Red Data Book of Akita Prefecture 2016 Animals Ⅰ
陸産貝類
115 Red Data Book of Akita Prefecture 2016 [Animal Ⅰ]
秋田県の陸産貝類研究の始まりは、明治42年に山形の大滝五百太氏が発表した、「奥羽産陸上介類」(介類雑誌第3巻 第3号)だろうと思われる。氏は本県の東成瀬、男鹿、十二所などを採集して回り、17種を記録している。しかしその後、
我々の力不足のせいか、そのうちの4種は再採集できていない。
その後、昭和12年、黒田徳米博士・鳥羽源蔵氏共著の「Euhadra decorataとその諸型について」や、昭和15年発行の
「南秋田郡誌」などの発表がある。
昭和16年頃、田添健治氏という医師が、男鹿の陸貝を研究していたということを聞いたが、南方で戦死されたとのこ とで、研究結果は残されていない。
昭和18年には、西村正氏・渡部景一氏共著「男鹿半島貝類目録」が発表されている。
昭和22年、西村・渡部両氏の採集したミチノクマイマイが、吉良哲明氏によって新亜種として発表され、昭和24年に は黒田博士が「夢蛤」(謄写刷)に、ニシムラギセルと新称し、西村正氏採集のキセルガイを発表している。
昭和30年、雄勝郡高松岳より三好功一氏によって、新種ミヨシギセルが発見され、昭和54年湊宏博士によって正式に 記載されたが、模式産地が岩手県の国見温泉となっている。
その後、西村氏は「十和田の陸産貝類」「県内より知られた新貝類について」「秋田県陸産貝類目録」「秋田県陸産貝類 研究史」など、多くの研究文を発表した。
また、昭和36年、筆者が秋田駒ヶ岳で採集したものが波部忠重博士により「カワグチレンズガイ」と命名され、学会誌 に発表された。その後、筆者は「生物秋田」や「秋田自然史研究」などに数編の報文を発表し、平成12年「秋田県の陸産 貝類」と題して「秋田県環境と文化のむら」から、県内陸貝の大要をまとめた冊子を出版した。本県の陸産貝類の調査は 大変遅れているが、近年、各市町村で動植物調査がさかんに行われるようになり、いずれ県内の陸貝相も次第に明らか になってゆくものと思われる。
本県は、亜寒帯に近い温帯に位置している。また、いわゆる日本海側気侯帯に属しており、気温の日較差が年間で冬 に最も小さく、降水量の年変化が大きく、日照時間の年変化が極端に小さい日本海側気侯の特色をはっきり示している。
さらに、日本海を流れる海流の影響などから、本県の気侯は、海岸部と内陸部で降雪量、気温などに大きな違いがある。
一般に陸貝の生息に適した地域は、温暖多湿の土地、広葉樹林の多い場所などがあげられ、全県的にみて海岸部が内陸 部よりいくらか個体数が多いように考えられる。また、本県東部の内陸部の大部分を占める奥羽山系には、山地性の陸 貝が数種みられる。全般的にみて本県は、陸貝類にとって必ずしも良い生活環境とはいえないようである。
秋田県の陸産貝類の生息種数や個体数は他県にくらべてやや貧弱である。しかし、奥羽山系の一部の和賀山塊などで は、稀産種が数種確認されており、また県内一箇所でしか確認されていないハコダテヤマキサゴや、南限と考えられる エゾコギセルの生息なども確かめられている。これらは共に個体数が極めて少なく、生息地も県内では今のところ和賀 山塊に限られている。この山塊は山が深く、陸貝研究者の入ったことのない地域が大部分なので、今後の調査次第では、
新たな種が発見されるものと思われる。その他、ミヨシギセル、カワグチレンズガイ等本県に関係深く、秋田・岩手の両 県でしか記録されていない陸貝も生息している。
和賀山塊と共に今後の調査が特に必要とされる地域としては、十和田湖畔があげられる。この地域にはスカシベッコ
陸産貝類概説
116Red Data Book of Akita Prefecture 2016 [Animal Ⅰ]
ウ、ヒメコハクモドキなどの県内稀産種が生息しているが、観光地であるため、土地開発や施設の建設などにより、その 生存が危惧されている。また、スジキビなどの微小貝類の調査と、県北部の陸産貝類の分布状態の確認がいまだ進んで ない状態である。
また、本県で確認された特異な分布様式を示している種としては、本県北部から青森県にかけての日本海側にみられ るミチノクマイマイ、太平山のヤママメタニシ、秋田市千秋公園周辺のナミコギセルなどがあげられる。
陸産貝類はその行動半径(移動性)が狭いため、山地や里ごとに種が違うなど、特殊な分布を示すものが多い。また、
乾燥に弱く、森林の開発などによる林床の変化により、絶滅することが考えられる種もある。そのため、樹木の伐採や 林の下草刈り等は、陸貝の生息に影響のないように、十分配慮した計画のもとに実施されるべきものと考えられる。
本書では、県内で絶滅のおそれのある陸産貝類を守るための第一歩として、ここに数種を挙げたが、これらの種を保 護することだけでいいのではなく、これを足がかりとして自然界全体の保全を図ってゆかなければならないと思われる。
陸貝は特に、自然環境の変化や人間のもたらす影響に大きく左右されるので、今日まで、ある種は絶滅の危機にさらさ れ、また、既にその確認が困難になった種もいくつか数えられるようになった。
我々の身の回りにも、いまだ正確な情報を得ることができず放置されている種が、相当数あることが予測される。こ れら未記録種の分布状態を把握することと、地域生態系の確認調査を早急に行う必要があるものと考えられる。
現生の生態系を保つために、民間と自治体などが協力しあって、調査研究を進めてゆくことが望ましいと思われる。
(川口洋治)
117 Red Data Book of Akita Prefecture 2016 [Animal Ⅰ]
掲載種解説
アマオブネ型目ヤマキサゴ科 秋田県2016:
秋田県2002:
環境省2014:
絶滅危惧