5.1 概要
第3章において示したように、近年、船舶に使用されている防撓タンクで、しばしば従来の固 有振動推定用の簡易式で予測した固有振動数よりもはるかに低い振動数で共振したと考えられる 損傷例が報告されている。これらの原因は、「呼吸モード」と呼ばれる低い振動数で生じる振動モ ードであると考えられており[1]-[4],[25]、近年その予測手法についての検討が進んでいる[67]
[68][69] [71]。液位の高いタンクの呼吸モードの固有振動数は最低次固有振動数であり、他のモー ドの振動数に比べて低いので上逃げによる共振回避が困難である場合が多い。また、固有振動数 の下逃げによって共振回避をしようとしても、タンクの液位の変化に伴って、タンクの固有振動 数自体が変化し、ある液位に達すると起振振動数と固有振動数が一致してしまうため、共振を回 避することが困難となる。これらの問題から、呼吸モードによる共振を効果的に抑制する方法を 確立することが望まれる。
本章では呼吸モードによる共振を回避するためのひとつの手段として、下逃げと上逃げの両方 を可能とする、タンク内部に水平有孔仕切り板を有する構造を提案し、実機に適用するための基 礎検討を行った。そのために、まず内部に仕切り板を有する複雑な接水条件での解析手法を検証 するため、模型試験を実施してタンクの振動挙動を確認し、解析結果との比較を行った[68][72]。
また、水平有孔仕切り板を有するタンクについて、孔サイズ、孔数、位置などと固有振動数の関 係を調査し、効果的なタンクの防振方法についての検討を実施した[73]。
5.2 解析手法の検討
模型試験に先立ち、解析手法、要素分割等の影響を確認するための予備解析を実施した。解析 手法としては第2.5節に示したVFMとCAの2種類を用いた。いずれも用いた解析コードは
MSC/NASTRANである。解析モデルの一例を図5.1に示す。図5.1に示すモデルは一辺294mm
(板厚中心でモデル化)を24分割したモデルである。構造部には4節点平面シェル要素(CQUAD4)
を用いた。底板、上下タンクをつなぐフランジを除く壁面、仕切り板、天板の板厚は 6mm とし た。境界条件はタンクの底板全面を完全拘束とした。縦弾性係数は模型タンクと同じ材料から切 り出したアクリル板単体の試験から算出して解析に用いた。密度は体積と質量から求めた。縦弾
性係数4,072MPa、ポアソン比 0.31、密度1,190kg/m3とした。液体の密度は1,000kg/m3とし、
CAで用いる液体の音速は水の物性値より、1,500m/sとした。
図 5.2に VFM 解析で得られた、仕切り板の開口率(仕切り板の面積に対する開口面積の比)
3%、液位96%に対応した振動モードの一例を示す。また、図5.3にCAを用いた固有値解析で得
られた動的流体圧分布図を示す。図 5.3 から、このモードでは、上段タンクは下段タンクに比べ て圧力変動が小さく、为として下段タンクにおいて圧力変動が生じていることがわかる。
VFM、CAいずれの手法を用いても、1次モードは図 5.2に示すように下段タンク为体の振動
モードとなる。図5.4はタンクの一辺294mmの分割数を12分割(要素サイズ24mm)から48分 割(要素サイズ6.125mm)まで変化させたときの固有振動数をVFMとCAで比較したものである。
図5.4に示すように、VFMでは要素分割を細かくする際、低い固有振動数から収束していくのに 対し、CA では高い側から収束していく。いずれの手法でも同じ値に漸近していくので、メッシ
ュを十分に細かくすれば、どちらの解析手法を用いても同様な解析結果が得られると考えられる。
なお、第 4章で検討を行った防撓タンクに比較して、本章で示す有孔仕切り板を有するタンク では図 5.4 に示すように精度良く計算するために必要な分割数が多くなっている。これは、開口 を有するタンクでは流れが複雑になり、これを再現するためにより細かい要素分割が必要になる ためであると考えられる。
294 294
609
Opening
Divider plate
(a) 外観図 (b) 内部
図5. 1 アクリルタンクのFEモデル
(a) 外観図 (b) 内部
図5. 2 振動モード、 VFM
(1次モード、固有振動数9.34Hz)
(a) 上下タンク
