2―2―2で述べたように、経年劣化によるオリジナル資料のスカート 裾裏フリルの下部欠損部分の形を考察するために、以下の同時代 のウォルトのドレス4点の調査を行った。
3―2―1.中山忠彦所蔵ウォルトドレスについて
洋画家、中山忠彦氏所蔵のほぼ同年代のウォルトのドレス2点 の裾裏にフリルが付いている。これらのドレスは 中山忠彦 永遠 の女神展(2008年3月〜10月)において、アトリエ後藤が、その修 復と着せ付け展示を担当したものである。いずれも、ツーピースドレ スであるが、スカートの裾裏に裏生地の共布にギャザーを寄せたフ リルが付いている。
写真34 インサイドベルト付け方(文化学園服飾博物館所蔵) 写真37 スカートタック始末(文化学園服飾博物館所蔵)
写真35 胸ドレープ内側(文化学園服飾博物館所蔵) 写真38 裾裏フリル(文化学園服飾博物館所蔵)
写真36 アームホール部分(文化学園服飾博物館所蔵)
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12.8cm 1.5cm
0.8cm 1.4cm
3.0cm
2.3cm
欠損部分の復元の参考資料として使用することを氏に願い出 たところ、協力を快くご承諾いただいた(2008年7月)。氏の了解の 下、採寸と写真撮影を行った。
中山氏所蔵のドレスは、1点はペールブルーのシルクサテンにラ インストーンの刺繍のあるドレスで、もう1点はカーネーション柄のシ ルクシフォンのドレスである。これら2点のスカート裏裾には、上端に 小さな半円形の、下端には大きな三角形のスカラップのある、よく似 たフリルがついている。
ペールブルーのドレス
スカートに表生地とほぼ同色のシルクタフタの裏生地が付き、裾 裏に1本のミシン縫いでギャザーを寄せた共布のフリルが付いて いる。丈は12.8cm。付け範囲は裾寸法472cm の内315cm で、脇 ピースの途中から後に付いている(写真39〜42)。
カーネーション柄のドレス
スカートに、黄緑色のシルクタフタのアンダースカートが付いてお
り、裾裏に2本のミシン縫いでギャザーを寄せた共布のフリルが付 いている。丈は13.4cm。付け 範 囲は 裾 寸 法343cm の内295cm で、前のピースには付いていない(写真43〜46)。
中山氏所蔵のこれら2点のフリルを採寸し、比較検討した結 果、この2点の上下のスカラップは同じ形であると判断した。上は
写真41 ペールブルードレス裾裏フリル上部(中山忠彦所蔵)
写真42 ペールブルードレス裾裏フリル下部(中山忠彦所蔵)
写真39 ペールブルードレス(中山忠彦所蔵)
写真40 ペールブルードレス裾裏フリル(中山忠彦所蔵) 写真43 カーネーション柄ドレス(中山忠彦所蔵)
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3.0cm
2.3cm 0.8cm
1.4cm
13.4cm
2.0cm
1.0cm
0.8cm 1.4cm
3.0cm
2.3cm
1.2cm 0.45 〜 0.5cm
0.8cm 1.4cm
13.3cm
9個のギザの入った半円形のスカラップで幅1.4cm、高さ0.8cm、
下は大きなギザの中に小さなギザの入った三角形で幅3cm 高さ
2.3cm である。スカラップは、布端が解れているため分かり難い箇 所も多いが、写真を拡大し、解れを考慮して、そのアウトラインを取 り、再現した(図8)。
当時、スカラップは手回し式のピンキングマシーンで作られてい たと考えられる。この2点が同じ形をしていることから、同時代の同 じメゾンの衣裳は同じ道具でカットされた可能性が高いと考えられ る。
図8 スカート裾裏フリルのスカラップ実物大(中山忠彦所蔵)
写真44 カーネーション柄ドレス裾裏フリル(中山忠彦所蔵)
写真47 裾裏フリル上部アップ(オリジナル資料)
写真45 カーネーション柄ドレス裾裏フリル上部(中山忠彦所蔵)
写真48 裾裏フリル(オリジナル資料)
写真46 カーネーション柄ドレス裾裏フリル下部(中山忠彦所蔵)
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比較検討
オリジナル資料のフリルは下部が欠損しているため、上部を中山 氏のものと比較検討した。
