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本節では、『バガヴァッド・ギーター』(Bhagavadg¯ıt¯a)における構成原理と3種のグナ について説かれた箇所をいくつか取り上げ考察する。サーンキヤ思想に関連した創造説の 記述は少ないが、特徴的な思想が見られる。

第 6.1 マナスからの創造

『バガヴァッド・ギーター』第7章(=MBh第6巻29章)には、マナスが根本原因の 一つとして挙げられている。

bh¯umir ¯apo analo v¯ayuh. kham. mano buddhir eva ca/ aham. k¯aret¯ıyam. me bhinn¯a prakr.tir as.t.adh¯a//MBh 6.29.4

実に、地、水、火、風、空、マナス、ブッディ、アハンカーラというこの私のプラ クリティは、8種に分かれている。

プラクリティ(根本原因)として、地(bh¯umi)、水(¯apas、火(anala)、風(v¯ayu)、虚 空(kha)56、マナス(manas)、ブッディ(buddhir)、アハンカーラ(aham. k¯ara)の8つが あげられている。

根本原因として8種のものをあげる説は随所で見られる57。それらは、いずれも 8種 の根本原因として、未顕現、ブッディ、アハンカーラ、5粗大元素をあげている。一方、

542章 第5.1節 を参照。

55[引田1997: p. 61]

56虚空の原語として“kha”を用いる例はCSに見られる。第4章 第1節を参照。

57MBh 12.203; 291; 298CS 4.1BC 12などにおいてである。

『バガヴァッド・ギーター』の説では、未顕現に相当するものがなく、代わりにマナスが あげられている。マナスが創造的機能を有する説は、MBh第12巻298章で見られる58。 ここではその直前に 8種の根本原因の説があげられた矛盾した展開が見られるところで もある。また、MS1章ではマナス→マハット→ブッディという創造のラインが想定さ れ59、MBh第12巻326章ではマナスからアハンカーラが生み出されることが想定されて いる60。マナスが創造説に関与することは、『リグ・ヴェーダ』に遡ることも可能である が、SKなどでは全く見られないものである。その代わりに、アハンカーラの創造的機能 の重要性が増している。これらのマナスの創造的機能は、サーンキヤ説がいまだ未整理で あることを物語っている。

ところで、プラクリティに関しては次のようにも説かれる。

apareyam itas tv any¯am. prakr.tim. viddhi me par¯am/

j¯ıvabh¯ut¯am. mah¯ab¯aho yayedam. dh¯aryate jagat//MBh 6.29.5

しかしこれは低次のものであって、それとは別の、私の高次のプラクリティを知れ。

〔それは〕生命をかたちづくるもの、それによりこの世界は維持されている。長い 手を持つものよ。

8つのプラクリティはあくまでも低次であり、それとは別に高次のプラクリティをたてて いるのである。これが未顕現に相当するのか、あるいは、プルシャに相当するのか、この ような簡潔な説明の中では分からない。

いずれにせよ、『バガヴァッド・ギーター』においては、マナスに何らかの生み出す機 能が想定され、サーンキヤ説に類似した原理があげられているのである。

第 6.2 Bhagavadg¯ıt ¯a における 3 種のグナと生まれの 3 段階

3種のグナと生まれの3段階は、この『バガヴァッド・ギーター』においても説かれる。

以下では、『バガヴァッド・ギーター』第14章(=MBh第6巻第36章)における3種 のグナ説をいくつか取り上げ考察する。

まずは、サットヴァについて次のように説かれる。

yad¯a sattve pravr.ddhe tu pralayam. y¯ati dehabhr.t/

tadottamavid¯am. lok¯an amal¯an pratipadyate//MBh 6.36.14

さて、生類は、サットヴァが増大して死ぬとき、最上を知るもの達の汚れなき世界 に到達する。

582章 第4.2節 を参照。

593章 第3節を参照。

602章 第5.3節 を参照。

サットヴァは清浄な世界へ導くものとして説かれる。一方、ラジャスとタマスは次のよう に説かれる。

rajasi pralayam gatv¯a karmasa˙ngis.u j¯ayate/

tath¯a pral¯ınas tamasi m¯ud.hayonisu j¯ayate//MBh 6.36.15

ラジャス〔が増大して〕死に向かうと、行為に執着するものたちのもとに生まれる。

また、タマス〔が増大して〕消滅すると、愚かなものたちの胎の中に生まれる。

ラジャスは行為に執着するものに、タマスは愚かなものに生まれる。サットヴァは清浄な

「世界」へと至るというのだが、ラジャスとタマスは再び「人のもとあるいは胎」へと生 まれるという相違がある。サットヴァは、神の世界や祖霊の世界へと至るイメージで、ラ ジャスとタマスは輪廻するイメージであろう。どちらも、人のみについて言及されている ようである。

