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Baseline 3 months Baseline 3 months
Baseline 3 months Baseline 3 months Baseline 3 months
4 考察
DECODE および舟形研究などの大規模疫学研究において、HbA1cではなく食後高血糖
が CVD 発生と密接に関連することが示されている[4,5,6]。加えて、STOP-NIDDM およ
びMeRIA7ではα-GIのアカルボースによる食後高血糖の抑制が、IGTおよび2型糖尿病
を有する対象者におけるCVD発生を顕著に低下させることを示した[128,157]。したがっ て、ミグリトールによる血糖振幅の低下は 2型糖尿病において CVD 発生を抑制する可能 性が考えられる。先行研究により、本研究と同じ集団である 43 人の 2 型糖尿病患者にお いて、α-GIを先行薬から後発薬のミグリトールへ切り替えると、末梢血白血球のIL-1βお
よび TNF-α といった炎症性サイトカインのmRNAレベルおよび血中 TNF-αタンパク質
レベルが減少することが明らかとなった[169]。本研究では、この先行研究と同じ集団のう ち35人の血清サンプルを用いMCP-1およびsE-selectin 濃度が薬剤の切り替えにより低 下することを明らかにした。MCP-1 は白血球の血管壁への浸潤を誘導し、sE-selectin は 白血球の血管内皮へのローリングを促進する[171,172]。本研究および先行研究の結果をま とめると、日本人 2 型糖尿病において α-GI をアカルボースあるいはボグリボースからミ グリトールへ切り替えは、血糖振幅および末梢血白血球の炎症性サイトカインの遺伝子発 現、血清中のMCP-1、sE-selectin、TNF-αを低下させることが示された。
α-GI のミグリトールへ切り替えは、血清中のsICAM-1および tPAI-1、FABP4濃度に は変化を与えなかったが、sVCAM-1 濃度を増大させた。sICAM-1 および sVCAM-1 は、
白血球が血管壁へローリングした後の血管壁への接着に関与する[173]。PAI-1は脂肪組織 より産生され、血液凝固を誘導することによって血栓を形成し、動脈硬化を促進する[174]。
FABP4 は、脂肪組織およびマクロファージで発現し、アテローム内へコレステロールを
蓄積させて動脈硬化を促進する[175]。これらのステップは白血球が血管壁へ接着した後に 起こる。したがってミグリトールを含むα-GIは、食後高血糖の抑制を介して血清のMCP-1
および sE-selectin タンパク質濃度を減少させることによりアテローム形成の初期段階を
抑制して CVD 発症進展を抑制していると考えられる。しかしながら、2 型糖尿病患者お よびIGT対象者、健常な対象者において、血糖振幅と血中のCVDリスク因子濃度の関連 は明らかとなっていない。したがって、横断研究やコホート研究などによりこれらを明ら かにする必要がある。さらにランダム化無作為試験(RCT)によるプラセボ-コントロール を対照群とし、2型糖尿病患者における血中CVDリスク因子濃度およびCVDの発生との 関連を調べるとともに、ミグリトールが他α-GIよりもCVDの発生を抑制するかを検証す る必要がある。
PAI-1およびFABP4はおもに脂肪組織で発現し、脂質代謝に関与する。したがって、α-GI
をアカルボースあるいはボグリボースからミグリトールへ切り替えることは、アテローム 形成リスクと関連した脂質代謝異常を抑制するのではないと考えられる。ドイツで行なわ れた RCT によると、脂質代謝(インスリン抵抗性)を改善する薬剤であるメトホルミン およびピオグリタゾンの単独療法あるいは併用療法は、インスリン療法を基礎治療として 受けている2型糖尿病患者の血中tPAI-1濃度を抑制した[156]。しかしながら、血中FABP4 濃度が改善するかどうかはいまだ不明である。これら薬剤とミグリトールの併用療法は、
