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「Matching HUB」のデザインと実践

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 83-88)

第1項 コンセプトとデザイン

前述のように、イノベーションの創出に繫がるような「場」の概念は、既に野中や遠山、中 森らによって提案されてきている。しかし、いずれの場合も企業や大学のような組織のなか に「場」を作るという仕組みや取り組みを中心とした提案であり、またオープンイノベーション についても、チェスブロウによる定義 34)から明らかなように「組織内部のイノベーションを促 進するため」の手法である。このように、いずれも産学連携を対象としている場合においても 個々の企業や大学が中心となった取り組みを対象としたものである。

そこで、野中における企業、中森における大学のような既存の組織の中に作られた「場」

ではなく、組織の外に産学官連携のための「場」を設け、そこに企業や大学からのニーズ・

シーズを集めることで、一企業内や一大学内に作られた「場」では創出できなかった全く新 しい組み合わせによるイノベーションの創出が期待できるのではないかと考えた。また、そ の「場」に単に多くの企業や大学が存在するだけでなく、それらを支援する立場の公的な研 究機関や地方自治体、さらには金融機関が存在すれば、より多数のマッチングが同時に形 成され、広範なイノベーションの創出につなげることが可能になるのではないかと考えた。

このような考えの下、企業や大学のような既存の組織の外に形成される広範なイノベーシ ョンの創出のための「場」をデザインすることとした。

まず、コンセプトとしては、イノベーション創出支援人材であるURAやコーディネーター が、自らの訪問活動により収集した各企業のニーズやシーズを大学や公的研究機関のシ ーズとマッチングさせることで、新製品・新事業などのビジネスの「種」を作り、それを支援し て「芽」を出させイノベーションにつなげる支援機関(地方自治体や金融機関)を共存させる ことで、それぞれの組織が連動することのできる「場」とした。

以下の図3-1にコンセプトを示す。

図 3-1 コンセプト

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このコンセプトでデザインされた「場」は「Matching HUB」と名付けられ、集められたシ ーズやニーズが展示会形式でパネル展示されるとともに、出展者同士がマッチング相手を 探索するという仕組みになっている。

「Matching HUB」は、従来の1対1の産学連携とは異なり、同時に多くの異なる分野の 企業や大学の有するシーズやニーズをマッチングさせて新製品・新事業の「種」を多数同時 に創出するという取り組みである。そのため、これまでのある企業内やある大学内に形成さ れた限られた「場」では創造・創出できなかったような広範なイノベーションの創出につなが る「場」を構築することができる。

この場合、「場」をどう規定するか、どこに境界を設けるかについては、企業や大学のよう に明確な組織の中に「場」を形成するわけではないため、重要性が高いと考える。

伊丹(2005)は、「場とは人々が参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケー ションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、共通の体験をする、その状況の枠組み のことである。」と述べているが、「場」を組織の外に作る場合、この「枠組み」は上記の境界 とみなすことができる。

さらに伊丹は、「場の境界」を区切るのは、「メンバーシップの境界」、「問題の境界」、「空 間の境界」という3種類であるとした117)

例えば、何らかのイベントの開催を考えた場合、物理的な境界は会場の内外として明確 にされるが、開催テーマや予備的なニーズ・シーズ調査などに基づく参加者の選別や、そ れらの参加者に対する何らかの基準や資格なども「場」の境界の規定とみなすことができる。

このような選別や規定の作成については、主体となって開催する機関(「Matching HUB」

の場合は大学)に属するURAやコーディネーターの役割が重要であり、同時にその「場」

のマネジメントについても同様であると考えられる。

なお、この後の考察で詳しく述べるが、このような「Matching HUB」のような「場」のデ ザインと構築を大学が主導して行なうことは極めて異例であり、イノベーション創出のための システムやそのマネジメントにおけるモデルケースとして価値ある試みであると考えている。

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第2項 アクションリサーチ:Matching HUBの実践

