第 4 章 Hopf 代数のツイストによる量子化(相空間) 33
4.3 Hopf 代数による弦の量子化 (Hamiltonian 形式 )
4.2.2節にて古典的なHopf代数Hph及びHph-module代数Aphが導入された.ここでは古典的 なHopf代数Hphをねじる事によってHamiltonian形式でも弦の量子化が行えることを見る.そ
してHamiltonian形式の経路積分量子化での正規順序積についても議論する.
4.3.1 Hopf代数によるWick縮約(Hamiltonian形式)
まずは3.2.1節と同様に,経路積分量子化でのWick縮約の操作をHopf代数にて構成する.再
び発見的に次の2つの写像を考える.
Nph−1.:Aph→ Aph, Nph−1 =exp 1 2
¨
d2zid2zj
δ
δuE(zi)·GE(zij) δ δuE(zj)
O[uE]
GE(zij) = 1 2π
−4πα1 0(Bg−1B−g)∂σi∂σj −12(∂τi−iBg−1∂σi)
−12(∂τj+ig−1B∂σj) −πα0g−1
ln|zij|2
τ :Aph→C, τ(I[PE, X]) =I[PE, X]
uE=0
ここで,Green関数GEはPE, Xに依存しないため特にNph−1 ∈U(C)である.τはHph-module 代数Aph の中に入っている場PE, Xを共に0に置く写像である.この2つの写像の合成写像に よって,経路積分期待値(4.3)を再現することができる.すなわち,
τ ◦ Nph−1.:Aph→C
hI[PE, X]i0 =τ ◦ Nph−1. I[PE, X] (4.14) である.このやり方はただ単に経路積分のWick縮約を取る操作をHopf代数で読み替えたに過ぎ ないので,以後この(4.14)を経路積分V.E.V.と呼ぶ.経路積分量子化ではそのままWick縮約を 取ると自己縮約による発散が生じるため,その発散を取り除くべく経路積分に挿入されている頂 点演算子は正規順序化されていると考えている.したがって経路積分の書き換えである(4.14)で も同じ発散が生じるため,(4.14)の表式をwell-definedにするためには,頂点演算子に対して正規 順序化を行う必要がある.この正規順序化をHopf代数で書けば,自己縮約から来る発散項を取り 除けばよいので,
:F[PE, X] : (z) =Nph. F[PE, X](z)
とすればよい.この正規順序化のためのNphと,Wick縮約のためのNph−1はHopf代数Hphと して逆元になっているので,例えば1つの局所演算子の経路積分V.E.V.は
h:F[PE, X] : (z)i0 =τ◦ Nph−1.(Nph. F[PE, X](z))
=τ(F[PE, X](z))
となる.これはF[PE, X]が定数項を持たない限り0となる.2つの局所演算子の積の経路積分 V.E.V.に対しては
h:F[PE, X] : (z1) :G[PE, X] : (z2)i0=τ ◦ Nph−1. m h
(Nph⊗ N).(F[PE, X]⊗G[PE, X]) i
=τ ◦mh
∆(Nph−1)(Nph⊗ Nph).(F[PE, X]⊗G[PE, X])i (4.15)
となる.ここで,∆(Nph−1)(Nph ⊗ Nph)の部分の作用について考えると,今のGreen関数が G>E(zji) =GE(zij)でありGE がPE, Xに依存しないため,3.2.1節での議論が同様に成り立つ.1 従って,
∆(Nph−1)(Nph⊗ Nph) =exp¨
d2zid2zj δ
δuE(zi) ·GE(zij)⊗ δ δuE(zj)
(4.16)
と書ける.(4.16)の作用ははテンソル積にまたがった部分のみWick縮約を取り,自己縮約は取ら ない事に相当する.ここからツイスト要素Fphを
Fph:=exp
−
¨
d2zid2zj
δ
δuE(zi) ·GE(zij)⊗ δ δuE(zj)
∈ Hph⊗ Hph (4.17)
と定義する.以上のことから正規順序化された2つの局所演算子の積の経路積分V.E.V.は,
h:F[PE, X] : (z1) :G[PE, X] : (z2)i0 =τ ◦m h
Fph−1.(F[PE, X]⊗G[PE, X])
i (4.18) と書ける.
