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第Ⅱ章 2 次元 NMR スペクトル

21. DQF-COSY (Double Quantum Filtered COSY)

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いないので、cos フーリエ変換をしてスペクトル表示する。cos( t e) Rtcosフーリエ変換す ると、下記のように吸収型のスペクトルになる。

2 2 2 2  

0

1 1

cos( ) cos( ) ( )

2 ( ) ( ) 2

Rt R R

t t e dt A A

R R



     

(20.7)

つまり、共鳴線は     の位置に現れ、の符号は識別できないことを示している。

(20.5)では、が正であると想定し第1項だけを残し、第2項を無視した。

一方sin( t e) Rtcosフーリエ変換すると、分散型のスペクトルになる。

 

2 2 2 2

0

1 1

sin( ) cos( ) ( ) ( )

2 ( ) ( ) 2

t t e Rtdt D D

R R



   

     

(20.8)

この場合も、 0と仮定し式(20.6)では第1項だけを残し、第2項を無視した。

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DQF-COSYというパルスプログラムにおいては、この4つの直積演算子の内、コヒー

レンス次数p 2の項だけを選択的に残し、他の項を消去する。必要な直積演算子の項 だけを選択的に残す便利な方法が「位相回し(phase cycling)」と呼ばれるものである。こ の方法については次章で詳しく説明するが、今はコヒーレンス選択が出来たものとして、

パルスプログラムの特徴の説明を続ける。

「位相回し」によって、選択的に残される項は第2項だけである。

1 1

 

1

ˆ ˆ1, 2,

1 1

 

1

ˆ ˆ cos t sin Jt 2I Ix y cos t sin Jt DQy ZQy

        (21.1)

さらに ˆ

ZQyp0)という項も消去されて、

1 2 1 2

 

1, 2, 1, 2,

1 1

ˆ ˆ ˆ ˆ ˆ 2ˆ ˆ 2ˆ ˆ

2 2

y x y y x

DQ I I I I I I I I

i

 

    (21.2)

という、p 2の項だけが残されるので、このパルスプログラムは Double Quantum Filtered COSYと呼ばれる。第3のパルスによってこの項は次式になる。

1, 2,

1

1, 2, 1, 2,

ˆ ˆ ˆ 2ˆ ˆ 2ˆ ˆ

2 2

y x x x z z x

DQI I I I I I

(21.3)

従って、cos

1 1t

 

sin Jt1

1 2 sin

1t1

sin

1t1

であることを考慮すると、

 

1 4 sin

1t1

sin

1t1

2I Iˆ ˆ1,x 2,z 2I Iˆ ˆ1,z 2,x

       が観測される。t2軸に関しては、ど ちらもanti-phase SQ coherenceである。第1項は横磁化がI1スピンなので対角ピーク、

第2項は横磁化がI2スピンなので交差ピークに対応する。t2軸のFID信号は、

 

1 2

ei1t2 ei1t2

 

1 2

ei2t2 ei2t2

(21.4)

という複素数で表され、t2軸でのフーリエ変換後は、対角、交差ピークとも、

 

1 2

A1(2)A1(2)

 

1 2

A2(2)A2(2)

(21.5) というanti-phase doubletの吸収型のスペクトルを与える。

t1軸に関しては両ピークとも同じ振幅で、sinフーリエ変換(注参照)をすると、

 

1 2

A1(1)A1(1)

(21.6) という吸収型のスペクトルになる。従って、2次元NMRスペクトルは、

対角:

 

1 2

A1(1)A1(1)

x

 

1 2

A1(2)A1(2)

交差:

 

1 2

A1(1)A1(1)

x

 

1 2

A2(2)A2(2)

(21.7) となる。結局、DQF-COSYで得られたNMRスペクトルは交差ピークも対角ピークも ともに正と負の吸収型のピークで表すことができる。I2スピンにも同様の事が起きてい

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るので、スペクトルは図19のようになる。実際、タンパク質にこのパルスプログラム が適用されたとき得られる2次元スペクトルは第Ⅳ章の図38、39に示されている。確 かに、一つの交差ピークは明瞭なanti-phase doubletの4つのピークで示されている。

19 DQF-COSY スペクトル。交差ピーク、対角ピークとも吸収型に

なるため、COSYスペクトルに比べ特に対角ピークが明瞭に表示される。

- - -

<注> sin( t e) Rtsinフーリエ変換すると、 0の場合

2 2 2 2

0

1 1

sin( ) sin( ) ( )

2 ( ) ( ) 2

Rt R R

t t e dt A

R R

     

(21.8)

一方、cos( t e) Rtsinフーリエ変換すると、 0の場合

2 2 2 2

0

1 1

cos( ) sin( ) ( )

2 ( ) ( ) 2

t t e Rtdt D

R R

   

 

     

(21.9)