また、行為に関連して次のように説かれる。

karman.ah. sukr.tasy¯ahuh. s¯attvikam. nirmalam. phalam/

rajasas tu phalam. duhkham ajñ¯anam tamasah. phalam//MBh 6.36.16

善なる行為からサットヴァ性の汚れがない結果となると言われる。しかしながら、

ラジャスの結果は苦であり、タマスの結果は無知である。

sattv¯at samj¯ayate jñ¯anam. rajaso lobha eva ca/

pram¯adamohau tamaso bhavato ’jñ¯anam eva ca//MBh 6.36.17

サットヴァから知識が生まれ、また、まさにラジャスから貪欲が〔生まれる〕。タ マスから怠慢と迷妄が、そして無知が生じる。

サットヴァは、善行、それによる汚れ無い結果、知識と関係する。ラジャスは、苦、貪欲 に関係し、タマスは怠慢、迷妄、無知と関係する。善行はサットヴァと関連するが、悪行 は何と関連するか説かれていなく、語句の統一がとれていないようである。

そして、3段階に関して、次のように説かれる。

¯urdhvam. gacchanti sattvasth¯a madhye tis.t.hanti r¯ajas¯ah./ jaghanyagun.avr.ttasth¯aadho gacchanti t¯amas¯ah.//MBh 6.36.18

サットヴァに依存するものは上方に行き、ラジャス性のものは中間に止まり、最低 のグナ(要素)の活動に依存するタマス性のものは下方に行く。

このように、サットヴァは上方、ラジャスは中間、タマスは下方に行くことが説かれる。

サットヴァ性は上方と汚れなき世界への到達、ラジャス性は中間と行為に執着するもの たちへの輪廻、そして、タマス性は下方と愚かなものたちへの輪廻に関係する。3種のグ

ナと生まれの3段階について説かれて入るが、SKなどのように、神・人・獣とは、はっ きりと書かれていない61。タマス性が向かう愚かなものたちへの輪廻が獣のこととも考え られるが、先にも述べたように、人に関してのみ言われているように思われる。いずれに せよ、サットヴァは良いもの、ラジャスとタマスは良くないものであり、3種のグナを越 えていくのではなく、サットヴァ性を増大させることが重要視されているようである。

61上村氏は、「シャンカラ(8世紀頃)の註によれば、「上方」は天界を、「中間」は人間界を、「下方」は獣な どを指すという。ラーマーヌジャ(1112世紀頃)の註によれば、「上方に行く」とは、次第に輪廻の束 縛から解放されること、「中間に止まる」とは、天界などの下方を求め、それを享受してからこの世に再 生すること、「下方に行く」とは、最低の状態から動物、虫、・・・・・・石、木、土塊、草などの状態に 行くこと。『マハーバーラタ』および『マヌ法典』を考慮すると、シャンカラの説が良い」と説明してい [上村1992: p. 205]

avyakta

(未開展のもの)

buddhi

(統覚機能)

ahaṃkāra

(自我意識)

śabda ākāśa (音声)

(虚空)

śrotra

(耳)

sparśa

(接触)

rūpa

(色)

rasa

(味)

gandha

(香り)

vāyu

(風)

tejas

(火)

āpas

(水)

pṛthivī

(地)

manas(思考器官)

upastha(生殖器)

pāyu(肛門)

pāda(足)

pāṇi(手)

vāc(発声器官)

ghrāṇa

(鼻)

jihvā

(舌)

cakṣus

(目)

tvac

(皮膚)

8 prakṛti

5 mahābhūtāni

(粗大元素)

16 vikāra 5 buddhīndriyāṇi

(知覚器官)

5 viṣāyaḥ

(対象)

5 karmendriyāṇi(行為器官)

図表9 MBh 12.203における8種の根本原質と16種の変異の展開

1 1 l

i l i

1 1 1 1 1 1

1 1 1 1 1 l

i l i

14

w ' l l

' l l

.

avyakta(未顕現=24番目の原理)

mahat(大なるもの)

ahaṃkāra(自我意識)

5 viṣāyāḥ(対象)

śabda(音声)

sparśa(接触)

rūpa(色)

rasa(味)

gandha(香り)

5 mahābhūtāni(粗大元素)

ākāśa(虚空)

vāyu(風)

jyotis(火)

āpas(水)

pṛthivī(地)

manas(思考器官)

meḍhra(生殖器)

pāyu(肛門)

pāda(足)

hasta(手)

vāc(発声器官)

5 karmendriyāṇi(行為器官)

5 buddhīndriyāṇi(知覚器官)

śrotra(耳)

ghrāṇa(鼻)

jihvā(舌)

cakṣus(目)

tvac(皮膚)

Viṣṇu(ヴィシュヌ=25番目の原理)

? 第4の創造

第3の創造

第2の創造 第1の創造

第5の創造

図表10 MBh 12.291における原理展開

‑ l i

. . .  . 圃 圃 圃 圃 圃 圃 園 圃 圃 圃 圃 圃 圃 圃 . 圃 圃 圃 圃 圃 圃 圃 圃

第 3

Manusmr.ti における世界構成原理