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CAPM の検証モデル*

ドキュメント内 平均=分散平面と資産評価理論の検証 (ページ 67-74)

はじめに

1960年代半ばから1970年代にかけて, CAPM(資本資産評価理論)の検証が盛ん に行われてきた。その検証命題は, <市場で評価された各危険資産(株式)の平均 収益率の相違は,ベータ・リスクの相違によってのみ説明可能で、ある),という ものであった。リスクとリターンが株式市場でどのように評価されているかにつ いて,多くの実証分析家の食指を動かせるに充分足るテーマであった。

具体的には,例えば5年という期間において,株式上場企業(例えば,東京証 券取引所第1部上場企業)の月末での各株価を観測し,配当金等を考慮しなが ら,月次株式収益率11を計算するとともに,株式時価総額加重による(代理)市場 ポートフォリオの投資収益率を求めるという手順で,危険資産の時系列収益率デ ータが確保されることになる。そして,市場ポートフォリオ収益率の上への個別 収益率の時系列回帰により個別ベータ値(回帰係数)を求め,さらに,ベータ値の 上への平均収益率のクロス・セクション回帰式により,その回帰係数(リスク・

プレミアム)を推定するとともに有意性等についての仮説検定がなされてきた。

日米における多くの実証分析の結果21は,各株式投資に対する平均収益率の相 違を観測期間内に計測されたベータ値では説明できない,というものであった。

その後,リスクとリターンの関係を求めて多くの論者が出入りし,検証モデルと しては, AIT(裁定評価理論)等の新たな資産評価モデル,条件付CAPMモデ

*本稿は日本経営財務研究学会における,関西部会(1996年),全国大会(1997年)での報告をもと に作成されたものであります。その際,神戸大学榊原茂樹氏と青山学院大学中里宗敬氏から有 益なコメントを頂きました。また,飯原先生とは研究会などの議論において,幅広い観点から 多くのご教示を賜りましたこと深く感謝致します。当然ながら,ありうべき誤りはすべて筆者 の責任であります。

)月次株式収益率=(今月末価格+配当金)ノ,(先月末価格)によって計算される。

)実証結果をまとめた文献として, ]ensen ed. [ Jおよび榊原[12Jを参照されたい。

62  平均=分散平面と資産評価理論の検証

ル, Fama 

French [ Z ]モデルを含むマルチ・ファクターモデル,また統計的手 法としては, Shankenの検定統計量, ARCH推定法, GMM(一般化積率法)等,

様々な角度からの議論が現在も進行中である。

本稿においては,そうした新たな実証分析の流れに与して何かを論じようとい うのではない。むしろ逆である。原点に戻り, CAPMの検証について再検討し ようというのが目的であるo 時代遅れの感はあるが,旧来のCAPM検証は,リ スクとリターンの計測の出発点である。さらに以下での議論は,モデルの如何に 関わらず考慮されねばならない計測の基本部分に関する問題に言及するO 結論的 には,株式収益率データの利用によるリスクとリターンの計測のためには,企業 の財務的意思決定の観測もしくは想定が欠かせないものであることを提示する。

計測すべきは,その企業のみが対峠しているビジネス・リスクと市場による企業 評価である九

実証分析を支える2本の柱がある。それは,モデルとデータである。両者の 様々なレベルでの整合性の追求が実証分析そのものであるとも言える。しかしど うやら,旧来のCAPM検証においては,基本的な部分でその整合性が成立して いないようである。

すなわち,株価観測時点における<企業の財務意思決定情報を明示していな い>株式収益率データの利用と,検証モデルにおける収益率の定常性仮定は,毎 期CAPMが成立するという基本的仮定と一般的には相容れないものであること がわかった。

多少異なった角度からではあるが,同様の議論がRolenberg

Ohlson [ 8 ]

おいてなされてきた。われわれはより直裁的な表現で,多期間にわたる収益率の 定常性と CAPMの成立が両立する条件を導出する。それは,すべての株式にお いて同一の事後的株式収益率の観測(退化した収益率モデル)という条件となるO

