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平均=分散平面上における 裁定評価理論*

ドキュメント内 平均=分散平面と資産評価理論の検証 (ページ 87-100)

I はじめに

市場ポートフォリオの観測という厄介な問題を抱えた資産評価理論(CAPM)の オルターナテイブとして登場してきた検証モデルが, Ross[ 6]の提示した裁定 評価理論(ArbitragePricing Theory: APT)であった。危険資産の分散共分散行列 をファクターモデルを用いて表現するとき,その期待収益率が因子負荷行列の線 形近似式によって与えられることを唱ったものであった。

そしてその後, Chamberlain and Rothschild [ 1 ]において, APT構造の数学的 解明が見事になされてきた。彼らの底意にあった問題意識は,資産市場における 無裁定均衡はリスクとリターンのトレード・オフを表現しているはずだ,という 当たり前のものであった。しかしながら,ヒルベルト空間上における数学的記述 は多くの財務論研究者にとって難解なものであり,彼らの提示した世界を共有す るには多くの時間を必要とした。

本稿においては,ポートフォリオ理論で馴染みの平均一分散平面上において APTを表現することを試みる。そして, Chamberlain and Rothschildの問題意識 に従いながら,彼らの提示したいくつかの命題を確認することにする。数学的表 現を簡単化するため 1ファクター・モデルを想定し,議論をすすめていく。よ

り一般的なモデルについては,別稿に譲ることにしたい。

裁定評価理論

n種類の危険資産が存在するものとしよう。その収益率ベクトルを R(n 1 ) 

本稿は,第15回日本経営財務研究学会での報告(資産評価理論の検証に関する一考察 Yes.it's testable ‑)を書き改めたものである。その際,貴重なコメントを頂いた森平爽一郎氏 (慶応大学)に感謝致します。もちろん,未だ残る誤謬がありますならば,すべて筆者の責任に 帰するものであります。

82  平均=分散平面と資産評価理論の検証

で表す。 1ファクター・モデルの分散共分散行列 V(nn) (7.1)  V=bb' + D  

と記される。ここで,n次元ベクトルbは因子負荷行列である。そして ,D 固有撹乱項の分散共分散行列であり ,n次非特異対角行列とする。さらに,各要 素は有界である。

いっぽう ,n次元期待収益率ベクトルμの近似線形式は

(7.2)μ=')'01 +')'lb+ε 

となる。 1はすべての要素が1からなる n次元ベクトルであり, ')'0, ')'1は一般化 最小二乗法

')'0 

I I  I 

l' 

I  ̲ 

 ̲~ ., 

 ̲

l' 

(7.3) ド

l = j l : , 1 D ‑

1[J bJf‑1

1 : , I D ‑

1.u 

│れ 11

により計算される11。そして, &は評価誤差である。

Ross [ 6 

J

, Hubennan [ 2 ]の提示した裁定評価理論は,漸近的無裁定の下で は,資産数が無限(n→∞)に増えるとしても,評価誤差の2乗和が有限

(7.4)ε'&<∞ 

であることを述べたものであった。すなわち,ほとんどの評価式は誤差がないも の(もしくは,平均的には評価誤差がほとんどOである)と判断してよいことにな

り,称して,近似的線形式が成立することを示した。

通常,漸近的無裁定については,費用Oの裁定ポートフォリオを想定するので あるが,以下においては, Jarrow[ 4 

J

, Ingersoll[ 3 ]にならい,費用 1のポート フォリオを考える。ポートフォリオ理論で馴染みの平均 分散平面上での表現を 考察するためである。こうした枠組みの上で,漸近的無裁定条件式(7.4)式を確 認する。そのために,まず漸近的無裁定の定義から始めようO

