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第2項では,実母の自殺,虐待,DV,実父との子どもの妊娠,いじめ被害,貧困など,

過酷な成育歴を有するにもかかわらず,現在,適応的な生活を営めている A を対象にし,

Aのリジリエンスやアタッチメントを獲得安定型の視点も踏まえて検討した。以下,まず,

A のアタッチメントスタイルやIWMについて考察し,その後,それらの可変性とその変 化要因,獲得された安心感尺度との関連を考察する。

(1)アタッチメントとアタッチメントスタイルの変化

Aは2歳の時,実母の自殺により,アタッチメント対象を喪失した。また,その頃,す でに実父のDVがあった。さらに,実母の死後,Aの養育を担っていた継母1からもネグ レクトを含む虐待が行われていたため,安定したアタッチメントスタイルを形成しづらい 環境に置かれていたと推察される。これらのことは,「高校生になるまで友人と呼べる友人 はほとんどいなかった」「人の目を見ることができなかった」「人を恐れ極度の猫背であっ た」とAが語ったことからも推察される。上記の理由からAは幼少期には不安定なアタッ チメントスタイルを有していたと推察される。一方,現在のAのアタッチメントスタイル は,質問紙調査によると安定型であることが示唆された。このように,Aのアタッチメン トスタイルは,幼少期には不安定型であったと推察されるものの,現在は安定型に修正さ れていることが示唆され,Aは獲得安定型であることが示唆される。以下,これらの点を

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踏まえ,アタッチメントスタイルやIWMの可変性について考察する。

(2)重要な人物から獲得された安心感と獲得安定型の関連

第 4 章では,アタッチメントスタイルが不安定型から安定型へ変化するにあたっては,

情緒的支持を与えてくれる人物の存在や,その重要な人物から獲得された安心感が関連す るのではないかという先行研究の指摘(青木,2012b;澁江・葛西,2012b)に基づき,

リジリエンス,アタッチメント,獲得された安心感の視点から獲得安定型に至る要因を質 問紙調査と面接調査によって検討した。その結果,質問紙調査によって測定したAの獲得 された安心感は,全ての下位尺度(被献身感,獲得的安心基地,感謝・恩,負い目,代理 親)において満点であり,AはSOから強い安心感を得ていたことが示された。ただし,

Aの獲得された安心感尺度得点は満点であることから,Aの回答の妥当性には疑問の余地 が残された。しかし,Aは,面接調査においても,SOの献身的な援助(被献身感),家族 のような温かさや安心感(獲得的安心基地),ありがたみ(感謝・恩),結納までしてもら ったのに逃げ出して申し訳ないという思い(負い目),父親のようだという感覚(代理親)

を語った。そのため,Aの獲得された安心感尺度における回答の妥当性に疑問の余地は残 されたものの,これらの回答結果は概ね信頼できると思われる。

これまで,不安定なアタッチメントスタイルが安定したものへと変化する過程において,

情緒的支持を与えてくれる人物の存在や,その重要な人物から獲得された安心感が関連す ることは示唆されていたものの,重要な人物からその個人に対して,どのような関わりが あり,その個人はその関わりをどのように感じていたのかについて,十分には明らかにさ れていなかった。しかし,Aへの調査によって,被支援者がSOから献身的な支援を受け たという感覚,SO が安心基地(Bowlby,1988)の役割を果たしているという感覚,SO に対する感謝,SO が親のようであったという感覚を感じられるようになることがアタッ チメントスタイルの修正と関連することが示唆される。また,不安定なアタッチメントス タイルを有している人々は,Ainsworth et al.(1978)によると「自分が保護や支援を必 要としても周囲はそれに応えてくれない」「自分は受容され,愛され,価値のある存在では ない」というような IWMを有しているため,支援者が前述したような関わりを繰り返す ことによって,支援者の援助に対して被支援者は負い目を感じることもあると推察される。

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3SOの一貫性

面接調査によって,どのような関わりが SO を重要と感じさせたのか,SO がもってい る要素は何かを問い,検討した結果,Aが不安定なアタッチメントスタイルやIWMの影 響を小さくできた 1 つの要因として SO が「一貫していた」ことがあると推察される。

