• 検索結果がありません。

第 6 章 難民とドイツの労働力不足

第 1 節 難民の大量流入

図表 1 ドイツにおける難民申請数の推移

出所:Aktuelle Zahlen zu Asyl, Dezember 2016、連邦移民難民庁

図表 2 上位 10 カ国の難民申請者数および認定者数 2016 年 1~12 月

出所:Asylgeschaeftsstatistik、連邦移民難民庁

745,545 476,649

202,834 127,023 77,651 53,347 48,589 33,033 28,018 30,303 30,100 42,908

50,152 67,848

91,471 118,306 117,648 138,319

143,429 151,700 149,193 166,951 127,210

322,599

438,191 256,112

193,063

0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 2016

2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990

うち庇護

シリア 268,866 266,250 2,616 295,040 166,520 756 121,562 910 98.0% 167 5,881 アフガニスタン 127,892 127,012 880 68,246 13,813 80 5,836 18,441 55.8% 24,817 5,339 イラク 97,162 96,116 1,046 68,562 36,801 247 10,912 439 70.2% 14,248 6,162

イラン 26,872 26,426 446 11,528 5,443 453 257 150 50.7% 3,806 1,872

エリトリア 19,103 18,854 249 22,160 16,666 109 3,652 119 92.2% 135 1,588

アルバニア 17,236 14,853 2,383 37,673 18 1 73 78 0.4% 30,020 7,484

不明 14,922 14,659 263 15,371 6,782 26 6,084 111 84.4% 1,189 1,205

パキスタン 15,528 14,484 1,044 12,935 275 10 49 105 3.3% 8,201 4,305

ナイジェリア 12,916 12,709 207 3,786 127 11 34 213 9.9% 1,787 1,625

ロシア連邦 12,234 10,985 1,249 12,799 357 21 127 177 5.2% 5,712 6,426

上位10カ国 612,731 602,348 10,383 548,100 246,802 1,714 148,586 20,743 75.9% 90,082 41,887 合 計 745,545 722,370 23,175 695,733 256,136 2,120 153,700 24,084 62.4% 173,846 87,967

難民申請 決定件数

合 計 難民認定

準難民認定 送還免除 割合(%) 却下

上位10カ国 合計 第1次申請 再申請 その他

図表3にEU主要国での難民申請者数を示した。人口比でみるとドイツより申請者が多 い国もあるが、総数で見るとEU全体での申請者数の3割以上をドイツが占めている。ま た難民認定の基準も国により違いがあるため、例えばハンガリーなどは認定数が少なくな っている。

図表 3 EU 主要国での難民申請者数

出所:EUROSTAT

なぜ、ドイツに難民が集中しているのだろうか。一つには難民受け入れの寛大な政策が 寄与している。ドイツはナチスの過去への反省から、憲法に当たる基本法に政治的亡命者 を受け入れる庇護権を規定、比較的緩やかに政治亡命者を受け入れてきた。この基本法第 16条の庇護権はドイツ統一後改正されたとはいえ、現在も残っており、また難民法により 難民の受け入れも実施されている。

大規模な難民あるいは外国人の流入を戦後のドイツは何度か経験している。第二次世界 大戦直後から、オーデル・ナイセ以東あるいはズデーテンなどから約1,200万人のドイツ 人が追放され、これらの人々を当時の4カ国によるドイツ被占領地域で受け入れたという 経験がある。また、1960年代の「経済の奇跡」の時代には、二国間で協定を結び、はじめ はイタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国から、ついでトルコ、ユーゴスラビアな どから、いわゆる外国人労働者を受け入れた。1973 年の第 1 次オイルショックによる不 況により、外国人労働者の募集は中止されたが、最盛期には250万人の外国人が就労して いた。

今回の寛容な難民の受け入れについては、メルケル首相の個人的な信条に理由を求める むきもある。牧師の娘という家庭的背景から来るキリスト教的人道主義、旧東ドイツとい

2014年

人数 人数 対前年比(%) 割合(%) 人口比(%)

EU28カ国合計 626,960 1,322,825 212.0 100.0 0.26

 デンマーク 11,080 20,315 183.3 1.5 0.35

 ドイツ 202,645 476,510 235.1 36.0 0.59

 フランス 64,310 76,165 118.4 5.8 0.11

 イタリア 64,625 83,540 129.3 6.3 0.14

 ハンガリー 42,775 177,135 414.1 13.4 1.80

 オーストリア 28,035 88,160 314.4 6.7 1.02

 オランダ 24,495 44,970 183.6 3.4 0.27

 フィンランド 3,620 32,345 893.5 2.4 0.59

 スウェーデン 81,180 162,450 200.1 12.3 1.67

 英国 37,785 40,160 106.3 3.0 0.06

2015年

う閉ざされた地域で経験した自由への憧れへの理解などから難民の受け入れに積極的であ ったといわれる。また、一般市民も多くのボランティアが難民受け入れに協力している。

難民側でも、受け入れ後の宿泊施設の手配、食事の供給、金銭的・物質的支援、語学教 育、職業教育など、条件に恵まれたドイツあるいは北欧諸国を目指す者が多かった。また、

経済が好調で、就職先がすぐ見つけられる期待もあったであろう。

一方、急激な大量の難民の流入は多くの問題を引き起こし、課題を発生させた。受け入 れ窓口担当者の不足、アラビア語などの通訳者の不足、一時収容施設の不足などもあった。

また、難民への不安、安全の懸念なども持ち上がり、難民受け入れに反対するものも少な くない。収容施設への放火なども頻発している。

「我々はできる( Wir schaffen das )」と積極的に難民を受け入れたメルケル首相も、急 激かつ大量の難民の流入で、反対運動が盛り上がり、支持率の低下に悩まされた。難民の 大量流入から1年、「できることなら、時計を戻したい( Wenn ich könnte, würde ich Zeit zurückdrehen )」と、なかば失敗とも取れる発言をした。

難民受け入れによりイスラム国家(IS)とみられるテロも発生するようになっている。

2016年7月にはドイツ南部で、ISに影響を受けたと見られるアフガニスタン出身の少年 が乗客を斧で襲うという事件が発生、ベルリンでは奪ったトラックでクリスマス・マーケ ットを襲うというテロも発生している。

反対意見に後押しされ、難民の受け入れには制限的な右派政党、「ドイツのための選択肢

(Alternative für Deutschland )」も支持率を伸ばし、欧州議会、州議会にも議席を確保 するようになった。また、政府与党内部でもキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党、キ リスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首は難民の受入数に上限を設ける案を主張 しており、両党間での主張の隔たりは解決されたわけではない。今年の秋に予定される総 選挙では、難民の受け入れ、テロ対策が争点の1つとなりそうである。