第4章 考察=
第1節 IQとメタ認知の関係
本研究においては、IQとメタ認知の実行機能の間には、中程度の正の相関 がみられた。このことは、知的障害者のメタ認知の発達は、精神年齢の発達に ある程度依存するという佐藤(1984)の研究結果を支持するものであった。し かし、①IQと実行機能の間には、中程度の正の相関はあるものの、相関係数 は、それほど高いものではなかった。さらに、②メタ認知的知識との間には、
相関がなかった。この2点から、知的障害者のメタ認知の発達は、単に精神年 齢の発達に依存するのではなく、今までの経験、学習の習得度、個人の気質な ど様々な影響を受けることが示唆される。つまり、知的障害者のメタ認知の発 達の質には、かなりの個人差があるという松村・倉本(1980)の研究結果も、
同時に支持されたものと考える。
学習内容の理解や課題解決のためには、メタ認知の発達が必要である(Brown,
1977;1978)。したがって、メタ認知の発達が、精神年齢のみに依存するので あれば、知的障害者の学習困難を克服するのは極めて難しいことになる。しか し、本研究の結果に基づくと、メタ認知の発達は、IQのみに依存するのでは なく、経験や学習及び教示など様々な影響によって、発達が促されると考えら れた。さらに、知的障害者のメタ認知の発達の質に、かなりの個人差があると すれば、様々な経験や学習を通して、知的障害者のメタ認知の獲得状況に応じ た指導をすることによって、メタ認知の発達が更に促進されることが示唆され る。ひいては、メタ認知の発達の促進によって、知的障害者の学習困難の克服 が比較的容易になることも期待できるであろう。
第2節 自己教示がメタ認知に与える影響 1 自己教示がメタ認知的知識に与える影響
本研究では、知的障害者に対して、課題解決を行うに必要な学習行動を生起 する自己教示による指導を行った。その結果、メタ認知的知識に関しては、実 験群、統制群ともに、指導後のメタ認知的知識の得点が、指導前の得点よりも 有意に高くなった。すなわち、実験群のみに特有で、顕著な変化というものは みら.れなかった。このことは、知的障害者のメタ認知的知識は、いかなる学習 によっても高まることを示唆している。これは、Brown and Campione(1977)
の、知的障害者のメタ認知的知識は、加齢、経験などにより、獲得が促される という指摘のとおり、自己教示に限らず様々な活動や学習によって、メタ認知 的知識が高まった結果であると考える。つまり、自己教示は、知的障害者のメ タ認知的知識の高まりを促進するものの、その効果は、他の経験や学習に比較 して、著しく大きいというものではないといえる。しかし、このことは見方を 変えれば、知的障害者のメタ認知的知識は、加齢、経験、教示、その他の日頃 学校で行われるあらゆる活動によって、獲得が促されることでもある。したが って、知的障害者のメタ認知を高めるためには、一つの指導内容や技法にとら われることなく、知的障害者一人ひとりの学習特性に応じた指導をすることが 重要であるといえる。知的障害者の自己理解や課題及び解決方法に関する知識 が、学校で行われるあらゆる活動によって促される可能性があるとすれば、養 護学校における教育は、今よりもっと多様な工夫がなされてもよいと考える。
2 自己教示が実行機能に与える影響
(1)自己教示指導プログラムの全般を通して
的障害者の様々な学習指導を行ったBorkowski and Vamhagen(1984)、Burger,
Blackman, and Clark(1981)、佐藤(1987)、田中(1992a)などの研究結果 を支持するものであった。
自己教示には、コントロール、プランニングなどの実行機能のシステムの要 素と共通する部分が多い。そのため、実行機能の活性化を極めて促しやすい(
Me ichenbaum,1990)。すなわち、実行機能のシステムを具現化したものが自己 教示であると考えられる。本研究の結果は、自己教示のシステムが、実行機能 のシステムの要素と共通するというMe ichenbaum(1990)の考えを裏づけるも のといえる。さらに、自己教示は、モデリング、オバート・リハーサル、コバ ート・リハーサルの一連の系列の中で、学習者が自分の行動をプランニングし たり、モニタリングしたりすることが可能になるように指導するものである(
Me ichenbaum and Goodman,1971)。学習者は、自己教示指導プログラムを経る ことにより、認知に必要な手立てを選び、実行して、評価するようになる。そ の結果として、学習者は、自身を認知方略の管理者にすることが可能になると いうBorkowski and Varnhagen(1984)の考えを支持するものが、本研究にお いても得られたものと考える。
