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7.1 本研究の成果

鉄鋼プロセスの計測にはすでに長い技術開発の歴史があり,今日の製造現場では各種の工業計 器やプロセスコンピュータを駆使した生産の自動化が進んでいる.一方で,一貫製鉄所の広大な 生産設備を見わたすと,センサを設置すること自体が難しくプロセスの状態を直接計測できない 設備も多数存在する.その代表といえるのが製銑工程であり,ここでは他の産業では例を見ない 巨大な高温プロセスで溶融鉄などの高温物体が扱われる.本研究では,主に製銑工程を対象とし て,高温物体が発する熱放射を観察する光学計測技術の創出に取り組んだ.熱画像の撮像には可 視域から近赤外域に分光感度を有する CCD カメラを利用し,計算機による画像処理を組み合わ せた計測手法を研究した.この結果,プロセスのモニタリング手段が不足していた製銑工程の高 炉およびコークス炉における新たな計測技術を確立した.

本研究の主要な成果を以下に列挙する.

1) 近年 CCD カメラを検出器とした温度分布の観察がいろいろな科学分野・産業分野で使われ 始めているが,本来放射温度計として作られてない CCD カメラを温度計としての使う方法 は一般化されていない.そこで本研究では,CCDカメラの輝度出力に温度目盛りを付ける温 度校正の手法や,温度計測の不確かさの要因となる画像輝度の再現性,画素の感度不均一性 などを定量化する方法を整理した.

2) CCDカメラを用いた高温計測の適用先として,高炉から流出する溶銑・溶融スラグ混合流体 の温度計測に取り組んだ.高速で流出する対象を高速シャッタで撮像すると,溶銑と溶融ス ラグが斑状に分離して捉えられることを見いだした.溶銑の測温は,ヒストグラム処理で溶 銑の代表輝度を求める手法で実現した.スラグの光学モデルを明らかにした上で,溶融スラ グの温度を推定する手法を考案した.出銑流の熱画像から温度と同時にスラグ比率,流速,

出銑口径が複合的に計測できることを明らかにした.

3) 稼働中の高炉で出銑流を計測する試験システムを製作してデータを収集したところ,従来の 浸漬消耗型熱電対では分からなかった溶銑・溶融スラグ温度やスラグ比率の不規則な変動が 観測された.リアルタイムで連続的に出銑状態をモニタリングできるこの熱画像計測は,高 炉操業の新たな検出端として期待される.

4) 大型の工業炉であるコークス炉の耐火煉瓦壁面の診断に熱画像計測を応用した.1000℃を超 える高温で,なおかつ狭小幅のコークス炉内の炉壁を観察するため,ライン CCD カメラを 搭載した水冷構造の炉壁診断装置を開発した.カメラの線状視野に斜め方向から複数のレー ザ光を投射する方式を考案し,一度の炉壁撮像で熱画像を得ると同時に炉壁の凹凸損傷部位

の形状を測定する手法を築いた.この研究を通じて確立された計測システムの耐熱設計技術 は,今後,高温空間でのさまざまな計測に適用できる.

5) 国内鉄鋼業に共通した長期稼動コークス炉の老朽化問題に対して,本研究の炉壁診断装置で 得られたデータはきわめて有益な知見をもたらした.炉壁煉瓦に生じている損傷の形態が明 らかになり,老朽化したコークス炉でしばしば発生する押し詰まりとよばれるコークス排出 不良のメカニズムが解明された.この結果,コークス炉の保守技術が高度化され,炉体の長 寿命化が図られた.

6) 熱画像計測型の放射測温法を,精錬炉で処理される溶鋼の測温測定や,高炉の羽口内部の温 度分布の測定にも応用した.精錬炉の炉底ノズルを通して溶鋼を観察する測温では,点計測 型放射測温の原理的問題であったノズルの視野変形の影響を克服した安定した連続測温が実 現された.高炉羽口の測温では,カラーCCD カメラを 2 色放射温度計として利用できるこ とを確認した.CCD カメラで熱画像を撮像して画像処理を組み合わせて温度情報を得る本 研究の計測手法は,鉄鋼業のみならず高温材料を扱う産業で広く活用できる.

7.2 今後の課題

7.2.1 製銑工程における熱画像計測の活用

本論文の話題の中心とした製銑工程における2つの熱画像計測は,今後,次のように研究を進 める.

