に検挙された事件で,警察庁に報告のあったもののなかから,35件を抽出して,その実態に関する詳細な調 査(以下「共犯事件に関する調査」という。)(注)を行った。
その結果,暴力団員等と来日外国人との関係は,多種多様であるものの,次のような傾向が認められた。
暴力団員と来日外国人の接点は,我が国の国際化の進展の影響で,あらゆる日常的な場面において認められ る。共犯事件に関する調査においては,暴力団員等と来日外国人が共犯関係を構築した経緯として,以下のよ うなものが見受けられた。
○テキ屋を資金源の一つとしている暴力団員が,日当稼ぎのためにテキ屋の手伝いをしていた中国人と親交 を持ち,当該中国人又はその者から紹介された中国人と共犯関係を構築するに至った。
○暴力団員及びロシア人の双方が,暴力団員の所属する暴力団の縄張内にあるロシア人が多く集まる飲食店 に客として来店した際に知り合いとなり,何度か飲食を共にする過程で相互に共犯関係を構築するに至っ た。
○日本に永住した中国残留孤児の子息である暴力団員が,他の暴力団員と不良中国人グループとを結びつけ,
双方が共犯関係を構築するに至った。
○暴力団幹部が,韓国からの留学生を配下の暴力団員とし,その者に指示して韓国人の友人数人を集めて,
共犯関係を構築するに至った。
○日本人の不動産ブローカーが,取引先の中国人から犯行を持ちかけられ,知人の暴力団員を紹介したとこ ろ,当該暴力団員と中国人が共犯関係を構築するに至った。
○暴力団員が商用で中国に渡航した際,常習的に集団密航を行っているとみられる中国人と面識を持ち,帰 国後,当該中国人から紹介を受けたと自称する在日中国人から,集団密航の手伝いをするように依頼され,
共犯関係を構築するに至った。
ア 集団密航事件における役割分担と収益の分配
集団密航事件は,特に中国人と暴力団員が共謀して敢行されることが多い犯罪である。
大半の集団密航事件は,中国人が首謀者であるため,密航者の募集,密航計画の立案,密航代金の設定と徴 収,密航用船舶の手配,日本における船舶の接岸場所の選定等は,すべて,中国人が行っている。暴力団員は,
日本に在住する中国人から,接岸場所での密航者の受入れと輸送,密航者の一時的な滞在場所の確保とそこで の監視等の役割を分担するよう依頼されるが,集団密航計画の全体を把握していない場合が多い。
組 織 犯 罪 と の 闘 い
(注)共犯事件に関する調査では,10年から14年までの間に全国の都道府県警察が検挙し,その概要が警察庁に報告された事件で,暴力団員等と来日外国 人が共犯関係等何らかの関係を構築して敢行したと思われるもののうち,約百数十件の報告内容を精査し,それぞれの事件の捜査過程で,暴力団員 と来日外国人の関係が比較的解明されているものを35件抽出した。さらに,その35件の事件について,警察庁職員が当該事件の捜査を担当した都道 府県に赴き,捜査記録を閲覧するなどして,
①暴力団員等と来日外国人が接点を持ち,共犯関係を構築するに至った経緯
②暴力団員等と来日外国人の犯行時における役割分担
③犯罪収益の分配状況
中国人が,暴力団員にこれらの役割を分担するよう依頼する理由としては,
○密航者の受入れ,輸送,監視等は,集団密航を行う上で,警戒中の警察官に発見,検挙される可能性が高 い危険な役割であること。
○日本の運転免許証を持たない中国人は,密航に必要な大型車両をレンタカー会社から借り受けることがで きず,また,密航者の一時的な滞在場所としての宿泊施設等の手配も困難であること。
などが挙げられる。中国人の首領は,検挙される危険が大きい密航者の受入れ現場には現れず,携帯電話等で,
配下の中国人又は暴力団員に指示を与えている状況がうかがわれる(典型的な共犯形態に関して図1-62参照)。
警察に検挙された被疑者の供述によれば,集団密航により中国人が密航者から徴収する密航代金は,一人当 たり約150万円から300万円程度であるとうかがわれる。これらの集団密航に関する収益と経費については,
中国人の首謀者がその全体を掌握しており,暴力団員は,詳細には知らされていないことが多い。このため,
暴力団員が集団密航に荷担したことに対する成功報酬は,収益の一定割合ではなく,役割に応じた定額報酬と されていることが多い。報酬額は,共犯事件に関する調査によれば,
○45人の密航で経費(レンタカー,隠匿場所等の借料)とは別に250万円
○8人の密航で経費を含めて80万円
○約100人の密航で,日本近海洋上での密航者受入用船舶の手配,密航者の受入れ,レンタカーの手配,密 航者の一時滞在場所の手配等を依頼され,経費を含めて約3,000万円
