で接触還元することで、二重結合を還元した化合物11
を得た。Br N
O BocHN I
H2N
NH N
O H2N
Pd2(dba)3•CHCl3 (R)-BINAP, Cs2CO3 Br
N O H2N H2N
7 9
10
Bpin, Pd(dppf)Cl2, K3PO4 DMF
64 % 98 %
CH2Cl2 toluene
39 %
80 oC r.t 110 oC
Pd/C, H2 (0.3 MPa)
NH N
O H2N
quant. 11 50 oC
5 h 1 h 6 h
26 h Bpin
B O O
AcOEt
Br N
O BocHN H2N
8
TFA
33
③
charge clamp
側鎖の導入(Scheme 2-3-6)
Scheme 2-3-6. charge clamp
側鎖の導入化合物
11
の8
位アミノ基にcharge clamp
として置換基導入を検討した。化合物11
にn-
ブチルリチウムを用いてS
N2
反応により化合物12a
を得た後、塩酸を用いてBoc
基を除 去し化合物12b
を得た。さらに化合物12b
を酢酸と縮合することにより化合物12c
を得 た。また化合物11
に対してBoc
基で保護されたピラゾール試薬を用いて化合物13
を得た 後、Boc
基を除去することにより化合物14
を得た。NH N
O H2N
11
BocHN Br
NH N
O NH
12c CH2Cl2 AcHN
NH N
O NH
12a BocHN
n-BuLi
- 78 oTHFC to 0 oC
33 %
HCl 1,4-dioxane
2.5 hr.t.
5 h 42 %
quant.
r.t.6 h
NH N
O NH
12b H2N
CH3COOH HOBt, DIPEA, EDCI
11 N
H N
O NH
13 BocHN
NBoc
NH N
O NH
14 H2N
NH N
N NBoc NHBoc DIPEA
65 DMFoC 10.5 h 29 %
HCl 1,4-dioxane
0 oC 2 h
2-3-5. TR-FRET
ア ッ セ イ に よ る 活 性 評 価得られた
LXXLL
ペプチド等価体のVDR
―コアクチベーター相互作用阻害活性を評価す る た め 、 非 細 胞 系 の ア ッ セ イ 法 と し て 時 間 分 解 蛍 光 共 鳴 エ ネ ル ギ ー 移 動 ア ッ セ イ(TR-FRET assay: time-resolved fluorescence resonance energy transfer assay)
を採用し た。以下にTR-FRET
アッセイの原理を示す(Figure 2-3-8)
。Figure 2-3-8. TR-FRET
アッセイの原理基本的に
TR-FRET
アッセイの原理は通常のFRET
アッセイと同じである。本実験系で は、ドナーとなる蛍光団をつけた抗GST
抗体を用いてGST
タグが発現したVDR
を標識す る。またコアクチベーター由来のLXXLL
ペプチドフラグメントをアクセプターとなる蛍光 団を用いて標識する。VDR
とLXXLL
ペプチドフラグメントが相互作用し、ドナーとアク セプターの蛍光団が近接した場合にのみFRET
が起こる。即ち、340 nm
の励起光により ドナーが励起状態になり、近接したドナーとアクセプター間で共鳴によるエネルギー移動 が起こる。その結果、アクセプターが励起状態になり、アクセプターが基底状態に戻る際に
520 nm
の蛍光が検出される。本アッセイでは520 nm
の蛍光を定量することにより、化合物による
VDR-LDB
とLXXLL
ペプチドフラグメントの相互作用阻害活性を評価した。なお
TR-FRET
アッセイとFRET
アッセイの違いは、TR-FRET
アッセイのドナーに励agonist
340+nm 520+nm
LXXLL+pep3de+mimic+ligand
Fluorescein:+
TRAP220/DRIP:2+pep3de+
FRET
VDR:
GSTLBD+
Tb Tb:an3:GST+an3body
GST+tag
H12
LXXLL GST Tb
LXXLL GST Tb
LXXLL GST
Tb LXXLL
VDR:LBD+
VDR:LBD+
VDR:LBD+