§ 4.2.1 “
自由
”エネルギーの物理的意味
自由エネルギーとは
,一言でいえば
,自由に仕事に変換できるエネルギーであ る
†459.そこで
,準静的仕事などの仮定をおかずに
,第一法則を立てる
†460:d′Q= dU + d′W ≤TdS (4.25)
†455この力学的平衡条件は,体積に関する平衡条件といえる.
†456[イメージ] S=Smax(あるいはdS= 0)は,過程に沿って状態の始点から終着点までを積分して
辿り着いた結果という意味で,いわば,積分型の条件といえる. これに対して,表現(4.22)(4.24) は,偏微分係数として導かれたことを振り返ってもわかるように,微分型の条件といえる.
†457[重要]“熱平衡状態では,接触している2つの物体の温度は等しい”という天下りな経験則が, 熱
力学の法則から導かれたことを意味する.
†458[重要]変化(過程)は,可能な変化と不可能な変化の2通りに分類される. たとえば,断熱系では エントロピーが減少する変化は決して起こらないし,定容等温系では自由エネルギーが増加す る変化も起こりえない(次節§4.2.2). このようなことは, 当たり前と感じているかもしれない が,そうならば,諸君は,経験則として認識しているということである. 経験に頼らずに, 法則 として保証するのが,熱力学の立場であって,同時に,本節を学ぶ目的でもある.
†459[発展]本資料では,等温下で有用な自由エネルギーのみを議論するが,他の“自由”なエネルギー
(“自由”エンタルピーなど)にも同様の議論が適用できる. 自由エンタルピーの物理的意味の理
解には,化学変化を含めた議論(後半の講義で学ぶ化学ポテンシャル)を要するため,前半の講 義では踏み込まない.
†460“仕事”それ自体を議論するために,余計な仮定を持ち込みたくないからである.
最右辺の不等号の根拠は第二法則
(4.13)である
.少し移項しておこう
:d′W ≤ −(dU −TdS) (4.26)
ところで
,等温環境下で
Fを微分すると
,次式が成立した
†461:dF|T = (dU −TdS−SdT)T = dU −TdS (4.27) (4.26)
の右辺に
(4.27)を代入すると, 重要な関係式
d′W ≤ −dF|T (4.28)
をうる
.有限量で表現した方がわかりやすいので
,過程
12に関して積分しておく
:W12≤(F1−F2)|T (4.29)
等温下で系ができる仕事
W12には
,上限値
(等号成立時
)があることがわかる
.それは
,自由エネルギーの
“減少
”量
F1−F2に他ならない
†462†463†464. “自由
”エネ ルギーは
,ある特定の環境下で
†465,仕事として
“自由に
”取り出せるエネルギーを
†461厳密には,最右辺のdU とTdSにも, T 固定を明示すべきであるが,省略した.
†462[注意]ここで最重要なのは,自由エネルギーの消費量が仕事を与えることにある. 不等号がわか りにければ,それは二の次としてよい(重要でないという意味ではない).
†463等温定容系に対する自由エネルギー最小の原理(次節§4.2.2)によれば,不可逆過程の進行に伴 いF は減少するので, 右辺F1−F2 は正値をとる.
†464[例]たとえば,W12= 100−40としよう. 系が仕事をするために,系が保有する自由エネルギー を60だけ使い,その結果,自由エネルギーは100から40まで減少した.
†465[基礎]等温以外に,たとえば断熱環境下ではどうだろうか. 第一法則を立てよう:
d′W = (d′Q−dU)断熱=−dU =⇒ W12=U1−U2 (4.30) したがって,“断熱”下において系からとりだせる仕事は,内部エネルギーの減少分と等しい. こ
れを, “等温”下において自由エネルギーから取り出せる仕事と対称的に理解しておくとよい.
[注意]この場合は,熱を消去するので,熱とエントロピーの大小関係を取り込むことができない
(すなわち,第二法則を導入できない). それゆえ,不等式の形にはできず,仕事の“最大”量の議
論までは不可能である.
意味する
†466†467†468†469.§ 4.2.2
自由エネルギーの変化方向
: dF ≤0熱力学第一法則
(内部エネルギー
U)に対する
(4.15)と同様に
,自由エネルギー
Fに対する熱力学恒等式
(1.9)も
,不可逆過程も含めた不等式の形に書き換えてお こう
†470.すると,
Fの変化の方向が見えてくる.
