6.1 緒言
この章では,CCD カメラを用いた画像計測型の放射測温法について,第 4 章の高炉出銑流測 温以外の研究の取り組みを紹介するとともに,今後の研究の一つの方向性と考えている多波長化 について論じる.6.2 節では,精錬炉で処理される溶鋼の温度を炉底に設けた観察ノズルを通し て測定した実験について述べる.ここでは画像計測によってはじめて安定した連続測温が可能に なった.6.3節は,測定窓のガラスの汚れにより放射光が減衰する問題に有効な2 波長観察を取 り上げる.カラーCCD カメラを利用して2次元の2色放射温度計を構成して,高炉の羽口内部 の温度分布を測定した事例について述べる.6.4 節では,搬送ライン上にある赤熱した鋼板の測 温で冷却水と湯気が減光を引き起こす課題に対して,3 波長以上で熱放射を検出して外乱を補償 する方法を机上検討する.
6.2 精錬炉内の溶鋼の連続測温
6.2.1 背景
高炉で製造された溶融銑鉄から不純物元素を化学的に取り除いて鋼にする処理を精錬という.
精錬プロセスでは耐火物製の精錬炉に収容された高温の溶融鉄が所定の温度,化学成分に調整さ れる.精錬の化学反応はその反応速度が温度に依存することから,処理中の溶鋼温度を常に正確 に把握する必要がある.また,溶鋼温度が時々刻々変動するなかで処理終了のタイミングを判断 するプロセス制御の観点からも,温度の把握はきわめて重要である.例えば精錬炉を代表する転 炉では,溶鋼に酸素ガスを吹き込み,炭素等の不純物成分を除去し,同時に酸化発熱反応により 昇温する.大型の転炉では一度に300 tの溶鋼が処理されるが,要する時間はわずか数十分であ り,この間に,溶鋼温度は 200℃程度上昇する.現在はサブランスとよばれる昇降装置で熱電対 プローブを間欠的に溶鋼に浸漬させて測温を行い,途中の温度推移はモデル計算で補完する方法 が広く普及している.サブランスの熱電対は精度・信頼性の高い測温が可能であるものの,使い 捨てにせざるを得ない熱電対プローブの着脱時間やコスト等の制約があり,精錬処理中にせいぜ い数回の測定に限られる.このため,精錬不良や終点温度外れが発生し問題となることもある.
このような背景から,精錬処理中の溶鋼温度を連続的に測定する技術に対する期待は以前から 高い.熱電対のように感温素子を溶鋼に直接挿入する方法ではセンサ材料の熱的な限界があるの で,非接触測定が特徴である放射測温法を用いるのが望ましい.精錬炉下部を貫通した観察ノズ ルから放射測温を行う方法について,すでにいくつかの報告例がある[1,2].
本節では,炉内の溶鋼からの熱放射を測定する際の技術課題を整理した上で,画像計測型の放 射測温を適用する方法[3,4] について述べる.この方法は,CCDカメラによる2次元放射測温に 溶鋼を自動検出する画像処理を組み合わせたもので,連続測温が可能であり,観察ノズルの変形
の影響を受けにくい実用上の利点がある.
6.2.2 精錬炉における放射測温
放射測温法を炉内溶鋼に適用することを考える.Fig.6-1 (a) に転炉などの溶鋼精錬炉の模式図 を示す.炉体上部開口部から放射温度計で観測する方法は,(2.22)式で表現される外乱がある状 況に該当する.すなわち,溶鋼の放射率は,放射測温に適した赤色から近赤外の波長帯域で 0.3
~0.4 程度であり,放射率変動や迷光雑音の影響を受ける.具体的には,上吹き酸素ランスによ り形成される高温火点は,激しい迷光雑音源になると考えられる.また,溶鋼表面にはスラグと よばれる溶融酸化物が浮遊していることが多く,この放射率の値は溶鋼とは異なる.さらに,炉 内では多量のダストが発生するので,溶鋼からの放射光は途中の光路で減衰する.これらの原理 的な問題から,溶鋼の湯面を見る方法では精度の高い放射測温は事実上不可能と判断できる.
そこで,炉底部のノズルに不活性ガスを圧入して溶鋼側に吹き出しながら溶鋼を観測する.炉 底の貫通ノズルからガスを吹き込むこと自体は,通常の操業のガス吹錬で行われている.溶鋼が ノズル内に進入しない十分な流量のガスを流すので,噴出するガスが溶鋼中に常に一定高さ以上 になる気柱を形成する.すると都合のよいことに,気柱内での放射光の多重反射により,溶鋼観 察部は空洞黒体とよばれる擬似的な黒体になる.よって放射率が高位安定し,なおかつ迷光雑音 も存在しない原理的には理想状態での放射測温となる.
しかしながら,この観察方法には実用上の難しさがある.観察ノズルを介して溶鋼を観察する
状況をFig.6-1 (b) に示す.炉体耐火物の厚みは小型炉であっても1m近くあるが,常時吹き捨て
る不活性ガスのコスト,あるいはガス供給設備を考えると,ノズルの内径を10mm程度にすべき であり,細くて長尺なパイプ内を通した観察となる.精錬炉は高温溶鋼の装入と排出が繰り返さ れるので,熱的,機械的原因でノズルがしだいに変形することもある.さらに,常温のパージガ スが高温溶鋼に最初に当たるノズル先端には,マッシュルームとよばれる凝固鋼が付着し,視野 が狭まることもある.点計測を行う一般的な放射温度計を設置したとすると,ノズル先端の微小 な測定スポットを正確に捉える必要があり,光軸調整が容易ではない.測定前に光軸を合わせた としても,操業中は安全上の理由で炉体に人が近づけない状況下で,放射温度計の観察方向がず れてしまうと,ノズル内面で反射されて減衰した光を見たり,マッシュルームによる視野欠けが 起こる.このとき観測される放射輝度は溶鋼自体のそれより小さく,放射温度計は真の溶鋼温度 より低い温度指示値を出力するが,溶鋼温度が低下したのか視野外れが発生したのかは判断でき ない.
