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仮想質量法を利用した汎用 FEM 解析ソフトウェアによる実船タンク構造の呼吸モード

ドキュメント内 豊田, 真 (ページ 79-93)

4.1 概要

第3章において示した矩形タンクとして接水振動に起因したトラブルが発生しうる代表的なも のとして、舶用の機関室周辺タンクに設置される、各種のタンク構造があげられる。

近年、大型商船の機関室近傍のタンクにおいて、「呼吸モード」と呼ばれる非常に低い振動数の 振動モードが発生し、損傷等のトラブルの原因となっていると考えられている。そのような背景 から、日本船舶海洋工学会では「船体機関室周辺の狭隘タンク振動設計指針策定に関する研究委 員会(略称:狭隘タンク振動研究委員会)」が設立され、各社で建造された船舶でのタンクの振動 発生状況の調査や、呼吸モードの予測方法などが検討されてきた[3][4][26][67]-[69]。「呼吸モード」

は船級協会のガイドライン等の計算方法では予測することができず、現状で「呼吸モード」によ る振動を予測するためには、仮想質量法を用いた FEM 解析による数値計算が必要である。しか し、仮想質量法を用いた防撓タンクの解析を行う際のモデル化方法に関する明確な指針は定めら れていないのが現状である。

このため、解析モデルの要素分割数や、スティフナのモデル化が呼吸モードに及ぼす影響など について調査を行い、この検討結果をもとにして防撓タンク構造の振動解析ガイドラインを示し た。また、この振動解析ガイドラインに従って複数の実船タンクについて解析を行い、呼吸モー ドの発生状況を調べるとともに、従来の簡易式[70]による推定値との比較を行った。

4.2 モデル化方法の解析結果に及ぼす影響について

前述のように、現状では FEM によって実船タンクの解析をする際のモデル化のための指針が 設けられていない。そこで、今後実船タンク構造をモデル化する際の指針を得ることを目的とし、

実際にタンクをモデル化する際の要素分割数や、スティフナのモデル化方法の解析結果に及ぼす 影響を調べた。また質量マトリクスの生成法の違いによる結果の違いについても検討した。

4.2.1 パネルメッシュ分割の影響

要素分割数が解析結果に及ぼす影響について、タンク形状のモデルを用いて検討した。タンク 形状の概要を以下に示す。

スティフナ間パネル:850×3,400mm 幅(w):5パネル分(4,250mm)

奥行き(d):3パネル分(2,550mm)

高さ(h):3,400mm

スティフナは200×90×8/14 I.A.

検討に用いた解析モデルを図 4.1 に示す。モデルはタンク形状の対称性および振動モード(呼 吸モード形状)の対称性を考慮して 1/4モデルとした。図 4.1に示すようにスティフナ間パネル のメッシュ分割を変化させ、NASTRANの仮想質量法を用いて固有振動解析を行った。その結果、

最低次の振動モードは、いずれのモデルでも図 4.2に示すようにそれぞれのタンクパネルが同時 に外側、あるいは内側に変形する、いわゆる「呼吸モード」となった。

図4.3にはスティフナ間パネルの要素分割数と固有振動数の関係を示す。図 4.3より、スティ フナ間パネルの分割数を4以上とすると、固有振動数はほとんど一定の値となることがわかる。

w/2 d/2

h

(a) n=2 (b)n=4 (c)n=8 (d)n=16

図4.1 メッシュ分割数の影響を調べるためのFEモデル (1/4モデル)

(n: スティフナ間要素数)

図4.2 防撓タンクの1次振動モード(呼吸モード)、 n=4

Stiffener

図4.3 要素分割数と固有振動数の関係

4.2.2 スティフナのモデル化の影響

スティフナに使用する要素タイプがタンクの振動解析結果の精度に与える影響を調べた[26]。

スティフナのモデル化方法として、NASTRANのCQUAD4要素(シェル要素)、CBAR要素(梁 要素)、CBEAM 要素(梁要素、CBARより高度な要素)の3種類とし、その精度を比較した。

CBAR要素もCBEAM要素も梁要素であるが、CBEAM要素では、せん断中心と重心の位置を別

に指定できる、テーパーする断面特性(断面位置によって断面定数を変化させられる)を入力で きる、中立軸周りに回転質量慣性モーメントを有するなどの点において、CBAR要素よりも高度 な要素となっている。

本検討に用いた解析モデルは前節と同様に機関室周辺タンクの代表的なサイズを想定し、1つ のパネルサイズが幅800mm×長さ3,200mm、板厚は12mmとし、タンク形状は立方体形状とし た。スティフナのサイズは250mm×90mm×9/14mmのL型である。

シェル要素でスティフナをモデル化する際、ウェブのメッシュ分割は3分割、フェースは1分 割とした。梁要素(CBAR要素およびCBEAM要素)でスティフナをモデル化する際には梁要素の 中立軸をパネルの中立面からオフセットさせることにより、防撓板としての剛性が表現できるよ うにした(図4.4)。パネルの要素分割は幅800mmを4分割とした。

材料定数は、ヤング率206GPa、ポアソン比0.3、密度7,850kg/㎥を用いた また、境界条件は底部の4辺を支持とした。有限要素モデルを図4. 5に示す。

0 5 10 15 20 25

0 5 10 15 20

Natural frequency(Hz)

Number of mesh divisions between adjacent stiffeners 1st 2nd3rd

スキンプレートからスティフナ の中立軸までオフセット

スティフナ単体のプロパティ、

A、Ixx、Iyy

スキンプレート はり要素

図4.4 スティフナのモデル化

図4.5 スティフナのモデル化の影響を調査するためのFEモデル[26]