等,様々である。
集団密航に荷担する暴力団員等は,概して指定暴力団の四次組織,五次組織の末端構成員,準構成員等であ り,調査した事例の範囲では,一次組織,二次組織のレベルで,暴力団が組織ぐるみで集団密航に関与してい る状況は判明していないが,ある検挙事例では,指定暴力団の三次組織の組長が,配下組員に対して「これは,
組の仕事だから」と言って指示を出している状況も見受けられ,また,別の三次組織では,集団密航の手引き をシステム的に組の資金源とし,そのための専門集団を形成しているとの供述も見受けられた。
第
1 章
組 織 犯 罪 と の 闘 い
仕出側蛇頭首謀者
受入側蛇頭首謀者
現場責任者(蛇頭)
配下中国人
現場において密航者の受入,移動,見張り
共謀 暴力団側首謀者
末端暴力団員 中
国
日 本
図1-62 中国からの集団密航事件における共犯形態の例
イ 強盗事件における役割分担と収益の配分
強盗事件における暴力団員と来日外国人の関係は,共犯事件に関する調査によれば,集団密航の場合とは異 なり,具体的な犯行計画を積極的に持ちかけるのは,暴力団員である場合が多い。
広範な情報網と人的ネットワークを持つ暴力団員は,日常的に,強盗が容易な対象(例えば,多額の金銭を 保管しており,人気が少ない家屋や事務所,多額の現金を輸送する警備の手薄な現金輸送車等)に関する情報 を収集している。これを利用して,下見を行い,犯行に必要な凶器を調達し,入念な犯行計画を策定したうえ で,危険な犯行を厭いとわない来日外国人に実行行為を依頼する。来日外国人側の首領格の者は,自分の手足とな る数人の来日外国人を誘い入れ,これらの者と共同して,暴力団員が策定した犯行計画に従って,犯行を行っ
組 織 犯 罪 と の 闘 い
平成10年5月,指定暴力団四次組織の幹部甲は,都内の繁華街にあるパチスロ店で中国人A及びBと顔見 知りとなった。甲は,Aらと話をするようになり,何回か飲食を共にするうちに,Aらから,集団密航の手伝いをするよ う持ちかけられた。甲は,報酬が高額であったことから,これに応じることとし,これまで,数回にわたり集団密航の手 伝いをしてきた。
今回も,Bから,「近々,都内の海岸に密航者45人を載せた貨物船が接岸するので,これを受け入れる仕事を手伝って 欲しい」と依頼された。具体的には,密航者を乗せるパネルバン2台を用意すること,密航者を一時的に隠匿するための 貸別荘を用意すること,パネルバンの運転手を用意すること,密航者を監視することなどを依頼された。そこで,配下の 暴力団員ら2人に,詳しい事情を説明しないまま,これらの準備を行うように指示して準備を行った。これらの経費は,
すべてAが支払った。
密航当日は,接岸場所に甲ら3人,A,B及び中国人数人が待機し,貨物船から45人の中国人密航者を受け入れ,パネ ルバンに分乗させ,千葉県内の貸別荘まで運搬した。
貸別荘では,甲ら3人と中国人らが密航者を監視し,Aらは,携帯電話を利用して,中国在住の密航者の家族,親類ら に連絡し,密航が成功したことを伝えた上で,密航代金を支払うよう命じていた。
甲は,報酬としてAから250万円を受け取る約束になっており,その中から35万円を配下の2人に支払うこととしてい た。
Aらは,別の中国人Cから指示を受け,現場における密航の仕事を取り仕切っていたことが判明したが,Cは逃亡中で ある。
A,Bらは,密航者から徴収する密航代金は,一人当たり約300万円で,これは,中国に在住する密航者の家族,親類 らから中国の密航組織が取り立てると供述した(千葉)。
指定暴力団員乙は,知人から「知り合いの蛇頭が,暴力団の上の人を紹介して欲しいと言っている」と言 われたため,これを指定暴力団幹部甲に持ちかけた。甲は,乙らの仲介で,蛇頭を自称する中国人A,B,Cらと会い,
報酬を得て,偽装結婚等の犯罪を手伝うようになった。
その後,甲は,Aらから「実は,中国人約100人を密航させる話がある。日本近海まで別の船で運ぶが,洋上で日本の 船に積み変えて接岸したい。船の手配,密航者を運ぶトラック等の準備,密航者を匿う家屋の準備をして欲しい」と頼ま れ,知り合いの元指定暴力団員丙,配下指定暴力団員丁らと共謀し,これらの手配をして密航の受入れをした。
関係者は,密航代金は,中国人密航者1人につき250万円から300万円であると供述している。日本側暴力団員らに対 しては,合計約3,000万円が支払われている。このうち,船舶の手配をした漁師に約400万円が支払われ,残金約 2,600万円を甲と丙で約1,300万円ずつ分配し,それぞれの配下に30万円から100万円の報酬が支払われた。