漸近的無裁定

危険資産へのn次元投資比率ベクトルをxで表す。

(7.5)  x'1=1 

1)一般化最小二乗法は後の計算を衛単化するためであり,単純最小2乗法としても結果は変ら ない

(7.6)  n→∞ , x'Vx→O 

なる無リスク極限ポートフォリオが存在するものとする。

(A)  無危険資産が存在し,その利子率を島とするとき,無リスク極限ポート フォリオの期待収益率が

(7.7)  x'p.→ro=>0 を満足する。

(B)  無危険資産が存在しないとき (7.8)  x'.μro> 

を満足する。このとき,漸近的に裁定機会が存在しないことになる。

(7.1)式より,ポートフォリオの分散は (7.9)  x'l=(x'b)'+x'Dx 

と計算される。ここで,資産数nが無限になるとき ,x'Dxx'xIIDIIであり,

I I D I I <

∞であるから

(7.10)  x'b0, x'x

を満たすxが存在するときへ無リスク極限ポートフォリオが存在することにな る。そして,その期待収益率は, (7.2)式より

(7.11)  x'μro+x'g  となる。

X'g 

1

<;;,/玩古)(g' g)であるから, (7.9)式より,ピ

ε<

∞のとき,

X'g 

I

→  Oとなり, (7.7)式もしくは (7.8)式の漸近的無裁定定義式が成立することが 知れる。

いっぽう, ε'z→∞になるとき, (7.10)式を満足しながら,少なくとも,

X'g 

I

s >

0となるxを見い出すことが可能となる。このとき, (7.7)式もしく は (7.8)式の漸近的無裁定定義式は成立しなくなる。

以上により,線形評価式における誤差2乗和の有界性が漸近的無裁定のための )いま .x'l なるポートフオリオを考えているわけであるからb=lであるならばx'b 

Oとなるポートフォリオは存在しない。ここではb1と仮定しておく。 b=lについて は裁定ポートフォリオを用いての証明に頼らざるを得ない。

84  平均=分散平面と資産評価理論の検証

必要条件であることが確認された。さらに,われわれのアプローチにおいては,

これまでの検証においてほとんとe注意が払われなかったれの推定値についても,

検定仮説の対象となることを示した。とりわけ,無危険資産が存在しないときの (7.8)式の不等号は検定されるべき仮説であると言える。

E 漸近的平均一分散平面

危険資産数nが有限であるとき,任意のボートフォリオは,平均一分散(標準 偏差)平面上での有効フロンテイアを境界とする実行可能領域にプロットされる ことが知られているonが無限大になるとき,総投資額1単位円のポートフォリ オはどの位置にプロットされるのであろうか。これが出発点である。

いま,ポートフォリオの期待収益率的と標準偏差のは (7.12)  ρμ='1o+'1l(x'b) (x'e) 

σ'p= (x'b)'+x'Dx 

と表される。このとき,大きく分ければ,つぎの4つのケースに分類される。

( i)  1<∞,の<∞

( ii  )  │μρ1<∞,の→∞

(iii)  │的│→∞,の<∞

(iv)  │的│→∞,の→∞

例えばケース(iii)に注目されたい。有限のリスクに対して無限の期待収益率が 約束されるポートフォリオが存在するのである。裁定機会が存在しないならば,

このようなポートフォリオは存在しない筈だと考えても不思議ではない。ポート フォリオのリスクとリターンのトレード・オフを表す物差しは,シャープの尺度 であるO 無リスク極限ポートフォリオを除くポートフォリオについて,ここで は,シャープの尺度が

(7.13)  op=位二'10

σp 

で浪u定されるものとしよう。このとき,各ケースについてのシャープの尺度ん は, ( i)  1 op 1 <∞,  (ii)  1 op 1→O,(iii)1ぁ│→∞, (iv)  1ゐ1<∞もしくは│ん│→∞,

となる。

当然ながら,漸近的無裁定条件(7.4)式が成立するとき, 11<∞となってい るであろう。そして, 1ゐ│→∞であるポートフオリオが作成されるとき,漸近的 裁定機会が存在することになろう,という推測がなされる。このことが,まさに Chamberlain and Rothschildの問題意識でもあった。これらのことを,漸近的無 裁定条件式 (7.4)式を用いて確認することにしようO

まず,の<∞のケース(i )と(iii)について検討してみよう。

(7.14)σ戸.J(X'b)2+(x'x)IID  11 であるから,の<∞であるためには (7.15)  x'x<∞,  Ix'bl  <∞ 

でなければならない。このとき

(7. 16)μρ‑70 1 $; 1 71  1 1X' b 1 + 1 x'ε│ 

$; 1 7111x'bl 

+ パ F 百石三 7

であるから ,E;

ε <

∞のとき, 1μρ‑701 <∞(sp

<

∞)が保証される。ケース(i )  に該当する。いっぽう,ピE→∞のとき. 1μp‑7ol→∞(ゐ→∞)となるxが存在 する。すなわち,ケース(iii)ということになる。

つぎに,ケース(ii )と(iv)のの→∞については ,E;'E;<∞のときあ<∞が保証 されることを確認すればよい。 (7.11)式より,の→∞となるケースとして,つ ぎの3つの場合

(a)  Ix'bl  <∞ x'x→∞ 

(b)  IX'bl→∞ x'x→∞ 

(c) Ix'bl→∞ , x'x<∞  が考えられる。

ケース(a)の場合, (7.11) , (7.13)式より │71(x'b) +x';E

(7.17)  Ispl 

PI  .J (x 

$;‑れ11

1+p.

