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つ理論や問題意識の影響を極力受けない形でデータを要約・提示する。② Dictionary-basedアプローチに倣ってコーディング規則を作成することで、理論仮説の検証や問題意 識の追究を行うことを提案し、日本語テキストデータの分類に適したシステムとして「KH C oder」 を開発し、公開した。
「KH Coder」は、インタビュー等の質的なテキストデータをコーディングによって数値化 し、テキストデータを整理し分析する統計ソフトである。これにより、単純な自由回答記述か ら質的理解にも連なる量的分析が可能になり、これまで気づかなかった回答者の傾向や、
テキストデータ群の潜在的論理を発見することができるようになった。
このように、樋口らが開発した計量テキスト分析ソフト「KH Coder」は、計量的分析と質 的分析が循環的かつ相補的な関係にあるため、それぞれが新たな洞察をもたらし、それに よって他方の分析にも貢献するものである123-125)。
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第2項 質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis, QCA)
本研究では、「Matching HUB」の出展者にアンケート調査やヒアリング調査を行ない、
そこで得られた回答を利用してマッチングの要因についての分析を行なう。対象数は、開 催毎に200前後になるが、往々にしてすべての対象から分析に使用できるような回答があ るわけではない。そのため、サンプル数が対象数よりも減少し、統計的手法で解析すること が難しい状況になる。そのため、本研究では質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis,以下、QCA)によって解析を行うこととした。
QCAは、1987年に社会学者のレイガン(Charles C. Ragin)が提唱した手法であり、それ まで用いられてきた統計的な手法を用いることが難しい少数事例のデータに対して、それら のデータ間の因果関係を導き出すことができる126)。
この手法が開発された背景には、社会科学分野における定量的研究と定性的研究の2 つの違った立場の分析手法の関係がある。社会科学分野の研究で主として対象になる社 会現象は、自然現象とは異なり、国や政治、法律、市場、技術など様々な要因が1つ1つ複 雑に重なり合うことによって、その現象を作り出している。それらの背景に関する事情や文脈 をどう扱うかで、社会科学分野の研究手法が大量サンプルによる多変量解析、つまり定量 的研究と、ごく少数のサンプルによる事例分析による定性的研究の2種類に分けられている。
このことは、レイガン(2000)も指摘しており、図3-4に示すように、サンプル数のごく少ない 事例研究による定性的研究と、サンプル数が十分に多い多変量解析された定量的研究の2 極化になっている 127)。QCAは数個から数十個のデータ数を扱う手法として開発されており、
この2極化を埋めるのに最適の手法であると言える。
図 3-4 相対的研究数と各研究で用いられているケース数の関係
(出典) Ragin(2000)p.25
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QCAによると、体系的な分析が難しく研究者の解釈に依存せざるを得ないような小規模 データ(データ数10程度)や中規模データ(データ数10~50程度)の研究において、1つ の事例内の複雑性を適切に扱うことができると同時に体系的な事例間の比較を可能にする ことができ、またQCAは統一的な事例の得にくい国単位の政治や先進的で変化の激しい 経営などにおける比較に優位性を持ち、さらに現在進行中の事例に対する緊急性の高い 比較研究などにも適用が可能であり、事例比較研究における革新的手法と言われている
128)。
その革新性は、集合論やブール代数によって事例比較から因果関係を推論する形式的 手順を体系化した点にある。集合論は集合間の関係を取り扱う数学であり、高校レベルの 数学でもその重要な一分野として教えられているなど、現代における数学の基礎になって いる。QCAにおける集合論の扱いにおいてはブール代数を用いる。ブール代数は0と1の 二値しか取らない変数を使う倫理数学であり、19世紀の中頃にイギリスの数学者ブールに よって創出された。ブール代数は今日ではコンピュータの論理回路の設計などにも用いら れている。
QCAでは、その分析結果式の中に、多元因果、結合因果、多元結合因果などの因果関 係を表すことができる。多元因果は、たとえば結果式Ⅹ = A + B のように、原因Aまた は原因Bが存在するときに結果Xが生起する因果関係である(+は or を意味する)。結合 囚果は、例えばⅩ = A・B のように、原因Aかつ原因Bが存在するときに結果Xが生起す る因果関係である(積・は and を意味する)。多元結合因果は、例えばⅩ = A・B + C のように、多元因果と結合因果が同時に含まれる場合である。これらにより、計量的分析で は検討できないような複数の因果関係を分析することができる。
