ポートフォリオの振舞い*
一 一iRollの 批 判 」 を 克 服 で き る か 一 一
I はじめに
現在の株価は,その企業の価値(将来の成果に対する割引価値として計算され るものと考えられる)を正しく評価しているものであろうか。これまで,絶えず 問い掛けられてきた疑問であった。それに対するひとつの解答が, 1960年代中 頃, Sharpe[13], Untner[ 8], Mossin[10]らによる資本資産評価理論(CapitalAs‑ set Pricing Model : CAPM)において与えられた。それは,危険資産市場において 取引されているすべての資産について,将来の成果に対する期待値と標準偏差が 市場参加者であるすべての投資家によって共有されるならば,均衡市場において は各株式の期待収益率が
(4.1) E (R;) =烏+s;LE(RM) 烏j
と表現される,ことを述べたものであった。ここで ,R;, R" RMは,それぞれ第 i株式の(予想)収益率,無危険資産収益率そして市場ポートフォリオの(予想)収 益率であり,またβ,は市場ポートフォリオの上への第i株式の回帰係数である。
彼らは,各株式のリスク・プレミアムの相違が当該株式の収益率と市場ポート フォリオの収益率の共分散のみに依存するものであることを明らかにした。市場 ポートフォリオというキーワードを見出し,その精神を基に,それ以後数多くの 実証分析がなされてきた。幸いにも,株式データは潤沢で、あった。あてはまりの 度合いは,他のミクロ実証分析と同じく,決して良いものではなかったが,・ベー タ値を知る者が市場を征する'とばかりの勢いであった。そうした分析が定着し だした頃,冷水を浴びせかけた論文 (Roll[ll])が出現した。いわゆる,
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ロー*本稿は.1992年5月に武蔵大学にて行われた日本証券学会における報告rCAPMとAPTの検 証」に.加筆修正を加え,東洋大学にて行われた日本経営財務研究学会において,本主主の題目 にて報告した。その際コメント頂いた斉藤 進氏(上智大学)に厚く感謝致します。
34 平均=分散平面と資産評価理論の検証 ルの批判」であった九
ロールの批判の骨子は, (4.1)式における市場ポートフォリオは株式だけでは なく,不動産,骨董,金,銀,宝石,人間資産等を含むあらゆる危険資産から構 成されねばならない,との主張であった。それまでの実証分析においては,一部 分の株式から構成される(代理的)市場ボートフォリオが採用されていた。そのよ うな状況下では,採用された代理変数としての市場ポートフォリオmが効率的 フロンテイア上に位置するならば,リスクとリターンの線形関係式は常に成立す ることであり,それは,真の市場ポートフォリオmに関する (4.1)式について 何らの記述もしていない,というものであった。
すなわち,図1にあるように,採用された代理市場ポートフォリオmが効率 的フロンテイア上にあるとしても,真の市場ポートフオリオMは効率的ポート フォリオから離れている場合も有りうる。いっぽう,図2のごとく,真の市場ポ ートフォリオは効率的フロンティア上にあるにもかかわらず,採用された代理市 場ポートフォリオmは効率的ポートフォリオからかけ離れているかもしれな い。ともかく,検証されるべきことは,真の市場ポートフォリオMが効率的ポ ートフォリオであるという命題についてであり,真の市場ポートフォリオMが 観測可能でない限り, CAPMに関する実証分析は意味をなさないことになる。
実際上,われわれはそこまでのデータを手にすることは無理である。したがっ て, CAPMは理論的には検証可能であるが,事実上不可能である。これが,ロ ールの結論であった。
その後,証券界に近いジャーナルにおいては,
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ベータは死んだか? J
という特 集が組まれたほどであった。学会ジャーナルにおいてもCAPMからAPT(裁定 評価理論)へと関心が移って行った。(4.1)式で表現される CAPMのメリットは,何よりその『簡単さ
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にあっ た。その導出過程はともかく,均衡式は誰にでも理解可能なものであった。市場 モデルと混同きれながら,多くの研究者や証券マンの支持を得たとしても不思議 ではなかった。ところが,よく言われるように,証券市場に万能薬はないのであ2 )ロールの批判を論じた和書の参考文献として,榊原[14J.若杉[17Jを参照されたい。
図 1 図 2 期待収益率
標準偏差
る。その効力にいくつかの疑問が提示されているときの爆弾論文である。瞬く聞 に
CAPM
実証分析はその効力を失うと共に,CAPM
