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研究 2 ポジティブ情動喚起刺激の不確実性と重要性が情 動持続に与える影響

研究1ではAREAモデルが支持されず、むしろ情動喚起刺激に対する説明が情動の長さ を短くさせるという可能性を示唆した。しかし手続き的問題が存在し、実験操作に成功し ていなかったため、十分な論拠とはなりえなかった。そこで本研究では、直接情動喚起刺 激の不確実性および重要性を操作することで、AREAモデルの妥当性を検討する。つまり、

もしAREAモデルが正しければ、不確実性を高められた情動喚起刺激に接した場合には、

重要性を高められた情動喚起刺激に接した場合に比べて情動が持続しやすくなると考えら れる。

出来事の重要性が情動を持続させることは調査法を用いた先行研究により知られており、

例えばVerduyn et al. (2009)は、情動を喚起した出来事や喚起された状況の重要性が高いほ

ど、恐怖(fear)、怒り(anger) 、喜び(joy)が持続することを明らかにした。同様にVerduyn et al., (2011)は,重要性が高いことが喜び(joy)、感謝(gratitude)、怒り(anger)、悲しみ(sadness) を持続させることを明らかにした。こうした現象が生起する理由のひとつとして、出来事 の重要性が高いと情動喚起時の情動の強さが高まり、その結果情動が落ち着くまで時間が かかるとする説明が提唱されている(Verduyn et al., 2015)。ここでいう重要性とは状況をど の程度重要であると知覚しているかであり,主観的経験であると言える(Sonnemans &

Frijda, 1994)。

また本研究では、情動強度の減少パターンについて、先に挙げた3類型(i.e. 初期効果型、

非低下型、初期効果型+非低下型)のいずれが観察されるかを検討する。もしAREAモデ ルが正しければ、非低下型が観察されると考えられる。理由は、不確実性は情動喚起刺激 に対する注意を促すため、情動喚起刺激に対するアクセスが長時間続き、結果として情動 強度の低下速度が遅くなると主張されているためである(Wilson & Gilbert, 2008)。ただし、

一部の研究では不確実性が初期効果型を示していると考えられることから(Bar-Anan et al., 2009; Whitchurch et al., 2011)、不確実性がどのような情動持続の型を示すかを探索するこ とは、AREA モデルを検討するうえで特に意義があるであろう。一方、前述の通り重要性 が高いと情動喚起時の情動反応が強まるため情動が持続しやすい。したがって重要性が高 い場合には初期効果型を示すと考えられる。

本研究の概略は以下のとおりである。まず不確実性と重要性の効果を検討するために、

偽の能力検査に対する良い成績のフィードバックを用いてポジティブ情動を喚起する。た だし成績フィードバック時点ではどの能力を測定したかは伝えない。次に情動喚起刺激に 対する不確実性と重要性を操作するために参加者をランダムに 3 条件に分け、条件に応じ て成績フィードバックの直後に与えられる情報を変える。不確実条件の参加者は能力検査

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でどの能力が測定されたかを実験の最後に教えると教示される。重要条件の参加者は能力 検査で測定された能力が参加者にとって重要なものであったと教示される。非重要条件の 参加者は能力検査で測定された能力が参加者にとって重要でないものであったと教示され る。次に情動反応を自己報告で測定し(Time 1)、5分間のフィラー課題1を行った後、再び 情動反応を自己報告で測定する(Time 2)。最後に情動喚起刺激である能力検査結果に対する 注意の程度を測定する。

本研究では情動反応を自己報告で測定する。これはWilsonとGilbertが自己報告に基づ いた測定をしており(e.g., Wilson et al., 2005)、また調査を通じて行われる情動持続研究に おいても自己報告に基づいた測定が行われており(e.g., Verduyn et al., 2009)、結果の比較 および解釈が容易であるためである。さらに、本研究においてネガティブ情動ではなくポ ジティブ情動を喚起した理由は、Wilson と Gilbertの一連の研究がポジティブ情動に限定 されたものであり、比較がしやすいためである。また、ネガティブ情動の抑制に関する検 討は情動制御研究の文脈でしばしば行われているが(Gross, 2013)、ポジティブ情動に関す る知見の蓄積は相対的に少ないことも理由の一つである。

本研究は実験的研究であり、情動の持続を、フィラー課題を間に挟んだ 2 回の情動反応 測定の差分として捉えることになる。また、実験直前に情動測定を行わないため、非重要 条件を対照群として不確実条件と重要条件の効果を検討する。非低下型と初期効果型の検 討は、以下の基準で行われる。2要因分散分析において条件(参加者間:不確実条件 vs.重

