先述のように個人データの国際移転の問題はGATSマターかGATTマターかという論点については、
どちらの協定にも該当可能性がある。特に、WTO の電子商取引に関する議論の場では、EU は GATS であると主張するのに対し、日米などはどちらかといえばGATTであるという立場を取っている。そ こで、以下ではGATTとの関係性について検討を行うこととする。
EU指令を巡ってGATTとの関係で問題となりうるものとして、最恵国待遇(GATT1条)、数量制限 禁止 (GATT11条 )が主として考えられる。その上で、一般的例外規定(GATT20条)との関係が問題 になる。
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① 最恵国待遇(1条)との関係
【関連規定】
● 最恵国待遇…GATT 第1 条
1 いずれかの種類の関税及び課徴金で、輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連し て課され、又は輸入若しくは輸出のための支払手段の国際的移転について課せられるもの に関し、それらの関税及び課徴金の徴収の方法に関し、輸入及び輸出に関連するすべての 規則及び手続に関し、並びに第三条2及び4に掲げるすべての事項に関しては、いずれかの 締約国が他国の原産の産品又は他国に仕向けられる産品に対して許与する利益、特典、特 権又は免除は、他のすべての締約国の領域の原産の同種の産品又はそれらの領域に仕向け られる同種の産品に対して、即時かつ無条件に許与しなければならない。
本条はGATTの基本原則である最恵国待遇原則を定めた規定である。これは、GATTの志向する自由・
無差別原則に基づいて世界貿易を発展させる目的を達成するための大きな柱となっている29。最恵国待 遇原則の確保には、関税や輸出入制限についてだけこれを遵守するのでは不十分である。
例えば、手続や運用面で特定の相手国との貿易に特別の負担をかけるならば、その相手国は貿易上 他の国と比べて不利な立場に置かれることになり、関税や輸出入制限によって無差別待遇が与えられ てもその効果は著しく減殺されることになる。
そこで、GATTでは、以下に挙げる広範囲な事項について、他の国の産品及び他の国に仕向けられる 産品に対して即時かつ無条件に最恵国待遇を与えることを義務付け、貿易条件を平等にすることを図っ ている。
(ⅰ)輸出入関税、輸出入課徴金、輸出入に対する支払の国際的振替に対する課徴金 (ⅱ)関税及び課徴金の徴収方法
(ⅲ)輸出入に関連する規則及び手続
(ⅳ)輸入品に対して、直接又は間接に課される内国税及び内国課徴金 (ⅴ)輸入品の国内における売買、輸送、分配又は使用に関する法令及び要件
最恵国待遇違反の可能性の例としては、GATSと同様に、EU-アメリカ間で構築されたセーフ・ハー バー枠組みによってアメリカに対して付与している待遇と、「十分性」審査を経ていない他国に付与し ている待遇との差別が挙げられる。
特に電子商取引におけるデジタルコンテンツは、その市場規模も年々拡大しており、現在のような 差別的措置をEUが継続することは大いに問題があるだろう。
29 津久井茂充『ガットの全貌』(日本関税協会、初版、1993)19頁。
②数量制限禁止(11 条)との関係
【関連規定】
●数量制限禁止…GATT 第11 条
1 締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられ る産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可に よると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制 限も新設し、又は維持してはならない。
2 前項の規定は、次のものには適用しない。
(a) 輸出の禁止又は制限で、食糧その他輸出締約国にとつて不可欠の産品の危機的な不足を 防止し、又は緩和するために一時的に課するもの
(b) 輸入及び輸出の禁止又は制限で、国際貿易における産品の分類、格付又は販売に関する 基準又は規則の適用のために必要なもの
(c) 農業又は漁業の産品に対して輸入の形式のいかんを問わず課せられる輸入制限で、次の ことを目的とする政府の措置の実施のために必要なもの
(i) 販売若しくは生産を許された同種の国内産品の数量又は、同種の産品の実質的な国内生 産がないときは、当該輸入産品をもつて直接に代替することができる国内産品の数量を 制限すること。