(b) 下段タンク鳥瞰図 (c) 下段タンク中央断面図
図5. 3 タンク内部液の動的流体圧分布, CA
(1次モード、固有振動数10.04Hz)
8 8.5 9 9.5 10 10.5 11
0 10 20 30 40 50 60
Number of elements per one edge
First natural frequency(Hz)
VFM CA
図5. 4 VFM とCAの1次モード固有振動数の要素分割に対する収束状況
5.3 仕切り板を有する角型タンクの振動試験
5.3.1 試験の概要
試験はタンクの上下を仕切る水平有孔水平板を内部に有する 2段タンクの振動挙動の把握を目 的とする。IHI 耐震実験場の大型振動台を用いてアクリル製の試験体を鉛直方向に正弦波掃引加 振し、その壁面加速度、およびタンク内部の動的流体圧分布を計測した。
5.3.2 試験体および設置組立状況
試験体は図 5.5 に示すようなアクリル製の矩形タンクである。タンクのサイズは仕切り板を挟 んだ状態で、外側の寸法が W300×D300×H622mmで、タンク底面から 300mm の位置に仕切 り板の下面が来るように仕切り板を設けた。底板、上部タンクのフランジ、下部タンクのフラン ジを除く部分の板厚は6mmとした。底板とフランジの板厚は10mmとした。試験体のサイズは 取り扱いのしやすさや、タンク下段で 4つの壁面が同時に内側、あるいは外側に変形する「呼吸 モード」が振動台の加振周波数範囲内(~50Hz)で発生すると予想される条件を考慮して決定し た。
図5.6に示すように、試験体は上下2つのタンクからなり、その間に異なる大きさの孔を持つ 板厚 6mm の水平仕切り板をはさんでボルトで固定する構造としている。仕切り板は中央部に矩 形の孔が有り、そのサイズは50mm×50mm、100mm×100mm、150mm×150mm、200mm×
200mm、288mm×288mm(タンク内寸法と同一)の計5種類である。模型タンクの詳細寸法を
図5.7に示す。
図5. 5 タンク模型の写真
Upper Tank
Lower Tank Divider Plate Tank Flange
図5. 6 タンク模型のセッティング
Exciting direction 622mm
図5. 7 タンク模型の形状
5.3.3 試験条件
表5.1に各試験条件に対する試験結果、および解析結果を合わせて示す。表5.1に示すように、
開口率、および液位をパラメータとして試験を実施した。開口率はタンクの内側断面積(288mm
×288mm)に対する仕切板の開口の面積の比である。Case 5は仕切り板なしの全開口であり開口
率 100%となっている。表中の液位はタンク底板上面から液面までの距離であり、比率は満液の
液位を 606mmとして計算したものである。加振方向は鉛直方向である。液位は、液面が仕切り
板より下のものが2ケースと、仕切り板より上のものが2ケースの、計4ケースとした。加振方 法は1Hzから50Hzまでの正弦波線形掃引加振とした。内容液は水道水に着色をしたものであり、
タンクに水を入れる際には、仕切り板下部に空気泡がたまらないように注水を行った。
計測に用いた加速度センサおよび圧力計の配置を図 5.8 に示す。加速度センサはタンク壁の面 外方向の加速度を計測できるように配置した。加速度センサは下部タンクの壁面の1次モードを 表現しうるよう、4面のうち2面には5個のセンサを設置した。また側壁4面の位相関係がわか るよう下部タンクの他の2面にも一つずつセンサを設置した。
5.3.4 周波数応答関数の一例
試験結果の一例として、Case1-4 における下部タンク壁面中央の加速度伝達関数のグラフ(タ ンク壁面外方向加速度/振動台上下方向加速度の位相および振幅)を図5.9に示す。また、図5.10 に試験結果から得られた各条件での減衰比を示す。呼吸モードである 1次の固有振動数は、2次
(半値幅法)を用いて求めた。なお、このデータのうち液位 581mm、開口率 12%のケースにつ いてはデータ不良のためプロットできなかった。
図5.10より、液位が仕切り板より高く、開口率が小さいとき(20%以下)では減衰比が大きく なる傾向が見られる。
表 5.1 試験ケースおよび試験と計算の結果比較
mm % Exp. Cal.