信奉者はその理論を神棚に 杷り上げるより方法がなかった。ベータは死んだのである九しかし悲観的になる必要はない,というのが本稿の目的である。計量分析者 がすべての危険資産を観測可能でない限り,その
CAPM
実証分析は意味を持た ないというのがロールの批判であった。筆者の主張は,r
すべての危険資産を観 測する必要はない。もし資産市場においてCAPM
が成立しているならば,部分 的観測からでも充分近似可能な実証分析を行うことが可能で、あるj,というもの である。すなわち,図2に示されている状況は,ある一定の条件下では,有り得 ないことを示すことができる。その論拠を提示することが本稿の課題であるOE節においては,平均=標準偏差平面上におけるタンジ『エンシー・ポートフォ リオのシャープの尺度を採り上げ,数値実験によりその資産数の増加に伴う変化 について対称的な二つの例を紹介する。 E節においては,資産数が増加するとき 効率的フロンティアがどのように変わっていくか,そして,われわれの関心であ るタンジ、エンシー・ポートフォリオがどのような動きをするかについてが数式の 展開を伴って検討されるO これらの議論を通じて, i斬近的無裁定条件が成立する ならば,資産数の増加とともに,タンジェンシー・ポートフォリオが平均=標準 偏差上のある点に収束していくことが示される。そして ,
N
節においては,シミ 3 )実証分析の大御所であるFama& French[ 2, 3 Jはベータの死にだめ押しを行っている。36 平均=分散平面と資産評価理論の検証
ユレーション実験により,部分的観測から,かなりの精度で真のタンジェンシ ー・ポートフォリオが近似可能であることを確認するO
E
シャープの尺度早速,おおまかな桐察から述べることにしよう。ロールの主張する真の市場ポ ートフォリオ一一実際上定義することはほとんど不可能で、あるが一ーとわれわれ が観測できる代理市場ポートフォリオの相違は資産数にある。前者は N 個の資 産から,そして後者はn個の資産から構成されるものと考えられる。当然,
N>>n
, と予想される。要は,資産数の相違により,何がどれ程異なるかにつ いて把握することが必要となる。われわれは,周知のタンジェンシー・ポートフォリオのシャープの尺度に着目するO
資産数が増えるとき,効率的フロンテイアがどのように変化していくのであろ うか。一般的には,図1および2に示されているように,効率的フロンテイアは 左方に移動していくことが知られているO ロールの主張する検証命題は,
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真の市場ポートフォリオがタンジ、エンシー・ポートフォリオ一一一危険資産からなる効 率的フロンティアに対して,期待収益率軸上の無危険資産収益率を通る接戦を引 くとき,その接点に位置するポートフォリオ一一に位置する.1,ということであ った。タンジェンシー・ポートフォリオに対する接線勾配をシャープの尺度と呼 んでいるわけであるが,それも,効率的フロンティアの左方移動に伴い,資産数 の増加関数となることが知られている。
とりわけ,最も大切なことは,その値は,市場に参加している投資家のリスク とリターンに対する許容度によって決まってくる,ということである。したがっ て,シャープの尺度が資産数の増加に伴い,比例的に大きくなっていくというこ とはリスクとリターンのトレード・オフを前提とする限り有り得ないことであ る。すなわち, 1%のリスクに10%,否100%のリスク・プレミアムを要求する 市場は現実的で、あるか,という問い掛けである。市場が均衡しているならば,タ ンジェンシー・ポートフォリオのシャープの尺度には上限があるはずだと考える ことは自然であろう。何故なら,それがリターンとリスクのトレード・オフを表 現している尺度であるから。
シャープの尺度
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,
一一一一割惨
シミュレーション実験において生成された平均そして分散共分散行列を例にし て検討してみよう九各株式の投資収益率データを用いてタンジェンシー・ポー トフォリオの投資比率を計算してみると,負の値を含んでいることが多い。さら に,ある株式への投資比率が1以上という場合もしばしば経験される。そこで,
われわれはそのような状況に近い形で,データ生成を試みた。そして,そうして 生成された1000個の危険資産の期待収益率と分散共分散行列の数値を用いて,資 産数が増加していくとき,タンジェンシー・ポートフォリオのシャープの尺度が
どのように変化するかについて試算した。その結果は表1に示されている。
資産数の増加と共に,シャープの尺度も増加している。この例では. 1 %のリ スクに対して.10%のリスク・プレミアムが支払われるポートフォリオが存在す ることになる。通常のリスク許容度の範囲外にあると判断するのが妥当であろ う。「より多くの資産を観測すれば,真の市場ポートフォリオが効率的フロンテイ ア上に存在するのが確認できるはずだ