(ii) 同種の国内産品の一時的な過剰又は、同種の産品の実質的な国内生産がないときは、当 該輸入産品をもつて直接に代替することができる国内産品の一時的な過剰を、無償で又 は現行の市場価格より低い価格で一定の国内消費者の集団に提供することにより、除去 すること。
(iii) 生産の全部又は大部分を輸入産品に直接に依存する動物産品について、当該輸入産品の 国内生産が比較的にわずかなものである場合に、その生産許可量を制限すること。この (c)の規定に従って産品の輸入について制限を課している締約国は、将来の特定の期間中 に輸入することを許可する産品の総数量又は総価額及びその数量又は価額の変更を公表 しなければならない。さらに、(i)の規定に基いて課せられる制限は、輸入の総計と国内 生産の総計との割合を、その制限がない場合に両者の間に成立すると合理的に期待され る割合より小さくするものであってはならない。締約国は、この割合を決定するに当り、
過去の代表的な期間に存在していた割合について、及び当該産品の取引に影響を及ぼし たか又は影響を及ぼしている特別の要因について、妥当な考慮を払わなければならない。
本条は、数量制限の禁止を明記している。国内産業保護のために考えられる手段のうち、輸入数量 制限の場合、輸出国がある国に対して商品を輸出するためのいかなる努力を行っても、その定められ た数量以上には輸出することができず、GATTが掲げている自由貿易の拡大という目的が著しく妨げら れることになる。
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関税の場合は、商品の質、価格の面での努力いかんでは、ある程度の関税が課されても、この関税 の障壁を乗り越えて、輸入することができる。また、関税は各国の税率が明らで公平な適用を受ける ことが容易だが、輸入数量制限は内容が行政当局の自由裁量によって決定されることが多く、差別的・
恣意的な扱いを受ける可能性もあり、きわめて不透明な措置となるおそれがある。
国際貿易に対する障壁の中で、数量制限は貿易を阻害する効果としてはより直接的かつ強力なもの であり、世界の経済活動に対して著しい抑圧を強いるものである30。そのため、GATTに数量制限の一 般的禁止が盛り込まれた。
本条の違反該当可能性として、次のような数量割当制限の問題が考えられる。例えば、「十分性」を 認めない国の企業に対しては、原則として一切のコンテンツ配信、海外移転は行うことを認めない。
他方、「十分性」を認めた国には自由にそれを行うことを認めている。これは、国際移転の全面禁止=
割当量がないという数量割当規制にあたりうる。よって、EUの措置は、GATT11条の要件を満たす数 量制限として問題になるだろう。
③一般的例外規定 (20 条) 該当性の検討
【関連規定】
●一般的例外…GATT 第20 条
この協定の規定は、締約国が次のいずれかの措置を採用すること又は実施することを妨げるもの と解してはならない。ただし、それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において任意の 若しくは正当と認められない差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制 限となるような方法で、適用しないことを条件とする。
(d) この協定の規定に反しない法令(税関行政に関する法令、第二条4及び第十七条の規定に基い て運営される独占の実施に関する法令、特許権、商標権及び著作権の保護に関する法令並びに 詐欺的慣行の防止に関する法令を含む。)の遵守を確保するために必要な措置
本条は、GATT における各種の一般的例外を規定している。近年では、特に各国のとる環境規制と の関係で議論になることも多くなっている。本条は、GATSの一般的例外規定と同様に、柱書と対象範 囲を明示した個別条項の2部構成からなる。
ここで問題になるのは、同条(d)の法令遵守のために必要な措置である。GATSのところで述べた のと同様に、必要性テストを満たすかどうかがここでは重要である。
まず、GATSの場合と異なり、個人情報に関する明文上の規定がないので、EUの個人データ保護に 関する規制が(d)の範疇にあたるかどうかが争いになるだろう。仮に(d)の範囲内であるとしても、
次に柱書の差別的な制限のところが問題となる。ここでも、GATSの場合と同様に、アメリカに対して だけセーフ・ハーバー枠組みで特別に個人データの国際移転を認めるような差別的な措置を継続して いる限り、EUの柱書要件の該当可能性は低いと考えられる。
30 Ibid, at 25.