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密閉されたタンクでの空気の圧縮性が振動挙動に与える影響

ドキュメント内 豊田, 真 (ページ 114-140)

6.1 概要

舶用タンク、ロケット、人工衛星用タンクなどに代表されるタンクは、液位の変化によりタン ク内の空気量が変化する。第5章において、球形タンクの振動挙動が空気の圧縮性により変化す ることを指摘した[5]。しかし、球形タンクでは満液近傍で液位に対して空気量が急激に変化する ために、空気量の調整が難しかったため、空気の圧縮性の影響を十分に調査することができてい なかった。そこで、空気量が尐なく、空気の圧縮性がタンクの振動挙動に影響を与えると考えら れる場合の振動特性を把握するため、試験と解析を実施して検討を行った。

タンクの接水振動を再現するための解析手法として仮想質量法があるが、自由表面が大気開放 と見なすことができず、密閉された空気がタンク内に存在する場合に仮想質量法を用いた数値シ ミュレーションでは、振動特性をモデル化できない。空気に関する振動特性としては、ダンパー の目的として空気の特性を考察したものは多々あるが[74]、タンク内の空気の影響を扱った解析 はごく一部[75]しか例がない。

本章では、空気量が小さい密閉タンクの振動特性を顕著に現すタンク模型を作製し、振動試験 を行うことで実現象を確認し、数値解析と併せて、上記現象のメカニズムの解明に取り組んだ。

実施した項目を以下に示す。

(1)数値解析により、気体と液体の混入比率により最低次の固有振動数が大きく変化するよう な振動特性を有するタンク模型の設計を行う。

(2)解析結果をもとに、振動現象を解明するためのパラメータを選定し、試験計画を策定する。

(3)製作した試験体を用いた振動試験を実施する。

(4)振動試験と数値解析の結果から振動現象のメカニズムを検証し、解析手法を検討する。

(5)タンク内の空気の圧縮性がタンクの振動挙動に影響を与える空気量を調査する。

6.2 タンクの設計および振動試験

密閉されたタンク内の空気量を調整しやすいよう、タンク上部に空気量調整用の空気溜りを設 けるための筒を持つようなタンク形状を考え、空気量の変化によって 1次モードの振動数が変化 するという特徴を示すために最適なサイズを決定する。タンク材料はアクリルとする。

6.2.1 タンク形状の概要

図 6.1 に試験模型の基本形状を示す。タンクの本体には液体(水)を満たし、上部筒に空気を 入れて密閉する。上部筒内の空気量を変化させることで、固有値にどのような変化があるかを調 査する。境界条件は、タンクの底板全面を完全拘束とした。

タンクの各寸法は以下の通りである。

(1)板厚t:5mm

(2)タンク本体一辺長さw:300mm

(3)タンク高さh:300mm

(5)上部筒一辺長さa: パラメータとする

なお、本タンクでは本体、上部筒とも幅、奥行きは同寸法(上から見たときに正方形)とする。

(a) 外観 (b) 断面図 (c) 内部流体(断面図)

図6.1 タンクモデルの基本形状、底板は完全拘束、流体と構造は連成する

6.2.2 タンク形状決定のための上部筒寸法を変化させたパラメータスタディー

上部筒の寸法を変化させ、筒内の空気量を変化させたときに固有振動数が変化し易く、なおか つこのモードが最低次となる形状をもとめる。

なお、空気量の変化のさせ方としては、

(1)筒内の液位を変化させる。

(2)筒の天板高さを変化させる。

の2通りが为に考えられるが、ここでは空気量の調整が行い易い(1)の方法を用いる(図6.2参 照)。

解析モデル、解析ケースの一覧を後に示す解析結果と合わせて表 6.1 に示す。また、タンク形 状を設計する際に用いる計算にはFEM解析の一種である、NASTRANの音響要素を用いた流体 構造連成解析(Coupled Acoustic, CA)を用いる。

また、解析に用いた材料定数は表 6.1 の通りである。なお、タンク壁を構成するアクリル部分 にはシェル要素を、流体部分(水および空気)にはソリッド要素(音響要素)を用いた。