Case 1-1 225 37 47.7 48.9
Case 1-2 265 44 39.6 39.3
Case 1-3 341 56 9.0 11.0
Case 1-4 581 96 8.4 9.6
Case 2-1 225 37 48.9 48.9
Case 2-2 265 44 40.1 39.3
Case 2-3 341 56 15.5 17.4
Case 2-4 581 96 14.3 13.6
Case 3-1 225 37 49.4 48.9
Case 3-2 265 44 40.8 39.3
Case 3-3 341 56 21.8 22.6
Case 3-4 581 96 16.5 16.0
Case 4-1 225 37 49.0 49.1
Case 4-2 265 44 40.7 39.5
Case 4-3 341 56 26.7 26.6
Case 4-4 581 96 18.2 17.5
Case 5-1 225 37 49.6 48.8
Case 5-2 265 44 41.0 39.3
Case 5-3 341 56 30.9 29.7
Case 5-4 581 96 19.3 18.1
100%
3%
12%
27%
48%
Frequency(Hz) Case No. Opening
ratio
Water level
(a) 加速度計 (b) 圧力センサ
図5. 8 センサ位置
-360 -270 -180 -90 0
0 10 20 30 40 50
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0
0 10 20 30 40 50
Frequency(Hz)
Acc./Acc.Phase(deg.)
図5. 9 伝達関数の一例 (Case 1-4) 位置: 下段タンク一面の中心
図5. 10 各ケースの減衰比
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09
0 20 40 60 80 100
Da mping ratio o f 1st m ode, ζ
Opening ratio(%)
W.L.225mm W.L.265mm W.L.341mm W.L.581mm
1st natural frequency (8.4Hz)
5.4 タンクの振動特性
5.4.1 模型試験のシミュレーション
予備解析によって、VFMを用いても要素分割を十分細かくすればCAと同等の結果が得られる ことがわかったため、模型試験との比較に用いる解析の手法はモデル化の容易な VFM 解析を用 いて実施した。解析モデルは、対称性を考慮して1/4モデルとした。
図5.11に解析モデルと計算結果の一例(Case 1-4)を示す。解析モデルは試験体と板厚中心位 置が等しくなるように形状を定めた。要素分割はモデルタンク一辺の294mmあたり48分割とし た。仕切り板の開口の大きさは試験モデルと同一とした。
材料定数は、予備解析と同様に縦弾性係数 4,072MPa、ポアソン比 0.31、密度は 1190kg/m3 である。図5.11(b)からわかるように、得られた振動モードは予備解析とほぼ同様に下部タンクの 各壁が同時に内向きあるいは外向きにたわむ呼吸モードであった。
5.4.2 試験結果と解析結果の比較
図5.12に、タンクの側面における1次振動モードについて、Case 1-4の試験結果と解析結果 の比較を示しており、図 5.12(a)はその位置を、図 5.12(b)には下段タンクパネルの鉛直方向中央
位置z=145mmにおけるたわみモード分布を、図5.12(c)にはx=0mmにおけるたわみモード分布
を示す。図5.12から、タンク壁の振動モードは解析と試験の両方で、壁面全体が正弦波半波の形 状でたわむ(1,1)モードであることがわかる。また、試験でも4面の側壁の位相関係を調べると、
全部の面が一様に内側、及び外側に向かって振動する、いわゆる「呼吸モード」であることが確 認でき、解析結果と一致することがわかった。
図5.13に、解析で得られた固有振動数および試験で得られた共振振動数と液位の関係の例を示 す。また、表5.1中に各ケースの振動数の一覧を示す。
図5.13から、開口率が低い3%のCase 1では液面が仕切り板の下から上に変わる際に、固有振 動数が急激に低下しているが、開口率が大きいときは固有振動数の変化は小さくなることがわか る。また、試験結果と解析結果は良く一致していることがわかる。
図5.14には、各液位における開口率と固有振動数の関係を示す。この図から、液面が仕切り板 よりも下にあるときには、開口率の大きさにかかわらず固有振動数がほぼ一定であるのに対し、
液面が仕切り板よりも上にあるときには、開口率の減尐とともに固有振動数が急激に低下するこ とがわかる。