CLK̲HIGH
4.3 波高測定に対する性能評価
4.3.4 MPPC を接続した際の S/N 比
VME-EASIROCにMPPCを接続した際のSignal-to-Noise ratio (S/N比)について 測定した結果について述べる。テストには図4.3の回路を用いた。
第4章 VME-EASIROC単体での性能評価 88 測定に用いたMPPCはピクセル数が100ピクセルのS10362-11-100Cと400ピクセル のS10362-11-050Cである。それぞれのMPPCの仕様を表4.2に示す。これらのMPPC はMPPC基板 (図2.2)で使用しているMPPC (表2.1)と同じシリーズである。これら の違いはパッケージ、保存温度範囲、オペレーション温度範囲のみであり、それ以外の基 本特性は同じである。
表4.2 S10362-11-100CとS10362-11-050Cの仕様。
S10362-11-100C S10362-11-050C 有効受光面サイズ 1 mm×1 mm
ピクセル数 100 400
ピクセルサイズ 100 µm×100 µm 50 µm×50 µm
開口率 78.5% 61.5%
動作範囲電圧 70±10 V
増倍率 2.4×106 7.5×105
パッケージ セラミック
これらのMPPCに対してSlowShaperの時定数が50 nsと175 nsの場合、PreAmp のゲインが75と37.5の場合のそれぞれの組み合わせについて測定を行った。その結果の ADCスペクトルを図4.8から図4.15に示す。
また、これらの結果について先に定義した方法に基づいて S/N 比を計算した結果を 表4.3 に示す。直接ファンクションジェネレータからの電荷を注入した場合と同様に、
Shaping timeが長い場合の方がS/N比が悪化する傾向にある。Shaping timeを175 ns から50 nsに変化させた場合、直接電荷を注入した場合はS/N 比が約10%に悪化する が、MPPCを取り付けた場合は約30%に悪化した。これは、ファンクションジェネレー ターからの電荷注入とMPPCからの電荷注入での周波数成分の相違によるものである。
また、PreAmpゲインが高い場合の方がS/N比が良い。これは、PreAmpゲインが高く なることによってペデスタルピークの中心値と1 p.e.ピークの中心値との間隔が広くな るためである。PreAmpゲインは37.5からその2倍の 75に変化しているが、S/N比の 変化は2倍以下である。その1つの要因として、図4.4に示すようにPreAmpゲインの 高い領域ではPreAmpゲインが飽和しているとこが挙げられる。さらに、信号のみなら ず外来ノイズまでもPreAmpが増幅してしまい、ペデスタルのピークの幅が広がる効果 も要因として挙げられる。特に400ピクセルMPPC、Shaping time 175 nsの環境では 最も外来ノイズが大きかったために、この影響を受けてしまい、逆にPreAmpゲインが 低い場合の方がS/N比が良いという結果になった。
いずれの環境でもS/N 比は2.2以上であり、フォトンカウンティングを行うことがで
第4章 VME-EASIROC単体での性能評価 89 きる。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 1000 2000 3000 4000 5000
図4.8 100ピクセルのMPPCにLEDの 微少光を入射したときのADCスペクトル (Shaping time = 50 ns, Preamp gain = 75)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200
図4.9 100ピクセルのMPPCにLEDの 微少光を入射したときのADCスペクトル (Shaping time =175 ns, Preamp gain = 75)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000
図 4.10 100 ピクセルの MPPCに LED の微少光を入射したときのADCスペクト ル (Shaping time = 50 ns, Preamp gain
=37.5)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500
図4.11 100ピクセルの MPPC にLED の微少光を入射したときのADCスペクト ル(Shaping time =175 ns, Preamp gain
=37.5)。
4.3.5 クロストーク
本節ではADCのクロストークについて述べる。テストには図4.1の回路を用いた。
この回路の CH0 に対してテスト信号を入力し、CH1 をどこにもつながない状態 (図4.16)において、CH0 に注入する電荷の量を変えながらADCを取得した。その結果 を、横軸をCH0のピークの中心値とペデスタルの差、縦軸をCH1のピークの中心値とペ デスタルの差として図4.17に示す。この時、PreAmpのゲインは37.5、シェーピングタ
第4章 VME-EASIROC単体での性能評価 90
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 20 40 60 80 100 120 140
図 4.12 400 ピクセルの MPPCに LED の微少光を入射したときのADCスペクト ル (Shaping time = 50 ns, Preamp gain
=75)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 100 200 300 400 500 600
図4.13 400ピクセルの MPPC にLED の微少光を入射したときのADCスペクト ル(Shaping time =175 ns, Preamp gain
=75)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 20 40 60 80 100
図 4.14 400 ピクセルの MPPCに LED の微少光を入射したときのADCスペクト ル (Shaping time = 50 ns, Preamp gain
=37.5)。
ADC (channel)
600 700 800 900 1000 1100 1200
Counts
0 200 400 600 800 1000
図4.15 400ピクセルの MPPC にLED の微少光を入射したときのADCスペクト ル(Shaping time =175 ns, Preamp gain
=37.5)。
表4.3 MPPCを取り付けた場合のS/N比。
MPPCのピクセル数 PreAmpゲイン Shaping time (ns) S/N比
100 75 50 23.3±0.1
175 8.5±0.0
37.5 50 20.4±0.1
175 7.6±0.0
400 75 50 8.4±0.0
175 2.2±0.1
37.5 50 7.2±0.4
175 2.4±0.1
第4章 VME-EASIROC単体での性能評価 91 イムは50 nsであった。
横軸が 2000 ch よりも大きい領域については CH0 側が飽和しているので、横軸が
0 ch から2000 chまでの領域を用いてフィッティングを行った結果、クロストークは
0.43±0.02%という結果が得られた。
この結果が波高測定に与える結果について考える。仮に、あるファイバーで300 p.e.の 光電子を検出したとする。これはJ-PARC E40実験において低エネルギーの陽子がファ イバーに入射した場合に相当する。この時、隣のチャンネルで発生するクロストークは 1.2 p.e.程度である。これはMIP粒子通過による検出光電子数である20 p.e.と比較して 十分に小さく無視できる。よってクロストークによるPIDへの影響は無視できると考え られる。
CH0
VME-EASIROC MPPC input
CH1
CH63
Function Generator
Empty
{
図4.16 クロストーク測定回路。CH0に対してテスト電荷を入力し、その他のチャン ネルは未接続にする。
CH0 ADC - pedestal (ch)
0 500 1000 1500 2000 2500
CH1 ADC - pedestal (ch)
-12 -10 -8 -6 -4 -2 0
図4.17 信号を入力したチャンネルCH0と入力していないチャンネルCH1のADC の関係。CH0にテスト電荷を入力することによってCH1に逆極性のクロストークが 現れる。また、CH0のADCが大きい領域ではCH0のADCの飽和が見られる。
第4章 VME-EASIROC単体での性能評価 92