第3章 物体操作における再帰的結合の進化シミュレーション
3.3 物体操作の進化シミュレーションの結果と分析
3.3.3 F II :特定の製作
図 3.7 に適応度関数 FIIにおいて再帰的結合を使用するエージェントの割合と適応 度の世代変移を示す.
特定の製作物が適応的となる環境においては反復的結合41も再帰的結合も出現しう る.ただし,平均適応度が増加するにつれ,徐々に再帰的結合は使われなくなってい く傾向がある.
41 反復的結合は以降のシミュレーション全てで集団全体に拡散し使われる.
図 3.7各結合を使用するエージェントの割合と適応度の世代変移
(FII,200試行の平均)
各試行の典型を図3.8に示す.この環境条件において,再帰的結合は序盤に出現す る確率が高いが,多くの試行で途中から使われなくなる.再帰的結合が使われなくな る際は適応度が上がるため,特定の製作物を作るうえで再帰的結合は最適解ではない ことがわかる.最終的に反復的結合しか使われなくなる理由は,反復的結合のほうが 再帰的結合よりも少ない遷移回数で目標物に到達できるためである.
図 3.8各結合を使用するエージェントの割合と適応度の世代変移
(FII,1試行)
FIIの適応度地形は,山登り的な適応を事実上不可能にし,適応度を獲得するための 特定の製作物xを発明することを困難にする.このとき,スタックを使わない反復的 結合による製作物 ABABAB を作る経路は一つしか存在しない.付録 A の図の左上に 示すように,スタックを使わない反復的結合は各要素を一文字目から六文字目まで順 番に結合しなければならず,各状態遷移を進化的に獲得する確率は遺伝子の総数を考 えると非常に低くなる.対照的に,再帰的結合による製作物ABABABを作る経路は複 数想定でき,各要素を順番通りに結合する必要はない.より正確に言うと,シミュレ ーションの序盤で再帰的結合を使用するエージェントが出現する理由は,再帰的結合 の経路が獲得される確率が,反復的結合よりも高いためと考えられる.例えば構成要 素の種類数k = 2,最大構成要素数l = 6の場合,製作物ABABABの再帰的結合による 製作経路は 19 通りあるのに対して,スタックを使わない反復的結合による製作経路 は 1 通り,スタックを使う反復的結合による製作経路と合わせても 6 通りしかない.
より一般的に言うと,再帰的結合の製作経路数は最大構成要素数lが大きくなるほど
多くなるのに対して,反復的結合の製作経路数は1より多くならない.このことから,
再帰的結合の適応性の一つは,製作手法を多様化し製作物の発明確率を高めることだ と言える.
図 3.9 は,パラメータである構成要素の種類数 k(縦軸)と最大構成要素数である 文字列長さ l(横軸)をパラメータとした場合の,10,000 世代目の再帰的結合を使う エージェントの割合である.要素の種類数が同じとき,ある製作物に至るパスの数は その製作物の構成要素が多いほど多くなる.そのため,複数通りの製作手順が想定で きる再帰的結合は反復的結合に比べて経路を形成できる確率が高くなる.要素の構成 要素数が同じとき,製作物の種類はその要素の種類数が多いほど多くなる.そのため,
複数通りの製作手順が想定できる再帰的結合によって,製作物の探索を効率化するこ とができる42.以上から,組み合わせ空間のサイズが大きくなるほど再帰的結合は特 定の製作物を発明しやすくなると言える43.
42 探索空間がどんなに広くなっても反復的結合による製作経路は製作物の種類数に等しい.再 帰的結合による製作経路は組合せ論的に増えていく.
43 ただし,組み合わせ空間のサイズが大きすぎる場合,エージェントは特定の製作物を10000 世代目までに発明できず,再帰的結合を使用するエージェントが減ったように見える.
図 3.9構成要素の種類数と最大構成要素数ごとの
再帰的結合を使用するエージェントの割合(FII,200試行の平均,10,000世代目)