本研究では、アクションリサーチ手法によって、「Matching HUB」の企画、実施、評価 を1つのサイクルとする実践研究を行なう。アクションリサーチとは、クルトレビン(1946)が提 案した実践研究の手法である118)

「Matching HUB」のアクションリサーチサイクルを図3-2に示す。

図 3-2 「Matching HUB」のアクションリサーチサイクル

著作作成

具体的には、「Matching HUB」は、ニーズとシーズのマッチングを行なうためのパネル 展示を中心に、開催年毎に話題性があるテーマに関する講演や、マッチングを希望する機 関・組織からの情報提供を中心とするセミナー、さらにはマッチング促進のための出展者に よる1分間プレゼンテーションなどを通じて、マッチングを促進するための雰囲気・環境づく りとなる企画を立案する。そのため、URAの企業訪問によるニーズやシーズの把握等の情 報収集が具体的な企画や、開催日当日の出展者同士のマッチングの可能性を高めるため に必要である。企画したプログラムに沿って、「Matching HUB」を実施(開催)する。開催 後には、出展者へのアフターフォローやアンケートの実施とともに、当日の参加者数などの 数値を用いた評価を行なう。これを1サイクルとして、各「Matching HUB」の開催に合わ せて実施した。

「Matching HUB」は、北陸先端科学技術大学院大学が主催し、金沢で2014年度(20 15年)に初めて開催した。これまで毎年1回開催されており、2018年度には第5回目を開 催した。

「Matching HUB」の企画や取り組みは、すべてURAによって企画、マネジメントされ

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る。その内容は、開催前のニーズ・シーズの収集からセミナーや特別講演などの企画、開 催時の会場レイアウトやブース配置、開催後のアフターフォローの5つに分けれ、まず魅力 的なプログラムを組み立てる企画から始まり、企業や大学、公的機関の有するニーズやシ ーズを収集し、マッチングを想定してブースをレイアウトし、開催する。さらに、開催終了後 はフォローアップとアンケート調査によりマッチングを促進させる。このアフターフォローとし て行われるアンケートやヒアリングによるマッチングの促進も可能であり、次回開催への課題 を明らかにする。

以下の図3-3に、「Matching HUB」におけるURAのマネジメントフローを示す。

図 3-3 「Matching HUB」における URA のマネジメント

「Matching HUB」は、参加者、特にブース出展者が多い方がマッチングをするには良 いと考えられるが、会場の物理的な広さや1日に話を聞くことのできる数にも限度があるため、

最適なブース数があるものと推測される。また、マッチング相手を探したいというモチベーシ ョンが高い参加者を集めることも重要であると考えられる。

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マッチングについてはブース出展者それぞれが有するニーズやシーズに対応した技術 情報の収集が必要であり、その量が多く、明確なニーズやシーズ情報を理解するほど「Ma tching HUB」におけるマッチングの可能性は高くなると考えられた。「Matching HUB」

は特定の業種だけの展示ではなく、多数の業種が出展しているため、参加前には考えてい なかったような組み合わせによるマッチングが成立することも期待される。その場合は自社 のシーズやニーズを思いもよらない方向で活用できることになり、新たな分野への進展の可 能性を拓くことのきっかけともなる。

会場レイアウトやブース配置はマッチングへの影響が大きいためURAのマネジメント力 が必要とされた。そのため、開催前のニーズやシーズの収集ではURAによる地域企業や 大学の直接訪問が最も有効である。特にブース間のレイアウトは重要である。

開催当日はマッチング支援として、出展者のニーズやシーズを把握しているURAがそ れらのニーズやシーズに合う他の出展者を紹介したり、マッチング候補者となる可能性が高 い参加者に事前に声掛けをし、当日に紹介をしたりしている。

このようなURAによるマネジメントにより、「Matching HUB」は効率的に運営されてい る。この仕組みを十分に機能させるためには、参加者のニーズとシーズの十分な把握とマッ チング支援、マッチングに有効な会場レイアウト、セミナーやイベントの企画・広報などUR Aの果たす役割が重要である。

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