4.3.2 量子化をHopf代数のツイストと捉える(Hamiltonian形式)
4.3.1節での議論から,2点相関関数のV.E.V.はHopf代数ではツイスト要素Fphを用いて書く ことができることが分かった.ここでは3.2.2節での議論と同様に,Hopf代数によるツイスト量 子化を推し進める.まずはツイスト要素Fphにより古典的な代数のセット(Hph,Aph)がツイスト された代数のセット(HphFph,AphFph)に変わることを見ていく.
ツイスト量子化のセットアップは
• Hph =U(Xph)を汎関数ベクトル場のHopf代数とする.
• Aph を古典的な汎関数の代数とする.(Aphにはm積のHph-module代数の構造が入って いる.)
• ツイスト要素Fphとしては2-cocycle conditionを満たすものを用いる.
いま用いている(4.17)のツイスト要素FphはGreen関数GEにPE, X依存性が無いため,Fと同 様に2-cocycle conditionを満たす.
ツイスト要素Fphが与えられると,ツイストされたHopf代数HphFphを作ることができる.
1計算の詳細は付録Iに示した.
ツイストされたHopf代数
ツイストされたHopf代数の元はHopf代数と変わらず HphFph =U(Xph)
であり,この上に演算µ, ι,∆F, , SFが定義されている.µ, ι, はHopf代数の時と変わらない が,∆Fph, SFphについてはツイストされており
∆Fph(h) =Fph∆(h)Fph−1
SFph(h) =U S(h)U−1 , U =µ(id⊗S)Fph ただし,h∈ HphFph =U(Xph)
とする.
Hopf代数がツイストされることに合わせて,Hph-module代数Aphの方もツイストされHphFph-module 代数AphFph になる.AphFph の元はAph と変わらないが,その上での積はツイストされmFph に変 わる.
mFph(F⊗G) :=m◦ Fph−1.(F ⊗G) :=F∗FphG
このmFphは結合則を保つ.Hopf代数がツイストされると同時に,module代数も積をmFphにツイ ストすることで共変性が保たれる.また,いま用いているツイスト要素(4.17)はG>(z12) =G(z21) であるため,mFph は可換積F ∗FphG=G∗FphF である.
このHphFph-module代数AphFphの元に対してのV.E.V.の取り方を以下のように定義する.
I[PE, X]∈ AphFph
V.E.V. : τ(I[PE, X]) (4.19)
τ :AphFph −→C
I[PE, X]7−→τ(I[PE, X]) =I[PE, X]
uE=0
AphFph の元同士の積のV.E.V.については,AphFph上の積が∗Fph であることに注意し,
V.E.V. : τ(F∗FphG) (4.20)
F, G∈ AphFph となる.このV.E.V.の求め方は
τ(F ∗FphG) =τ ◦mh
Fph−1.(F⊗G)i
であるので,経路積分V.E.V.の取り方(4.18)と一致している.2-cocycle conditionが結合則を保 証しているので,n個のAphFph の元の積も同様に
V.E.V. :τ(F1∗FphF2∗Fph· · · ∗FphFn)
と定義することができる.このV.E.V.もやはり経路積分V.E.V.と一致する.以上のことから,
(4.17)のツイスト要素Fphを用いたHamiltonian形式のツイスト量子化はHamiltonian形式の経 路積分量子化と同じV.E.V.を与える.
3.2.2節で述べたことの一部繰り返しになるが,ツイスト量子化では,古典的な代数(Hph,Aph) が与えられていて,更にツイスト要素Fphが与えられれば量子的な代数(HFphph,AphFph)が決まり
V.E.V.が定まる.これはツイスト要素Fphが量子化全体を支配していることを意味する.した
がって,世界面のトポロジーが変わるような場合や,標的空間の計量が変化するような場合は,そ れに合わせて量子化を支配するツイスト要素Fphを変える必要がある.対称性とツイスト要素Fph の関係性については,これから4.4節にて述べていく.