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第 5 章 英国の EU 離脱とロンドンの国際的地位

GFCI 20 GFCI 19

ランク 評点 ランク 評点

ロンドン 1 795 1 800

ニューヨーク 2 794 2 792

シンガポール 3 752 3 755

香港 4 748 4 753

東京 5 734 5 728

サンフランシスコ 6 720 8 711

ボストン 7 719 9 709

シカゴ 8 718 11 706

チューリッヒ 9 716 6 714

ワシントン 10 713 7 712

注)既述のように、GFCI 20とは20169月に発表された結果であり、GFCI 19とは、その前年であ 20159月に発表された結果である。なお、同調査は、毎年、発表されている。

図-1 5 大国際金融センターの評点推移

注)GFCI 1とは、1997年に発表された結果である。

この図から読み取れるように、ロンドン・ニューヨークは高位で安定している。その他 については評点が上昇していることから、国際金融センターは集中する傾向にあるといえ る。

図-2 欧州内 5 大国際金融センターのランキング推移

また、欧州内の国際金融センターについて各評点の推移をみたものが図-2 である。こ れによれば、やはりロンドンは高位で安定しているものの、チューリッヒ、ルクセンブル グなど次第に評点が上昇している点を読み取ることができる。欧州域内でも国際金融セン ターの集中がみられるといえる。

なお、この評点の基になった要素は次の通りである。例えば、「ビジネス環境」という要 素は、さらに「政治的安定と法の支配」~「税とコスト競争力」という副次的要素から構 成される。

表-2 GFCI の構成要素

ビジネス環境 金融部門発達度 インフラ 人材 名声 政治的安定と法の

支配

金 融 取 引 の 量 と 速度

建 物 及 び オ フ ィ ス・インフラ

熟 練 労 働 力 の 利 用可能性

都市のブランド

制度的及び規制環 境

資 本 の 利 用 可 能 性

輸送インフラ 教育と開発 イノベーションの 水準

マクロ経済環境 産 業 ク ラ ス タ ー の深みと広さ

ICTインフラ 柔 軟 な 労 働 市 場 と慣行

文化的多様性の魅 力

税とコスト競争力 雇 用 と 経 済 的 ア ウトプット

環 境 に 対 す る 配 慮及び持続性

ク オ リ テ ィ ・ オ ブ・ライフ

他の金融瀬インタ ーとの対比

また、それぞれの要素について、各都市間で比較したものが表-3である。

表-3 GFCI 各要素のランキング

ランク ビジネス環境 金融部門発達度 インフラ 人材 名声

1 London London London New York London

2 New York New York New York London New York 3 Singapore Singapore Hong Kong Hong Kong Singapore 4 Hong Kong Hong Kong Singapore Singapore Hong Kong

5 Tokyo Boston Tokyo Tokyo Chicago

6 Chicago Tokyo S. Francisco Los Angels Boston 7 Los Angels S. Francisco Boston Chicago S. Francisco 8 Toronto Chicago Washington S. Francisco Washington

9 Zurich Washington Shanghai Boston Los Angels 10 Sydney Zurich Sydney Washington Sydney 出所)表-1~表-3、及び図-1~図-2の出所は次の通り。

http://www.longfinance.net/global-financial-centres-index-20/1037-gfci-20.html

なお、本調査には回答者のコメントも記載されているが、それには次のようなものがあ る。

・英国の EU 離脱を深刻に考えている。ロンドンの機能には移転可能な部分が多くある。

(在英の米保険会社)

・スコットランドの独立投票、総選挙、EU 離脱に関する国民投票など、銀行家にとって みるとイギリスでは不確実性が高すぎる。我々は確実性を重視する。シンガポールへ移 動したい。(在ロンドンのインベストメント・バンカー)

・たとえ英国がEU離脱を決めたとしても、顧客がある限り、リテイルバンクは英国に留 まらざるをえない。このため、英国からの「大規模な脱出(massive exodus)」は考えに くい。(在ロンドンのコマーシャル・バンカー)

