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高炉出銑流計測への応用

4.1 緒言

一貫製鉄所の象徴的な存在である高炉は,炉頂から交互に層状に装入した鉄鉱石(焼結鉱)と コークスに炉体下部の羽口から熱風を吹き込み燃焼させ,鉄鉱石中の酸化鉄(主にヘマタイト Fe2O3)を還元させて溶融した銑鉄(以降は溶銑という)を製造するプロセスである.典型的な マスプロダクション設備であり,内容積が5000m3を超える大型高炉では1日に10,000 t以上の 溶銑が生産される.溶銑は次の製鋼工程で不純物を取り除いて合金成分を調整する精錬処理を施 した後,スラブやビレットとよばれる鋼片に鋳造され,薄板,厚板,形鋼,鋼管といったさまざ まな製品の加工工程に供給される.世界鉄鋼協会(World Steel Association)が公開している統 計[1] によれば,2013年の世界の粗鋼生産量は1.58×109 tであり,10年前の1.04×109 tから ほぼ単調に増加している.これは新興国の経済発展などで世界的に鋼材の需要が増加しているた めである.日本国内においても,リーマンショック後の景気の落ち込みから回復して 2013 年は

年間1.1×108 tの粗鋼生産があり,その生産の大半は高炉が担っている.大量の鉄鋼製品を生産

して広範囲の産業に供給している高炉製鉄メーカでは,高炉を安定して稼働させることが経営上 の重要な課題の一つになっている.

高炉は鉄鉱石の還元反応を行う巨大な化学反応容器である.反応状態を監視するための各種の センサが必要になるが,炉の内部は高温・高圧で,なおかつ厚い耐火煉瓦と鉄皮に覆われている ため,検出端を直接炉内に挿入することは難しい.特に,鉄の融点を上回る高温領域に常設でき る検出端は皆無である.このためほとんどのセンサは炉体の外側に取り付けられる.例えば,耐 火煉瓦の炉外面には炉体の円周および高さ方向に多数の熱電対が設置されていて,これらの温度 情報から間接的に炉内の高温場を推定することが行われている.一方,出銑口から取り出す溶銑 の温度は,使い捨ての熱電対プローブを溶銑に挿入する方法で測定される.高炉から流出した溶 銑の量は運搬する貨車で秤量される.これら限られた計測情報から溶銑の品質や炉内の状態を推 測して高炉を操業している.しかしながら,高炉をより安定して操業するためには,直接計測す ることができない高炉内部の状態を詳しく知ることに強いニーズがある.そこで本研究では,こ れまで情報が乏しかった高炉下部の湯だまりの状態の推定に資する新たな計測手段の創出を目指 して,湯だまりの高温場が反映されて流出する溶銑・溶融スラグの計測を探索した.この結果,

溶銑と溶融スラグを熱画像上で識別して温度,スラグ混合比率,流速などを画像計測する手法を 確立した[2-8].

本章では,はじめに4.2節で高炉下部の構造と出銑作業を概説し,流出する高温溶融物に放射 測温法が適用できなかった理由を整理する.4.3 節では,本研究が進展するきっかけとなった重 要な知見である,溶銑と溶融スラグの混合液体の熱画像の特徴について述べる.出銑流を高速シ ャッタで撮像すると溶銑と溶融スラグがマーブル模様状に分離して観察される.この出銑流の熱 画像から溶銑と溶融スラグのそれぞれの温度,溶銑と溶融スラグの混合比率,出銑口の径,およ

び流出速度を複合的に測定する手法を探索した内容を 4.4節で説明する.これらの測定項目は本 研究によりはじめて連続測定が可能になった.4.5 節では,操業中の高炉に常設したオンライン 試験機について述べる.そして4.6節では,オンライン試験の結果と考察を述べる.熱画像計測 のデータにはこれまで把握できなかった出銑状態のさまざまな時間変動が見られることを紹介し,

本測定手法の有用性を示す.

4.2 対象プロセスと計測の課題

出銑を行う高炉下部の構造を Fig.4-1 に模式的に示す.カーボン煉瓦の構造物である高炉の炉 床にはコークスの充填層があり,コークスの隙間に溶銑と副生成物の溶融スラグが滴下して湯だ まりを形成している.スラグは鉄鉱石に含まれる酸化物であるCaO,Al2O3,SiO2,MgOなどの 混合物である.出銑口の耐火物にドリルで貫通孔を開けると,溶銑と溶融スラグが同時に流出す る.これらの高温液体を出銑流とよぶ.貫通孔は出銑の経過とともに内壁の耐火物が侵食され径 が拡大するので,出銑を続けると流出量はしだいに増加する.出銑初期は出銑量が炉内での生成 量より少なく,やがて出銑量が生成量を上回る.最終的に湯だまりの液面が出銑口付近まで低下 するので,この時点で貫通孔にマッド材とよばれる耐火物を充填して閉そくさせる.このような 出銑作業は通常1回3時間程度であるが,流出状態や操業上の判断などによって変動する.出銑 流は出銑樋を進み,出銑樋後尾にあるスキンマとよばれる比重分離枡で溶銑と溶融スラグに分け られ,溶銑はトーピードカーとよばれる溶銑運搬車に注入される.高炉には容積に応じて 2~4 本の出銑口があり,出銑口を切り替えながら溶銑を排出する.