ぷ│

(X'b)2 . x'Dx 

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

xx  xx 

x't=p.

パ F訂石三了)

86  平均=分散平面と資産評価理論の検証

となり, O

<S42<

∞であるから ,

e '  e<

∞のとき ,

a

t

<

∞が保証されるこ x x  

とになる。

つぎに,ケース(b)(c)の場合

(7. 18)  |ゐ I~

1711 + 

I 嬬│

1 + x'Dx  ct;(x'x) (b'b) 

[x'b =仇j(x'x)(b'b) ) 

と表され,b'b→∞であるから,ここでも,ピ

e <

∞のとき ,

a

t

<

∞が確認され る。

以上の分析により,漸近的無裁定条件ε

' e <

∞が成立するとき,任意のポート フォリオのシャープの尺度んは有界であり,その結果,リスクとリターンのト レード・オフを表象する位置にプロットされることがわかった。逆に,漸近的裁 定機会が存在するとき,シャープの尺度が発散するポートフォリオが存在するこ とになる。すなわち,リスクとリターンのトレード・オフを定義できないポート フォリオを作成することが可能であるO

危険資産数が有限な世界においては,その価格付けが市場の均衡を反映したも のであるか否かを問わず,シャープの尺度は有限であり,それが当たり前の平均 一分散(標準偏差)平面である。評価誤差の2乗和も常に有限で、ある。無限の資産 数の世界においてはじめて主張できる条件式を,現実の世界においていかような 表現と解釈すればいいのであろうか。 APTの検証として定式化されている線形 関係式の統計的有意性は,資産数が無限に増えるときの残差2乗和の有界性を保 証するものではない。むしろ,残差2乗和の有界性は,ほとんどの資産評価式に ついてその決定係数が1に近い値であることを主張しているのではなかろうか。

U  漸近的有効フロンティア

危険資産数が無限になるとき,十分に分散化された(x'x0)ポートフォリオ を作成することにより,固有項の貢献をいくらでも小さくすることが可能であ る。そして,そのような二つのポートフォリオを考えるとき,リスクの源泉は共 通ファクターのみになり,それらの相関係数を 1もしくは‑1に限りなく近づけ

ることができる。

有限な資産数において,平均一分散平面上の離れた三点に,相関係数の絶対値 が1となる資産(もしくはポートフォリオ)が存在するとき,その有効フロンティ アは折れ線型直線で表現されることがよく知られている。 i斬近的有効フロンティ アはこうした直線式に収束する形で表現される。本節においては,無リスク極限 ポートフォリオが存在する場合とそうでない場合の 2種類のフロンティアが存 在することを確認するとともに,それぞれの漸近的有効フロンティア式を導出す る。

E節でみたように,漸近的無裁定条件が成立するとき,平均一分散(標準偏差) 平面上において有効フロンテイアを定義することが可能となる。これまで再々利 用してきた無リスク極限ポートフォリオが存在するならば,それは大域的最小分 散ポートフォリオの収束点であると予想される。まず,そのポートフォリオから 調べてみることにしよう。

大域的最小分散ポートフォリオの分散は 1  1 

(7.19)  dl= ~ =一一一一 S.  1'V‑11  である。ここで, (7.1)式より

(7.20) 

v ‑ 1 = n ‑I ‑.  .  .1,~_,.

D‑'bb'D‑'  1 +b'D‑'b 

であるから, (7.19)式における S.は (J'D ‑'b)' 

̲ ̲ . ̲ 1 .   (

J'D ‑11) (b'D‑'b)  (7.21)  S.=1'D‑'111 

示 Ilb+1

となる。

いま

(7.22)  b = +v,J'n‑1v<∞, v'n‑1v<∞ 

と表されるとき,すなわち ,b と1の漸近的相関係数が1の近傍に入るときを ケースMとよぴ,そうでない場合をケースNとよぶことにしよう。

一般的と考えられるケースNのとき, S.→∞となり, (7.19)式より,大域的

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