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レスベラトロールによるマウス末梢血白血球の酸化ストレス低減効果

1 はじめに

2型糖尿病は、インスリンの相対不足を主徴とし持続的な高血糖状態を呈する病態のこ とである。高血糖状態は、脂質代謝異常症も引き起こし最終的には心血管疾患などの動脈 硬化症を引き起こし、突然死を誘導する。これまでの研究によって耐糖能異常者および2 型糖尿病患者を対象とした大規模介入研究では、α-GIによる食後高血糖の長期的な抑制 が、心血管疾患の発生を劇的に低下させることが明らかとなった[127,128]。それゆえ2型 糖尿病患者における動脈硬化症の発症には、食後高血糖の繰り返しが関与すると考えられ る。さらに動脈硬化は、血糖上昇だけではなく、脂質代謝異常によっても誘導される。実 際に、血中脂質の増大と動脈硬化との関連は多くの疫学試験によって報告されている[129]。 これまでに、2型糖尿病および脂質異常症に観察される動脈硬化関連疾患の発症進展には、

酸化ストレスの増大が関与することが考えられている。高グルコース条件下では、活性酸 素種などの酸化ストレスが増大するとともに、単球におけるTNF-αやMCP-1などの炎症 性サイトカイン発現[130]、血管内皮細胞におけるICAM-1およびVCAM-1といった接着 因子の発現が誘導されることが明らかとなっている[131]。さらに、高血糖に曝露されたマ クロファージは、内皮細胞におけるE-selectinの発現を増大させ[132]、内皮細胞への白血 球の接着を増大させることが報告されている[133]。さらに脂肪酸を単球細胞へ暴露すると、

IL-6およびTNF-αへといった炎症性サイトカインの発現が誘導されることも報告されて

いる[134]。さらに高脂肪食の投与によるインスリン抵抗性の誘導は、ラットの末梢血白血

球におけるIL-1βおよびTNF-α遺伝子の発現を増大させることも報告されている[122]。

これらの研究成果は、高血糖および脂質異常症は、酸化ストレスを増大させ、炎症性サイ トカインの分泌および血管壁への白血球の浸潤を促すことによって動脈硬化を発症させる ことを示唆している。

生体内では、活性酸素種および酸化ストレスの増大から生体を防御するためにスーパー オキシドジスムターゼ(SOD)をはじめとする多くの活性酸素除去酵素が存在している。

これらの活性酸素除去酵素は、酸化ストレスの増大に応答するため、高血糖および脂質代 謝異常時にはその発現や活性が増大することが想定される。実際に、赤血球を用いた研究 では、2型糖尿病発症によりSOD活性が増大することが報告されている[135]。また、db/db 糖尿病マウスの肝臓のSOD2遺伝子の発現が、通常マウスと比べ顕著に高いことも明らか となっている[136]。その一方で、病態進行によりSOD活性およびグルタチオンペルオキ シダーゼ(GPx)の活性が減少することも報告されている[137]。それゆえ、高血糖および 脂質代謝異常時における炎症および動脈硬化のリスクを評価する上で、酸化ストレスによ る活性酸素除去酵素の発現変化および病態進行に活性酸素除去酵素の活性障害を把握する ことは、動脈硬化関連疾患の発症進展の抑制に重要であると考えられる。

レスベラトロール(trans-3,5,4’-trihydroxystilbene )は、赤ワインやピーナッツに含 まれるスチルベン(C6H5-CH=CH-C6H5)タイプのポリフェノールである。癌抑制や抗老 化作用を有し、その作用機序は、主にレスベラトロールの抗酸化および抗炎症作用である

と考えられている[138,139,140]。レスベラトロールの経口摂取による吸収率は約75 %で あるが、小腸および肝臓における代謝を受けるため、ヒト体内における生物学的利用率は 約1 %とされている。血中濃度のピークは摂取後30分から2時間、半減期は約9時間で、

4分の3は尿から、残りは糞便から排泄される[141,142]。しかしながら、肝臓や腎臓など の組織へ蓄積が見られる上、ヒドロキシル化などによる構造の一部が変化した誘導体でも 抗酸化作用を発揮することが知られており[143]、レスベラトロールによる作用メカニズム の全容は未だに解明されていない。

最近の研究より、レスベラトロールを2型糖尿病患者に投与すると、インスリン抵抗性 および血糖コントロールを改善することが報告された[11]。これは、レスベラトロールが AMPKを活性化させることによるエネルギー代謝および脂質代謝の改善[144,145]や、酸 化ストレスの低減による膵β細胞の保護作用[146]によるものと考えられている。また最近 の研究により、中長期にわたる高脂肪食投与による体重および体脂肪率の増加、脾臓の肥 大化などをレスベラトロールが抑制することが報告された[147,148]。さらに、2型糖尿病 患者によるレスベラトロールを含むブドウ種子抽出物を長期にわたって投与すると、体重 および血糖コントロールには影響を及ぼさないが末梢血単核細胞における炎症性サイトカ インおよびケモカインの遺伝子発現を低下することが報告された[149]。しかしながら、レ スベラトロールの長期的摂取による末梢血白血球における活性酸素除去酵素の発現への影 響に関しては明らかとなっていない。