スカラップはほぼ同じ寸法で、オリジナル資料のスカラップにも同様 のギザがあると確認できる箇所があった。このため、上部スカラップ は同じ形であると判断した。
また、ギャザーを寄せた位置が上端から1.2〜2.0cmと近い寸 法であること、フリル上端から裾までの寸法は、13cm 前後であるこ とも類似している(写真47・48)。さらに、いずれも脇のピースから後 にフリルが付いている。同時代のウォルトのドレスであり、ギャザーを 寄せたフリルであること、上部スカラップの形状の一致と他の類似 点から、オリジナル資料の裾裏フリルは中山氏のフリルと同じ形の 下部スカラップがあった可能性が高い。これらの異なる点は、ギャ ザーの寄せ方にある。オリジナル資料のフリルは2本の手縫い、中 山氏のフリルは2点ともミシン縫いで、1本と2本の違いがあるが、
このことはスカラップの形を判断する上で、あまり考慮する必要はな
いと考える。 (文責:アトリエ後藤)
3―2―2. フランス・パリ市立ガリエラモード美術館所蔵 ウォルトドレスについて
フランス・パリ市立ガリエラモード美術館(Musée Galliera de la mode de la Ville de Paris)にウォルトの同年代のドレスの裾裏フ リルの形状についての訪問調査を依頼した。パリ市立ガリエラモー ド美術館は、18〜20世紀の衣装を中心に、コスチューム(女性服、
男性服、子供服)とアクセサリーをおよそ51,000点所蔵する。その 中からメゾン・ウォルトで1900年前後に製作されたドレスという条件 で調査を依頼し、結果、2点のドレスの見学と写真撮影の許可を 得た。
同美術館所蔵のドレスは、2点ともツーピースタイプで、1点は 黒いシャンティイレースとスパンコール刺繍が施された生成りのシル クサテンとチュールのドレス(Robe de théâtre ou de grand dîner)
で、もう1点は黄色い花綱柄で肩にベルベットリボンがついた生成 りのシルクサテンのドレスである。
Robe de théâtre ou de grand dîner 1903年頃
(1)(写真49)。 スカートの裏生地は、裾から15cmくらいの位置で生地が切り替 えられ、その生地と共布の2本のミシン縫いでギャザーを寄せたフ リルが付いている。前のピースには付いていない(写真50)。シルクサテンの花綱柄ドレス
スカートの裏生地は、表生地に対してやや濃い目の布が使用さ れていた。裾裏には2本のミシン縫いでギャザーを寄せた、裏生地 とは別色のタフタで作られたフリルが付いていた。前のピースには
付いていない。
2点のフリルとも、中山氏所蔵のドレスと同様に、上端に小さな 半円形の、下端には大きなギザの中に小さなギザの入った三角形
のフリルがついている。写真から割り出したフリル下部の寸法は、幅 約3.0cm 高さ約2.2cm のスカラップで、図8のスカラップ下部の 大きさ・形状とほぼ一致する。丈は約12.2cm である。また、パリ市 立ガリエラモード美術館の裾裏フリルは2点ともミシン縫いで2本 ギャザーを寄せるためのミシン縫いが施されている。
比較検討
パリ市立ガリエラモード美術館の裾裏フリルは2点ともほぼ同じ 寸法であり、オリジナル資料や中山氏所蔵の裾裏フリルと比較する と、わずかに丈が短い。しかし、中山氏所蔵のフリルと下部のギザ の形状はほぼ一致する。同時代の同じメゾンで制作されたドレス
写真49 Robe de théâtre ou de grand dîner(1903 年頃)(パリ市立ガリエラモード美術館所蔵)
写真50 裾裏フリル(パリ市立ガリエラモード美術館所蔵)
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であることを考慮すると、オリジナル資料の裾裏フリルが同じピンキ ングマシーンで裁断された可能性がさらに高まると考えられる。
上記のように比較検討した結果、復元ドレスには図8のスカラッ プの形を採用することとした。 (文責:ドレス復元)
註
(1) :Exhibition catalogue, Palais Galliera Musée de la Mode et du Costume,Paris,1990,p.101
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