・英国のEU離脱後、”New London”が形成される可能性は低い。おそらくチューリッヒ、

フランクフルト、ルクセンブルグ、ダブリンなどに分割されるであろう。(在チューリッ ヒの年金基金マネジャー)

これらがZ/Yen Groupによる調査に記載されているコメントである。なお、同様の調査 としては、しばしば新華社・ダウジョーンズによるランキングも引用される。表-4 は、

この調査による最新時点でのランキング結果である(注2)。

表-4 2010-2014 の期間における国際金融センターのランキング

出所)Xinhua-Dow Jones

(http://www.sh.xinhuanet.com/shstatics/zhuanti2014/zsbg/en.pdf#search=%27international+financia l+center+dowjones%27)

金融機関の対応

2017年1月23日ロイター記事は、英国のEU離脱と金融機関の対応について、次のよ うに紹介している。すなわち、- 昨年6月の英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利し て以来、グローバル銀行の多くは拠点をロンドンから国外に移す可能性をちらつかせてき た。メイ英首相がこのほどEU単一市場からも撤退すると明言し、銀行が域内で自由に活 動できる「パスポート」権維持の望みが絶たれたことで、銀行の青写真が具体性を増して きた。各グローバル銀行によるコメントや、報道された内容を以下にまとめた。

○英HSBCスチュアート・ガリバー最高経営責任者(CEO)は、英国でトレーディング収 入の約2割を生み出している従業員1,000前後を、パリに移すと述べた。

○英バークレイズ

ジェス・ステーリーCCEOは今月、EU離脱後も活動の大半を英国内に維持すると発言。

事業のやり方に変化があるとしても小幅にとどまるとの見通しを示した。

○スイスUBS

アレクセル・ウェーバー会長は今月、ロンドンの従業員5,000人中、約1,000人が離脱 の影響を受ける可能性があると述べた。

セルジオ・エルモッティCEOは、英国を拠点にEU全域で活動するのが難しくなれば、

UBSはある程度柔軟に動ける余地があると述べた。富裕層の資産運用事業(ウェルスマ ネジメント)で世界最大の UBS はまた、英国民投票で離脱が決まった後、欧州の同事 業を統括する銀行をフランクフルトに設立した。

○クレディ・スイス

ティージャン・ティアムCEOは9月、英国のEU離脱によって影響を受ける事業活動 は15-20%程度に留まるため、比較的うまく対処できるだろうと述べた。

○英ロイズ・バンキング・グループ

ロイズは英国最大の住宅ローン金融機関で、英大手リテール行として唯一、EU 域内の 他国に子会社を持っていない。しかし関係筋がロイターに語ったところでは、EU 離脱 を見据えてフランクフルトでの子会社設立を検討している。

○米ゴールドマン・サックス

ドイツ紙によると、ゴールドマンはロンドンの人員を3,000人に半減させ、フランクフ ルトを中心とする欧州大陸拠点およびニューヨークに移すことを検討中。フランクフル トには最大1,000人を移す可能性がある。

○米モルガン・スタンレー

複数の関係筋がロイターに語ったところでは、モルガン・スタンレーは英国外に移す事 業を多数特定済み。セールスやトレーディング、リスク管理、コンプライアンスなどの 人員最大1,000人などを国外に移さざるを得なくなりそうだ。

○米シティグループ

複数の関係筋によると、シティも英国外に移す事業を割り出した。セールスやトレーデ ィング部門で100人を移す必要がありそうだ。

○米JPモルガン・チェース

ジェイミー・ダイモンCEOは6月、英国が単一市場へのアクセスを失うようなら、人 員16,000人中、4,000人を国外に移さざるを得なくなる可能性があると述べていた。

○米バンク・オブ・アメリカ

BOFAは8月、英国がEUを離脱すれば事業と業績に悪影響が及ぶとの見通しを示して いた。

以上、ロイター記事により、いくつかの金融機関の対応をみてきたが、要約すると多国 籍金融機関は、比較的大規模にロンドンからのシフトを検討しているが、一方、英系金融 機関は小幅な影響にとどまるとみているといえるであろう。