22. HSQCHetero Nuclear Single Quantum Coherence Spectroscopy

COSY あるいはDQF-COSY は3 つ以内の共有結合で連結されて隣接するプロト

ンの相関NMRスペクトルを測定する方法であった(例えばN1H-C1H)。その方法を、

1Hとそれに結合した他の原子の核スピン(例えば1H-15N)に拡張したものがHSQCス ペクトルである。異種核スピン間のJ-結合を利用して、共有結合で隣接している核スピ

2

2

1

1

1

2

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ン間のNMR 現象を 2 次元 NMR スペクトルとして測定する方法である。タンパク質 の場合は、15N 核スピンと、それに共有結合している1H核スピンの測定によく用いら れる。15Nを含む培地で培養された菌体からタンパク質を抽出すると、一様に15N置換 された試料が得られる。ポリペプチド鎖のNH基のNMR測定に最適の方法である。タ ンパク質の場合、1次元のプロトンNMRスペクトルは多数の1H共鳴線が重なり合う ため、B0磁場を大きくして高分解能にする方法には限界があった。15Nの共鳴線を同時 に測定することによって、スペクトルを2次元目(15N軸)の方向に展開し、プロトン の共鳴線の縮退を解くことが可能になったので、一気に高分解能のプロトンNMRスペ クトルが得られるようになった(31節の解説も参考になる)。

図20はHSQCスペクトルを測定するためのパルスプログラムを示している。異種 核を励起するため、Iを1H、Sを15Nとすると、パルスプログラムのチャートも2段 なる。15Nの磁気角運動量比であるN1Hに対するH1 10程度であり、共鳴周波数 が大きく異なるため、核スピンを励起するrf 発振器も2 種類必要になる。各パルス列 に特徴的な役割があるので、A~Eまでの期間に分けて説明しよう。

20 HSQC のパルスプログラム。白色のパルスは180パルスを表す。黒色のパルス

90xであるが、Iスピンへの第2のパルスは90yである。FIDデータ取得時にSスピ ンに照射される矩形状のパルスは広帯域デカップリングと呼ばれる(下記の注参照)。

A期:1Hに90パルスを照射し(特に断らない限りx軸まわりのパルスとする)、続い て両方の核に180パルス(x軸まわり)を照射してスピンエコーさせる。これは同

t1

1 1

2 2 y

 1H

I

 15N

S

A B C D E

t2 decoupling

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種核スピンエコーなので、オペレータはUˆ ei(4 J1)I Sˆzˆzei(IˆxSˆx)と表される。従っ て、A期の最後のスピン状態をˆAとすると、

 

1

1

1 ˆ

ˆ ˆ ˆ ˆ ˆ

ˆA U Iy U cos 2 J Iy 2sin(2 J )I Sx z

         (22.1)

注意:A期の最後に存在する ˆ

Szは、その後の時間展開によって、どんな観測可能なスピン 状態にも変化しないので無視してよい。

B期:コヒーレンスを1Hからに15Nに移すため、1Hにy軸まわりの90yパルス、15N に90xパルスを照射すると、ˆBという状態になる。

1

ˆ 1 ˆ ˆ

ˆB cos 2 J Iy 2sin(2 J )I Sz y

       (22.2)

両90パルス後に残るˆ

Iyという項は位相回しによって消去する。このとき、15Nと J-結合していない1Hに対するˆ

Iyも同時に消去されるので、今後考慮しない。

C期:核スピンIだけに180パルスを照射するので、異種核スピンエコーと呼ばれる。

変換オペレータは、Uˆ e i St S1ˆzei Iˆxとなる。ˆBの第 2 項にこれを作用させると、

1 1 ˆ ˆ 1 1 ˆ ˆ

ˆC cos( St ) sin(2 J ) 2I Sz y sin( St ) sin(2 J ) 2I Sz x

           (22.3)

D期:両スピンに90xパルスを照射する。Uˆ e i2Iˆxe i2Sˆx

 をˆCに作用させると、

1 1 ˆ ˆ 1 1 ˆ ˆ

ˆD cos( St ) sin(2 J ) 2I Sy z sin( St ) sin(2 J ) 2I Sy x

            (22.4)

ˆ

2I Sˆy xという多量子コヒーレンスの項はE期のスカラーカップリング項による時間 展開の影響を受けない( I S I Sˆyˆxzˆz  0)ので、素通りしてFID信号を発生し ない。今後はこの項を考慮しなくてよい。

E期:同種核スピンエコーなので、2I SˆyˆzUˆ ei4 J 2I Sˆzˆzei(IˆxSˆx)を作用させる。

2 1 1 ˆ ˆ

ˆE cos(2 J ) cos( St ) sin(2 J ) 2I Sy z

        

2 1 1 ˆ

sin(2 J ) cos( St ) sin(2 J ) Ix

   (22.5)

