第29条データ保護作業部会は、2009年12月1日付の意見において、「当作業部会は、イスラエルが 指令95/46/EC 第25条第6項にしたがい十分な保護水準を保証しているものと信ずる」36との結論を 下した。
この意見(全18頁)は、①背景、②イスラエルにおけるデータ保護に関する法、③個人データの十 分な保護を提供するものとしてのイスラエルのデータ保護法の評価、④評価の結果、という構成になっ ている。すでに1と2においてそれぞれ、イスラエルの十分性審査の背景及び法制度については紹介 したため、以下、第29条作業部会の評価について紹介する。
(ⅰ)保護の対象
第7条の「人格、身分、親密な関係、健康状態、経済的地位、職業・資格、人の意見・信念」という 情報の定義は、EUデータ保護指令第2 条「識別された又は識別され得る自然人に関するすべての情報」
という定義とは異なっている。そこで、イスラエルのプライバシー保護法は、①特定のデータの類型 のみを対象としているのではないか、また②識別し得る情報が保護の対象になっているかの疑問が生 じる。しかし、イスラエルの担当官からの説明を受け、法律とそれを補完する裁判所の先例によって 保護の枠組みが構成され、それはEUデータ保護指令の定義と一致するものと作業部会は信じている。
(ⅱ)保護される処理の制度
第7条では「磁気又は光学式方法によって保存され、コンピュータ処理を意図されたデータの収集」
をデータベースとして定義している。イスラエルの担当官の説明によれば、自動処理されないデータ についても、法で定められた秘匿性と同意という基本原則によって保護されうるとのことであること を明記する。しかし、当作業部会は、データ処理の全体性の観点から処理されるデータを保護するこ とを明確にすることを要望する。
なお、Schoffman報告書では、マニュアル個人情報ファイルについても、法の義務が及ぶようにす べきことが指摘されている37。
(ⅲ)目的制限の原則
作業部会は、プライバシー保護法第2条9項、第8条(b)、第9 条(b)(2)の規定及びイスラエルの最高 裁判所の判例から目的制限の原則を尊重しているものと信じている。
36 Article 29 Data Protection Working Party, Opinion 6/2009 on the level of protection of personal data in Israel (WP165, Dec. 1, 2009).
37 Schofman Report, at 23.
(ⅳ)データの質に関する原則と比例原則
データの質に関する原則について独立した規定がないものの、訂正権を認めた14条、訂正を拒否し た場合のデータベース所有者の義務を定めた15条から、データを最新の状態に保つ義務があると認め られる。
また、比例原則もプライバシー保護法には特定的に列挙されていないものの、作業部会は、イスラ エルの担当官から最高裁判所の判決における比例原則に関する憲法の適用に関する説明を受け、この 明確な説明から比例原則を満たすものと考えている。
(ⅴ)公開の原則
データの本人に対する情報提供を義務づけている第11条また、データベースの所有者が処理者に対 してデータ本人に対する検査を要請に応じるよう命令すること定めた第13条A(1)の規定からEUデー タ保護指令を十分に履行していると考えられる。
(ⅵ)セキュリティの原則
第7条における情報セキュリティの定義をはじめ、第16条、第17条、第17条A、第17条B の規定 からこの原則は守られていると考えられる。
(ⅶ)アクセス・訂正・異議申立の権利
自らのデータを検査する権利(第13条)、訂正権(第14条)とともにこれに違反した場合の罰則(第 31条)の規定がある。異議申立の権利については、ダイレクトメールに関してそのような権利が認め られている(第17条F)。しかし、一般的な条項の下で異議申立の権利が確立されていないように思わ れるが、利用目的の権利(第8条(b)、第2条9項)及びデータ主体への情報提供の観点から、利用目的 を超え過剰な処理が行われた場合、プライバシー侵害の一般原則である第2条9項に違反し、罰則の対 象となる。さらに、データの主体が自らの情報について知る権利を認めた最高裁判所の判決を積極的 に評価することもできる。このようなことから、イスラエルの立法がデータ本人のアクセス・訂正・
異議申立の権利を十分に保障していると理解される。
(ⅷ)データ移転に関する制限
2001年プライバシー保護規則によってデータベースの移転に関する制限が行われているが、作業部 会は第三国への転送についても制限が及び、イスラエルにおいてデータが処理されるEU市民の権利が 十分に尊重されることを可能とするものであると信じている。
なお、国際的なデータ移転については、その例外規定がプライバシー保護規則第2条に設けられてい るものの、その解釈指針については、第29条作業部会が示した解釈(WP114)38を参考にすべきであ ることが同作業部会から指摘されている。