当然ながら,一般的には容認され得ない条件である。

CAPMは静学モデルである。その検証モデルにおいてはT期間にわたる株価 )小林[nJにおいては,企業のファンダメンタル・バリューによって株価が決定されるという

立場から,いくつかのケースについて株価評価の仕組みを論じている。明快で、ある。われわれ も同じ立場からCAPMの検証問題について考察した。

観測を行う訳であるが,本質的には繰返し1期間モデルである。各時点の株価 は,その企業の経営活動の結果としての事後的企業価値を具現しているものでも あ る し ま た.CAPMが教えるところによれば,それは期末の企業価値予想に 基づく現時点での均衡市場価格(企業評価)ということにもなる。繰返し1期間モ デル(CAPM検証モデル)に整合的な収益率データを得るためには,本稿におい て示されるように,各時点での企業の財務意思決定を観測し,その補正をせねば ならない。

検証モデルにおいて最も理想的なサンプル企業は.100%自己資本であり,生 産活動に関与しない余分な金融資産は保有せず,各月末ごとにその企業の経営活 動による利益をすべて株主に配当し,毎月同じ生産能力で経営がなされるような 企業である。同ーの経済環境のもとでは,期首での企業価値は毎月同じであり,

月間の経営成果を反映した形で月末の企業評価がなされることになる。まさに,

リスクとリターンの計測のベンチマーク・モデルである。

現実の企業はこのような要件を満足しない。また,実証分析者は企業の意思決 定のすべてを観測できる訳でもない。理論をベンチマークに現実が如何程議離し ているかを読み取ることができる検証モデルの探索が始まることになる。

以下においては,まず第2節 に お い て 平 均 ・ 分 散 型CAPM理 論 と 旧 来 の CAPM検証モデルを確認し,株式収益率を用いた場合のリスクとリターンの識 別問題を例示する。つぎに第3節において.CAPM検証モデルと株式収益率デ ータの利用が,一般的な状況においては相互に矛盾を呈するものであることを提 示する。すなわち,旧来のCAPM検証は厳密な意味ではどれも CAPM検証には なっていないことを確認する。そして第4節において,リスクとリターンの定常 性と毎期CAPMが成立するという仮定が満たされる検証モデルを例示する。そ れとともに,収益率計算の補正についても検討される。本稿を通じて,各企業ご

との毎期の財務的意思決定についての観測が必要であることを強調する。

CAPM理論と検証モデル 1. CAPM理論

まず.Sharpe [ 6 

J .  

Lintner [ 3 

J .  

Mossin [ 4 ]らによる平均・分散型CAPMを

64  平均=分散平面と資産評価理論の検証

確認することにしよう。危険資産市場にはn種類の危険資産(株式)が存在し,

完全市場が仮定されているものとする。無危険資産が存在し,期首での1単位の 価格を 1.期末での価格をηとする。

期首での第 i企業4)の株式の市場価格をPiと記す。そして,期末の予想価格

ι

は期待値瓦,分散σ2(ι)の正規分布に従うものとする。

投資家jの初期富を院,第i株式への投資数量をんとすれば,彼もしくは彼 女の期末富

W

j

(6.1) 

吹 = [ 眠 ー さ

1:PiXij 

1 η + 与

Xij

となり,その期待値および分散はそれぞれつぎのように表すことができる。

(6.2)  E (W) η既 +

L :  

(Pi一ηか)xji ( 6 . 3 ) σ 2  (W) 

=  L :  L :  

XijXijCOV (

ι. 