そこで本研究は、高脂肪食誘導性の軽度インスリン抵抗性マウスにレスベラトロールを 長期投与(31週間)し、インスリン抵抗性および末梢血白血球の活性酸素除去酵素の発現 に及ぼす影響を検討した。

2 材料と方法 2-1 実験動物

第二章第一節と同じ方法を用いた。馴化期間の飼料は AIN-93M [95](オリエンタル酵 母工業株式会社)を与えた。群分け後は、通常食対照(NC)群にはAIN-93M、高脂肪食

対照(HF-C)群はAIN-93をベースとし脂肪エネルギー比率62 %のHFD-60(オリエン

タル酵母工業)、レスベラトロール添加高脂肪食(Res)群にはHFD-60にレスベラトロー ル(東京化成工業株式会社)を0.04 %添加した飼料を与えた。飼料の組成はTable 11に 示した。本研究は山梨大学動物実験規程および山梨大学動物実験指針に則り、山梨大学動 物実験倫理員会の承認の上、執り行われた。

2-2 生化学分析

第二章第一節と同じ方法を用いた。

2-3 RNA 解析

第二章第一節と同じ方法で採血を行なった。PAXgeneに浸漬し、-80 ℃で保管した血液 を室温で解凍し、2,800 rpm、30分間、4 ℃で遠心分離し、上清を取り除いた。この後に ジエチルピロカーボネート(DECP)処理水にて洗浄し、得られた沈殿からRNeasy mini キット(株式会社キアゲン)を用いて総 RNA を抽出した。RNA レベルの定量は Light

Cycler 480システムおよびTaqman master®、ユニバーサルプローブライブラリープロー

ブ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いてRNAをPCR増幅させ、内部標 準および解析遺伝子の閾値サイクル数(CT値)を測定した。得られた値はデルタ-デルタ 法[69]を用い、内部標準遺伝子に対する解析遺伝子の相対発現量を算出した。リアルタイ

ムRT-PCRに用いたプライマーの配列はTable 12に示した。

2-4 血漿中の動脈硬化リスク因子タンパク質の測定

血漿中の可溶型(s)E-selectin、sICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)、総(t)

PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)濃度はMilliplex MAP Mouse Cardiovascular Disease Magnetic Bead Panel 1(MCVD1MAG-77K、メルク株式会社)キットを用い、

マルチプレックスシステム(Bio-Plex MAGPIX システム、バイオ・ラッド株式会社)を 使用して測定した。PAI-1は血液中において活性型、プラスミノーゲンアクチベータ(PA) との複合体、不活型が存在するが、非常に不安定な物質であるため、これらの総量測定が 臨床的に最も信頼されている。

2-5 統計処理

結果は平均値 ± 標準誤差(SEM)で示した。検定はStudent’s t検定をNC群とHF-C 群、HF-C群とAna群で比較を行なった。有意水準5 % 未満を統計学的に有意とした。

Table 11 Composition of the experimental diets.

High fat control Resveratrol

(NC) (HF-C) (Res)

g/kg g/kg g/kg

Casein 140 256 256

Sucrose 100 55 55

α-Cornstarch 155 160 160

Cornstarch 465.692 -

-Malt dextrin - 60 60

Soybean oil 40 20 20

Lard - 330 330

AIN-93 vitamin mix 10 10 10

AIN-93G mineral mix 35 35 35

Choline bitartrate 2.5 2.5 2.5

L-Cystine 1.8 3.6 3.6

Cellulose 50 66.1 65.7

Carcium carbonate - 1.8 1.8

Tertiary butylhydroquinone 0.008 -

-Resveratrol - - 0.4

Total 1,000 1,000 1,000

energy %

Protein 13.8 18.2 18.2

Fat 9.7 62.2 62.2

Carbonate 76.5 19.6 19.6

Total 100 100 100

Ingredient

Control diet High fat diet

1 AIN93 vitamin mix and AIN-93G mineral mix (J Nutr 1993; 123: 1939-1951) were prepared by Oriental Yeast, Co., Ltd. (Tokyo, Japan)

All diet were from Oriental Yeast, Co., Ltd. (Tokyo, Japan), (NC; AIN-93M, HF-C; HFD-60), and Res was based on HFD-60.