血中のtPAI-1およびMCP-1、sE-selectin濃度を減少させることによりCVDの発症進展 を抑制する可能性がある。この仮説を証明するには介入試験をする必要がある。
先行研究では、アカルボースあるいはボグリボースからミグリトールへ薬剤を切り替え 3ヶ月後には低血糖症状や食間の血糖値の低下が抑制されることが観察された[169]。低血 糖は、その後のCVD発症と正の強い関連があると報告されている[176]。したがって、ミ グリトールへの薬剤の切り替えは、低血糖症状を低下させることによって CVD リスクを 低下させる可能性がある。しかしながら、本研究の低血糖症状の把握は被験者による自己
申告で行なわれた。自己申告による低血糖症状は、被験者から医療スタッフへ過少申告さ れている可能性があり、自己申告によるデータには限界がある。肥満の日本人を対象とし た試験において、アカルボース服用者と比較してミグリトール服用者では試験食摂取後 1 時間以内の血糖値は高く、1時間以上の血糖値は低かった[167]。加えて、アカルボースあ るいはボグリボースではなくミグリトールによる治療は、胃全摘術後の日本人女性におい て反応性低血糖を抑制した[177]。これらの結果をまとめると、ミグリトールによる投薬治 療は、他のα-GIと比較して低血糖リスクを低下させる可能性が考えられる。2型糖尿病患 者を対象とした大規模調査を行い、ミグリトールが他の α-GI と比較して低血糖誘導性の 倦怠感などの低血糖症状を抑制するかどうかを自己血糖測定(SMBG)によるモニタリン グにより明らかにする必要がある。さらに、低血糖の程度により血中MCP-1やsE-selectin タンパク質濃度の変動が誘導されるか、あるいはミグリトールによる低血糖抑制によって
血中 MCP-1 や sE-selectin 濃度が減少し、CVD 発生が低下するかどうかを、2 型糖尿病
患者を対象として明らかにする必要がある。
本研究では被験者の調査用診断基準により43人が選定され、このうち35人の血清サン プルを用いたが、8 人分は血清サンプルを採取することができなかった。先行研究では同 じ被験者を対象とし、α-GIをミグリトールへ切り替えることによって3ヶ月後の血糖振幅 が抑制された。本研究において欠損した8人分のデータが結果に少なからず影響を与えて いる可能性がある。
本研究の規模は比較的小さいことを述べなければならない。2 型糖尿病患者に単回の食 事負荷試験を行なうと、投与したミグリトールの容量(50、75、100、200 mg)に依存し、
食事摂取後の血糖値曲線下面積が減少する[178]。36 人の 2 型糖尿病患者を対象とした RCTにおいて、プラセボ群と比較してミグリトール投与群では食事摂取後の血糖レベルが おおよそ50 %ぐらいまで減少した[179]。15人の2型糖尿病患者を対象とした二重盲検の クロスオーバー試験では、8週間にわたるミグリトールの投与(300 mg/日)は効果的に食 事摂取後の血糖上昇を抑制した[180]。加えて、24 人の内蔵型肥満者へのミグリトール投 与は、アカルボース投与よりも血糖振幅および血中のIL-6濃度を減少させた[167]。43人 の 2 型糖尿病患者を対象にα-GI を先行薬アカルボースあるいはボグリボースからミグリ トールへ切り替えた先行研究では、末梢血白血球における IL-1β および TNF-α の遺伝子 発現量および血中 TNF-α タンパク質濃度の減少が観察された[169]。これらの結果より、
日本人 2 型糖尿病患者 35 人を対象とした本研究のサンプルサイズは、これらの研究と同 等であると考えられる。しかしながら、2 型糖尿病においてミグリトールが、他の α-GI よりも血糖振幅および血中CVDリスク因子を減少させるかどうかを大規模RCTで検証す る必要があると考えられる。
本研究では血糖振幅をSMBG で測定した。最近の研究より、SMBG で測定した血糖値 データは持続血糖測定器(CGM)の測定結果と必ずしも相関しないことが報告されており、
