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高減衰接水タンク構造及びその減衰予測手法

ドキュメント内 豊田, 真 (ページ 140-166)

7.1 概要

船舶や陸上機械においては、回転機器による定常的な振動に対する強度を考慮した設計が求め られる。また、航空宇宙分野においてはロケット打ち上げ時の振動を考慮した設計が必要である。

しかし、従来実施されていた固有振動数の上逃げによる設計のみでは、合理的な設計が非常に難 しい場合が多く存在するため、振動応答設計を行うことが望まれる。その理由として、以下の2 点があげられる。

1.設計上、共振回避のための固有振動数上逃げでは構造が成立しない、あるいは成立しても 過剰に剛な設計となり、必要な鋼材量から考え、現実的ではない。

2.これに対し、合理的な設計をするためには共振回避だけではなく、応答量を適切に推定し て、発生する変形、応力を許容値以内とする振動応答設計が望まれる。

特に船舶の機関室周辺のタンクでは、非常に低い振動数の振動モード(呼吸モード)が発生す ることから、共振回避設計を行うのが非常に困難な状況となっている。これら接水構造の固有値 推定法については確立されつつある([1][3][7])が、近年ニーズが高まっている振動応答設計につい ては、船体構造全体[76]や流体内で振動する円柱[9][77]などについてごく一部で研究がなされて いる以外は、あまり見当たらない。

一方で、近年の接水固有振動計算の信頼性向上や、流体計算(CFD)の一般化、計算機機能の 発達などの背景により、流体に起因する減衰メカニズムを把握し、減衰量を定量的に把握するた めの環境が整ってきている。

しかし、振動応答を計算するのに流体解析コードと構造解析コードをカップリングさせて解く のは設定の手間や計算時間、減衰メカニズム把握の困難さの問題から得策ではない。

そこで、最初に接水を考慮した固有振動モードの計算を行い、次に振動モードをもとにして、

構造物周りの流れを計算するという2段階により、振動する構造物の周辺の流れを明らかにし、

損失エネルギーを計算して減衰係数を見積もるのが現実的な手法であると考えられる。

また、対象物の減衰が小さい場合には、積極的に減衰を付加するような構造とし、応答量を低 減することが望まれる。

本章では、減衰を大きくする構造として、有孔仕切り板を有するタンク構造を提案し、振動試 験によって減衰特性を把握するとともに、CFDや簡易計算などを用いた減衰予測手法を提案する。

7.2 流体による減衰のメカニズム

構造物が流体(液体)に接して振動する際の減衰力としては、材料の内部減衰や結合部分の摩 擦による構造減衰等による構造側の減衰のほかに、液体の粘性による摩擦抵抗や、圧力抵抗が考 えられる。粘性による摩擦抵抗はレイノルズ数が小さいときに支配的になり、速度比例の粘性力 として発生する(図7.1(a))。一方、圧力抵抗はレイノルズ数が大きく、渦の発生が伴うときに生 じ、その力は速度の2乗にほぼ比例する(図7.1(b))。これらの力は振動一周期中に振動系で構造 に仕事をし、その仕事が振動を減衰させるためにはたらくこととなる。圧力抵抗による減衰は厳 密には速度比例減衰(粘性減衰)ではないが、本研究では近似的に等価な粘性減衰として扱うこ

7.2.1 粘性減衰(速度比例減衰)

相対速度に比例する減衰はいわゆる粘性減衰と言われ、強制加振の運動方程式は次式のように あらわされる。

F kx x c x

m      

(7.1)

このときの変位を

xa sint

とすれば、発生する減衰力をFDとすると

2

cos t c a

2

x a

c x c

F

D

       

(7.2)

そこで、

1

2 2

 

 





 

a x a

c FD

(7.3)

の関係が成立し、この関係を図示すると図 7.2(a)に示すような楕円となる。この図は減衰力と変 位の関係を示しており、この曲線に囲まれる面積が振動の1サイクル中に減衰力によって消費さ れるエネルギーを表す。この面積をAとすると、楕円の面積の公式から次のようになる。

a2

c

A

 

(7.4)

これは、図 7.1(a)で示されるような、流体の流れが小さくレイノルズ数が小さく層流とみなさ れるときに成立する。

7.2.2 速度二乗比例減衰

運動方程式は、c2を減衰力の係数として

F kx x c x

m   

2

2

 

(7.5)

であり、複号は

x   0

のとき正、

x   0

のとき負である。減衰力は次式で表される。

 

2 2

2 2

2 2 2 2

2x c a cos t c a x

c

FD  

 

 (7.6)

ただし、

x

の正負によってFDも正、負の値をとり、

2

1

2 2 2 2

a x a

c F

D

(7.7)

の関係が成立し、振動の1サイクルの間のFDとxとの関係は図7.2(b)のようになる。速度二乗減 衰の仕事は、次式であらわされる。

 

2 2 3 0

2 2 2

2 3

4 c a x dx 8c a

A

a

(7.8)

これは、図 7.2(b)に示されるように、レイノルズ数が大きく流れが層流とみなせない時に成立 する。実際には粘性減衰と速度二乗比例減衰の和となっていると考えられるが、速度が大きいと きは速度二乗減衰が支配的である。

(7.4)式と(7.8)式を比べることにより、速度二乗減衰の等価粘性減衰係数は次式で表される。

 

 

ca

a a c

ceq 2 2 3 2 2 3

8 1

3

8 

 (7.9)