要条件vs.非重要条件)×測定タイミング(参加者内:測定1 vs.測定2)の交互作用効果が

観察され、かつ測定 2 において不確実条件あるいは重要条件で非重要条件よりもポジティ ブ情動が強いとき、非低下型が観察されたと考える。2要因分散分析において条件×測定タ イミングの交互作用効果が観察されず、かつ主効果検定において不確実条件あるいは重要 条件で非重要条件よりもポジティブ情動が強いとき、初期効果型が観察されたと考える。2 要因分散分析において条件×測定タイミングの交互作用効果が観察され、かつ主効果検定に おいて不確実条件あるいは重要条件で非重要条件よりもポジティブ情動が強いとき、非低 下型および初期効果型が観察されたと考える。本研究における仮説は先行研究に従い、不 確実性が高いときには非低下型の持続が観察され、重要性が高いときには初期効果型が観 察されるとする。

方法

参加者

東京都内の大学に通う学生 92 名が実験に参加した(女性53 名、男性39名。平均年齢

19.35歳、SD=1.27)。参加者は個別に実験に参加した。また参加した学生には心理学の授

業内で期末成績に加点が行われた。参加者は実験について説明を受けた後、同意して実験 に参加した。また、本研究は筆者の所属する大学の倫理審査委員会からの承認を受けてい る。

44 手続き

参加者は個別に実験室を訪れ、実験内容を簡単に説明された後、参加に同意したうえで 実験に参加した。実験はコンピュータ上で行われた。参加同意に際しては、参加が自由で あること、途中でやめる権利を有すること、データは匿名化されたうえで学術目的にのみ 利用されること、の説明を受けた。これらの倫理的配慮に加え、本実験は筆者の所属する 研究機関に付属する倫理委員会の承認を受けている。

本研究ではディセプションが行われ、実験は潜在能力検査と日用品のアンケートの、別々 の 2 つの調査で構成されていると教示された。参加者は最初に偽の能力検査に回答した。

この能力検査は現在の能力を測定するというよりも潜在的な能力を測定すると教示された。

また、実験冒頭でこの検査がこれまでの研究から信頼できるものであるとわかっていると の教示を行った。能力検査の内容としては、家族構成や日々の健康習慣などから、様々な 場面での行動選択、普段保持している願望、様々な状況における動物の写真選択など、日 ごろ学生がウェブサイトや本で目にするいわゆる心理検査などに近い形で作成された。本 研究ではしばしば心理学の研究で使用されるような尺度をあえて使用せず、また現在の能 力ではなく潜在能力を測定すると教示したが、その理由はフィードバックされる偽の結果 が参加者の自己評価と合致しない場合に結果の信頼性が低下する可能性を抑制するためで ある。

能力検査ではどの能力を測定するかを冒頭では伝えられず、代わりに参加者は 6 つの能 力を重要な順に並び替えた。6 つの能力とは、「初対面の人と打ち解ける能力」、「動物にな つかれる能力」、「ホームシックにならない能力」、「危機管理能力」、「プレゼン能力」、「整 理整頓する能力」であった。その後、上述のような質問に回答し、ポジティブな能力検査 結果がフィードバックされた。能力検査結果を 1 分間見た後、どの能力について測定され たかを教示された。この教示内容は、参加者がコンピュータ上でランダムに割り当てられ た3つの条件に応じて異なっていた。不確実条件の参加者は、最初に並び替えた6 つの能 力のうちいずれかの能力を測定されたことを教示されたが、どの能力を測定されたかは実 験の最後に教えると伝えられた。重要条件の参加者は最初に並び替えた6つの能力のうち、

参加者が最も重要だと評定した能力を測定されたと教示された。非重要条件の参加者は参 加者が最も重要でないと評定した能力を測定されたと教示された。

操作終了後、操作チェック項目および情動状態に関する質問に回答し(測定 1)、フィラ ー課題として日用品に関するアンケートに 5 分間取り組んだ。日用品に関するアンケート は、身の回りの日用品について普段および今後どの程度使用されるかを評定させるもので あった。ここで取り上げられた日用品は糸、色鉛筆、絵具などであり、情動に影響を及ぼ すとは考えにくいものであった。その後、再び情動状態に関する質問に回答し(測定 2)、 併せて能力検査結果にどの程度注意を向けたかを回答した。最後に参加者はディブリーフ ィングを受けた。実験目的に気づいた参加者はいなかった。なお本実験がディセプション