定を行なっている。食事習慣の差異をコントロールできるRCTにより、2型糖尿病患者を 対象とし長期にわたるCGMでの血糖測定データを用いて、アカルボースあるいはボグリ ボースよりもミグリトールが血糖振幅を抑制するかを検証する必要がある。
本研究は、2 型糖尿病患者を対象とした前向きかつ探索的研究であり、RCT ではない。
したがって、本研究には交絡要因およびバイアスが含まれる。血糖コントロールは季節に よって変化することが知られている。実際に日本においては、HbA1cは春に最も高く、秋 に向かって徐々に下がっていく[184]。食事や運動といった生活習慣は試験期間内に変動し ている可能性がある。試験期間内に主治医による摂取カロリー変更指示や示唆は行なわな かったが、被験者自らが変更した可能性がある。さらに、ミグリトールによる治療は被験 者の食欲を低下させた可能性がある。なぜなら、他の α-GI からミグリトールへ切り替え により低血糖症状および食間の血糖低下が抑制されたからである。しかしながら本研究で は α-GI をミグリトールへ切り替えても、血糖振幅は抑制されたが HbA1cレベルには変化 がみられなかった。食事習慣や運動習慣の変化はHbA1cレベルへ影響を及ぼすと考えられ るため、本研究で得られた結果はミグリトールの効果であると考えるのが妥当である。日 本人2型糖尿病患者において、ミグリトールによる治療がMCP-1やsE-selectinを含む血 中CVDリスク因子を低下させるかどうかはRCTによって検証する必要がある。
まとめると、α-GI を先行薬アカルボースあるいはボグリボースから後発薬ミグリトー ルへの3ヶ月間の切り替えは、血糖振幅、血中のMCP-1およびsE-selectinタンパク質濃 度を効果的に抑制することが示唆された。
総括
本研究では、インスリン抵抗性および食後高血糖による炎症の慢性化と薬剤・食事因子 の役割を検討し、以下の結論を得られた。
第一章第一節
過食による全身性のインスリン抵抗性を発症したラットの骨格筋では、筋組織内の血管 周囲に肥大化した脂肪細胞が存在した。その脂肪細胞では、インスリン抵抗性アディポカ インであるレジスチンのタンパク質レベルが亢進していた。それゆえ、骨格筋内の血管周 囲脂肪細胞のインスリン感受性は減弱していると考えられた。さらに、筋組織内の血管内 皮細胞のインスリン感受性も減弱していた。一方で、筋細胞のインスリン感受性は維持さ れていた。これらのことより、血管周囲脂肪細胞より分泌されたレジスチンを含むインス リン抵抗性アディポカインの増大と血管内皮細胞のインスリン感受性の減弱との関連が見 出された。インスリン刺激による骨格筋内の血管拡張が障害されることにより、骨格筋に おける血糖の取り込みが減少することが、結果として全身性のインスリン抵抗性発症につ ながっていると考えられる。
第一章第二節
全身性のインスリン抵抗性を発症したラットの骨格筋における病態を広く把握するため DNA マイクロアレイを行なったところ、脂肪酸酸化関連遺伝子の発現が亢進しているこ とが明らかとなった。この病態は中程度のインスリン抵抗性を発症したヒトにおける骨格 筋の病態と類似しており、代表的な肥満型2型糖尿病発症モデルマウスの骨格筋とは異な っていた。発現が亢進していた遺伝子の上流域にはペルオキシソーム増殖因子活性化受容 体(PPAR)応答領域(PPRE)を持つもの多く見つかり、これらの遺伝子は PPAR の標 的である可能性が示唆された。
第二章第一節
高脂肪食誘導性の軽度インスリン抵抗性マウスに食後高血糖抑制およびインクレチン効 果を高めるDPP-4阻害薬アナグリプチンを投与すると、インスリン抵抗性が改善すること が明らかとなった。DNA マイクロアレイにより、軽度インスリン抵抗性マウスの肝臓で は胆汁酸生成に関わる遺伝子の発現が増大し、肝臓の総胆汁酸量も低下することが明らか となった。DPP-4阻害薬アナグリプチンは、高脂肪食により大量に流入する脂肪をエネル ギーへと変換せず排泄することによりインスリン感受性を増大させることが示唆された。