QCAの具体的な手順は次のようである。
(1) 条件(各種の属性)と目標となる変数を設定する。
(2) 観察された事例を条件毎に集計し、真理表を作成する。
(3) ブール代数に基づいて、複雑な条件の組み合わせを単純化(ブール最小化)し、
最小式を導出する。
このようにして最小式が得られることにより、事例が生じる要因についてのより焦点化され た検討をすることができる。
近年では、あいまいな概念を取り扱えるファジィ理論を導入したフリーソフトウェアであるf
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sQCA(ファジィセットQCA)や、より少数のデータを扱えるフリーソフトウェアのTosmanaな どのソフトウェアが開発され公開されていることもあり、QCAの利用は社会科学のみならず、
少数データの体系的な分析を必要とする多くの分野に拡がっている。
田村(2015)によると、2011年までに, QCAを利用した雑誌論文数は235に達している。
表3-4は、田村の文献に記載されているデータを基にまとめたものである129)。
表 3-4 QCAを利用した雑誌論文の分野ごとの論文割合
(出典)田村(2015)p.17 より著者作成
また、田村(2015)はQCAの手法特性についても以下のようにまとめている129)。
<QCAの手法特性>
① 統計分析には不十分な数のスモールデータでも分析できる。
② 二値変数の分析が得意である。
③ コンセプトがファジィでも分析できる。
④ 事例との統合分析が容易である。
⑤ 因果複雑性を明らかにする。
⑥ 事例から因果パターンを抽出できる。
次に、QCAを利用した研究事例を紹介する。
横山(2017)は、QCAと伝統的な統計的因果分析アプローチとは、その思想的背景が全 く異なっていると指摘し、それらの違いについて詳細な議論をしたうえで、「食品スーパーに おける顧客満足の規定要因」について、QCAのフリーソフトウェアの一種であり、より少数 のデータが扱えるfsQCAを用いた検討を行ない、統計的因果分析と結果を比較した 130)。 その結果、得られた顧客満足に影響を与える要因について、従来の統計解析とは異なる組 み合わせが明らかとなった。
門脇ら(2017)は、QCAを利用して、各都道府県内の市区町村間における公共図書館の 設置数の格差をもたらす要因について、人口密度、財政力指数、自家用車の所有率、政令
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指定都市の有無、指定管理者制度の比率の変数を用いて格差が生じる組み合わせの検討 を行ない、格差が生じる要因として財政力と政令指定都市の有無が関連していることを明ら かにした131)。
河合ら(2017)は、QCAが、事象の生じる経路を組み合わせて理論式として抽出する方法 であり、小規模なデータであっても、そこから因果関係を分析でき、特定の結果がどのような 原意条件によって生み出されるかを推論する技法であるとしている。そのような観点から、Q CAを用いて、日本企業のデジタルトランスフォーメーションが遅れているという事象につい て、32社の事例からデジタルトランスフォーメーションを進めるうえで必要な要素の組み合 わせパターンを抽出した132)。
鹿又(2004)は、「社会科学における比較の問題」の中で、多変量解析による定量分析が 社会現象を統計モデルによって単純化し現実感のない一般化をしているという批判と、質 的分析が研究者の恣意的な解釈を導き客観性と一般性が保証されていないという批判との 間の対立にたいして、QCAが新たな展開をもたらしたと述べている。さらに同論文中で、Q CAは、上記の2つの立場を橋渡しすることを目指して、事例データの論理的比較を客観 的・体系的に行なうものであり、データ分析で導入する仮定を選択して式として明示でき、ま た体系的比較を実行するアルゴリズムに研究者の恣意的操作が入りこむ余地がなく客観性 がないという批判に耐えうる、新たな質的分析手法として提唱されたとしている133)。
三隅(2002)は、ブール代数アプローチのQCA手法が、実質的に目的変数(事柄)の分 散を問題にせず、また条件変数(回答パターン)の目的変数に対する規定関係を、必要条 件、十分条件、必要十分条件といった論理関係として容易に解釈できる点、さらにサンプル 数にあまり制約されずにデータの定性的な論理構造を把握できるため、質的分析と量的分 析とを媒介する方法論として注目されるとしている134)。
以上のように、QCAは、少ないサンプル数でも研究者の恣意的操作が入り込まない形で体 系的に事例をとらえることができ、データの比較分析が可能になる。このような観点から、本 研究においては、QCAを使用して「Matching HUB」におけるマッチング条件の分析や 解析を行なうこととする。