Ainsworth et al.(1978)は,アタッチメントスタイルは,養育者がどの程度一貫性をも

って子どものアタッチメント欲求に応じたかによって決定されると指摘している。つまり,

Ainsworth et al. (1978)によると,アタッチメント欲求を表出した際に,たいていはそ

のアタッチメント欲求に応じてもらえた子どもは安定型のアタッチメントを形成する。そ して,ある時は応じてもらえたがある時は応じてもらえなかった子どもはアンビバレント 型のアタッチメントを形成する(Ainsworth et al., 1978)。さらに,アタッチメント行動 をとっても,養育者から反応が得られない場合が多く,泣いたり近接を求めたりすればす るほど養育者が忌避してますます離れていった場合は回避型のアタッチメントを形成する ことが指摘されている(Ainsworth et al., 1978)。そして,抑うつ傾向が高かったり,精 神的に極度に不安定であったり,日頃から子どもに対して虐待や不適切な養育を施したり するなどの危険な兆候がある場合は D 型のアタッチメントスタイルを形成することが指 摘されている(e.g., Lyons-Ruth & Jacobvitz,1999;Solomon & George,1999)。Aは

「人一倍甘えたいのに今でもなかなか甘えられない」「どうやって甘えたり頼ったりしたら いいかわからない」と語ったことから,他者に甘えることへの希求と抵抗感を抱いている ことが窺える。

Aの場合,何か危機が生じた時に本来逃げ込む安心基地であるはずの親自身が存在して いなかったり,Aに危機や恐怖を与る張本人であったりした。そのため,Aは親に近づく ことも遠退くこともできなかったと思われる。このような環境で育ったのならば他者に頼 ったり甘えたりすることが困難になるのは自然なことであり適応的なことであると思われ る。しかし,Aの語りから他者に頼ったり甘えたりしないことや,それらをすることが困 難であるということが支援を必要としないということや,それらへの希求がないというこ とと同じではないことが示唆された。Bowlby(1977)は,アタッチメントは「揺りかご から墓場まで」(p.203)という特徴を有し,人生を通して継続的に影響を与えると指摘し た。そして,坂上(2005,p.33)によると,不安定なアタッチメントスタイルが形成され,

不安定なIWMを有していると,自分が保護や支援を必要とする時に,アタッチメント対 象はそれに応じてくれるという確信がもてず,自分はアタッチメント対象から受容され,

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愛され,価値のある存在であるという,自己についての主観的な考えがもてない。また,

Bowlby(1980)によると,そのIWM は特定のアタッチメント対象との関係だけでなく,

他の人との関係性においても一般化されるようになっていったり,加齢とともにますます 安定性を増し,変わりにくくなったりすることも指摘されている。A の場合,SO との関 わりなどから自分が有しているIWM に疑問をもち,より現実に即したIWM へへと修正 していったと推察される。しかし,Aの「人一倍甘えたいのに今でもなかなか甘えられな い」「どうやって甘えたり頼ったりしたらいいかわからない」との語りから,山岸(2008)

や,Pearson et al.(1994)が指摘したように,獲得安定型の人々の言動からはIWMが安

定したように見えても,内面では幼少期から継続的に不安定なIWM の影響が残っている 可能性があることが支持された。

一方,第2章(澁江・葛西,2012b)では,回避型であると推察され,他者からの支援 を拒絶し,殺人未遂を起こすなど重度の不適応状態であった6歳児が,ある教師の献身的 で一貫した関わりを通して,自分自身や他者への信頼感を形成し,適応していったことを 報告した。A がSO の言動が一貫していたことを強調したことや,澁江・葛西(2012b)

の調査結果から,不安定なアタッチメントスタイルを修正するにあたっては支援者の一貫 性と繰り返しが重要な要素であることが示唆される。しかし,澁江・葛西(2012b)にお ける教師や本研究におけるSOのように,一貫性,あるいは「こいつの人生,俺が腹くく って抱えたる」というような覚悟をもって人に関わることは容易なことでない。また,そ のように関わることでAのようにアタッチメントスタイルを安定したものへ修正したり適 応的になれたりする可能性もあるが,援助者側が燃え尽きてしまう可能性も考えられる。

さらに,Bowlby(1980)によると,人は自分のIWMに合うように現実を解釈し,次なる

関係性を導いていくため,IWM は加齢とともにますます安定性を増し,変わりにくくな ると言われている。また,Bowlby(1980)によると,IWMは特定のアタッチメント対象 との関係だけでなく,他の人との関係性においても一般化されるようになっていき未来の 関係性をも導いていくとも言われている。そのため,個人が形成した不安定型の IWMか ら引き起こされている対人関係のパターンに支援者が巻き込まれないことも重要であると 考えられる。

4)リジリエンス

次に,Aのリジリエンスについて考察する。リジリエンスとは,「困難で脅威的な状況に

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