38 Article 29 Data Protection Working Party, Working Document on a Common Interpretation of Article 26 (1) of Directive 95/46/
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このほかに、補足的な原則として、次のようなものがあり、自動決定に関する点を除き、いずれも EU指令の基本原理に合致する。
(ⅸ)センシティブ・データ
第7条は、EUデータ保護指令第8条が列挙するすべてのデータの類型(人種または民族、政治的見 解、宗教的又は思想的信条、労働組合への加入を明らかにする個人データの処理及び健康又は性生活 に関するデータ)が掲げられていないものの、類似するものとみることができる。作業部会としては、
イスラエル担当官に対して、特に意見と信念とはEUデータ保護指令が規定する内容が含まれ、また親 密な関係には特に民族出自又は性生活に関連するデータを指しているものと主張する。さらに、セン シティブ・データの収集に伴う事前の同意については、明確な規定がないものの透明性の原則を参照 することによってデータ主体に対して情報が明確に与えられるものとなっていると信じている。この ようなことから、EUデータ保護指令とは同様の規則があるわけではないが、イスラエルの立法は十分 にセンシティブ・データの原則を充足しているものと考えられる。
(ⅹ)ダイレクト・マーケティング
作業部会は、イスラエルの立法においてダイレクト・マーケティングについて明確に規制が行われ ていることを十分に確認することができる(第17条F)。
(ⅺ)自動的決定
自動的決定に関する原則について明文化されていないものの、ナミュール大学の報告書及びイスラ エルの担当官からの説明において、データの主体が自動的決定に対する異議申立をすることができる。
しかし、作業部会はEUデータ保護指令15条に基づく同様の原則を補足することを奨励する。
○手続・運用の体制
(ⅰ)規則を順守する優れた水準の確保
ILITA は、第 7 条に基づき設置された機関であり、データベースの登録とともにデータ処理の検査 の権限を有している。ILITAの長の任命及び解任に関するイスラエル政府の近時の修正によって、EU データ保護指令における監督権限の設置される目的に十分な独立性が認められる。ILITA及びその長は 公務員(civil servant)としての身分を享受し、いかなる命令的・政治的側面にも従属するものではな い。独立した委員会の事前評価を受け、イスラエル政府が決定した高官(a high rank official)とし てILITAの長が任命され、6年間の任期を有する。ILITAの長の職務を停止するには、特別な事情の下、
特別公務員委員会(special Civil Service Commission)による場合でなければこれを停止することが できず、独立性を有する反トラスト委員会の体制と類似する。ILITAの財政についても、データベース の登録料がILITAに直接還元されるなど、その独立性を維持するだけの割当てが行われてきている。加 えて、検察庁、内務省、運輸省、防衛省、司法省を含む公的機関に対する立ち入り検査を実施する権 限が付与されているというILITAの回答からも独立性が保障されている。
また、32回データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議を招聘するなど、個人データ保護の
努力がみられる。このようなことから、作業部会はイスラエルにデータ保護に関する監督機関が存在 するものと結論づけることができる。
さらに、ILITAはプライバシーの侵害について、裁判所の刑事手続に従い捜査する権限が認められる とともに、行政罰を課すことができる。
以上のことから、作業部会はイスラエルの立法が規則を順守する優れた水準の確保しているものと 信じている。
(ⅱ)個々のデータ主体に対する支援と援助
登録官(ILITA)は監督するための部署の設置及び検査官の任命により、ILITAの検査官がデータ主 体の情報及び文書を本人に届けるよう要求すること、建物への立ち入り、捜索及び押収が認められて いる(第10条(e))。この規定により、個人データへの主体に対する支援と援助が十分保障されている と考えられる。
(ⅲ)適切な救済
作業部会は、行政罰及び刑事罰を含む制裁の措置からプライバシーの権利及び個人データの違法な 処理の結果生じる財産に対する損害を補償する権利が十分に担保されていると信じている。
④評価の結論
第29条作業部会は、イスラエルが十分な保護水準を確保していると結論付けた。もっとも、イスラ エルに対する将来的な立法措置として次のことが提案された。
・マニュアル・データベースへの法の義務の適用
・民間部門における情報収集原則の明確化
・国際的なデータ移転の例外規定に関する解釈