Pl) 

ここで,投資家jの期末富に関する効用関数が,その期待値と分散で表現され るものとすれば,すなわち.(派生的)効用関数が

(6.4)  Uj[E(Wj).  d'(Wj)J 

であるとき,投資家jは,効用 (2.4)を最大化するべく各株式への投資数量x

を決定することになる。投資家 jの最適ポジションんは,次式を満足すべく与 えられる。

(6.5) 

左 側

Pi.Pl)Xij=士 恥 ゆ ) .i= 1 

ここで,

1 I a Uj /a Uj I  (6.6)  ん=一一{一一/一一τ}

21aEla σ │   である。

(6.5)式は,投資家 jの各株式に対する需要関数であり

. J

人のすべての投資

家の需要を合計すれば,各株式について需要量が求められる。ここで,供給量を 1単位とすれば,市場における需給が一致するいわゆる均衡価格

4)  100%自己資本の企業を想定している訳ではない。

p

寸 [ 瓦

)..cov

ω

M)

J

, 

... , 

(6.7) 

TM= 

2 . : .

T; 

1 ι 1   A I

が導出される。アグリゲートされたλは市場の危険許容度(巾ktolerance)パラ メータと呼ばれている。

(6.7)式がCAPM均衡式(企業評価式)という訳であるが,投資家の立場から のリスクとリターンの関係がうまく表現されている収益率タームで表現された CAPM式がよく用いられる。すなわち, (6.7)式の両辺をt;で除し,整理すれば

E(r;) =1js;[E(九)‑r

J

, ... , 

T ;

( ) ー ωV(r;,  YM) 

一 一

"  t; Sσ2(九)

(6.8) 

がえられる。(2.8)式の導出課程で E (rM)一 れ )

..  . tM=一 一 一 一 一 」

'(YM)  (6.9) 

を利用する。

一般的には, (6.8)式がCAPM式とよばれている。検証等の実証分析において 企業評価式の (6.7)式ではなく, (6.8)式が利用されてきた。

も,

2. 旧来の CAPM検証モデル

つぎに,旧来のCAPM検証を大まかに振り返ってみることにしよう。 (6.8) 式が物語っていることは,各株式に対する投資収益率のリスク・プレミアムの相 違はベータ値によってのみ説明可能というものであった。その命題を検証するた めに,いわゆる2段階回帰

1.時系列回帰:各株式の収益率と市場ポートフォリオの収益率に関するT個 の時系列データから,いわゆる市場モデルにおいて各株式のベータ値を求め る。

クロス・セクション回帰:上記の手順で求められた各株式のベータ値の上へ

HU 

66  平均=分散平面と資産評価理論の検証

の各株式の平均収益率の回婦を試行し,その係数の有意検定を行う。

という作業がなされてきた。

こうした検証を可能ならしめるために,つぎの三つの仮定がなされていた。

A1.観測される事後的収益率データは事前的予想収益率の実現値である。

A2.検証期間内において,予想収益率の分布は一定(ベータ値は一定)であ る。

A3.毎期CAPM(6.8)が成立する。

というものであった。これらの仮定のうち, A 1は当然のことである。事前と事 後の関連を失ったならば,どのようなモデルであれ,実証分析は意味をなさない ことになる。 A3の仮定についても同様である。 CAPM理論を分析の支えとす る限り,必ず必要な仮定であるO

ここで具体的に,月次データを利用しての検証モデルについて確認をしておく ことにしよう。第 i株式と市場価値総額の月末の終値(事後的データ)を観測し,

それぞれの観測値を

第i株式月末価格の観測値・・・・{九九… ,tiT, tiT+ l}  月末市場価値総額の観測値・・・・(tMltM2,…,tMT, tMT+d  と記す。事後的収益率データは

(6.10)  九 =~j2, ...  rit= 

企 ニ

ηηT=ri

E i

Zと竺土

p か

21 tit'  ρ iT 

と計算される。これらのデータは,確率変数である予想(事前)収益率 (6.1 1 ) 九‑N[E() (5' ()] 

の標本値(実現値)であり,毎期同ーの分布から独立に抽出されたものであると仮 定されていることになるO このことが,仮定A 2において述べられている。さ らに,仮定A 3から,予想収益率は毎期 (6.8)式を満たしており,事後的標本 値 (6.10)式も平均的には (6.8)式を満たしているものと考えられる,との想 定で検証がなされてきた。

ドキュメント内 平均=分散平面と資産評価理論の検証 (ページ 67-74)

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