NASTRAN の仮想質量法を用いて得られた液位 99%のときの固有振動数と振動モードの一覧

を表4.1に示す。スティフナをCQUAD4要素でモデル化したときに対し、CBEAM要素でモデ ル化したときに求められた振動数の差は-4%程度であり、CQUAD4要素とCBAR要素の差は+2%

程度であった。CBEAM要素ではCBAR要素と異なり中立軸周りに回転質量慣性モーメントを有 することなどの影響により、CBAR要素を用いた解析よりもCBEAM要素を用いた解析の方が低 めの固有振動数を与えているものと考えられる。また、CQUAD4要素を用いた場合には、CBEAM 要素を用いたときと同様、中立軸周りの回転質量慣性モーメントが考慮されるが、側面のスティ フナ端部が結合されているなど、梁要素でモデル化した際とは境界条件に違いがあることから、

解析結果に差が出るものと考えられる。

Stiffener Top Panel

しかしながら、これらの差は実際にタンクの振動数を予測する上ではほとんど問題にならない ものと考えられるため、検討ではモデル作成の簡易さからCBAR要素を用いるものとする。

表4.1 各タンクモデルの固有振動数と固有振動モード (液位: 99%)[26]

note: Bottom edges are simply supported.

Top view Front view (A section)

Difference from shell elements case

・Sttifener : Shell elements

・First natural

frequency 0%

=13.0 Hz

・Sttifener : CBEAM

・First natural

frequency -3.9%

=12.5 Hz

・Sttifener : CBAR

・First natural

frequency +1.5%

=13.2 Hz

4.2.3 質量マトリクスの定義の違いによる影響

構造部に対する質量マトリクスをLumped Mass(集中質量)としたケースとConsistent Mass

(整合質量)としたケースについて4.2.2節のモデルを用いて固有値解析を実施した[26]。境界条 件は8つのコーナーを支持したケースと、底板の端部を完全拘束とした2ケースとした。1次の 固有振動数を表 4.2 に示す。液位が高いときは付加質量の影響の方が大きいため、質量マトリク スの違いによる差異が生じなかった。付加質量がない場合(空中)ではLumped Massは連成項 を考慮しないためConsistent Massより低くなった。両手法の精度の違いはほとんどないため、

計算コストの低いLumped Massを使用すればよい。

表4.2 質量マトリクスの定義の違いによる固有振動数の違い[26]

4.2.4 隣接構造との境界条件

タンクが呼吸モードで振動する際、図 4.6 に示すように解析対象のタンクと隣接パネルは逆相 で振動するものと予想される。このときの隣接パネルとの境界条件はピン支持と同等となること から、隣接構造との境界はピン支持とするのが適切であると考えられる。

解析対象タンク

隣接パネル

図4.6 タンクと隣接構造の境界部概念図

Lumped Mass Consistent Mass  ・Boundary :

 Supported at 8 corners  Water level 0% : 39.1Hz  Water level 0% : 39.9Hz  ・Stiffener : CBEAM  Water level 99% : 11.5Hz  Water level 99% : 11.5Hz  ・Boundary :

 Supported at bottom edges  Water level 0% : 39.1Hz  Water level 0% : 40.0Hz  ・Stiffener : CBEAM  Water level 99% : 12.5Hz  Water level 99% : 12.5Hz

4.3 防撓タンクの振動解析ガイドライン

前節での検討結果を踏まえ、NASTRANの仮想質量法を用いて防撓タンクの固有振動解析を行 う際のガイドラインを以下に示す。

(1)スティフナ間のパネル分割数は4分割以上とする。

(2)スティフナはCBAR要素でモデル化してよい。

(3)隣接構造との境界はピン支持を基本とする。

(4)タンクの側壁、底面に接水を定義する。

これらのガイドラインの概要を図4.7に図示する。

上記のうち(3)の境界条件はタンクのパネルに隣接するパネルが逆相で振動するケースを想 定して定めた。隣接構造によっては、固定境界にする等、条件によって適宜変更しても良い。(4)

の接水条件については本稿では説明していないが、接水している各壁面の相互影響が振動挙動に 重要な影響を与えることから、全ての接水面を考慮する必要がある。液位については実船の状況 に合わせて設定する。

図4.7 防撓タンク呼吸モード振動解析のためのFEMモデル化ガイドライン

4.4 実船タンク構造の詳細FEM解析

上記ガイドラインに基づいて汎用FEM解析ツール(MSC/NASTRAN)を用いて実船タンク構造 の接水振動解析(固有振動解析)を実施した結果について示す[26]。対象としたタンクは狭隘タ ンク振動研究委員会に所属する各社のタンクであり、全部で12種類ある。ここでは、まずそのう ちのひとつのタンクを対象としてモデル化方法、解析結果を示したあと、全体のタンクについて の結果をまとめた。

4.4.1 実船タンク解析の一例

図4.8は、30万トンVLCCのHeavy Fuel Oil Service Tankの有限要素モデルである。前節で

示したように、タンク壁等はシェル要素(CQUAD4要素)でモデル化し、スティフナ間の要素分割 数は 4分割とした。スティフナはオフセットさせた梁要素(CBAR 要素)でモデル化した。また、

境界条件は底面、側面の隣接構造による支持部をピン支持とした。

液位は空の状態から90%程度まで変化させ、タンク側壁4面、底面、およびシェル要素でモデ ル化した大型の内構材を接水させてNASTRANの仮想質量法を用いた固有振動解析を実施した。

固有値抽出法にはランチョス法を用いた。

各液位の条件で、固有振動解析によって得られた1次の振動モードを図4.9に示す。図4.9か ら液位が高い時の 1次の振動モードはタンク壁面が同時に内側に変形しており、呼吸モードが発 生していることがわかる。

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