風力と太陽光が急速に拡大している州では、出力が変動する電力を送電網に大量に取り込む技術が有効 に使われている。
米国の送電事業者は出力変動型の自然エネルギーの増加に対応できる能力があることを実証 している。導入量の多い州では年間の発電量のうち風力の比率は
15~35%程度、太陽光の比率
は
10~15%程度に達するが、それでも出力抑制の比率は相対的に低い。
中西部を中心にテキサスの一部もカバーする送電事業者
SPP(Southwest Power Pool)が好
例だ。2016年に風力の比率が17%近くまで上昇した状況の中で、出力抑制の比率は 2%以下に
収まっている(図19)。このほかに ERCOT(主にテキサスをカバー)でも 2016
年に風力が14%近い比率に達したが、出力抑制は 2%以下である。
図 19:米国の送電事業者による風力発電の出力抑制率と導入率(2007-2016年)
注:導入率は他地域からの輸出入分を含む電力消費量に対する比率、出力抑制率は想定発電量に対する比率。
出力抑制は強制的な場合のほかに経済的な理由によるものを含む。
PJMの2012年の数値は6月から12月までの推定値。
出典:US DOE「Wind Technologies Market Report 2016」
太陽光においても、全米で最も多く太陽光による電力を受ける
CAISO(主にカリフォルニア
をカバー)が十分な対応能力を示している。2017年には太陽光の比率が年間に11%を占めた
が、出力抑制の比率は1.3%に収まった(図 20)。
図 20:米国の送電事業者CAISOによる太陽光発電の出力抑制率と導入率(2015-2017年)
注:導入率は他地域からの輸出入分を含む電力消費量に対する比率、出力抑制率は想定発電量に対する比率。
出力抑制は強制的な場合のほかに経済的な理由によるものを含む。
分散型の太陽光発電システムを含まない。
出典:CAISO「Managing Oversupply」(2018年3月26日時点)
とはいえ出力変動型の自然エネルギーを大量に送電網に取り込むためには、簡単な対策では 済まない。以前の
ERCOT
における風力発電の状況を見るとわかる。ERCOT
では2009
年に風力の比率が6%以下だったにもかかわらず、他地域との連系能力が
低いために、出力抑制の比率が
17%に達してしまった(前ページの図 19
参照)。その後に「CREZ(Competitive Renewable Energy Zones、自然エネルギー強化ゾーン)」を対象に
5800
キロメートルに及ぶ送電線の新設・増強を実施したことで、出力抑制が大幅に減少してい る。CREZは風力発電の集中地域から大都市の消費地までの送電能力を高めるプロジェクト で、2013年までにほぼ完了した。太陽光発電では
CAISO
の対策が進んでいる。他の地域と連系する能力を十分に生かしなが ら、ガス火力と水力発電を組み合わせて需給バランスを調整する。その典型的な例を図21
に 示す。2つのグラフのうち上は太陽光の比率が高い日の電源構成、下は皆既日食によって太陽 光で発電できない時間帯が発生した日の電源構成である。太陽光で供給する電力の変動に対し て、火力・水力発電の出力増減、さらに他の地域から連系線を通じた電力の輸入で対応した。図 21:典型的な日の太陽光発電の活用パターン(CAISO)
注:分散型の太陽光発電システムを含まない。
地域間の連系は風力と太陽光の電力を送電網に取り込むうえで重要な役割を果たしている。
NREL(National Renewable Energy Laboratory、米国立再生可能エネルギー研究所)が数多く
の研究を通じて、今後さらに地域間の連系の役割が高まることを分析した。より広い範囲で電 力の需給バランスを調整できれば、出力変動型の自然エネルギーの増加に柔軟かつ簡単に対応 できることを明らかにしている。その好例として、米国の西部で実施している
EIM(Energy Imbalance Market、エネルギー需
給調整市場)は注目すべき対策である。EIMは米国で初めて電力をリアルタイムに取引できる市場で
CAISO
が運営している。広域の電力需要に対して、コストが最も低い電力をシステムが自動的に探し出す。2014年に取引が始まり、現在も対象地域を拡大中だ(地図
10)。
地図 10:米国の西部で拡大中のEIM(エネルギー需給調整市場)
出典:Western EIM「Western Energy Imbalance Market」(2018年4月時点)
EIM
によって広い範囲に分散する電源を最適に組み合わせることが可能になり、より多くの 風力と太陽光を活用できるようになった。と同時に、送電網のどの部分がボトルネックになっ ているかがわかるため、これから投資すべき場所も把握できる。こうした米国内の地域間連系に加えて、国際連系線による電力の輸出入がある。米国とカナ ダのあいだには、2016年の時点で約
1800
万キロワットの容量の国際連系線が稼働中だ。さら に新しい連系線のプロジェクトも進んでいて、約200
万キロワットの増加が見込まれる。代表的なプロジェクトは、米国の北東部マサチューセッツ州とカナダの南東部ケベック州を 結ぶ「New England Clean Energy Connect」である。最大
120
万キロワットの容量で2
つの地 域を結ぶ計画だ。カナダの安価な水力発電の電力をより多く米国に供給できる一方、米国内で 風力・太陽光発電の電力が増加した場合にはカナダに送って需給調整を図る。もう