FID の観測時に S スピンに照射する広帯域デカップリング(注参照)によって、

ˆ

2I Sˆy zというanti-phase SQの2重線は消滅し、in-phase SQのˆ

Ixによる2本の共 鳴線が重なり合って2倍の強度をもつ1重線となって観測される。

結局、HSQC パルスプログラムの結果、ˆE中のIˆxだけがt2軸上のFID信号を与える。

それをフーリエ変換した2軸上のスペクトルは、オフセット周波数Iの位置に現れる 1重線の吸収ピークAI

 

2 となる。スピンエコー時間を121 4J

 

と選ぶことに

よって、ピークの強度は最大となる。一方、FID信号のt1依存性は、cos フーリエ変換

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によって吸収型のAS

 

1 を与えるので、2 次元の HSQC スペクトルは、 1 2平面上の位置

 1, 2

 S, I

に明瞭な1 本の吸収ピークが現れるだけのシ ンプルなものとなる。タンパク質に対して測定された 実際のHSQC スペクトルは第Ⅳ章の図 40 に示されて いる。タンパク質の全残基の主鎖 NH に対して、それ

ぞれ一つの交差ピークが現れるので、主鎖NHプロトンのピーク帰属をするさい、非常 に重要なスペクトルとなる。

- - -

広帯域デカップリング

異種核間のスカラーカップリングによって相互作用している 2 つの核スピンの一方にスピ ンエコーパルスを打ち続けて、観測核の共鳴線を1重線にする方法。例えば、1Hを観測核とす ると、それに共有結合する15N核は1H核とスカラーカップリングしている。15N核に180パル スを照射してスピンエコーを起こすと、1H はスカラーカップリング項の影響を受けないでオフ セット周波数だけで時間展開する。したがって、切れ目なく 180パルスを打ち続ければ原理的 には1H核は15N核とデカップリングしたFID信号となる。しかし、15Nは様々なオフセット周 波数をもつものが存在するので、非選択的にどの15N核にも180パルスとなるようにするため には、180パルスのパルス幅を狭くしてより広い周波数帯域をカバーさせる必要があり、必然的 に強度の強い rf-パルスを打ち続けることになる。しかし、それには発振器の制約もあり、また サンプルの温度上昇という不都合も起きて、実行することは実際上不可能である。そのため、よ り弱い発振強度でより広い周波数帯域をカバーしてデカップリングを実現できる効率的な複合 パルス列が開発された。パルスの回転角と位相を巧妙に組み合わせて、広い周波数帯域の核スピ ンを基本的には 360回転させることを繰り返す複合パルス列として WALTS-16 が知られてい る。NMRスペクトル測定上重要なことは、デカップリングパルスの照射によって、カップリン グ定数Jの値が実質的にゼロに収束していく点である。したがって、Iスピンの演算子がin-phase doublet(例えばˆ

Iy)の場合は、同符号の共鳴2重線が1重線に重なり合い、スペクトル強度も 倍になり、スペクトルも単純化される。一方、anti-phase doublet(例えば2I Sˆyˆz)の場合は、逆 符号の2重線が重なり互いに打ち消しあって消滅する。

1

2

I

S

48 23. TOCSY (Total Correlation Spectroscopy)

COSY、DQF-COSYあるいはHSQCスペクトルは、基本的には展開時間t1の間に スピン間のスカラーカップリングによって生成されるanti-phase SQ-coherence 項を、

第 2 の 90パルスで J-結合した他方の核スピンにコヒーレンス移行させることによっ て、2つのスピン間の交差スペクトルを得る方法である。したがって、弱いスカラーカ ップリングによって直接J-結合しているペアの交差ピークだけが観測される。しかし、

直接J-結合はしていないが、J-結合の連鎖を通して間接的に結合しているスピン間の交 差ピークを検出したいという要求もある。すなわち1H核が集合した系において、Rス ピンとIスピン、IスピンとSスピンは直接J-結合しているが、RスピンとSスピンは J-結合していない場合でも、連鎖的なJ-結合を通してR スピンとS スピンの交差ピー クを得ることができると便利な場合がある。それを可能にする方法がTOCSYというパ ルスプログラムである。

(1) 等方的混合パルス(isotropic mixing pulse)

下の図はTOCSYスペクトルを得るためのパルスプログラムを示している。

21 TOCSYのパルスプログラム

第2の90パルス照射までは COSY の実験のときと同一である。パルス照射後の時点 A における状態は式(20.3)のˆ2という状態で表される。ˆ1,

I z, 2I Iˆ ˆ1,x 2,y, ˆ1,

I x, 2I Iˆ ˆ1,z 2,yと いう直積演算子の項が混在しているが、TOCSY実験においては、後述する「位相回し」

という方法によってコヒーレンス次数 0 のˆ1,

I zという項だけを選択的に残す。TOCSY パルス列の中で、もっとも特徴的なパルスは、第2の90パルスの直後に置かれている 影をつけた矩形状の等方的混合パルス(isotropic mixing)である。広帯域デカップリン

mix

t1

t2

A B