表6.1 解析に用いた材料定数

ヤング率(MPa) ポアソン比 音速(mm/s) 質量密度(ton/mm3) アクリル 3,100 0.31 - 1.19×10-9

水 - - 1.5×106 1.0×10-9 空気 - - 音速 3.3×105 1.2×10-12

Main Body

Air

Water Upper tube

6.2.3 上部筒寸法変化解析結果

解析結果の一覧を表6.2に示す。また、最低次振動モードの例を図6.3に示す。

表中、太字で示された四角で囲われたモードが、空気量の変化によって固有振動数に変化が現れ たモードである。このうち空気量の変化によって1次モードの振動数が変化し易いという前提条 件で示した条件に合うモデルは、筒の一辺が60mmのケースのみである。そこで、モデル形状と しては筒の一辺が60mmのケースを採用するものとする。

6.2.4 空気量と固有振動数の関係

筒の一辺が60mmのケースについて、空気量と固有振動数の関係を表したものを図6.4に示す。

この図からわかるように、最低次振動数は空気量によって変化するものの単調な変化では無く、

空気量の増大に伴い、一端減尐してから増加している。この要因として、このモデルでは単に空 気量のみを変化させているのではなく、筒内の液位を変えていることから、筒内の液量が影響し ていることが考えられる。

そこで、比較のため、空気を入れず、自由表面での圧力をゼロとし(大気開放を想定)、液面の 高さを変化させた解析を実施し、筒内の液量の影響がどの程度あるかを検証した。振動モード図 の一例を図 6.5 に示す。このモードはタンク全体が膨張、伸縮を繰り返すいわゆる呼吸モードと なっている[2]。この条件での解析結果の一覧を表6.3に示す。この表より、空気を考慮しない場 合でも、上部筒の中の液量が増加すると、固有振動数が大きく減尐していることが分かる。した がって上記に示した、密閉条件での固有振動数が空気量の増大に伴って増加から減尐に転じる理 由は、空気の圧縮性の効果と、筒内の液量の効果が重畳したものであると考えられる。

すなわち、液位の下降に伴い、

(1)空気量の増加 → 圧縮性の影響の減尐 → 固有振動数の低下

(2)筒内流体の減尐 → 筒内流体の運動エネルギー減尐 → 固有振動数の上昇

の二つの効果のうち、空気量が尐ないうちは(1)の要因が大きく、空気量が多くなってくると

(2)の影響が大きくなってくるため、上記に示した空気量の増大に伴い、一端減尐してから増 加する現象が生じているものと考えられる。この現象についての更なる検討は 6.6.2 節において 実施する。

本タンク形式のように上部筒内部で液面を変化させると、上記のように空気量の変化に伴って 固有振動数が単調に変化しないという、やや複雑な振動特性となるが、空気量を簡便に調整して 圧縮性の影響を確認できることから、本タンク形式を採用して加振試験を実施することとした。

(1)液位を変更 (2)天板位置を変更

図6. 2 空気量を変更させる二通りの方法

表6. 2 タンク形状を決定するためのパラメータスタディーの計算ケースおよび計算結果

Length of tube

one edge(mm) 1st mode 2nd mode 3rd mode 4th mode 5th mode

pipe02-00 60 0 30.35 31.21 31.21 35.89 65.90

pipe02-01 60 5 29.67 31.21 31.21 35.89 69.38

pipe02-01-25 60 25 27.06 31.21 31.21 35.89 50.59

pipe02-02 60 50 25.43 31.21 31.21 35.89 45.32

pipe02-02-75 60 75 25.93 31.22 31.22 35.89 46.29

pipe02-03 60 100 28.84 31.27 31.27 35.89 64.81

pipe03-000 120 0 31.16 31.16 36.03 72.08 72.08

pipe03-001 120 5 31.17 31.17 36.03 73.39 75.81

pipe03-002 120 50 31.18 31.18 36.04 57.50 79.83

pipe03-003 120 100 31.18 31.18 36.04 55.41 79.64

pipe04-000 180 0 31.10 31.10 36.32 76.88 80.55

pipe04-001 180 5 31.11 31.11 36.32 76.88 80.58

pipe04-002 180 50 31.12 31.12 36.32 76.88 80.61

pipe04-003 180 100 31.13 31.13 36.32 76.88 80.63

※1; Distance between water level and top plate(mm) Calculation case Air height

(mm)※1

Natural frequency(Hz)

X Y Z V1 C1 G3

Output Set: Freq 25.93, Phase 0.

