圧縮側フランジ断面積
9. プレストレストコンクリートの力学
9.2 PC鉄筋の緊張と定着方法の力学
9.2.1 ピアノ線の緊張と定着方法
細いPC鉄筋単独はPC鋼線と言い、俗称でピアノ線と呼ぶ強度の高い、長い線材として製鋼工場で 製作されます。一本当たりの断面積を大きくしませんので、これを素線として何本か(2,7,12,19 本な どの種類があります)をより合わせたものを通称でストランドと呼びます。複数のストランド単位をさ らにより合わせた太い線材がロープです。ここまでが材料としての用語です。ケーブルは、ロープを部 材として使うときの用語です。ほかにも種々の用語がありますが、概念的には、この程度の区別で理解 するのがよいでしょう。何本もの素線で構成されたストランドまたはロープは、それを引っ張る(緊張 する)端部で「素線単位に分けて咥(くわ)える道具、引っ張る装置、定着させる道具」を使います。
素線単独または2本よりを使うプレテンションPC鉄筋は、工場のヤード内で素線を緊張し、それを囲 むようにコンクリートを打ちます。最初からコンクリートと付着させますので、コンクリート硬化後、
PC鉄筋を端部で切断するだけで、特別な定着道具類を使いません。そうすると、端部で素線がコンク リートに引き込まれる力が働きますが、自由端から或る長さ区間の剪断応力度が鉄筋を定着し、残りの 大部分は剪断応力度が出ません。
9.2.2 コンクリートに注目した場合
PC,RCを問わず、鉄筋とコンクリートとの接触は、反対向きの剪断応力度が相互に応力を伝えあ います。鉄筋全体が圧縮応力場にあるか、曲率を持つ場合には側面から鉄筋を圧迫しますが、この応力 の影響は差し当たっては考えません。鉄筋は細長い材料ですので、表面の剪断応力度を介して鉄筋の軸 方向の応力度が変化します。コンクリートの方は鋼材よりも剪断強度がずっと低いので、コンクリート の方に視点を置いた付着応力度の用語を使います。原理的には剪断応力度と同じですが、用語から連想 されるように、付着強度はコンクリートの引張強度とほぼ等価です。水平に置いた曲げ部材の曲げモー メントは、鉛直方向の荷重を受けて長手方向に変化します。それに合うように、鉄筋の軸応力度も長手 方向に変化します。この変化分を補うのが鉄筋表面の剪断応力度です。したがって、直径の大きな鉄筋 であると、長手方向の応力度変化を補うコンクリート側の剪断応力度が不足し、鉄筋とコンクリートと がズレて一体断面の仮定に合わなくなります。つまり、計算上の所要鉄筋量は、部材寸法に応じた適度 な小寸法の鉄筋に分けて配筋しなければなりません。大きなプレストレスを加えるために多くの素線本 数をまとめたロープ状のPC鋼材は、付着による応力の取り合いが殆どできませんので、独立した構造 部材の扱いをしなければなりません。そうであると、必ずしもコンクリート断面内にPC鋼材を埋め込 む必要がありません。これが外ケーブル施工になります。
9.2.3 鉄筋に注目した場合
普通の鉄筋コンクリート部材は、設計荷重の範囲では材料を弾性限度内で使います。鉄筋応力度は、
コンクリート応力度のn倍です。nは鋼材とコンクリートとのヤング率比です。コンクリート断面の引 張り強度を仮に圧縮強度の 1/10 とし、n=10 とすると、コンクリートに引張り亀裂が出ない範囲ならば、
引張り側鉄筋の応力度の大きさは、せいぜいコンクリートの圧縮強度止まりです。この大きさならば、
鉄筋を定着させるために特別な道具を使うまでもなくて、圧縮側コンクリートまで鉄筋を引き込んで、
付着応力度に期待して定着させます。プレストレスを加えるPC鉄筋は、力学的に明確なメカニズムで コンクリート側に圧縮の反力を伝えなければなりません。このメカニズムを代表するのが定着用のコー ンや金具類です。この全体は、言わば、釘の頭やボルトの頭のようになって、コンクリートの中にPC 鉄筋が引き込まれないようにする目的を持ちます。この頭部分は円柱形状が基本です。なるべく寸法を 小さくし、作業性がよいように工夫しますが、適度な長さと断面積が必要です。コンクリートに対して、
円柱断面は支圧応力の作用領域であり、円柱側面の断面積が剪断応力度、つまり付着応力度の作用領域 です。PC鉄筋は、この円柱内部に定着させます。PC鉄筋を拘束するには二つの選択肢があります。
摩擦を効かして止めるのと、端部にネジを切ってボルトで止めるのとです。溶接する・巻きつける、な どは実用になりません。一般に、ネジの部分は強度上の弱点になります。長い長さで供給される素線は、
現場で或る長さに切断して、そこにネジを切る加工に向きません。直径の大きなPC鋼棒は、工場で製 作するときに鍛造でネジ加工した定尺製品として出荷されます。
9.2.4 摩擦が効くようにクサビ作用を利用する