(1)高炉出銑流の計測

出銑流の温度,スラグ比率,流速および出銑口径を常時モニタリングできる測定システムの 実用化に向けた開発を進める.得られる出銑情報を高炉の異常検知などに活用していくために は,出銑情報から高炉内の湯だまりの温度分布や流動状態を推定する技術の研究に取り組む必 要がある.一貫製鉄所のすべての製品ラインに鉄を供給する高炉の生産安定化が実現すれば,

産業上きわめて価値の高い研究成果になる.

(2)コークス炉炭化室の診断

国内の多くのコークス炉で年々老朽化が深刻化していることから,本研究を通じて構築した 炭化室の炉壁診断技術は今後さらにその重要性が増すと同時に,診断のさらなる高度化が求め られるものと思われる.例えば,炉壁を構成する煉瓦の微小な角欠けや粗面化などの損傷も確 認されており,それらを観察するための凹凸計測の高分解能化や,押し出し負荷への寄与の調 査が必要である.また製造現場の技術者は,炉壁強度の低下を引き起こす複数煉瓦を貫いて発 生する亀裂の自動検出などにも興味を持っている.これらのハード・ソフト両面の研究に引き 続き取り組む.定量的な診断情報に基づく科学的なコークス炉の保守・管理は,リプレースに

数百億円の投資を要するコークス炉の稼動年数を延ばすことにつながり,国内鉄鋼業の競争力 に貢献する.

7.2.2 固体撮像素子による温度計測の発展

CCD カメラを撮像デバイスとした熱画像測温を鉄鋼プロセスに広く展開するためには,放射 光の観察を妨げる湯気,発塵,有色ガスなどの対策が求められる.これには第6章で述べた2色 以上の波長で熱画像を得て計算により外乱を補正するアプローチが有効と考えられ,測定対象ご とに分光放射率の波長依存性,光路上の吸収物質の分光透過特性や散乱特性について調査する必 要がある.多波長観測の波長の選択範囲を広げるためには,近赤外域に感度があるInGaAsアレ イ素子あるいは中間赤外を検出する InSb アレイ素子などの利用も検討したい.これらの撮像デ バイスはいまのところ高価で限られた研究分野でしか使われていないが,将来的な安価化を期待 したい.

さらに将来を見通した熱画像測温への期待としては,例えば,迷光雑音の存在により長年有効 な測温手法が確立していない加熱炉内の鋼材の温度分布計測が挙げられる.迷光雑音の発生状況

をin situでモニタリングする手段を組み合わせたアプローチが考えられる.さらに,熱放射を観

測できない鋼材内部の温度を,表面温度の実測データと伝熱シミュレーションの連成解析から求 める手法など,観測と計算機シミュレーションのそれぞれの不完全さを補完しあうインテリジェ ントな計測方法の研究も興味ぶかい.

謝辞

群馬大学大学院理工学府の博士課程で丁寧なご指導を賜りました小林春夫教授ならびに伊藤直 史准教授に厚く御礼申し上げます.伊藤直史准教授には本論文をまとめるにあたり数多くの有益 なご教示,ご助言を賜りました.心から感謝いたします.

本研究の実施の便宜と就学の機会を与えていただきました新日鐵住金株式会社 プロセス研究 所 浜田直也所長,計測システム研究部 藤原弘次部長,制御研究部 佐々木純部長に深く感謝 申し上げます.

本論文の応用事例を研究開発する過程で多大なご指導をいただいた新日鐵住金株式会社 計測 システム研究部 赤木俊夫上席主幹研究員,日鉄住金テックスエンジニアリング株式会社 國永 学氏,元日鉄住金テックスエンジニアリング株式会社 内藤修治氏,加治屋孝則氏,日本コーク ス工業株式会社 植松宏志氏に心から感謝申し上げます.

研究の遂行にご協力いただいた新日鐵住金株式会社 室蘭製鉄所設備部 中嶋正人主幹,本社 製銑技術部 境田道隆主幹,計測システム研究部および制御研究部の皆様,その他多くの関係者 の皆様に深く感謝いたします.

最後に,筆者が企業の研究者として成長できたのは入社時の上司で現日鉄住金テクノロジー株 式会社 田中富三男博士の公私にわたる暖かいご指導によるところが大きい.本論文の執筆にお いても終始励ましの言葉をいただいた.心からお礼を申し上げます.

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