F ≡U −T S
の微小変化は
dF = d(U −T S) = dU −TdS−SdT (4.32)
であった
.ここで
,最右辺第
1項と第
2項に
,準静的過程の第一法則に不可逆性
(第 二法則) も含めた不等式
(4.15)を代入すると
†471,dF +SdT = dU −TdS ≤ −pdV (4.33)
となり
,次の
Fに関する不等式の形に整理される
:dF ≤ −pdV −SdT (4.34)
†466[自由エネルギー] F の定義式を眺めるよりも,移項した方がわかりやすいだろう:
U =F+T S= (自由エネルギー) + (束縛エネルギー) (4.31)
U の右辺の2項ともにエネルギーを意味する. U のうち“自由に”使える(仕事として取り出せ る)エネルギーがFである. 用語「“自由”エネルギー」の背景はここにある. この意味で,理論 最大仕事(maximum theoretical work)ともいわれる.
†467[束縛エネルギー]自由エネルギーF に対して,T S は使えないエネルギーであり, 束縛エネル
ギーとよばれる. T S も仕事に変換できないのだろうか. これは無茶である. 内部エネルギー U =F+T Sの全てが仕事に変換可能とすると,系の内部エネルギーはゼロに至るが,これは熱 力学が許さない. 系は必ず内部エネルギーを保有せねばならない. T Sが束縛エネルギー(bound
energy)とよばれる理由も, 内部エネルギーとして, 系に束縛されて残留するという点にある.
これで, (0.1)において,和ではなく“差”として自由エネルギーを定義した理由がわかるだろう.
†468[基礎復習]不可逆過程とは,たとえば,摩擦熱の発生を意味する. このとき, d′Q < TdS にした
がってエントロピーが生成される. この無駄なS が,束縛エネルギーT S に対応すると捉える とよい. 第二法則の主張「熱は,その一部しか, 仕事には変換できない」を思い返そう.
†469[例]全預金U =F+T S のうち,銀行に束縛される定期預金がT S,自由に引落可能な普通預金 が F と捉えるとよい.
†470前節§4.2.1の数式の一部を流用してもよいのだが,初めの段階で等温を仮定したため,混乱を防
ぐべく, あえて,初めから式変形を行う(面倒だと思う者は,適宜,前節の数式を利用されたい).
†471だから, まずはじめに, エントロピーを議論したのである.
さて
,右辺を見ると
,等温かつ定容条件において
,次式をうる
:dF ≤0 (4.35)
等号成立
(dF = 0)のとき
, Fの不可逆過程は止まり
(熱平衡状態
), Fは極小値を とる
.過程の進行において
, Fは必ず減少し
,増加する方向はありえない
.これを
,エントロピー
“最大
”の原理に対応して
,自由エネルギー
“最小
”の原理という
.等温定容系とは
,どのような状況下であろうか
.室内に置かれた水など
,固体 や液体はふつう定容であって
,室温も実験中にふつう変化しない
.前節
§4.2.1の結 果も踏まえると, 固体や液体の保有する内部エネルギーのうち, 仕事に変換可能な 部分を評価する上で, 自由エネルギーの概念が有用な道具になるといえる
†472.§ 4.2.3
定容等温系の熱平衡条件
§4.1.1
の孤立断熱系の問題を, 外界と全体系
Cの間での熱の交換を許す場合
に拡張する
†473.外界は透熱の剛体壁であって
,外界と系
Cは等しい温度にあると する
.それ以外の条件は
§4.1.1と同一
,すなわち
,外界と系
Cの間で仕事のやり取 りは起こらない
†474†475.以上の仮定のもとで議論を進める
.等温系という仮定より
,すでに
,TA=TB = const.≡TC (4.36)
は自明である
.したがって
,圧力の議論
(pA=pBの証明
)に集中する
.F
は示量変数であるから
,Sと同様に相加性が成立する
.不等式
(4.34)の右辺 を見て
, Fの独立変数を
(V, T)とするが
, (4.36)より温度は定数であるがゆえに
,†472[応用]化学反応において利用されることが多い. ただし,化学反応はふつう常温常圧(温度も圧 力も一定)の環境下で行われるため, ふつうは,自由エンタルピーを利用する.
†473[注意]§4.1.1でも,部分系AとBの熱の交換は考慮したことを忘れてはならない. 本節の拡張
は,これに加えて,外界と全体系Cの熱の交換も許すことを意味する.
†474全体系Cの体積は一定(定容系)である.
†475[イメージ]系Cが液体あるいは固体である場合が,これに相当すると想像するとよい.
F
は形式的に容積
Vの
1変数関数となる
†476†477:FC =FA(VA) +FB(VB) =FA(VA) +FB(VC−VA) =FC(VA) (4.37) (4.35)
より
, Fが極値をとるとき
(すなわち
dF = 0を満たすとき
),熱平衡状 態に至り
,変化は止まる
.いま
, FCの
VAに関する導関数を考えると
,dFC(VA)
dVA = dFA(VA)
dVA +dFB(VC −VA)
dVA =−pA+pB = 0 (4.38)
がいえるので
†478,圧力の熱平衡条件をうる
:pA =pB (4.39)