細径長尺ノズル観察における課題に対して,2次元の光検出器を有する放射温度計でノズル内 を画像観察することが有効と考えた.2次元放射温度計の受光視野角は,ノズル先端部でノズル 内径より広くなるようにする.すると,Fig.6-2 (a) に示すように,ノズル先端にある溶鋼を画像 として捉えることができる.高温の溶鋼像(溶鋼を直視している領域)が明るく,低温のノズル 内壁が暗く観察される.このように測定対象である溶鋼を画像としてモニタリングできれば設置 時の光軸調整が容易である.すなわち溶鋼像が中心から多少ずれていたとしても,画像の視野に 収まっていればよいので,点計測型放射温度計のように高精度の光軸調整が不要である.測定中 に光軸ずれ(Fig.6-2 (b))やマッシュルームによる視野狭さくが起こった場合(Fig.6-2 (c) ),画 像上の溶鋼像位置あるいはサイズが変化するものの,溶鋼像の輝度値は変わらない.そこで溶鋼 像を自動検出しつつ放射測温を実行すれば信頼性の高い測定が可能になる.
Fig.6-1 転炉等の溶鋼製錬炉の炉底ノズルを使った放射測温
放射温度計 サブランス
(熱電対昇降装置)
上吹き酸素ランス
ダスト充満
スラグ
溶鋼
高温発火
底吹ノズル 消耗型
熱電対
溶鋼
耐火物 ノズル
ガス噴出気柱
凝固鋼の付着
放射温度計
内径:10mm程度
厚み1m以上 気泡
パージガス (不活性ガス) 耐圧観察窓
Fig.6-2 画像観察で得られる溶鋼像の概念図
(b)光軸ずれ (c)視野狭さく
(a)ノズル中心と光軸一致 高温溶鋼像
明
(a)精錬炉の模式的な構造 (b)炉底に設けたノズルからの観察[4]
(a)ノズル中心と光軸一致 (b)光軸ずれ (c)視野狭さく
この測定方法の実験を行うため,本研究では以下に述べる測温システムを製作した.
精錬炉では炉体外周鉄皮とその周辺温度が溶鋼からの伝熱により 400℃以上の高温になること もある.常温付近での使用を前提とした電子機器である CCD カメラをノズルに直接設置しよう とすると,冷却機構が大がかりになることが懸念された.そこで,耐熱イメージファイバ(画像 伝送ファイバ)をノズルに取り付けて受光し,熱負荷の少ない離れた場所に設置した CCD カメ ラに画像を導く.イメージファイバは保護チューブに収納して内部を空冷する.イメージファイ バは素線数 12000 本,受光視野角3°の専用品を試作した.CCD カメラはモノクロで,中心透 過波長0.6 m の光学バンドパスフィルタを通して撮像する.画像処理ソフトウエアは,熱画像 から溶鋼像を抽出して温度を算出するリアルタイム画像処理演算を実行する.溶鋼像は画像上で 最も輝度の高い部位なので,単純な2値化処理で比較的容易に抽出できる.2値化しきい値は画 像の最高輝度値に基づき決定する.次に,溶鋼像の位置(重心位置の座標)およびサイズ(画素 数)を求める.位置からは CCD の観測方向とノズル中心軸との一致状況,またサイズからは視 野閉そく状況が判断できるので,例えば,溶鋼像が画像から外れるほどの大幅な光軸ずれや極端 な視野閉そく進行が起こっている場合は,処理を中断して警報を発する.次に,溶鋼像を切り出 して平均輝度を計算し,予め測定しておいた校正データを参照して温度を算出する.以上の一連 の画像処理フローを,終了入力がなされるまで毎秒5画面程度の処理スピードで繰り返し,連続 的に測定する.測温値はモニタ画面に表示するとともに,溶鋼像位置,サイズなどの画像処理情 報と合わせて記録する.
溶鋼温度と画像輝度とを対応付ける測温システムのキャリブレーションは 3.3.7 節で述べた手 法で実施した.画像処理を安定して行うためには,有効な画像輝度の範囲は限られる.経験的に は,画像輝度が 40以下まで暗くなると溶鋼抽出処理が不安定になり,逆に220以上に明るくな るとCCD受光素子の飽和がはじまり感度が低下する.この間の180階調を温度に換算すると約
200℃に相当し,実際の溶鋼温度変動範囲をすべてカバーできない.そこで,CCDカメラの電子
露光時間を段階的に切り替えることで,広い温度範囲に対応できるようにした.電子露光時間は 1/125s,1/250s,1/500s,1/1000s,1/2000s の5段階とした.所有する黒体炉は1700℃が上限 温度であったため,溶鋼温度が1700℃ を上回る場合は,露光時間1/2000secの検量線を外挿す ることとした.この結果,今回の測温システムは1200℃から1750℃の温度範囲に対応すること ができる.
6.2.3 小型試験炉における実験
測温精度や測温システムの操作性といった基本的な性能を評価するため,はじめは溶鋼収容量
1.5 tの試験炉にて基礎実験を行った.溶鋼は炭素濃度1.5%のステンレス鋼とした.試験炉には
誘導加熱装置があり,自然放冷と誘導加熱で溶鋼温度を変化させることができる.観察ノズルと しては,内径4mmの単管パイプを炉底部に垂直に設けた.ノズル先端の溶鋼界面からイメージ