今回の指導の中で、対象者は、時刻と時間の計算:をするために、まず①この 問題は何を求めなければならないのかを考え、②もとになる時刻は、何時何分 であるかという情報を探索した。さらに、③解決方略を選択、決定した上で実 行し、④計算の経過、結果が正しかったかどうかを評価するといったプランニ ング、モニタリングなどの実行機能のシステムをたどっていったことが予想さ れる。その際、誤りに気づいた場合には、 「待て、聴け、観ろ、もう一度考え ろ」というコントロールのシステムによって、軌道修正を行っていたと考えら れる(Palkes, Stewart, and Kahana,1968)。指導申の対象者の発言の中でも、
「この計算方法で正しいはずだ」 「ちょっと待てよ」 「ここが間違っているん
だ」などの内容が増えていったことは、このことを裏づけている。
宮本・林・金子(1996)は、メタ認知とは、ある事象について、自分はどれ だけ分かっているのか、分からないとしたら何が足りないのか、それをどうや って補えば良いのかを知ることであると述べている。さらに、Meichenbaum(
1990)は、メタ認知には、 「気づく」 「捉える」 「申断ずる」 「観察する」 「 評価する」 「援助する」といった様々な機能がある。そして、自己教示とは、
学習者自身が、メタ認知を用いた自己調整活動を行うことに気づき、それを強 化するものであると述べている。本実験の結果及び上記の宮本ら(1996)、
Meichenbaum(1990)の指摘などをまとめると、メタ認知を重視しながら知的 障害者の学習効果を高めようとする場合、最も重要なのは単に知識・情報量を 増やすことのみでなく、自分のメタ認知、特に実行機能に気づく能力を高める ことにあるといえる。この意味で、学校における実際の授業においては、問題 解決に当たって、解決のための仮の手立てをもち(プランニング)、自分で取
り組みながら状況を把握し(モニタリング)、必要に応じて修正を行う(コン トロール)ような能力を高める指導を、一層重視する必要があると考える。
② コバート・リハーサルについて
本研究では、実験群の実行機能の得点が、コバート・リハーサル段階で有意 に高まるという結果が得られた。この結果は、モデリングや外的教示に内的教 示を加えることによって、最も有効な効果をもたらすという鵜沢(1984)の研 究結果を支持するものとなった。
本来、言語には、意思を伝達する機能以外にも、思考機能、行動調整のコン トロール機能などの様々な機能が付与されている。自己教示においては、これ
が行われるものである(Me ichenbaum,1977)。
自己教示についても、モデリングの段階では、直接言語によるコントロール 機能が作用することはないが、リハーサルの段階では、言語活動が直接的に個 体に作用し、実際の活動を誘導するようになる。また、ある程度コントロール 機能が作用し始めている個体の場合には、群言(オバート)を用いることによ って、耳からの音声刺激が邪魔をして、逆に行為遂行の干渉作用(邪魔)が生 じることがある。しかし、コバート・リハーサルの段階では、音声刺激となる 外言を用いないので、この干渉作用が生じることもない。その結果、内言(コ バート)による誘導によって、滞りなく行動のモニタリングやコントロールが 促進されたと考える。
また、本研究で得られたコバート・リハーサルが有効であったという結果に ついては、モデリングやオバート・リハーサルにコバート・リハーサルを加え ることによって、最も有効な効果をもたらすという鵜沢(1984)の指摘と相反 するものではない。つまり、本研究で得られた結果は、モデリング及びオバー ト・リハーサルが不必要であるという結論を導くものではない。今後は、コバ ート・リハーサルの期間を長めにするなど、内言による誘導の効果を巖大限に 生かした指導プログラムの工夫が必要である。
(3)オバート・リハーサルについて
本研究では、実験群の実行機能の得点の変化が、オバート・リハーサル段階 で鈍くなるという結果を得た。これは、コバート・リハーサルのところで述べ た、外陣を用いることによる行為遂行の干渉作用(邪魔)が生じたためである とも考えられる。しかし、本研究においては、佐藤(1998)の提唱する学習方 略の有効性・コストの認知及び好みが、学習方略の使用に影響を及ぼしたこと が大きいと思われる。すなわち、以下に述べるような理由で、オバート・リハ ーサルが、今回対象者とした知的障害者には好まれなかったことが主な要因と