引張試験機を使って鋼棒のような引張り材の強度試験をするときは、鋼棒を端部で咥える道具を使い ます。この固定はクサビ状の金具を使って鋼棒を挟み、横締め力を発生させ、摩擦力で引き抜きを拘束 します。単純な構造ですが実に効果的です。クサビを囲む外側は横締め力の反力を受けますので、膨ら みに抵抗する丈夫さが必要です。引張りに抵抗するのは、力学的には剪断力です。材料の接触面が不揃 いになっていますので、ミクロに見た剪断応力度の分布は不揃いです。接触部分も均一ではありません ので、横からの圧縮応力度の大きさも不揃いです。大雑把に見積もって、接触部分の面積は、剪断応力 度が過大にならないようにします。引き抜きに抵抗する力は、横締め力×摩擦係数です。横締め力は、
材料を横から圧縮しますので、あまり接触面積が小さいと過大は圧縮応力度になって、クサビの箇所で 材料が破断します。つまり、クサビ作用で引張り材を拘束するには、或る程度の長さを必要とし、換算 の剪断応力度と圧縮応力度が過大に出ないようにします。この拘束では、クサビ側の材料強度が引張り 材の材料強度よりも大きいことを想定していますが、逆の場合もあります。PC鉄筋をコンクリートの 周囲環境で定着させるときがそうです。吊橋や斜張橋のケーブル素線を定着するときは、コーン状の金 具内に素線をばらし、隙間を錫系の合金材料で溶融充填します。この合金の強度は、素線の強度よりも 高くありません。
9.2.5 普通鉄筋定着も円柱モデルで理解する
普通の鉄筋コンクリート(RC)部材の鉄筋は、特別な定着道具を使いませんが、鉄筋の両端での引 き抜きを抑える定着対策が必要です。実践的な対策は、端部をフックに加工する、鉄筋全体に連続性を 持たせるように組み上げる、などをして、鉄筋単独を端で自由な状態にしません。計算上の定着モデル は、端部に鉄筋を覆う円柱を仮想し、その円柱に鉄筋を納め、円柱側面の剪断応力度(付着応力度)の 合計で鉄筋引張り力を拘束させると考えます。普通の円い断面の鉄筋を使うときは、その直径のままの 円柱寸法であって、この仮想円柱の長さを鉄筋の余長とします。実用的には鉄筋径の 30 倍などの様に 寸法を決めます。異形棒鋼を使うと、鉄筋回りの材料が余分に付いた、やや直径が大きくなった仮想の 円柱側面が剪断破壊面になりますので、引き抜きの強度が上がります。これが異形棒鋼を使うと付着が 向上する原理です。計算上の扱いは、付着応力度を割り増した値を使います。
9.2.6 コーン状の定着用部品を使う
ポストテンション工法でPC部材を製作するとき、後からPC鉄筋を挿入するためのシース(パイプ 状の材料)を埋め込んだRC部材として施工します。コンクリート硬化後、充分に強度が上がった時点 で、シースにPC鉄筋を通し、後でプレストレスを作用させますのでポストテンションと言います。因 みに、ポスト(post-)は「後の」、プレ(pre-)は「前の」を意味する英語の接頭辞です。コーンなどの定 着用具は、シースと接続させ、防水状態で施工します。PC鉄筋を緊張し、それを素線単位にばらして 定着するため、特別な金具を使うアイディアが種々工夫されてきました。鋼の当て板を通し、くさび金 具で固定する方法もあります。素線数が多くなるストランド全体は、素線単位を円錐状(コーン)に広 げて、素線単位にわけて定着する方法が基本です。その全体は、内側を円錐状に穴をあけた円柱状の部 品を使います。最も普及している製品は、フレシネ工法で使う外側の雌コーンとクサビ目的を持つ雄コ ーンの対です。外形が円柱状のコーン全体の寸法は、ストランド単位の緊張力を考えた断面積と長さを 持たせます。断面積は、コンクリート本体側の支圧応力度、側面の面積は剪断応力度が過大にならない ように設計されています。コーン内部で素線全体を放射状に広げますので、素線間にくさび作用の横締 めつけ力が働いて素線を摩擦力で定着します。コーン本体は、この横締めつけ力の膨張しようとする力 を受けます。コーンが横に膨らんで割れる破壊に耐える強度が必要ですので、鋼製金具を使います。モ ルタル製のフレシネコーンは、強度の高いスパイラル鉄筋を使った、小寸法の穴明き螺旋鉄筋柱に製作 します。
図 9.2 鉄筋コンクリート製フレシネーコーン 図 9.3 鋼製フレシネーコーン
(マルチワイヤーシステム用) (マルチストランドシステム用)
9.2.7 扇状アンカーブロックを使う工法
大寸法のPC桁にプレストレスする場合、多くのストランドか、それを束ねたロープ単位を使う大規 模工法も工夫されています。ストランド本数が増え、個別に緊張する作業を行うと緊張力を揃える管理 が難しくなりますので、まとめて緊張させる工法(バウル・レオンハルト工法)があります。円柱状の コーンに代えて、桁端部にジャッキの入る空間を介して大きなコンクリートブロックを設け、そこにコ ーンと同じ原理でストランドの素線を定着します。ロープの素線は、よりをほどいて放射状に広げます ので、扇状アンカーブロックと呼んでいます。その全体は、がんじがらめの鉄筋で補強します。プレス トレスを加える前にこのアンカーブロックに高強度のコンクリートを打ち込んでアンカーブロックを 完成させておきます。プレストレスは、桁本体とアンカーブロックの間に、千トン単位の能力を持つジ ャッキを入れて間隔を広げることで加えます。ケーブル本体は、コンクリート桁本体に埋め込むのでは なく、施工管理上、桁本体に抱かせる外ケーブル方式が取られます。