また、このときの減衰比はccを臨界減衰係数とすれば、

 

k

a c mk

c c

c

eq

c eq

2 3

8 2

2

(7.10)

となる。ここで、共振状態を仮定すれば=となり

k a c ka

a c k

a c

 

2 2

2 2 3 2 2

3 4 2

4 1 3 8 2

3 8

(7.11)

と変形することができる。ここで上式3項目分母の 2 2

1ka は最大ポテンシャルエネルギーを表し、

分子は減衰力の1周期になす仕事に等しいことから、減衰力が一周期になす仕事をWc、最大ポテ ンシャルエネルギーをTmaxと書き換えれば、減衰比は以下の式で表すことができる。

4 T

max

W

c

  

(7.12)

(a) 物体表面の摩擦による抵抗

(速度比例減衰)

(b) 渦発生などに起因する圧力抵抗

(速度2乗比例減衰)

図7.1 流体に起因する減衰

a a

x F

D

c ω a

a a

x F

D

c

2

ω

2

a

2

(a)速度比例 (b)速度二乗比例

図7.2 減衰容量

7.3 減衰推定および応答計算のプロセス

本研究で提案する、FEMとCFDを用いて流体に起因する減衰を算出し、応答計算を実施する までのプロセスを示す。

(1)粘性を考慮しない構造の接水振動計算(固有値、固有モードの把握)

(2)接水振動計算で求めた固有モードを境界条件とした非定常の流体計算実施

(3)流体計算により、振動1サイクルの損失エネルギーを把握

(4)1サイクルの損失エネルギーから、等価減衰を算出

(5)減衰を考慮した応答計算の実施

(6)周波数応答解析による応答量の把握

図7.3にこの流れをフロー図として示す。なお、これらのうち(1)については、固有振動数、

振動モードに対する粘性の影響は小さいものとして、ポテンシャル流での解析を行う。また、固 有振動解析のため、実際の振幅は最初の段階では求まらない。したがって、(2)の流体計算を実 施する際には振幅の大きさを仮定して実施することとなる。(5)で求められる応答が、仮定した 振幅と大きく異なるときは再度振幅の条件を変え、流体計算を実施する。

また従来の振動設計の概念図を図7.4に、本研究成果を用いた振動設計の概念図を図 7.5に示 す。なお、本研究で対象としたタンクについてはCFDを用いずに簡易計算により減衰力を推定す る手法を7.6節において提案する。

図7.3 減衰推定および応答計算のプロセス

(1)板単体の接水振動計算(固有値)、固有モードの把握

(2)固有値解析で求めた固有モードを境界条件とした流体計算実施

(3)流体計算により、振動1サイクルの損失エネルギーを算出

(4)1サイクルの散逸エネルギーから、等価減衰係数の算出

(5)減衰を考慮した応答計算の実施

振動モード

流速ベクトル

(6)応答量の把握

減衰は振幅依存性があることから、

(2)から(4)のループをまわして減衰比 を決定

振動数

起振力/応答

起振力

構造物の応答特性

(応答ピーク未知)

上逃げ

固有振動数Nf推定

Nf>Df Yes 設計終了

No

Nf:対象構造の固有振動数 Df:設計振動数

剛性増加

図7.4 従来の振動設計フロー

(固有振動数の上逃げ)

振動数

起振力/応答

起振力

構造物の応答特性

(応答ピーク既知)

許容応答量

固有振動数Nf推定

Nf>Df Yes 設計終了

振動応答量の推定

応答量<許容値 No

Yes 設計終了

剛性増加 No

Nf:対象構造の 固有振動数 Df:設計振動数

図7.5 本研究成果を用いた振動設計フロー(振動応答設計)

7.4 タンクの振動試験による減衰計測

7.4.1 対象構造

本研究の対象とする構造は、5 章の中で減衰が大きくなる可能性が示されている、水平有孔仕 切り板を有する段重ねタンクとする。ただし、CFD解析におけるモデル化を軸対称とするために、

角型タンクではなく円筒タンクとした。水平有孔仕切り板を有する段重ねタンクでは、振動時に 下段タンクの容積が変化する振動モードとなるため、振動時に開口部をタンク内の液体が往復し、

通過時の損失により減衰が大きくなると考えられる。図 7.6 に示すように、円筒タンクでも矩形 タンクでも仕切り板開口部近傍に流れが集中するという特徴が類似していることから、同様の減 衰効果があるものと考えられる。なお、図7.6はNASTRANの音響要素を用いた固有振動解析(CA) の結果をもとにして、付録に示す方法で速度ベクトルを可視化したものである。

図7.6角型タンクと円筒タンク内流体挙動の類似性

7.4.2 振動試験

水平有孔仕切り板を有するアクリル製模型タンクを作製し、加振試験を実施して減衰の計測を 行った。模型タンクの概要と写真を図 7.7 に示す。このタンクでは仕切り板が交換可能な構造と し、各種開口サイズの仕切り板を準備した。試験では開口率(タンク断面積に対する開口断面積

の比)を3%から100%まで、加振振幅を最大3通り変化させて実施した。実施した試験条件を表

7.1に示す。表7.1のうち、”○”と示されているのが試験を行った条件である。試験におけるタン クの为たる振動モードは底板の面外方向の振動であるため、底板に加速度センサを設置して、底

角型タンク 円筒タンク

流線 速度ベクトル 流線 速度ベクトル

側板と底板が振動 底板が振動

仕切り板 仕切り板

全体

孔周辺 孔周辺 全体

呼吸モード

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