1
つの重要な対策は電力の貯蔵である。現在のところ米国で最も多く使われている貯蔵 方法は揚水発電だ。2017年の時点で2280
万kW
の容量がある。大きな容量だが、日本の揚水 発電(2760万kW)と比べると小さい。
新たな電力貯蔵の方法として、蓄電池が状況を一変させる可能性がある。蓄電池のコストが 劇的に低下して、これまで需給調整に使われてきた火力発電や揚水発電と比べて競争可能な状 況になりつつある(図
22)。
図 22:米国の事業用蓄電池と従来の需給調整方法とのコスト比較(均等化発電原価による)
注:ガスレシプロエンジンは火力発電による新しい需給調整方法で、運転開始までの時間が短くて高効率。
オープンサイクルガスタービンは火力発電による需給調整方法として現在のところ全世界で最も普及。
出典:BNEF「Levelized Cost of Electricity March 2018」
風力や太陽光と蓄電池を組み合わせて、需給調整力の点でもガス火力と比べてコスト競争力 の高いプロジェクトが出てきた。電力会社の
Xcel Energy
が2017
年末に実施した入札では、補 助金がつく条件ながら、風力+蓄電池が2.1
セント/kWh、太陽光+蓄電池が3.6
セント/kWh(いずれも入札価格の中間値)という記録的な低さになっている。今後さらに蓄電池のコスト 低下が進み、火力発電よりも有効な需給調整手段として使われる可能性が高まってきた。
電力貯蔵の分野では、カリフォルニア州の取り組みが政策面で最も先行している。過去
10
年間に、2つの法案(Assembly Bill 2514、同2868)と支援策の SGIP(Self-Generation Incentive Program、自家発電促進プログラム)を実施した。
2013
年のAB2514
により、CPUC(California Public Utilities Commission、カリフォルニア 州公益事業委員会)がカリフォルニアの大手電力会社3
社に対して、2020年までに合計132.5
万kW
の電力貯蔵能力を調達するように命じた(設置完了は2024
年)。その3
社はPacific Gas and Electric(PG&E)、San Diego Gas and Electric(SDG&E)、Southern California Edison(SCE)である。各社ごとに送電網・配電網・利用者側の目標値が定められている。
2017
年2
月の時点で3
社を合わせて47.5
万kW
の調達が完了している。さらに
2016
年に成立したAB2868
により、3社は分散型の電力貯蔵設備を最大50
万kW
追 加する対策を求められた。分散型の電力貯蔵設備を配電網に接続するか、利用者のメーターの 内側に電力貯蔵設備を設置する必要がある。自家発電促進プログラムの
SGIP
においても、インセンティブを得るための手段の1
つとし て電力貯蔵システムの利用が認められている。2016年末の時点で、メーターの内側に蓄電池を 設置するプロジェクトが住宅用・非住宅用を合わせて700
以上にのぼっている。合計で約5
万kW
分がSGIP
のインセンティブを受けた。太平洋に浮かぶハワイでは、島々を結ぶ連系線もないため、電力貯蔵システムの重要性が高 まっている。ハワイで最大の電力会社
Hawaiian Electric Company(HECO)は、現在までに 10
以上の電力貯蔵プロジェクトを実行中あるいは計画中である。その中で最も大規模なプロ ジェクトでは、出力9
万kW
の蓄電池を2018
年の第3
四半期(7~9月)に導入する予定だ。ハワイには太陽光で発電した電力の自家消費を促進する「CSS(Customer Self-Supply、需要 家による自家供給)」と呼ぶプログラムもある。住宅などの屋根に設置した太陽光発電システ ムと蓄電池などの電力貯蔵システムを組み合わせて、送配電網に電力を供給しないようにす る。CSSは太陽光発電の導入が活発な地域でも、申込・認定の手続きを迅速に処理してもらえ る。
風力と太陽光の出力変動に対する最後の手段として、デマンドレスポンス(DR)がある。
DR
は需要抑制契約や時間帯別料金など各種の方法によって、利用者の需要を特定の時間帯に 限定して削減する。米国の送電事業者7
社によるDR
の規模を合計すると、2016年に2870
万kW
の削減をもたらした。ピーク需要の5.7%に相当する電力を抑制できている(表 4)。ただ
し地域によって差がある。表 4:送電事業者によるデマンドレスポンス実施状況(2016年)
送電事業者 規模(万kW) ピーク需要に対する比率(%)
California ISO (CAISO) 200 4.3
Electric Reliability Council of Texas (ERCOT) 230 2.9
ISO New England (ISO-NE) 260 10.2
Midcontinent Independent System Operator (MISO) 1070 8.9
New York Independent System Operator (NYISO) 130 3.9
PJM Interconnection (PJM) 980 6.5
Southwest Power Pool (SPP) 0 0
合計 2870 5.7
出典:FERC「Assessment of Demand Response and Advanced Metering 2017」
米国全体では、DRのうち