Gene Sequence Taqman probe #1 5'-TCTTCCTAAAGTATGGGCTGGA-3'

5'-AAAGGGAGCTCCTTAACATGC-3' 5'-TGCCAACTTCCTCAGCTACA-3' 5'-GTGCACAGCAAAGTGATTGG-3' 5'-CAGGACCTCATTTTAATCCTCAC-3' 5'-TGCCCAGGTCTCCAACAT-3'

5'-TGGACAAACCTGAGCCCTAA-3' 5'-GACCCAAAGTCACGCTTGATA-3' 5'-TGAAGGATCCTGACATGGTCT-3' 5'-CCTCGGTCACTGAACAAGAAA-3' 5'-CGGAGATCATCGCTTTTAGC-3' 5'-TTCCGTGGGGTATTGATCC-3'

5'-GAACCTGTTTGACAGACATACTGTG-3' 5'-GGGGTGTGGAAAGAGGAACT-3' 5'-GGGCAGGAACTTTGATGAGAT-3' 5'-GAGGGTGGGAACTACCATCA-3' 5'-TTTCCCGTGCAATCAGTTC-3' 5'-TCGGACGTACTTGAGGGAAT-3' 5'-AGGGATGCATCACAGTGCTA-3' 5'-GCAAATCCTTGGGTGACTTC-3' 5'-CTAAGGCCAACCGTGAAAAG-3' 5'-ACCAGAGGCATACAGGGACA-3'

1 Roche Universal ProbeLibrary probe number.

2 Nox2 is known as Cytochrome b-245, beta polypeptide (Cybb).

#2

#107

#60

#20

#49

#67

#109

#64 Table 12 Sequences of oligonucleotide primers used for real-time RT-PCR

Actin, beta (Actb) Peroxiredoxin 2 (Prdx2) Peroxiredoxin 3 (Prdx3) Peroxiredoxin 6 (Prdx6)

Glutathione peroxidase 1 (Gpx1) Thioredoxin reductase 2 (Txnrd2) Interleukin 1 beta (Il-1β)

NADPH oxidase 2 (Nox2)2

Superoxide dismutase 1, soluble (Sod1) Superoxide dismutase 2, mitochondrial (Sod2)

Caralase (Cat)

#73

#34

#78

3 結果

3-1 解剖時の身体および血液生化学パラメータ

高脂肪食を摂取したHF-C群およびRes群の平均摂餌量は、NC群よりも低かったが、

試験期間の体重増加量はNC群が最も少なく、Res群においてはHF-C群よりも有意に高 かった。肝臓重量も体重増加量と同様の傾向を示し、高脂肪食を摂取した両群では、肝臓 の肥大が観察された。副睾丸周囲脂肪重量は、高脂肪食の摂取量群では、NC群より低か った。空腹時の血糖値および血漿インスリン濃度は、高脂肪食を摂取した2群に差はなか ったが、両群ともにNC群よりも有意に高かった。空腹時の血漿総コレステロール濃度は 高脂肪食の摂取した両群では、NC群と比較し有意に高かった。また、Res群の血漿総コ レステロール濃度は、他の二群と比較して顕著に高かった(Table 13)。

3-2 インスリン負荷試験(ITT)

インスリン注入前のRes群における血糖値は、HF-C群と比較して有意に高かった。イ ンスリン注入後はHF-C群およびRes群において血糖値の低下が観察されず、両群とも全 身性のインスリン抵抗性を発症していた(Fig. 12A)。血糖推移曲線下面積においてもRes 群とHF-C群に差は見られなかった(Fig. 12B)。

3-3 炎症および活性酸素種(ROS)代謝関連遺伝子の発現量

末梢血白血球におけるインターロイキン(Il)-1βの遺伝子のHF-C群における発現量は、

NC群と比較して有意に高かった。ROS産生に関わるNADPHオキシダーゼ(Nox2)の 遺伝子発現は群間に差が見られなかった。スーパーオキシド(O2-)の消去に関わるスー パーオキシドジスムターゼ(Sod)1およびSod2は、HF-C群においてNC群と比較して 有意に高かったが、Res群ではHF-C群と比較して低い傾向を示した。過酸化水素の消去 に関わるCat遺伝子およびグルタチオンを基質として脂質ヒドロペルオキシドの還元する Gpx1の遺伝子のHF-C群における発現レベルは、NC群と比較して低い傾向が見られた が、Res群ではその傾向が減弱していた。NADPH+H+を用いてチオレドキシンの還元に

関与するTxnrd2 遺伝子のHF-C群における発現は、NC群と比較して有意に高かったが、

Res群ではその傾向が減弱していた。。還元型チオレドキシンを基質として過酸化水素や脂 質ヒドロペルオキシドを還元するPrdx2、Prdx3、Prdx6遺伝子のHF-C群における発現 は、NC群と比較して高かったが、Res群ではその傾向が減弱していた(Table 14)。ROS 代謝に関わる酵素の多くが複数のアイソフォームあるいはサブタイプを有するが、これら において群間の発現変動は見られなかった(データ示さず)。上述の発現変動が見られた遺 伝子は、他のアイソフォームよりも発現量が多かったことから、末梢血白血球において主 要なアイソフォームであると考えられた。

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