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4.電力市場への影響

ドキュメント内 自然エネルギー最前線 in U.S. (ページ 43-46)

電力需要の低下と天然ガスの価格下落に加えて、追加の発電コストがほぼゼロの風力・太陽光発電の拡大 により、石炭火力と原子力は市場からはじき出される。米国の電力会社の中には、変化に対応できずに苦し んでいる例が少なくない。

風力や太陽光で発電した電力は追加コストがほぼゼロで済む。需要に応じてコストの低い順 に電力を供給していくメリットオーダーのルールでは最初に選ばれる。電力の消費量が伸びな い状況では、風力・太陽光発電設備が新たに運転を開始すると、追加コストが高いガス火力・

石炭火力・原子力の電力は減っていく。と同時に電力需要の減少によって市場価格が下がり、

火力と原子力は経済的に二重の影響を受ける。

米国では最近

2

年間の卸電力の価格が極めて低い水準で推移した(図

23)。例えばテキサス

を中心とする

ERCOT

では

2~4

セント/kWh、カリフォルニアの

CAISO

では

2~5.5

セント

/kWh、中部の MISO

では

2.5~4

セント/kWh、東部の

PJM

では

3~4.5

セント/kWhの範囲で ある(月間平均)。

図 23:主要な市場における卸電力価格(月間平均値、2016-2017年)

出典:US EIA「Monthly Average Wholesale Electricity Prices at Selected Trading Hubs, 2016-2017」

さらに石炭火力発電に対する厳しい環境規制(特に発電所からの排出量を制限する

「Mercury and Air Toxics Standards」の施行)が加わり、わずか

7

年間 で全米の半数以上の石 炭火力発電所が廃止に追い込まれた。2017年

10

月の時点で

262

カ所の石炭火力発電所が

2010

年以降に廃止あるいは廃止決定の状態になった。残っているのは

261

カ所である。しかも 運転中の石炭火力発電所のうち、2017年に収入が経費を上回って利益を稼いだのは半分だけ だった。

原子力発電所も同様だ。2017年の時点で米国には

99

基の原子力発電所(合計で約

1

kW)が稼働しているが、そのうち半数以上が赤字に陥り、合計で 29

億ドルにのぼる損失を計

上した。利益を出せなくなった原子力発電所の廃止が各地で始まっている。2013年以降に

5

カ 所の原子力発電所で

6

基が閉鎖された。さらに

9

カ所の

12

基は計画よりも早く閉鎖が決まっ た。

廃止あるいは廃止予定の原子力発電所の大半は、ライセンスが終了する

10

年以上も前に廃 止される(表

5)。米国でも日本と同様に運転開始から 40

年間、さらに更新すれば

20

年間の 延長が可能であるにもかかわらずだ。

表 5:経済的な理由で2013年以降に廃止・廃止予定の原子力発電所

出典:IAEA「Country Statistics: United States of America」、US NRC「Status of Initial License Renewal Applications and Industry Initiatives」、電力会社の公開情報(2018411日時点)

その一方で原子力発電所の新設・増設計画が南東部の

2

つの州で進んでいたが、サウスキャ ロライナ州の「VC Summer原子力発電所」の建設はコストの増加と工期の遅延により断念し た。ジョージア州の「Vogtle原子力発電所」で

3・4

号機(各

110

万キロワット)を増設する 計画も、コストが当初の

140

億ドルから約

2

倍の

250~270

億ドル(約

2.75~3

兆円)に拡大 する見込みだ。原子力発電の復活を目指す“原子力ルネッサンス”の先行きは明るくない。

発電所(州) 廃止年 ライセンス終了年 設備容量(万kW)

Crystal River-3 (Florida) 2013 2016 86

Kewaunee (Wisconsin) 2013 2033 57

San Onofre-2&3 (California) 2013 2022 215

Vermont Yankee (Vermont) 2014 2032 61

Fort Calhoun-1 (Nebraska) 2016 2033 48

発電所(州) 廃止予定

ライセンス終了年 設備容量(万kW)

Oyster Creek (New Jersey) 2018 2029 62

Pilgrim-1 (Massachusetts) 2019 2032 68

Three Mile Island-1 (Pennsylvania) 2019 2034 82

Davis-Besse-1 (Ohio) 2020 2037 89

Beaver Valley-1&2 (Pennsylvania) 2021 2036, 2047 183

Perry-1 (Ohio) 2021 2026 126

Indian Point-2&3 (New York) 2021 未定 206

Palisades (Michigan) 2022 2031 81

Diablo Canyon-1&2 (California) 2025 2024, 2025 226

石炭火力と原子力に依存してきた電力会社は厳しい状況に追い込まれている。象徴的な例 は、破たんした大手の

Energy Future Holdings

FirstEnergy

2

社である。

テキサスで最大の電力会社だった

Energy Future Holdings

は、2014年に破産を宣告した。所 有する

1500

kW

を超える発電設備のうち約

3

分の

2

が石炭火力と原子力だったため、コス トの安いガス火力や風力と競争できなくなったことが要因だ。一方の

FirstEnergy

2018

年に 入って破産を宣告したが、その理由は

3

カ所の原子力発電所を抱えるグループ内の発電事業会 社の業績悪化にあった。

いまや石炭火力と原子力の発電所は補助金に頼らなければ生き残れない状態だ。例えば米国 で最大の原子力事業者である

Exelon

は、15カ所の原子力発電所のうち

4

カ所で補助金を受け て運転を続けている。

しかし老朽化した石炭火力と原子力に補助金を与えることは適切なのだろうか。米国全体の 発電・燃料事業の雇用者数を見ても、石炭の

17

万人に対して、太陽光は

2

倍以上の

35

万人に 拡大している(図

24)。原子力は 7

万人に過ぎず、風力の

11

万人よりも少ない。

図 24:米国の発電・燃料事業による雇用状況(単位:万人、2017年第2四半期)

出典:EFI & NASEO「U.S. Energy and Employment Report 2018」

現在のところ石炭火力と原子力が影響を受けているが、ガス火力も安泰ではない。ガス火力 に依存してきた

NRG Energy

の発電事業会社

GenOn

2017

年に破産した。もはや風力・太 陽光発電を中心に新たな戦略を選択する電力会社が増えるのは必然だろう。

ドキュメント内 自然エネルギー最前線 in U.S. (ページ 43-46)

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