Fig.4-1 高炉下部の出銑口付近の構造 出銑樋

溶融スラグ

溶銑

カーボンレンガ 出銑流

溶銑運搬車へ

出銑口

溶銑・スラグ 湯だまり 炉内充填層(コークス)

樋カバー

鉄皮

熱電対測温 滴下物

溶銑の測温は,今日でも浸漬消耗型とよばれる使い捨ての熱電対プローブを溶銑に挿入する方 法で行われる.人手による作業のため,安全性の観点から出銑口から離れた出銑樋で行われる.

1500℃を上回る高温の溶銑に浸漬された熱電対の素線は数秒で断線するので,そのわずかな時間 に温度指示値を読み取る.作業者の労力や貴金属熱電対のコストの制約から,通常の測温は3時 間続く出銑中に数回しか行わない.さらに,出銑初期の熱電対測定値は,出銑樋の抜熱の影響を 受けて流出時点の温度すなわち炉内温度より低下していることが懸念される.出銑中の溶銑の温 度変化をより正確に知ることができる手法があればきわめて魅力的である.これには放射測温法 の適用が考えられる.放射測温法は熱間圧延工程の鋼材測温などで広く利用されているものの,

高炉の出銑流を対象とする場合は次に述べる原理的な問題があり,これまで使われることがなか った.すなわち,出銑流は放射率の異なる溶銑と溶融スラグが未知の比率で混合した放射体であ る.この温度領域での放射測温に適した波長0.6m ~ 0.7mにおける溶銑の放射率は約0.4で あり,溶融スラグの放射率はそれより高いことが知られている.出銑中は両者の混合比率が時々 刻々変化し,リアルタイムに把握することはできない.放射率εがΔε変動した場合に生じる測 温誤差ΔTは,(2.20)式と(2.21)式に示した通り定式化されている.例えば,検出波長0.65m の放射温度計で真温度が1500℃ の出銑流を観測する際に,溶銑を想定した放射率0.4を設定し たとし,実際には溶融スラグの混合により実効的な放射率が0.6まで変化した時の測温誤差を計

算するとFig.4-2のようになる.放射率が0.1変化しただけで放射温度計は真の温度より30℃程

度高い温度を指示する.この測温誤差は出銑温度の管理において許容できない.このように,ス ラグが混在することで放射率を正確に把握できないことから出銑流の測温に放射測温法を適用す ることは困難であると考えられていた.

Fig.4-2 溶銑にスラグが混じることで生じる測温誤差

(溶銑温度1500℃,観察波長0.65m,設定放射率0.4)

0 10 20 30 40 50 60

0.40 0.45 0.50 0.55 0.60

測温誤差()

真の放射率

この放射率変動問題に対する取り組みとして,石英の光ファイバを溶銑に直接浸漬させ,放射 光を対象の溶銑内部で捉える放射測温装置が山田らによって開発されている[9-11].ファイバ先 端を溶銑に浸漬させると等温度場で囲まれた空洞黒体が形成されるので,見かけの放射率が1に なる.光ファイバ先端部は徐々に損耗するが,検出器の応答が速いので溶損する前に測温が行え る.測定終了後は光ファイバを引き上げ,先端部を切断して再度測定に使用する.連続測定では ないが,消耗型熱電対プローブより頻度の高い測定が可能になる.ただし,消耗する光ファイバ を供給する大掛かりな装置とランニングコストに改善の余地を残す.

出銑に関するその他の重要な監視項目としては溶銑とスラグの生成量である.溶銑は,出銑樋 の先に停車したトーピードカーに注ぎ込まれる時に,トーピードカーの軌条下に設置されたロー ドセル秤量器で測定される.スラグについては散水して冷却した後に粉砕され,固化したスラグ が秤量される.このスラグ質量の測定は水砕に要する時間遅れが大きく,生成量をリアルタイム で知ることはできない.また水を含んだ不正確な測定であるため,信頼されていないのが実情で ある.

4.3 出銑流の熱画像

本研究に着手するにあたり,まず溶銑と溶融スラグの混合状態を調べる目的で,出銑流をCCD カメラで観察した.出銑流は高速で噴出しているので,像流れが生じない短い露光時間で撮像す ることとし,第3章で説明した手順でモノクロCCD カメラ(竹中システム製 FC350CL)の画 像輝度と黒体温度とを対応付ける温度校正を実施した.

CCDカメラの画像をPCに取り込む簡易的な画像記録システムを用意して,Fig.4-3にあるよ うに,出銑口から噴出して樋のカバーに隠れるまでの出銑流を4~5m離れた位置から観察した.

すると,Fig.4-4 に示すようなマーブル状の斑模様を有する熱画像が得られた.画像の左側に出 銑口があり,出銑流は空中を右方向に進行している.出銑流上にやや暗い領域(暗領域)と,そ れに比べて明るい領域(明領域)が存在する.一つの出銑口から同時に流出する液体に二値的な 大きな温度差があるとは考えられない.暗領域の画像輝度から計算される見かけの温度は約

1430 ℃であった.これに対して出銑樋で測定した熱電対の指示値は1530℃であった.画像輝度

の輝度温度が熱電対の値より低いのは放射率が 1 ではないことを意味する.いま熱電対温度Ttc

が真の温度と仮定すれば,(2.15)式に基づき,暗領域の画像輝度に相当する輝度温度Tim と放 射率εに次の関係が成り立つ.

  

 

 

im tc

2

1 1

ln T T

c

 

(4.1)

ここで,c2は黒体放射の第2定数,またλは観察波長である.(4.1)式から暗領域の放射率を 見積もると約0.4となり,一般に知られている鉄の放射率と一致する.一方,酸化物は金属に比

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