• 検索結果がありません。

第 4 章 不確実性、好奇心、情動持続

第 1 節 AREA モデル

WilsonとGilbert (2008)は情動経験の持続および順応のモデルを作成し、AREAモデル

という名前を付けた(Figure 4)。このモデルでは、最初にポジティブあるいはネガティブな 出来事、つまり一般的に情動喚起刺激と呼ばれる出来事が生じたとき、人はその出来事を 同定しようとする。もしその出来事をうまく説明することができず、かつ自己に関連する ような重要な出来事であるとするならば、その出来事に注意を払う。一方、その出来事を うまく説明することができない、あるいは自分に関係ないような些末な出来事であるなら ば、その出来事に注意を払うことはない。ここで、もしその出来事に注意を向けるならば (Attend)、人は情動的に反応する(React)。さらに人は出来事に対して情動的に反応する時、

その出来事に対して説明をしようとする(Explain)。ここでいう説明とは対象を理解しよう とすることであり、その情報を十分に処理しようとすることとも言い換えられる。しばし ば誤解されることであるが、説明とは他者に対する説明である必要はなく、むしろ自分の 中で出来事に対する説明を十分に行うことであり、説明が十分に行われている場合にはそ れ以上の情報処理が必要とされないとされている。また説明はどのようなものでも良いと されているが、特に、その出来事自体やその出来事の原因、その出来事の結末などが含ま れる。そして情動喚起刺激に対してうまく説明ができれば情動反応はおさまると考えられ ている(Adapt)。一方、もしうまく説明ができなければ情動喚起刺激に対する注意が持続す るため情動反応が持続する。AREAモデルという呼称は、上記のAttend, React, Explain,

Adaptの4単語の頭文字をつなげたものである。

AREA モデルでは説明を促進あるいは抑制する要因がいくつか想定されている。たとえ ば、新規性や驚きなどである。HAPモデルで想定されている多様性もそのひとつである。

そのうち最も適切に概念を表しており、かつ実証研究においてしばしば用いられているの が不確実性(uncertainty)である。不確実性は説明が欠如した状態を表し、情動喚起刺激に 伴う不確実性が高い場合には、情動喚起刺激の感情価に合致する情動が持続することが想 定されている。また、説明が欠如した状態とは、WilsonとGilbert (2008)によれば「出来

27

事の本質(nature)や原因、結果について理解していない状態」とみなすことができる(p. 373)。

HAPモデルにおいて言及されている多様性は、出来事に十分に慣れ親しんでおらず、不確 実性が存在するような出来事であると考えられる。

Wilson らは実験研究においてポジティブ刺激に付随する不確実性を操作することで、不

確実性を高められた参加者は不確実性を高められなかった参加者に比べて情動が持続する ことを実証している(Kurtz et al., 2007; Wilson et al., 2005)。また、注意が情動を持続させ ることは調査研究でも繰り返し実証されている(e.g., Verduyn et al., 2009)。不確実性の操 作は、1ドルコインとともに渡されるカードになぜコインを渡されるかの理解を深めるよう な文言を入れる/入れない(Wilson et al., 2005, study 1)、あるいはビデオを見せた後主人 公のその後と主人公の友達のその後に関する 2 つの文章を読ませるが、どちらが主人公の その後を書いたものかを教示しない(Wilson et al., 2005, study 2)、などの方法で行われて いる。

上記のことをHAPモデルと併せて考えると、Figure 5のようになる。Figure 2におい

てはFigure 1のポジティブ情動の量という概念をポジティブ情動の回数と長さに分割して

提示し、説明の欠如がポジティブ情動持続を予測することを述べた。AREA モデルおよび 一連の実証研究を考える上では、この持続プロセスをさらに細分化して考えることができ、