Deformed(1.): Total Translation

図6. 3 タンクの振動モードの一例(Case pipe02-02-75)

タンク側板4面が同時に内側あるいは外側に変形する

Case2

0 10 20 30 40 50 60 70 80

0 20 40 60 80 100

混入空気高さ[mm]

固有振動数[Hz]

1次モード 2次モード 3次モード 4次モード 5次モード

図6.4 筒の一辺長さ60mmのときの空気高さと固有振動数の関係

図6.5 自由液面の圧力をゼロとしたときの振動モード図

表6.3 自由液面の圧力をゼロとしたときの解析結果一覧

1次モード 2次モード 3次モード

pipe02-01-fs 5 4.43 31.21 31.21

pipe02-01-25-fs 25 4.87 31.21 31.21

pipe02-02-fs 50 5.65 31.21 31.21

pipe02-02-75-fs 75 7.00 31.22 31.22

pipe02-03-fs(天板接水) 100 11.09 31.27 31.27

pipe-fs.dat(天板非接水) 100 21.01 33.26 33.26

※1; 筒上端からの距離[mm]

解析名称

空気高さ

※1 [mm]

固有振動数[Hz]

6.3 加振試験

6.3.1 試験概要

前節で設計したタンクを製作し、加振試験を実施した。試験はIHIの耐震実験場の大型振動台を用 いてアクリル製の試験体を鉛直方向に正弦波掃引加振し、振動モード、共振振動数、空気圧(動的)を計 測した。

6.3.2 試験体および設置組立状況

試験体は図6.6に示す、上部に角型の筒を有するアクリル製の矩形タンクである。試験体の写真を 図6.7に示す。この試験タンクは筒上部天板に設けた孔にキャップをすることで、内部を密閉するこ とができる。キャップをあけた状態を大気開放とみなすこととした。この大気開放条件の妥当性につ いては後述する。また、筒状部天板の設けた孔を図6.8に示す。また、振動台へのタンクの設置状況 を図6.9に示す。

タンクのサイズは、前節で示したとおり、上部の筒を除き、W300×D300×H300mmである。筒は

高さが100mm、内側の一辺の長さが60mmの正方形断面となっている。また、底板、筒上板を除く

部分の板厚は5mmとした。

図6.6 試験体概要

6.3.3 試験パラメータ

試験でのパラメータは上部筒中の液位、すなわち空気量である。ここでは、筒状部天板から液面ま での高さを、“空気高さ”と称して空気量に関するパラメータとする。試験はタンクを密閉したものと、

上部を大気開放したものの両方を実施した。表6.4に試験条件一覧を示す。

6.3.4 加振方法

加振方法は上述したように正弦波掃引加振とする。第1回目の試験で1Hzから50Hzまで低周波数 側から高周波数側へ加振した後、高周波側から低周波側への加振を行い、両方の周波数応答関数に差 異が無いことを確認して、2回目以降の試験を実施した。

6.3.5 計測項目

計測項目は、振動台およびタンク各部の加速度、及びタンク上部筒内の空気圧である。各センサは 位相関係がわかるよう、多点同時計測とした。また、加速度センサの位相関係は、振動台に設置した 加速度センサの上昇方向を+としたとき、タンク側の加速度センサは内側から外側に向かう方向を+

とした。なお、タンクの内容液は視認性を良くするため、着色して使用した。

図6. 7 試験体写真

図6. 8 上部筒拡大図、大気開放設定用孔表示

Opening(φ8mm)

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