説明の欠如の一要因である不確実性が注意を促し、その結果情動が持続すると考えること ができる。

しかしながらWilsonらの一連の研究を注意深く検討すると、不確実性の効果の存在を疑 わせる結果となっているものが多い。例えば、Bar-Anan, Wilson, および Gilbert (2009) は、不確実性が情動喚起に及ぼす影響を 4 つの研究にわたって検討している。その中で研 究4では、情動喚起直後と情動喚起の7分後の2回にわたり情動測定を行っていると手続 きで報告されている。それにもかかわらず 2 回目の情動測定の結果については一切触れら れていない。査読論文において有意な効果が存在する結果のみが記されやすい出版バイア スを考えると、2回測定しているにも関わらず結果が報告されていないのは有意な結果が存 在しなかったからであるとも考えられる。また、Whitchurch, Wilson, およびGilbert (2011) の研究でも、刺激提示直後とその後時間を空けて、2度にわたり情動測定を行っている。し かし、交互作用効果は報告されておらず、主効果のみが報告されている。これらは間接的 に不確実性が情動持続に影響を及ぼすかを疑わせる材料となる。両論文が Wilson and

Gilbert (2008)を含むAREAモデルについての言及を序論で行っていることからも、AREA

モデルについて意識されていることは明確であり、この疑いに拍車をかける1

その他のAREAモデルを支持するとされている研究でも、AREAモデルの実証が十分に 行われているかは疑問である。Wilson et al. (2005)では、研究1Aと1Bでは情動喚起直後 の測定を行っておらず、AREAモデルで仮定されている注意の媒介効果も研究2 で部分的 に支持されたのみであった。さらにKurtz et al. (2007)の研究では、不確実性操作が情動喚 起操作と交絡している。この研究では、単純な課題の賞品として 7 個の品が用意され、参

28

加者はその中から2個の賞品を選ぶ。そして5分の1の確率で当たるルーレットを回し、

その結果賞品を受け取ることができると知らされることでポジティブ情動が喚起される

(実際には全参加者が当たる)。参加者はここからランダムに3つの条件に分けられる。再 度ルーレットを回すことで、2個の賞品の内どちらを獲得できるかが分かる確実性条件、こ のルーレットを最後に回す不確実性条件、2個の賞品の両方を獲得できることを教示される 2個賞品条件である。1度目の情動測定はこの直後に行われ、その後フィラー課題を挟んで 2度目の情動測定が行われる。しかし、不確実性条件では2度目の情動測定の直前に2回目 のルーレットを回し、2個の賞品の内どちらを獲得できるかを教示される。これは、不確実 性条件のみ 2 度目の情動測定の前に情動喚起操作がなされていると考えることもできる。

そのため、この手続きに基づく結果はAREAモデルの検討としては疑わしいものとなる(上 記の一連の研究についてはTable 2も参照のこと)。したがって、AREAモデルの妥当性を 再度検討し、実証されないならばその理由について検討することが必要である。

Figure 4. AREA model

Note. Quoted and translated from Wilson and Gilbert (2008) Figure 1.

29 Figure 5. HAP model with AREA model.

要求水準 評価よっ調整 (R) 多様性によっ調整 (R) 出来事の量 感情の回数 説明の欠如不確実性

多様性によっ調整多様性によっ調整 感情の長 よっ調整 注意

維持れる ルビーング 上昇(a)

変化

(+)(-) T2WB T2WB+α

T1WBT2WB T2WB+α

(+)(+) (+) (+)

(+)(+) (+)

30 Table 2. A brief summary of precedent studies

Note. Quoted and translated from Kaneko (2015).

Time 1 is a measurement immediately after emotion induction and Time 2 is a measurement after filler task.

* Time 2 measurement was not reported.

感情価従属変数刺激確実性と不確実性操作測定時点ィラー課

ィラー課題の 情動 起かTime2測定 長さ

注意媒介効果他の可能媒介 要因結果 Wilson, Centerbar, Kermer and Gilbert (2005)Study 1Aィブ感情状態1ン付 ード1ン付きード受け取る、不確実条件の参加 ード、なぜカード渡さ記載1(Time2)なし5支持図書館におい、不確実性条件参加者は確実 性条件の参加者よ幸せ Wilson, Centerbar, Kermer and Gilbert (2005)Study 1Bィブ感情状態1ン付 ード1ン付きード受け取る、不確実条件の参加 ード、なぜカード渡さ記載1(Time2)なし5支持おい、不確実性条件参加者は確実 性条件の参加者よ幸せ Wilson, Centerbar, Kermer and Gilbert (2005)Study 2ィブ感情状態デオープ主人公に関す2つの可能性の文章提示、不 確実性条件で正解教示2(Time 1 Time2)単語生成課題5部分的に支持不確実性条件参加者は確実性条件の参加者よ ィブ感情長く感じ Wilson, Centerbar, Kermer and Gilbert (2005)Study 3ィブ感情状態

異性学生 ィブ ィーック 文章

不確実性条件参加者は、ど異性学生文章書い 教示2(Time 1 Time2)単語探索課題15支持 ィブィー ック与え 異性学生 する好意

不確実性条件参加者は確実性条件の参加者よ ィブ感情長く感じ Bar-Anan, Wilson and Gilbert (2009)Study 1ィブ感情状態デオープデオープ見な、不確実性条件参加者は不確 性の高い文章(e.g. 迷っ)声に出し、確実性条件の 参加者は確実性の高い文章(e.g. 分か)声に出す1(Time1)なしデオープ見た後、不確実性条件の参加 確実性条件の参加者よ、ポィブ感情 強く感じ Bar-Anan, Wilson and Gilbert (2009)Study 2ィブ感情状態デオープデオープ見な、不確実性条件参加者は不確 性の高い文章(e.g. 迷っ)声に出し、確実性条件の 参加者は確実性の高い文章(e.g. 分か)声に出す1(Time1)なしデオープ見た後、不確実性条件の参加 確実性条件の参加者よ、ネィブ感情 強く感じ Bar-Anan, Wilson and Gilbert (2009)Study 3ィブ ィブ感情状態デオープデオープ見な、不確実性条件参加者は不確 性の高い文章(e.g. 迷っ)声に出し、確実性条件の 参加者は確実性の高い文章(e.g. 分か)声に出す1(Time1)なしデオープ見た後、不確実性条件の参加 確実性条件の参加者よ、ポィブ感情 強く感じィブ感情強く感じ Bar-Anan, Wilson and Gilbert (2009)Study 4ィブ感情状態デオープデオープ見な、不確実性条件参加者は不確 性の高い文章(e.g. 迷っ)声に出し、確実性条件の 参加者は確実性の高い文章(e.g. 分か)声に出す2(Time 1 Time2)

デオープ 生じ退屈 怒り評定 質問 7デオープ 対す好奇 不確実性条件参加者は確実性条件の参加者よ ィブ感情強く感じ。こ過程 ープ対す好奇心に完全媒介 た。 Whitchurch, Wilson and Gilbert (2011)ィブ対人魅力と 感情状態

異性学生 ィブ ィーック 文章

不確実性条件参加者は、ど異性学生参加者に対し 最大又は平均的な好意度を示し教示2(Time 1 Time2)*言及言及 注意媒介要因 言及 。不 確実性が魅力 及ぼす効果は 分的支持

対人魅力 検定

不確実性条件参加者は異性学生対し 魅力的に感じ。感情状態関し、不 確実性条件の参加者は平均的な好意度を示さ 教示参加者よ感情状態良か 主効果のみ)、最大好意度を示さ教示 参加者よ良い Kurtz, Wilson and Gilbert (2007)ィブ感情状態1つか2つの 品を獲得不確実性条件参加者は2つの賞品獲得 教示2(Time 1 Time2)

3つの課題(e.g. 賞品写真 む写真を見て ) 言及不確実条件で 注意高か 不確実性条件参加者は1つま2つの賞品 参加者よTime寛恕状態事な Time2おい強いィブ 情を感じ

31